異世界探求者の色探し

西木 草成

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第2章 青の色

第60話 呪いの色

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 片手には今まで持ったことのない量の金貨やら銀貨の入った袋。そして隣にいるのは近くで安く売っていたマントをかぶったレギナ。

 ドウシテコウナッタ?

 まず整理しよう、質屋に行って? それで、レギナが防具を、しかも王都騎士団から特注で作ってもらったものを売ったと。

 やっぱりどう考えても、どうしてこうなったがさっぱりわからない。

「えっと....聞きたいことが山ほどあるんですけど....」

「借りは返したからな。これで当面金には困らないだろう」

 借りって....そんなものを作った覚えはない。むしろ俺がひどい状況を生み出している方だと思う。

 しかしとにかくまぁ....彼女がそれでいいというのなら、反対はしないが....ともかくこれで当面の生活の心配もないし、彼女の売った防具の代わりを買ったとしてもお釣りが出るくらいだろう。

「まずは....服を買いますか。なるべく安いのを」

「それよりもまず湯汲みが先だ。この状態で店に入られても追い返されるぞ」

 そう考えてみると....追剝ぎとの戦闘。山道で汗をダラダラ流しながら歩き回り、土や泥だらけになったこの姿で....当然服屋なんかに入れるわけはないか。

 しかし、いくらマントで隠しているとはいえ....血がべっとりと着いた状態で街をうろつくってのもな....

 それにしても湯汲み、すなわち風呂だが。この街に来て色々動転していたこともあってかよく観察してなかった、ところどころ建物から湯気が立ち上っている。昔、親父といった草津温泉みたいだ。

 そして行く人行く人も、浴衣に洋服を足して2で割ったかのような服を着ている。そしてどこか全員ほっこりしたような顔をしていた。

「ここの国はどの地方でも豊富な水源が得られる。他の国にはない市民に開放した大浴場も多い」

「....もしかしてレギナさん。温泉とか....好きですか?」

「こう見えても女の端くれだ。体が汚れているのはどうも気分が悪い」

 表情は相変わらず仏頂面ではあるが、どこか彼女の知らない部分を知れたようでなんだかほっとした。

 確かに賛成だ。試しに自分の体の匂いを嗅いでみるが....うん、これは追剝ぎを背負ってきたせいで匂いがうつったんだろう。そうしよう。

 さて、温泉かぁ....リーフェさんと入って以来だな。

 そんなことを考えながら街を歩いていると、目の前の建物から気持ち良さそうな表情をした女性とその子供と思われる人が出てくる。軽く湯気の出ていることから考えて、おそらくあそこが温泉なのか。

「ここですかね」

「あぁ、間違い無いだろう」

 さて、ろくな着替えは持ってきていないがあそこで買えたりするのだろうか、だとしたらそれに着替えて、街を散策しながら色々な備品を揃えたりするとしよう。

 建物側に近づき、日本の銭湯でよく見るような暖簾をくぐった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いらっしゃいませ」

 風呂屋の番台みたいな席に、いかにもな獣人の婆さんが座っている。犬のタレ耳が付いていることから考えて、おそらく犬の系統なのだろうか。

「えっと、入浴に来たんですけど初めて来たので勝手がわからなくて....」

「はいはい、男女カップルでしたら混浴をお勧めしていますよ」

「へ? いやいや違う違うっ!」

 そんなんでは決してないっ! ていうか何、カップルで混浴とかできるの? いやたとえできたとしてもそんなの絶対えらb

「なら、それで頼む。それと、着替えを二組用意してくれ」

「レギナさんっ!?」

 俺が全力で否定して男女別の浴場を頼もうとしたにもかかわらずこの人は何でまた....一応女性の端くれなんですよねこの人。そういえばリーフェさんも混浴だったような....もしかしてこの世界では混浴がメジャーなのか?

「はいはい、ではすぐご用意しますね。浴場は廊下の突き当たりを右に渡ったところにございます」

 それではごゆっくりと。そう言ってばあさんは深々と頭を番台の上で頭を下げる。ごゆっくりできないって....

 何だか色々諦めて、ばあさんの言われた通りに廊下の突き当たりを右に曲がって行くと今まで土の地面だったのが、一段高くなり木の板へと変わっている部分がある。なるほど、ここで靴を脱ぐのか。

 俺とレギナは靴を脱ぎ、木の床の上へと上がる。そしてそばにある靴箱に履き慣れすぎてボロボロになったスニーカーを入れる。ついでに靴も買うか....

 そして、その奥には.....ピンクのハートが書かれた暖簾が.....

 よし、まずはレギナを先に入らせて、俺は外で待つ。そして最後に俺が入る。よしこれにしよう。さすがに脱衣所の一つくらいはあるだろう。そこで待っていればいいだけだ。

 そして暖簾をくぐり、絶望した。

 え、直で浴場なの?

 待て待て、脱衣所は? どこだ!? 探せ!!

 目の前に広がるのは、俺がリーフェさんと作った温泉より一回り小さい浴場、二人が入ってると下手したら密着しかねない。そして木々の植えられた庭が目の前に広がり、両側には木でできた壁。

 その木でできた壁に二つの突き出た木の板とその上に乗っている木製のカゴ。そこに着替えを入れろと。

 そしてその反対側の壁には木製のよく銭湯で見る椅子と、備え付けの鏡が一つ。どうやらあそこで髪とかを洗うらしい。

「えっと....レギナさん。先に入ってもらって、その後に俺がってこと、ですよね?」

「は? 何を言っている。一緒に入るに決まっているだろう」

 もう、勘弁してください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本日何回目だろうか、ドウシテコウナッタ。

 隣では、レギナが何の抵抗もなく次々と服を脱いでいる音がする。そんな光景直視できるわけがない。

 俺も諦めて、体の防具を外して行く。ふとカゴの中を覗くと体に巻くようの布が入っている。これはありがたい。

 そして防具外し終え、上半身の服を脱ぐ。それにしてもこの世界に来てもう半年になるかならないか、地球にいた頃に比べ随分と筋肉がついたような....

「なんだ、そのヒョロヒョロした体は。そんなのだから私の部隊の人間に力負けするんだ」

 どうやら勘違いだったらしい。

 右手の炎の刺青を見る。そこにはサリーの言っていた呪い、これが顔まで広がったらアウトと言っていたが、もう既に肩までに広がっていることに気づいた。このままいけば顔に広がるのも時間の問題だ。

「それが貴様の言っていた呪いか」

「はい、最初の頃は手首までだったんですが....」

「自業自得だ。先に入るぞ」

 既に着替えを終えたレギナが体にタオルを巻いて湯船へと浸かる。自業自得、確かにそうなのかもしれない。俺が弱くなかったらサリーに頼ることもなく、リーフェさんだって死ぬことはなかったはずだ。

 下を脱ぎ、タオルを巻いて湯船に浸かる、その前に湯船から桶で少しお湯を取り体に軽く流す。

「どうした。入らないのか?」

「いえ、『かけ湯』といって温泉に入る前には必ずこうやって軽く汗とか汚れを流しておかないとお湯が汚れてしまうので」

「聞いたことがないな。だがいいことを聞いた」

 かけ湯を終え、湯船へと浸かる。怪我をした右腕を外に出した状態だが、疲れ切った体に熱い湯がピリピリと肌を刺すように温めて行く。

「ハァ....」

「随分と気持ち良さそうに入るな」

「歩き攻めで疲れましたからね....このまま寝てしまいそうですよ」

「そうか、貴様がもし寝たら気概なく貴様から逃げられるな」

 ....そうか、俺とレギナが一緒に温泉に入った理由って俺を逃さないため....すっかり忘れていたが俺は逃亡犯だった....

「今後の詳しい行動について教えてもらいたい。一応保身のためだ、答えてくれるな」

「あ、はい。わかりました」

 俺は湯船の中で正座して彼女と向き合う。互いにタオルを巻いているため、特に気をつかう必要はなかった。

「まず、青の精霊を探しに湖に行きます。そこで....青の精霊の契約を交わした後、ウルカニウスに戻って....リーフェさんとガルシアさんのお墓を作ります」

「随分とがさつな計画だな。私がいるとはいえ、貴様は私の部隊に会ったらすぐに首を飛ばされても文句を言えない人間なんだぞ」

「その時はその時です。ただし、今言ったことをやり終えるまではたとえ軍に見つかったとしても全滅させる勢いで行かせてもらいます」

 確かにがさつな計画なのかもしれない。だが最低限にやらなくてはならないことは必ず存在する。それを邪魔しようものならば、俺はどんな力を使ってでも抵抗する、どんな力を使ってでも排除する。

「わかった、それで構わない。不穏な動きを見せた場合は私が問答無用で斬り捨てる。わかったな」

「えぇ、それで構いません」

 互いに話したいことは終わった。しばらくすると温泉の従業員が着替えを二着持ってきてくれた。離れて座りながら湯船に浸かっている俺たちを見て少し怪訝そうな表情をしていたが、何も言わず部屋から出て行った。

「さて、頭を洗いたい。終わるまで待ってくれ」

「はい、どうぞ」

 湯船からレギナが立ち上がり、向こう側にある洗面台へと向かう。その時に歩きながら体に巻いていたタオルを外して行ったため、思わず顔を庭の方へと向ける。

「あ、湯を汲んでくるのを忘れた。すまないが取ってきてくれ」

「え? あ、え?」

 この状態で? こんな人を前に理性を暴発させる勇気は全くもって皆無だが、それでも色々と大変な部分がある。とにかくなんとも言えない『色々』だ。

 仕方なくそばに置いてあった桶から浴場の湯をすくい、レギナのそばへと歩く。なるべく前を見てレギナを直視しないようにだ。

「え、っと。たりますか?」

「あぁ、ありがとう」

 レギナを直視しないように桶を手渡す。その時、たまたま視界に入ったレギナの背中。

 筋肉質なその背中には無数の切り傷と、刺し傷。腕にもやけどの跡だったり、怪我を治したかのような跡がたくさんある。とても女性の肌につけてはいけないようなものばかりだ

「....すまないな。気持ちの良くないものを見せてしまった」

「いえ、そんなことは....」

「貴様と同じだ」

 呪いだ、これは。
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