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第3章 緑の色
第111話 人非ざる色
しおりを挟む「監獄長っ! 大変ですっ」
「どうしたぁっ? こっちは今大変なのが見えないのかっ!?」
「いえっ、それが....」
投獄されている囚人が一斉に脱獄していますっ!
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「全員武器を手にしてくださいっ! 決して止まらないようにっ!」
「「「オォおおおおっっ!」」」
後方ではそれぞれ、解放してあげた囚人たちが兵士から武器を奪い一斉についてきている。向かうべき場所はただ一つ。
出口だ。
だが、その前に、レギナは一体どこにいるんだ。
あたりを見渡すが、囚人と兵士が激しく鬩ぎ合っており、どこにいるかまるでわからない。もしかしたら監獄の施設の中にいるのか。彼女がいないまま、ここを脱出するわけにはいかない。
奮戦の続く中、彼女の姿を探して人の中をかき分けて行くと、どこかで激しく土煙が舞っている部分が見える。それは明らかに囚人が兵士と戦ってできている土煙ではない。
「....レギナさん」
土煙の立っているところへと向かって駆け出してゆく。
彼女を守るために。
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「つあ....っ」
左肩に走った痛みに思わず動きが止まる。その好機をそいつは逃すことなく、今度は右足に向けて放たれた魔術が炸裂し、血しぶきが宙を舞う。肩を膝をつき、視線は地面へと向いてしまった。
「....っ」
「ハァ....戦場のコンダクターともいうべき人であったが貴方が、まさかこの程度でしたとは、悲しいですよ。私は」
「....だったら....真っ向から剣で勝負を仕掛けてこい魔術師。貴様のその手品は、いささか面倒が過ぎる....」
実際、躱すことができていたのは中盤までだった。空気の気配を感じ取り、そして体を捻らせて攻撃を避けていたが、戦闘を続けた結果による疲弊が積み重なり、集中力が落ちたゆえに攻撃を真っ向から受けてしまうということになった。
目に見えない魔術。あまりにもその攻撃は防ぎようがなく、かつ強力すぎる。目に見えないというだけでも面倒なのに、それを連続で繰り出すことが可能ときたら、もう手が出せない。
「では、我ら『啓示を受けし者の会』とともにきていただけますか?」
「....断る、連れて行きたくばこの首を....落とせ」
そうだ、こんな奴らと行動をともにするのならば、イマイシキ ショウの方がまだいい。
あれ、
なぜ、今ここで彼の名前が....
近づいてくる足音に思わず顔を上げる。
連れてかれる、なぜ私が....
無色だからなのか、それとも、私が女だからか....それとも。
理由を挙げればきりがない。
だが、顔を上げた瞬間。考えていた頭の中身はすべて真っ白に変わった。
「レギナさん、遅くなりました」
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見る限り、その姿はボロボロという表現が近かった。
左肩からは血を流し、地面をついている右足からは深くえぐられたかのような傷ができていた。そして、今目の前で涙目となっている彼女の顔にも数本、細い刃物で切りつけたかのような跡が走っている。
「....遅すぎだ....」
「お詫びはします。でも、今は彼女を頼みます」
左手に抱えていた原書の作者をレギナの方へと引き渡す。傷ついた左肩ではなく、右肩で抱えられた彼女の姿を確認すると、たった今レギナと向き合っていた男と正面に向かい直った。
「....貴方、名前は?」
「二つ答えろ。あんたは『啓示を受けし者の会』か? レギナさんを傷つけたのはあんたか?」
相手の返答を待つ、その間に相手を分析。
腰に下げているのは形状から考えてレイピア、しかし目の前にいるエルフの男は手にレイピアを握っていない。そこから考えていて、この男はレイピアを使ってレギナとは戦っていないということがわかる。そして、レギナの今の状況から考えて、この男が使ってきたのは魔術、しかもかなり特殊なものだ。
そして、しばらくの間の後。
男の口が開いた。
「どちらの質問にも」
答えは『YES』だ。
『今一色流 剣術 鉄砲百合』
返答を聞い終わる前に体は勝手に動いていた。男に向かって駆け出していた。
許せない。
前転、
許せない。
空中にて、抜刀準備
許せない。
遠心力を剣に乗せる。
「許せなイィッ!」
「....フッ」
頭上まで、剣の先が男へと向かう。
自分の守りたかったものに傷をつけた。
殺してやる。
だが、その剣が迫る寸前。男は不敵な笑みを浮かべていた。
「....っ」
次の瞬間、自分を中心に空気が激しく動き回る。思わず攻撃を中断し、回避行動をとるが、パルウスさんの防具で覆われていない部分がズタズタに引き裂かれてゆく。
「ガァ....っ」
「フン....無様な....」
地面に落ちた瞬間、とっさに回避行動をとり、一定の距離感を保つ。そして、男の気味の悪い笑みに対して睨みつけながら、先ほど起こった現象について分析を行う。
詠唱はしていなかった。そして、発動した魔術が見えなかった。
つまり、これは視えない魔術。なるほど、レギナが苦戦していたのはそういうことだったのか。
「一つ聞かせてください。貴方は彼女の一体何なのでしょうか? 犯罪者のイマイシキ ショウさん」
「名前知ってんのかよ....別に、恋人ではないというのは確かですよ」
顔を上げ返答する。そこには先ほどまでの余裕の笑みではなく、相手を分析するかのような、まさに今の自分がしているような顔でこちらを見ている。
「なるほど、では貴方はどうして彼女のそばに居続けるのですか?」
「....今関係あるか?」
さて、確かにこいつの言う通り、はたから見て誘拐犯とその被害者の関係である俺とレギナはこんな危険を冒してまでそばにいるような理由はない。だが、まだレギナにも話していない内容。あのアランの依頼だということを言うのにはいかないのだ。ましてや、『啓示を受けし者の会』には。
「まぁ、いいです。とにかく貴方は邪魔なんで死んでください」
次の瞬間、先ほどと同様の激しい空気の流れが体全体に襲いかかる。すかさず両手をクロスさせ攻撃をしのいでいるが反撃を行うことが全くできない。このままいけば押され続けて後ろにいる彼女たちは確実に敵の手に落ちるだろう。
そんなこと、許せるはずがない。
守る、俺は、守るためならば、
自分を捨てられる。
「行くぞ、サリー」
そう言った瞬間、体に襲いかかっていた風は一気に消し去り、その代わりにまるで炎に包まれているかのような、熱気を周囲から感じる。
『ヨォ、なんだ。俺の力は使わないんじゃなかったのか?』
頭の中に直接流れ込んでくる声、それは紛れもなくサリーの声だ。
力を使わない。その問いに対してはこう返す。
「使えるならなんだって使う。自分が生きる為、守りたいものを守る為。やっとわかったよ、俺は、自分の中にあるお前を認める」
だから、さっさと手を貸せ。サラマンダー。
『ほぉ....なかなかいい面構えになったじゃねぇか。いいぜ、さっさと剣に手をかけろ』
パレットソードに手を掛け、持ち手を左に回転させる。
そう、自分は怖かったんだ。
自分が自分で無くなる瞬間が。
怒りに飲まれて、精霊に飲まれて、感情に呑まれて。
怪物になってゆく自分が。
でも、わかった。
僕は、誰かを守れるならば怪物になっても構わない。
『染まれ、怒りのままに』
パレットソードを一気に引き抜く。その瞬間、視界が真っ赤に染まり膨大な熱量が発生しているのが防具を通して伝わっている。そして、炎に包まれた右腕、一振り、薙ぎはらうとそこには、白い刀身をもった日本刀へと姿を変える。
「....精霊術ですか....面白いものを使いますね」
「一気にカタをつけるぞ。貴様らに彼女は渡さない」
開戦。
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