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第1章 赤の色
第49話 戦闘狂の色
しおりを挟む「さぁ、イニティウムの続きをしようか。イマイシキ ショウ」
あぁ、わかった。この人あれだ、俗に言う戦闘狂とかってやつの部類だ。
さて、生きるのも死ぬのも自分の能力次第で決まる世界で軍隊所属の隊長であるレギナと、平和な日本でちょっと特殊な流派で剣術を教えて貰っていた、ただの考古学かじってたフリーター19歳がこの状況をどうしろと。
「ここを出たかったら、私を倒して部隊の人間に強さを証明すること」
「あなたと戦う理由がわからない、別にあなたと戦わなくても俺は勝手にここから出る」
「理由、それはな....」
「!?」
先ほどまで、飛ばされ向こう側にいたはずの彼女が一足で自分の目の前に迫ってきているということを、ギリギリ視認していたが反応が遅れ、彼女の持つ剣に思いっきり盾が衝突する。
「ぐ....っ!」
「流石に武器を持っていなかったとはいえ、貴様なんかの人質にされたことを非常に腹を立てているからだ」
まずい、思った以上に左腕の負担が大きすぎる。彼女の持つ剣は両手剣、基本的に斬るというよりかは対象を叩き潰すということに重視した剣だということが盾を通して伝わる。
盾を使って両手剣の攻撃を捌き、一歩引いて間合いを取る。
そしてしばらくの間お互いを睨みつけ、間合いを図るという状態が続く。
段々と風が強くなり、雨が降ってきた。そういえばイニティウムでもこんな感じだったか....
「一つ聞かせてください、あなたはまだ私があのイニティウムに放火したと思っているんですか」
「あぁ、そう思っている」
....よかった、これで正々堂々と戦える。
自分の正しさを証明するために戦おう。
「わかりました、一つ条件です」
「なんだ?」
「僕が勝ったら、話を聞いてもらえますか?」
「もう勝つ気でいるのか?」
雨が強くなる。しかし俺には雨の音は聞こえていない。聞こえてきているのは俺の息づかいと、彼女の返答だ。
「いいだろう」
開戦。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雨は降り続いて、足元にできたぬかるみが足場を悪くする。体に滴る雨が冷たくて体温を奪い、動きを悪くする。
剣の間合い、彼女の剣は長さがおよそ1メートル強。対して俺の剣の長さは80センチ強、間合いに関して言えば圧倒的不利な状態だ。
すなわち中途半端な接近戦は命取りになる。
攻撃と防御はほぼ互角、しかしこちらに全くもって決め手になる攻撃がない。そして攻撃が通ることもない。
「どうした、イニティウムで出したあの炎をもう一回出してみろっ!」
「....っ」
それはすなわち、サリーの力を使って戦えと。しかし、本当に人相手にあの力を使っていいのか。あれは魔物相手でただ八つ当たりに使っていた力だ、あんなものを人に向けて使おうものなら相手が死ぬかもしれない。
「お? 使うのか、俺を」
「っ、今は黙ってろっ」
「へいへい」
現在、サリーは処刑の瞬間は剣の中にいたらしいが、レギナを人質にとっている時にはすでに背後に立っていて、自分がこのあとどうすればいいのかという指示をしていた。
そしてこのざまではあるのだが。
「誰と話しているんだ貴様っ!」
「く....っ」
サリーに気を取られ一瞬で生まれた隙を突かれ、防御がさらに困難となる。そしてわかった、この人は俺をこの場で殺そうとしていない。斬り合いで殺す前に疲れさせて諦めた後に殺すつもりなのだと。
「くそ....っ!『レクソス』」
防御を一旦解き、バックステップで距離をとる。そして盾から鞘に変形させた後、剣を収め体の体勢を低くする。
『今一色流 抜刀術 雷閃』
まず一撃目は納刀した状態の鞘で横一閃。
それを彼女は剣で受け止める、これで完全に次に来る二段目の抜刀術は受け止めることはできない。
追撃、納刀している剣を抜き、その遠心力で思いっきり右肩に剣を叩きつける。斬るつもりはない、剣の腹を思いっきり当てるだけだ。
結果、彼女は右肩を負傷、こちらが有利となる。
スゥ....
呼吸を吐かずに抜刀術で再び一気に間合いを詰める。
まず、鞘での一閃
これは予想どうり、彼女は剣を使って受け止め、激しい金属音が鳴り響く。
追撃、その状態で剣を引き抜き、思いっきり右肩へ
打ち込んだはずだった。
「な....っ」
「惜しかったな、イマイシキ」
聞こえたのは剣が骨を砕く音ではない。明らかに剣で防いだ時に聞こえる金属音だった。
ありえない、では今彼女が鞘で防いでいるものは。鞘の方に目をやると防いでいるのは確かに彼女の持つ剣だ、しかし、先ほどと比べてフレームが細い?
次に見たのは今俺が右肩に放ったパレットソードを防いだものだ、これもまた彼女の持つ逆手で防いだ剣、いったいどうなっている。彼女は二刀流だったか? いや、そんなのではなかったはずだ。
ふと彼女の顔を見ると、不敵な笑みを浮かべている。いかにも引っかかったなと言いたそうな顔だ。
次の瞬間、右の頬に衝撃が走る。理由はわかった、彼女の右手に持つ剣の柄で思いっきり殴られたからだ。
「い....っ」
殴られ、一瞬遅れをとるが鞘を再び盾に戻し、追撃に備える。
「確か、こうだったか?」
「!?」
二刀での両袈裟斬り、思わず盾で防ぐがこれは....この技は
『今一色流 剣術 紅葉壱点』
まさか今一色流まで....っ!
続いてくるのは突き技っ! 盾を斜めにし、その衝撃を外へと逃がす策を張る。しかし、二本同時に来た突きを回避した後にくるのは
背後から来る、二刀同時の逆袈裟。
「....っ!」
パレットソードで防ぐものの、あまりの衝撃で思わず手から剣が離れてしまう。
「しま....っ」
「終わりだ」
次の瞬間、俺の喉を押さえつけていたのは二本の剣だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
見ると、それは直刀と呼ばれる部類だ。西洋剣の面影を残しながらも真っ直ぐ、そして片刃である、その二本の姿は直刀と呼ぶにふさわしいものだ。
そして、それに俺は喉を押さえつけられているわけだ。
「これ以上無駄な抵抗をよせ、ここは私の城だ。どちらにせよお前は逃げることはできない」
敗北だ。この状態から逃げるのは到底不可能だ。やはり....俺はここで死ぬのか。
リーフェさん、すみません。俺は....こんなところで、あなたからもらった命を無駄にしてしまいました。
「それでは、これより。王都の命により、貴様を処刑する」
親父、やっぱり。まっすぐ生きるって、難しいな。
「貴様の処刑後、貴様の関係者の人間も取り調べのち、然るべき罰を与える」
は?
「どうして....」
「お前がこれほどの危険人物だとは思わなかった。貴様を処刑した後、彼女らにも問いたださなくてはなるまい」
彼女ら....メルトさんたちにまで....そんなこと、
許せるわけないじゃないかっ!
『....レディっ!』
右手を前にかざすと、先ほど遠くの方で突き刺さっていたパレットソードが右手に収まる。
そしてそのまま逆手に持ち彼女の持つ二本の剣の交差点に思いっきりパレットソードをかませる。
「....っ、貴様」
「俺のせいで、彼女たちが巻き込まれるというなら。今ここであなたを倒して、彼女達をここから逃がしますっ!」
サリーっ!
(ようやく俺の出番か、覚悟しろよ?)
もう出来てる。
(さぁ、剣を鞘に収めな)
逆手に持ったままの剣を鞘に収める、そして収めた後、グリップを半回転。すると鞘に収まっている赤い精霊石が反応し赤く光り始める。
『染まれ、怒りのままに』
再び、あの時と同じように口が勝手に動き言葉を発する。
抜刀。
その瞬間、俺を中心にレギナの剣を含め、赤いオーラが火柱のように立ち上る。とっさに彼女は回避行動をとり間合いを取る。
そして、目の前に立ち上る赤い火柱をパレットソード。否、炎下統一で切り開く。
『さぁ、お望みの姿になってやったぞ。存分に遊んでやる』
「今しゃべっているのは、イマイシキ ショウか?」
『ハッ、体に直接聞きなっ! クソアマっ!』
全身から溢れ出すこの赤いオーラ、原理はわからないがこれがこの体に爆発的な力を与えている。それは純粋な身体強化術の約2倍の違いはある。
そして、そこそこ離れていた間合いを一瞬で埋めレギナと俺でつばぜり合いが起こる。
「く....っ」
『いくぜっ! 炎下統一 壱の型 焔吹きっ!』
サリーが俺の口で叫ぶと、刀の刃の部分から爆炎のごとく炎が噴き出される。
「あ...っ」
『お膳立てはここまでだ、あとはテメェの力でやんな』
そう言った後、急に体全身に力が入るようになる。目の前の状況は悲惨だ、いくら隊長に手を出すなとは言われてもさっきの光景は全員に危機感をもたせたらしい。全員が手に武器を持ち、今にも飛びかかりそうな雰囲気がある。
果たして、あの時は精神的に余裕がなかったため自分の容姿などには気が回らなかったのだが、ふと髪の毛を見ると黒の他にも赤が混ざっており、なんだか髪を赤に染めようとして失敗してしまったかのような感じがある。
そして、右手の刀。自分がよく道場なんかで目にしていたものに比べるといくらか長い。そしてその姿は炎に包まれているものの、パレットソードと同様真っ白であり、書かれている文字はあのわけのわからない図形文字ではなく、漢字へと変化していた。
そして、今見えている景色。特になんら変わりはないのだが、人の姿を見るとその人物の中心が淡く光っているのである。そしてそれは人それぞれに色が違って見え、アランだったら黄色、ガレアだったら緑色など様々だ。
(お前が今見えているもんはな、そいつらの持つ魔力の色だ)
「色? となるとアランは黄色の魔力、ガレアは緑色っていうことか」
(そうなるな、にしてもよ。あの女の色見てみろよ、面白いぜ)
サリーに言われ、レギナの方へと目をやる。そこには炎を喰らい、警戒しているのかこちらの出方を窺っている様子がある。
そしてそんな彼女の色は。
何もなかった。
「おい....これって」
(あぁ、彼女はお前さんと同じ、無色だ)
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