異世界探求者の色探し

西木 草成

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第3章 緑の色

第104話 囚われの色

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「そもそも、リュイはなんで戦争をしているんですか?」

 今回の原因というか、今回の話を助長した元となった戦争だ。イニティウムにいた時にも少ししか話を聞かなかったが、その原因については触れることはなかった。おそらく王都騎士団である彼女ならその原因は知っているだろう。

 現在、森の中を進みながらの会話である。ひどく静かで魔物とかが出る雰囲気は全く持ってない。

「....それを貴様に話してどうする」

「興味本位です」

 そう、単純な興味本位だ。前を歩くレギナが棘の入った声で答えるが、別段どこの誰が戦争をしていて、どっちの国が消えるなんてことはこっちには全く関係ないし、自分の旅には一切関係ない。たとえそれが障害となるのならば叩き切るだけだ。

 そして、しばらくの無言の後、ため息と同時にレギナが口を開いた。

「....リュイと戦争を始めたのがちょうど半年前だ。当時リュイとその隣の国のフォディーナとの外交がうまくいっていないとの情報が入った」

 半年前、となると俺がちょうどこの世界に来たあたりの頃になるのか? そんな時期と同時に戦争か....

「王都の役割は、隣接する7つの国の情勢管理だ。まぁ、一つは国としての役割を持ってはいないがな。それくらいは貴様も知っているだろう」

「いえ、まったく」

 今、説明を受けて初めて知った。その返答に対し、若干呆れ顔を浮かべるレギナだが再び前を向いてこちらに背中を向けながら再び話を始める。

「まぁいい。とにかく、国の仲が悪いとなったらそれの仲裁に王都が出た。しかし、王都が仲裁に出たが関係はさらに悪化。その結果互いの国が戦争になるという最悪の結果になった」

 なるほど、顛末を知ることはできた。問題は、理由だ。

「なんで王都が仲介したにもかかわらず戦争になってしまったんですか?」

「....そこまで話す義理はないぞ」

 確かに、彼女にそこまで話す義理はないかもしれない。

 だが、もうここまで知ったら知りたくなるのが普通だろう。

「教えてくださいよ。別に減りはしないんですから」

「くどい、朝の訓練で今度私に勝ったら考えてやる」

 現在、38戦38敗0勝

 未だ勝つことはできていない。だが、勝機は近づきつつある。動機は不純ではあるが、強くなる理由なんて何でもいい。

 それで、自分の大切が守れるのなら、それでいい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 森の中を歩き続けて、およそ2日ほど。地図に書かれた場所らしき場所には到着することは叶ったが....

  一言だけ言うのであれば、要塞である。

 現在、少し小高い丘の上から体勢を低くして、その監獄とやらを見ているのだが、二重の門と壁に囲まれた中にあるいかにも頑丈そうで中からも外からも侵入が不可能そうな厳重な建物がそこに立っている。さて、そんな建物の中に原書の作者が囚われていると。

 確かに、あのツリーハウスにいるエルフだけでは突破するのは難しい。かといって俺とレギナで突破しようだなんてもっと無理な話だ。

「本気であの中に忍び込むつもりか、命をドブに捨てるようなものだぞ」

「....自分でもそう思います」

 壁の上には数人の兵隊と思しき人物が目を光らせて監視をしている。まず、正面突破は無理だろう。確実に無理だ。だとしたら穴を掘るのか? 馬鹿らしい。ともかく、この建物に侵入する案が全く思い浮かばない。全方位ガチガチの守りをどうやって突破しろと、空なんて飛べるわけでもない。そして問題は入ったはいいが出るのは一体どうするんだ? 出た瞬間に二重の門をどうやって突破するというのだ。ましてや囚人を守りながら。

 ダメだ、どうあがいても自分が死体になってるイメージしか浮かばない。

 ならいっそ逃げようか?

 いや、ダメだ。あのレースという男、絶対に逃げたと知ったら確実に殺しにやってくるだろう。それにだ、この右腕にかけられた魔術のおかげで痛みを感じることなくこの2日間を過ごせた。それに対しての恩義というものもある。

「それにしても、あそこにいる兵士は全員王都からのか....」

「そうだな。私の着ていた鎧と同じだろ」

 そうこちらに向き直ったレギナは完全な皮肉でそう言った。現在、彼女を見て王都騎士団とわかる人間はいるはずがない。軍人らしい顔つきは健在だが、そのバラバラの防具を体に身につけ、そんな格好に見合わない立派な剣を持ったその姿は色々アンバランスな冒険者の姿にしか見えない。

「とにかく、一旦作戦を練りましょう。どちらにせよ、このままではダメです」

「賛成だ。いっそ貴様があそこに入れられればいいのにな」

 そう言って彼女は左手の親指で背後の監獄を指差すが....

 今なんて言った?

「レギナさん....名案です」

「は? とうとう頭髪も見た目もだが中身も狂ったのか?」

 いや、確かに頭髪も黒から赤に移行している上に、見た目も刺青だらけだが....

「レギナさん。お願いします」

 僕を逮捕してください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 静かな森、そこにはあまりにも似つかわしくない物々しい建物が建っている。その建物には武器を常に携帯した兵士と思しき人物が多く行き交っている。何を隠そうここは政府に反逆を行ったもの、または政府の転覆を企もうとする者を収容する監獄『ガーティオ』

 ここに収容されている罪人の数はおおよそ100人ほど。他にもこのような系統の監獄はいくつか存在するが、その中でも特にこの監獄『ガーティオ』は重大な組織のリーダー的存在。もしくは政府を転覆することができるほどの情報を隠し持った囚人が投獄されている。いわば、政府の命綱とも言える監獄だ。

 そんな監獄に一組の男女が近づく。

 男は女性に後ろで腕を固められて、前を歩かされ、そして女は皆りは冒険者だが、そのいでたちはまさしく騎士とも思えるような誠実さと、実直さを感じた。

「止まれっ! 何者だ」

 あっという間にその男女は数人の門番に囲まれ、その中の門番の一人が手に槍を構え、その男女に向かって森に響くほどの声でその進行を止めにかかる。もし返答がなければ即槍先が相手の喉を貫く。だが、門番の返答に対して答えたのは女だった。

「私はレギナ=スペルビア。王都騎士団9番隊隊長だ、今はこんな形をしているが見たことはないか?」

「....まさか....本当にレギナ隊長?」

 門番の一人が槍を構えながら半信半疑で目の前の人物を見ている。その反応は以前あったことがあるのか、それともどこか風の噂でしていたものなのか全くわからない。だが、知っていたと言う事実だけがそこに存在していた。

「全員武器を下せっ! レギナ=スペルビア隊長だぞ。全員わからないのかっ!」

 一人の門番が壁の上で弓をつがえている兵士達に向けて命令をする。そして降ろされた弓を確認し、また周りを取り囲んでいる兵士達にも武装を解除するようにと命令を下した。

「何時ぞやの戦闘ではお世話になりました」

「あぁ、ご苦労だったな」

 その表情は軍人そのものだ。しかし気がかりになっているのはここの監獄で見張りを行っているものならば全員思うだろう。

 この隊長のそばで捕らえられている男は一体誰なんだと。

「すみません、隊長。この男は一体....」

「この男か? 恐れ多くも森を歩いていた私を強姦しようとした男でな。ここは確か監獄の役割もしていると聞いた。一つこの男をぶち込んではもらえないか?」

「いえ.....それは....」

「なんだったら、一時的にこの監獄に投獄してくれ。私は一時でもこの男といたくないんで....なっ!」

 次の瞬間、男はレギナと名乗る女性に後ろから蹴られ顔面から地面に叩きつけられる。そして、門番の前でうずくまったままその男は動くことはない。

「ま、まぁ。事情はわかりました、1日だけこちらで預かりましょう」

「あぁ、それでいい。事情の説明もあるだろうから私も中に入っていいか?」

「えぇ、それはもちろん。おいっ! 門を開けろっ!」

 門番の一人が合図を送る。すると巨大な木製の扉が両側から開けられ、まずこの監獄の最大の守りでもある二重の塀の内側が見える。そして、もう一つの塀をを開け、建物の入り口があらわになった。

「さぁ、立てっ! この変態っ!」

 地面で未だに転がっている男は門番に引きずられ建物の中へと連れ込まれてゆく。その間、男が身につけている防具、武器等をそれぞれ剥がされ別の兵士に渡され別なところへと持っていかれた。

 そして二つの門をくぐり終えた二人は建物の中へと連れ込まれ、男は牢獄へと続く地下へと、レギナと呼ばれた女は違う階にある取調室へと連れて行くことになったのである。

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「そら、テメェの入るところはここだ。まぁ、他の奴がいるがせいぜい仲良くやってろ」

 牢獄の鍵を開ける音と、囚人たちの騒ぎ立てる音が地下牢獄に響き渡る。中にいる囚人の数はおおよそ5~6人ほどだ。

 自分を捕らえていた兵士が、牢の鍵を開けるとその中に乱暴に放り込まれた。

「明日、リュイの中央刑務所の奴らが来るから。それまでここにいろ」

「....」

 後ろでそう言い放った兵士が牢の鍵を閉め、立ち去る音が聞こえた。

「....フゥ~にしてもレギナさん、言いたい放題すぎるだろ」

 さて、まず中に入ることには成功した。これも彼女の協力がなかったらできなかったことだろう。実際、このまま彼女が本当のことを話し逃げ出したらと思うと冷や汗が止まらないが....

 膝のあたりについた土ボコリを払い立ち上がる。

「それにしてもエルフのやつって、本当にいけ好かない奴らばっかりね。それにレース? といったかしら、あいつ絶対に元精霊術師よ」

「どうでもいいですよ、今は」

 肩に乗って話しかけてきたのはミニマムサイズのウィーネ。彼女の存在は今回の作戦の要になる。

 そしてだ。

「よく来たなぁ? 新人」

「なんだか随分とヒョロイ体してやがるゼェ」

「女みテェな体してやがる」

「おい、さっさと服脱げよ」

「た~っぷり可愛がってやっからさぁ」

 さて、現在この牢には6人いる。

 全員が全員、なんだか性癖暴露しているわけだが。俺が聞きたいのは性癖じゃない。

「すみません、ここの牢獄にエルフの人が囚われていると思うんですけど....わかりますか?」

「あぁ、知ってるぜ。その前にテメェのケツにしっかり叩きこんでやらぁっ!」

 あぁ。会話にならない。

 彼らにはちょっと冷静になってもらおう。

『レディ』
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