異世界探求者の色探し

西木 草成

文字の大きさ
上 下
62 / 155
第2章 青の色

第59話 貸しの色

しおりを挟む

 さて、どうでもいいのだがものすごく右手が痛い。本気で。

 勢いでレギナの剣を思いっきりつかんでしまったものだから、手のひらがバックリ切れて血がダラダラ流れている。痛いけど傷口見たら失神するかもしれない。これ骨とか切れてないよね? 本当に。

「痛てて....」

「どうした? イマイシキ ショウ」

「いえ、その....」

「....ハァ、右手、見せてみろ」

 後ろでレギナが左手を差し出す。俺は担いでいた追剝ぎの生き残りを地面に下ろし、右手を差し出す。そしてずっと握っていた右手を開いてみるとやっぱりバックリと切れている。右手に血が溜まっているが、俺出血多量で死んだりしないかな....。

「応急処置だけでもしてやる。そのまま広げてろ」

 するとレギナは鎧の下に着ている服の一部を千切り軽い包帯みたいなものを作った。そして俺の手に当て、先ほどとは打って変わって優しく巻き始める。

「あの....すみません....」

「本当に、貴様という人間がわからない。どうして追剝ぎの命なんかを助けて、自ら傷ついてでも庇うのか。貴様、どういう育ち方をしたらそういう考えになるんだ」

 まぁ、この世界の出身じゃないですからね....。レギナの処置が終わり再び追剝ぎを背負って森の中を進んで行く。にしても手に布が巻いてあるだけでも大分安心感がある。町に着いたらちゃんと処置をしてもらわないと。

「それで、イマイシキ ショウ。今私たちはどこに向かっているのか。説明してもらおうか」

「あぁ、はい。歩きながら話します」

 まずどこから話したらいいか....。まず自分の置かれている状況、先ほどの赤の精霊と仮契約の状態で力を使ってしまった反動で自分が死にかけているということ、そして助かるためには青の精霊に合わなくてはならないということを話し、今その移動中なのだというように言った。

「つまりは、自業自得の挙句、私はそれに無理やり付き合わされたということだな」

「....はい、本当にすみません」

 これではどっちが誘拐犯で被害者なのかがわからない。とにかく、町に出て色々なものを揃えなければならない。食料、服、移動で使える最低限の日用品、そして金だ。

 幸いにもギルド証はいつも無くさないように、パレットソードのベルトに丸めて差し込んでいたため持っているが、果たして犯罪者になってしまった今使えるのか....不安だ。

「イマイシキ ショウ。本当にこの道であっているのか?」

「えぇ、おそらく間違っていません。たぶんもうそろそろ森を抜けて町が見えてくるはずです」

 確かパレットソードで見えた道順ではこの先に町が見えてくるはずだ。不安げにレギナは俺を見ているが仕方のない話だろう。さて....お金本当にどうしよう....銀行みたいなものはこの世界にはない。ギルドなどに一時的に預けることは可能だが、ギルドに預けていたお金はイニティウムですでに消失しているだろう、さてどうしたものか....

 そんな深刻なことを考えていると、担いでいた追剝ぎが目を覚ましたらしい。そして現在置かれている状況を理解したのか、肩の上で暴れ始めた。

「ふがーっ! ふがーっ!」

「ちょ....っ 暴れないでっ」

 両手はレギナを縛るのに使っていたロープ、そして猿轡をはめているため、大声出すこともできない状態だ。さすがに身動きが取れない状態とはいえ、肩の上で暴れられたりしたら困るし危ない。

 あれ、ちょっと待てよ。

 こいつの身柄を町の自警団とかに引き渡したら、報奨金とか出るのか? しかし今のこの状況で自警団に赴くって....自分から敵の巣に飛び込んでいるようなものじゃん。

「ふがーっ! ふがーっ!」

「チッ、うるせーな。こっちは寝てるとこなんだって」

 いつの間にか後ろにいたサリー、そう呟くと未だに暴れている追剝ぎの首筋に手を当てる、するとさっきまであんなに元気よく暴れていた追剝ぎが静かになり、再び気を失ったかのようにぐったりし始めた。

「おい、何したんだ?」

「あぁ? ウルセェから黙らしただけだ」

 もう一寝入りするわ、と言って再びサリーは炎と煙を残して何処かへと消えていった。そういえば、こいつが襲ってきた時も同じことをしていたとような。

 そして、レギナと俺が終始無言のまま、森の中を歩き続けること40分ほどだろうか。森の開けた場所に見えたのは、イニティウムよりも大きい、多くの建物の立ち並ぶ街だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「....」

「....」

 さて、街に入れたのはいい。しかしこの好奇の視線がなんとも痛い。まず、腰にフライパンと肩に追剝ぎをぶら下げている俺。そして普段街に来ることで感謝される王都騎士団の鎧を着て、さすがに返り血はある程度拭き取ったもののやはりところどころ赤黒いシミになっているレギナ。そんな二人が歩いていれば好奇の目にさらされるのも無理はない。

 こうなればさっさと自警団を見つけて、こいつを引き渡さないと。にしても自警団ってどこだろうか、この街に来るのは初めてなので、建物がどこにどうあるのか全くわからない。

 そういえば、初めてこの世界に来た時はギルドに行ったよな。

 まずはギルドを探そう。

「すみません....えっと....ギルドへの道はどっちですか?」

 たまたまそばにいた、クマ耳の奥さまに声をかけてみる。まさか自分が声をかけられるとは思ってなかったのか、少し助けを求めるようにして辺りをキョロキョロしている。本当に申し訳ありません。

「は、はい。ここの大通りをまっすぐ行って、二つ目の十字路を左に曲がればすぐです....」

 それだけ言うとそそくさとお礼を言う間もなく奥さまは早足に何処かへと行かれてしまった。本当に申し訳ありませんでした。

 そのあとは奥さまの言われたとうり大通りを進んで二つ目の十字路を左に曲がり、しばらくするとイニティウムよりもいくらか立派なギルドぽい建物がそこに建っていた。

 時刻はちょうど昼を過ぎてそろそろおやつの時間帯だろうか、ギルドの中に入るとだいぶ賑わっている、イニティウムとは違って繁盛しているようだ。

 しばらく待たされ、受付の前まで来る。座っていたのはやっぱり女性で俺と同じ人間だが、髪の色が金髪だ。

「え....と、本日はどのようなご用事ですか?」

「はい。えっと、森を越える途中で追剝ぎに襲われまして。それでこの人の身柄を自警団に引き渡したいのですが....」

 説明を聞いてこの状況に合点したのか、理解した面持ちで丁寧に説明をしてくれた。

「あ、はい。わかりました、自警団はここを出て向かい側の道をまっすぐ行けばありますので」

「すみません、ありがとうございました」

 そして、俺はギルドの外に出ると受付の人に言われた通りにまっすぐその道を進むと、怖そうな門番が立っている頑丈そうな建物にたどり着いた。

「あの、すみません」

「はい、なんでしょうか」

 見た目は怖そうなのに、随分と丁寧な対応だ。

「この人追剝ぎで捕まえたんですけど....こちらで身柄の拘束とか可能ですか?」

 肩に乗せている男の姿を門番に見せる。すると先ほどまで優しそうな表情していた門番が急に鬼の形相に変わった。

「おいっ! 今すぐこの男の身柄を拘束しろっ! 急げっ!」

 あっという間に肩が軽くなった。そしてズルズルと引きずられながら追剝ぎは門の向こう側へと消えていったのである。しばらくその場で呆然としていると、再び門番の男が戻ってきた。

「この度はありがとうございましたっ! それではっ!」

「いえいえ」

 そうして、自警団の建物を離れ....あれ?

 何か大事なことを忘れている気が....

 そうだっ! 報奨金っ!

 再び門番のところへ駆け足で戻る。

「す、すみません。大変厚かましいんですけど、報奨金とか出たりは....」

「は? あの人物には賞金等がかけられておりませんので出ませんよ」


 な、なんてことだ....早速読みが外れてしまった。

 どうしよう、この先どうやって生きていけばいいのだろうか。となると何かを質に出して金をもらうしか....

 パレットソード(俺限定)、レギナの武器、リーフェさんの形見、パルウスさんの形見の防具、そしてさっきオットーさんからもらった調味料とフライパン。

 売れるものが何一つない。思わず頭を抱え込んでしまう

「そういえば、あの追剝ぎ....この剣の銀を剥がして売るとか言ってたような....」

 なんてことを考え出した時だった。

「おい、イマイシキ ショウ。質屋への道を人から聞いてこい」

「え、はい」

 突然、先ほどから黙っていたレギナから声をかけられた。そして言われるがままにそばにいた通行人に道を聞き出し、質屋へと足を進める。だが急にどうしたのだろうか、売れるものなんて何一つないのに....

 あっ、もしかして質屋って内臓も買い取ってくれるのかな。

 地球で一人暮らしをしていた頃、一時期本当に貧乏で、裏サイトで臓器売買の方法を調べたことのある経験がある俺は、少しだけその時の覚悟を持っていくことにした。

 そして建物の立ち並ぶ中で、少しだけ他の店に比べると小汚い建物へと入る。本当に臓器売買でもする気なのだろうか....

 そして店主のいるテーブルにまっすぐ足を進めた。そこに座っているのはパルウスさんと同じドワーフ。片眼鏡をかけて品定めするといかにも感じが悪くなりそうなタイプの顔をしている。

「いらっしゃい、買取? それとも何か買うの?」

「買取だ」

 レギナが先頭に立って店主と話をしている。一体何を売る気なのだろうか....

「ほぉ....最初に言っておくが、それなりのものじゃないと買い取らないぞ?」

「それなりかどうかはわからないが....」

 すると、レギナは身につけている防具をすべて取り外し、それをテーブルの上に並べ始めた。

 まさか....

「王都騎士団の特注で作らせた防具。1セットいくらで買い取る?」
しおりを挟む

処理中です...