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第2章 青の色
第95話 口実の色
しおりを挟む「....この白いスープはなんだ?」
「いい匂いだけんど....」
甲板に置かれた炊き出し用の寸胴に、船員たちが群がっている。時刻はちょうど昼ごろ。飯時だ。爽やかな空気と晴天にスープから立ち上る湯気が吸い込まれてゆく。
「これはですね、クラムチャウダーという料理です」
「「「くらむちゃうだー?」」」
なんだろう、この船員たち面白い。全員が声を揃えて目の前にある料理の名前を口にする。まず、この船には食材があまりにも豊富だった。牛乳もあればバターもあるし干し肉や、海賊だからだろうか魚介も豊富にあった。おそらく、レベリオがどんな状況になったとしてもここの船員たち全員が飢えないようにするための配慮なのかもしれない。ともかく、これだけの材料があれば立派なものは作れる。そこで選んだのは、せっかく海の上にいるのだから魚介系のものを作ろう。そう思ってのクラムチャウダーだ。
「では、こちらに並んでください」
船員たちを一列に並べさせ、それぞれの器にクラムチャウダーを盛って行く。
「おい、なんかパン見たいのが入ってるぞ?」
「あぁ、それはいいんですよ。一緒に食べてください」
そう、このクラムチャウダーはパン入りだ。昨日のあのカビの生えたパンは当然料理なんかに使えない。だが、すっかり水分が抜けてカピカピになったパンがたくさん存在しており、それをスープの中に入れたというわけだ。これで副菜と主菜と主食どちらも摂ることができる。
「う、うめぇっ! これ貝の出汁か?」
「パンにスープがしみるとこんなに美味いだなんて....っ」
「ハァ~、体が温まる....」
「ほらほら、押さないでください。まだまだお替りはたくさんありますから」
船員達の舌は完全にホールドした。心の中で笑みを浮かべていると、甲板に座って食べている船員の間を通りながらレベリオが近づいてくる。
「お、うまそうな匂いだな。俺の分もあるんだろ?」
「えぇ、どうぞ」
差し出された器にクラムチャウダーを盛り付け、レベリオに差し出す。そして一口食べたレベリオは、昨日のピザトーストを食べた時と同じように目を見開く。
「....大将、もういっそこの船で料理人しねぇか?」
そんな真面目な顔で言われても....
「いえ、僕はリュイに行かなくてはいけなくて....」
「....大将、なんでそんなにリュイに行きてぇんだ? あんなエルフ以外とは馴れ合わねぇやつらの国なんか、しかも戦争真っ只中だぞ」
「....」
精霊石を探すため、とは言いづらい。何せ、本当にあるかどうかもわからない上に、ましてや精霊なんて見える人間はおかしいと思われているこの世界だ。そんな精霊のために危険を冒してリュイに行くだなんて言ったら何を言われるかわかったものじゃない。
「....まぁ、何でもいいけどよ。ともかく、昨日大将がぶっ倒れる前、何か言わなかったか?」
「え....あっ、そうですっ」
聖典の写本とか、もしお持ちだったら譲ってもらえませんか?
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左手にクラムチャウダー。右手には聖典の写本を潮風たなびく船の上で読み進めている。レベリオに聖典の写本がないかどうかを聞いたところ、どこかの貿易船から積荷を強奪した....もとい、通航料として徴収した時に聖典の写本があったとレベリオが言い出し、船の中の倉庫から辞書並みの厚さの本を取りだして持ってきてくれた。
この世界での紙は希少な物の部類に入る。だが、レベリオが何も言わずに譲ってくれたのは、この船に信心深い奴はいないからだそうだ。それに売りに出そうにも、聖典は聖堂と呼ばれる、言うなれば総本山からでしか発行されておらず、自分たちのような一般人が売りさばくと怪しまれるから持っていてもしょうがないものだったらしい。
ともかく、これで件の聖典というものが手に入った。中身を開いてみると、若干擦り切れてはいるがこの世界の文字で書かれている文章。だが、率なく自分は読むことができた。文章は頭の中で変換され自分の知っている文字にとなって見えている。
「急に信心深くなったのか? イマイシキ ショウ」
「レギナさん、お昼ご飯は食べましたか?」
聖典を読んでいる頭を前に向けるとレギナが目の前に立っており、俺のことを見下ろしていた。
「あぁ、今日のもうまかった。ゴチソウサマデシタ」
「よかったです。えっ....とレギナさん? 昨日のことって、覚えていたりします?」
「....いや、貴様らが酒を酌み交わしていたところまでしか覚えていない.....」
若干暗い表情をしているレギナ。昨日のことは彼女のためにも黙っておこう。もし今後酒に触れる機会があったのなら注意しておかなくては。
「何かあったのか? 昨日」
「い、いえ。何でもありませんよ。え....っと、すみません。ここにかかれていることは全部本当にあった出来事なんですか?」
聖典を指差し、レギナに質問するがその目は冷たい。
「あぁ、すべて本当の出来事だ。何せ、これを書いたのはエルフだ。まだその聖典を書いた作者は生きているとかいないかという話まであるからな」
「ちなみにこれが書かれたのって....」
「今から2000年とか3000年くらい前じゃないのか?」
確かリーフェさんでも200年以上と言っていたのだから、それ以上に生きるエルフがいてもあんまり不思議ではない。そしてもしこれがすべてほんと嘘偽りのないものだとしたら....ウィーネの言っていたことは一体....
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「え、いやぁ、船に乗りながら本を読むのって結構酔いやすいなぁと....」
実際にかなり気持ち悪い。レギナからの疑いの目の色が濃くなった。
その時だ。
「前方敵影発見っ!!」
船員の一人が船の前方を指差し大声で叫ぶ。その瞬間に全員の動きが一瞬止まる。次の瞬間、一人が船についている鐘を鳴らし全員がそれぞれの持ち場につき始めた。もしかして、戦闘状態に....
「何事だ?」
「前方に船を発見。こちらに真っ直ぐ向かってきます」
レベリオが船長室から現れ、敵影が現れたことを報告した船員に詰め寄る。するとレベリオは腰にぶら下げていた望遠鏡を取り出し、前方の方を見る。
「旗を上げてねぇな....海賊か」
「....っ」
全員の唾を飲む声が聞こえてくる。それもそのハズだった。この船は戦闘をして船から略奪をするタイプではない。ここの船員もある程度戦闘をすることはできるが、もし魔法でこの船を砲撃をされたら手も足も出すことはできない。そして海賊と海賊がぶつかり合うということは、互いを殲滅し合い略奪を行うとうことである。
「よ~し、全員配置につけ。まず緑色は船の結界の準備、遠距離魔法の使えるものは船の前方に集まって戦闘待機。これより戦闘状態に突入する」
レベリオの太い声が船内に響き渡り、船員が持ち場につき始める。緑と指示を出された船員たちはそれぞれ船の縁に魔法陣を書き魔力を通す。その瞬間に船が緑色のオーラに包まれ、薄い膜のようなものを作り始める。
「船長、準備完了ですっ!」
「こちらも準備整いましたっ!」
みると船の前の方で10人くらいの船員がそれぞれ片手を前に出し、魔法を放つ準備を始めている。
「よしっ! 他の奴らは下に潜り込んで大砲の準備をしろ」
それぞれが持ち場についたのを確認したレベリオは次に俺たちの方へとむきなおり近づいてくる。
「お前らは相手側の船に乗り込む準備をしておけ。武器は返してやる」
「え....」
「レベリオ=アンサム。言っておくが戦闘に加わるつもりはない」
はっきり言い切ってしまったよ、レギナ。その回答を聞き、なぜかレベリオは満足げな表情でうなずく。
「やっぱりそういうと思ったぜ。よし、この船のルールに従えねぇんだったらこの船から出て行ってもらおう。おいっ! そこの二人、ボートの準備をしておけっ!」
「「へいっ!」」
「おい野郎どもっ! これから行う戦闘はなるべく岸に寄せて行うわかったなっ!」
レベリオが指示を飛ばして行くが、どうやら船員たちはレベリオが何を考えているのかがわかるらしい。全くわけのわからない状態でいる俺とレギナはポカンとしてその話を聞いていると、レベリオが振り返りこう言った。
「ようやく、お前らを追い出す口実ができたぜ」
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