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第2章 青の色
第94話 真相の色
しおりを挟む目が覚めると、そこはどこかの部屋の一室だった。だが、体全体がふわふわと揺れている感じから察するに船のどこかの部屋なのだろう。
「っ....」
ふと、体を起き上がらせたときに使った右腕に激痛が走る。そういえば、昨日は....。そう思い、自分の右腕を見るとそこには痛々しい刺青が彫られているだけで特に変化はない。だとしたら、昨日の出来事はいったい....
「....ん」
「....」
ふと、動かした左腕が動かない。それどころか、動かそうとした瞬間、蒲団の中から声が漏れる。よくよく考えてみれば、俺は何で上の服を着ていないんだ。自分の右腕を見たときに気付くべきだったのだが。
ともかくだ、この布団の中に誰かがいる。
恐る恐る、震える右手で布団をめくると、そこには寝ぼけて俺の左腕を抱きかかえているレギナの姿がある。
ちょっと待て。
いや、どう考えてもおかしい。
もしかしたら見間違いという可能性は。そう思い、再び手に持った布団を元の場所に戻す。そして再びめくり直すとだ。
今度は、はっきりと両目を開いてこちらを見ているレギナの姿がはっきりと見えた。
「えっと....おはようございます?」
「イマイシキ ショウ。何故貴様が私の布団の中にいる。事と返答次第では切り刻むか切り落とす」
突然の死刑宣告に寝ぼけた頭が一気にフル回転し始める。この人ならやりかねない。とにかく、何が起こったか自分にも全くもってわからないがともかくその全身から殺意の塊を吐き出して横で寝転んでいる彼女の誤解を解かねばなるまい。
まず、俺は確実に手を出してはいないはずだ。ズボンだって履いているし、手を出そうにも俺にそんな勇気はない。彼女に手を出すくらいなら王都騎士団全員を相手にした方がマシのような気もする。そして昨日の気絶によって起こった後の出来事、恐らく誰かが運んだに違いない。
レギナも、昨日の服装と変わらない格好だ。服を着てないとか着なおしたなどのそういう形跡はみられない。
以上のことから考えて、今回のこの出来事は誰かのイタズラに違いない。それでもってこんなイタズラを考えるのはたった一人だ。
扉の入口の扉がノックされる。
入ってきたのは、今回のイタズラを行った張本人のレベリオだ。
「ヨォ、大将にお嬢ちゃん。なかなかにお熱いねぇ。昨日はもうすごかったぜ? 向かい側の俺の部屋にまで声が聞こえてきたよ」
「っ! いや....」
思わず焦り、否定しようとするが自分がなぜこんなにも焦っているのだろうか? 確実にこれはイタズラだとわかっているのに、そしてそれをレベリオはわかっているはずなのにだ。
そんな謎の思考が回り始めた時、突如レベリオの右側にあった壁が大きな音を立てて破壊され、とても大きな穴が空いた。突然起こった現象に目の前で見ていた俺は唖然とするが、レベリオはなんとも涼しい顔で微笑んでいた。
理由は、隣の女性。レギナがそばにあったスタンドの机を身体強化術を使ってぶん投げたからである。
「今の私は寝起きで気分が悪い。特に貴様の顔を見ていると今度は間違って少し左にずれてしまいそうだ」
そう言って彼女が手にしているのは、机のそばにあった椅子だ。先ほどの速度で投げられたらさすがのレベリオもタダでは済まないだろう。
「それにしては随分と仲がいいんだな? 未だに、そのお嬢ちゃんの左腕は大将の右腕を掴んだままだぜ?」
言われて気づくが、確かにレギナの右腕は未だに俺の左腕を掴んで離していない。さすがにこの状況は....恥ずかしいな。
レギナも無意識だったのか、言われるまで気づいていなかったらしい。
「イマイシキ ショウ。その左腕、折られるのと斬り落とされるの。どちらがいいか選ぶ権利を与えてやる」
「....どちらにせよ僕の左腕は生き残っていないのですが....」
乾いた目で言うレギナ。ここにはロマンも甘い雰囲気もなかった。だんだんとレギナの俺の左手を持つ右腕に力が込もり始める。
「イタタタたっ!」
「お嬢ちゃん、やめときな。そいつの腕が折れちまったら朝飯を作るやつがいなくなっちまう」
レベリオがそう言った途端。再び大きな音が隣で響く。そして目の前では飛んできた椅子を片手で受け止めるレベリオ。表情からもわかるが、絶対にこの人は楽しんでやっているに違いない。
「....当たらなかったか」
「そんな見え見えの攻撃が当たるっかってんだ。それよりもイマイシキ、さっさと仕事しないと海に放り出すぞ。それとも、連れの女とよろしくしてたことを言いふらされる方がいいか?」
「い、今すぐ行きますっ!」
布団を蹴り上げ、急いで上着を着なおす。レギナはというと再び眠そうな表情をして昼飯ができたら呼べなどと言って眠ってしまった。
とりあえずだ、自分の居場所のためにも仕事をしなくては。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「....うっ....ぷ」
現在、ちょうど昼飯の大半が完成し始めた時だ。調理している間も気づいていたもののこれは完全に船酔いだ。確かウィーネの話によれば、彼女の魔術で船酔いを抑えていたなどと言っていたはずだ。どうしてそれが急に....
「あんた....もう染まりすぎよ....」
「ウィーネさん....」
調理台の端の方をふと見ると、そこの台に座っているウィーネの姿があった。しかし、小さなその可愛らしい姿とは裏腹に、その表情はとてつもなく険しい。
「一体どれだけあいつの力を使ったの? もう私の魔力が通せないくらいに酷いじゃない」
「えと....確か4回くらいだと....うぇ....」
その回答に対し、ウィーネは目を見開き、聞き取れなかったもののとてつもなく、めちゃくちゃに怒られた。
「あんたねぇっ! 契約も交わしてない精霊の力を使うだなんて、エルフならともかく、人間のあんたなんか、一度使っただけで死ぬかもしれないのよっ!」
「え....そんなものだったんですか?」
「そうよっ!」
自分でも、確かに力を使うことに関して言えば多少なりとも抵抗はあった。だが、それが使った瞬間に死ぬかもしれないものだったとは。もしかしたら、俺は初めてイニティウムでサリーの力を使った瞬間に死んでいたのかもしれないのだ。
「でも....そしたらサリーが俺と本契約を結べば問題ありませんよね?」
「....それができないのよ。あいつには」
先ほどまで顔を真っ赤にして怒っていたウィーネが突然、暗い表情をし出す。
「あの剣の最初の持ち主、そいつがサリーと初めて契約したやつなんだけど、契約破棄が....その....あまりにも酷い仕方で....それであいつの契約を行うための回路がボロボロになっているの....そのせいで....」
「記憶もないんですか」
その言葉を聞きウィーネはこくりと頷く。さて、困ったことになった。仮にウィーネの精霊石を見つけて彼女と契約を取り交わし、サリーとの仮契約でついてきた呪いを払拭できたとしても、それは一時的だ。最終的にはサリーと本契約を結ばなくてはならない。
しばらく互いに押し黙っているとふと、すすり泣く声が目の前でする。顔を上げ、ウィーネの方を見ると、ウィーネは顔に手をやって小さい体で涙をぽろぽろと流していた。
「私が....私が悪いの....あの時....一緒に残るなんて言ったから....」
「ウィーネさん....前の持ち主に一体何があったんですか?」
あのパレットソード、前の持ち主がどういう経緯でサリーと契約を交わし、そして一体どのような契約破棄の仕方をしたのか。そしてどこで作られたものなのか、今まで謎になっていた部分が精霊の力を借りてわかるようになるのかもしれない。
「....ぐすっ....わかったわ。あんたにだって何れ分かることだし....」
すっかり泣きはらした顔をこっちに向け、神経な表情で話し始めた。
あの剣の元所有者は、世界のために殺されたの。
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