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第2章 青の色
第70話 聖典の色
しおりを挟む森の中を進む。まだ街を出たばかりか、道には人が多い。その中で未だにレギナは不機嫌だ。男性と間違われたと言っていたが、確かに言われてみると髪だって短いし、体つきだってその....筋肉質だし。身長だって高いから、男性と間違われるのは仕方がないか?
「イマイシキ ショウ。この際だ、私は髪を伸ばす」
「へ? え? い、いいんじゃないんですか?」
とてつもなく鬼気迫る表情で言われても困るのだが....でも、やっぱりこの人にも女性に見られたいという感情はあるのか、行動を見てる限りそんな感じには見えないのだが。
「この先、本当に湖があるのか?」
「えぇ、間違いないはずですが....」
なんだろうか、そこまで言われると不安になる。確かに地面にパレットソードを指してみた風景はこんな感じだった記憶があるのだが....
「わかりました。もう一回確認します」
「確認? どうやって」
俺はパレットソードを抜き、地面へとつき立てる。その様子をレギナも含め周りの人は不思議そうな表情で見ていたが、仕方がない。
頭の中で青の精霊を探した時のイメージを固めて、大きく息を吸いながらパレットソードの柄を握る。
握った瞬間、再び膨大な量の情報が頭に流れ始め、思わず顔を歪める。そして意識は以前見た風景へと進んで行く。静かに目を開けると、目の前には青い一本の道が見え、その先へとさらに意識を集中させ....『待ってる....サラマンダー』
「え?」
「どうした、イマイシキ ショウ」
「いや、なんか声がして....」
パレットソードから手を離し、先ほどの風景と照らし合わせ、今向かっている場所に間違いはないと確認する。だがさっきの声は一体....
「ほぉ、そのクソ剣から意思を逆に送り返してくるだなんてねぇ」
「サリー、どういうことだ」
右側に立っているサリーがポツリとそんなことをつぶやく。ふとレギナの方を見ると、その目は完全にサリーの立っている方へと向いていた。
「単純だ、テメェがそのクソ剣で意思を移動させていたのと同じ様に、今度はそのつながりを利用して向こうから送り返しているということさ」
ということは、あの声の持ち主は青の精霊。女性の声でとても透き通る様な声だった。それにサラマンダーって、確か火蜥蜴の魔物の名前だった様な....
ん? サリー....サラマンダー....サリー....サラマンダー....
「おい、サリー。お前本当の名前なんていうんだ」
「あ? サリーだけど?」
「嘘つけ、お前本当の名前サラマンダーってやつじゃないのか?」
その瞬間、サリーは顔色を変えものすごい勢いで、俺の首を掴み地面へと押し付ける。
「か....っ!」
「おい、クソガキ。おいそれとその名前口に出すんじゃねぇぞ。わかったな?」
「わ、わかった。いいから離せって!」
サリーの手が離れ、そのままどこかへと消えてしまった。そんなに本名が知られたくないのか。それとも何かあって....
「大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です」
レギナが少し呆気に取られたような表情で話しかけていたが、レギナ以外の精霊の見えない人から見れば俺が勝手に地面に転んで大声を出していただけに見えたのだろうな。恥ずかしい。
「そういえば、レギナさんはあいつとどんな話をしたんですか」
「話と言っても、貴様がすでに聞いているような内容かもしれないぞ」
「それでもお願いします」
歩きながら、レギナが話した内容は自分が無色だということを言い当てられたこと、そしてそのことをすでに俺が知っていたということ。そして俺の持っている色が無色だということだ
「どうして黙っていた」
「いや....冒険者になる時に無色であるということは黙っていろと言われていまして。こっちも余計な詮索はしないほうがいいかなと」
そんな言葉を聞いて少し呆れたような表情を浮かべているレギナだが、少なからず軍に所属していたわけだから、自分の魔力の色くらいは調べられるだろう。そして俺が彼女を誘拐したことによって、『啓示を受けし者の会』がくっついてきたと。今度アランにあった時には一発ぶん殴らないと気が済まない。
「このことは軍の人間にも話していない内容だ。私が軍に戻るようなことがあっても他言するな」
「軍に戻るって....それ俺が捕まってますよね」
「そうだ。決して脅しの材料などにするなよ」
釘を刺されてしまってるのであれば世話ない。当然捕まる気など毛頭もない。にしても軍でレギナが無色であるということを隠していたのならば。
一体誰が『啓示を受けし者の会』に漏らした?
「レギナさん。『啓示を受けし者の会』って何者なんですか。王都が公認の研究機関とは聞いてるんですけど、どう考えても度が過ぎてます」
「....そうだな。貴様には話しておこう」
『啓示を受けし者の会』は聖典を魔術的解釈で奇跡を起こそうとしている研究機関である。
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『序文
天に双子の巫女ありて。
その片割れ、世に奇跡をもたらしたる。
その片割れ、世に平穏をもたらしたる。
地上に奇跡溢れ、平穏溢れ。
世に棲まう物々に幸あれ。』
キリスト教だったら『光あれ』というところだが、この世界では神様は双子だったらしい。この世界で信仰されているのは神でも、この話に出てくる巫女でもなく、これらを記した聖典なのだという。
聖典により教育が小さい頃から行われ、聖典に信仰を捧げる信者もいる。そしてそこからたくさんお宗教が派生したわけではあるが、地球にいた頃にあった宗教同士での戦争は起こっておらず、それらは全て聖典が原点であるからだとされている。
そして、話を戻すが『啓示を受けし者の会』はそれら聖典に記されている物語、教えなどを、魔術で読み解き、それら読み解いたものを使って新たに奇跡を起こそうとしている。その内容は様々で、新しい生物を生み出したりとか魔術を生み出したり、未来予言であったりと様々だが、その中でもメインに行われている研究は。
無色の人間の研究である。
聖典がもし正しければ、人々に平等に与えられた魔術。それらを使うことができない人間はいないはずである。しかし、自分を含めレギナみたいに魔力を持っていても魔術の使うことのできない人間がいるというのは一体どういうことなのだろうかというのが『啓示を受けし者の会』の研究である。
「要は、あいつらにとって無色の人間は目の敵だ。何せ聖典の内容を一字一句間違わずに言える輩が集まっているからな」
「ということは、無色の人間は捕まったら....」
「あぁ、まず生きては出てこれないかもな」
つまり、無色の人間は聖典から寵愛を受けていない、反逆者という見られ方なわけか。どこの世界で信仰ほど怖いものはない。
「私も二、三度あったことがあるが、話す内容は聖典のことばかりだ。あれが王都公認の研究機関だと思うと少し怪訝に思わずにはいられない」
「まぁ....」
それでも少ししか感じないのか。さすがは王都お抱えの騎士団だとは思うが。
「にしても、貴様は『無色精霊術師の聖戦』も知らなければ、それの元になった聖典のことも知らない。本当にどこから来たんだ、いくら辺境で田舎な場所でも知っていると思うぞ」
「いや....まぁ、ものすごく田舎だったもので」
未だに彼女には自分が異世界から来た人間だということは伝えていない。伝えたところで信じてもらえるかどうかわからない上に、余計な問題に発展する可能性がなくもない。
よって、剣で脅されない限り、しゃべるつもり....は。
「今後のために、せめて出身くらいは教えてもらえるか?」
冷たい笑みを浮かべて、剣を突きつけられている俺の気持ち。誰かわかる人いませんかね。
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一切合切全部喋った。もう自分が地球というところ出身で、自分が異世界人だということを全て喋った。
レギナはどういう反応をしたかって? なんだか可哀想なものを見るような目で見られた後、肩を叩かれた。
「いや、本当に信じてくださいっ!」
「そんなことを信じろっていう方が無理だ。もし貴様の話が本当だったら、なぜ貴様は我々の言葉をしゃべれる。なぜ我々の言葉がわかる。なぜこの世界の文字が読める。なぜ貴様に魔力がある。答えてみろ」
「それは....」
「今度はもっと現実味をもった嘘を吐くんだな」
レギナは剣をしまい、再び前を歩き始める。
確かに言われてみれえば不思議な話だった。なぜ自分にはこの世界の言語が理解できて、自分に魔力が存在するのか。当然ながら地球で身体強化術を使ったびっくり人間のようなことはできなかったし、もしできていたら俺はオリンピック選手を目指している。
なぜ、自分はこの世界に招かれた?
話は、この世界に来る二日前に遡る。
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