After story/under the snow

黒羽 雪音来

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幕間ならぬ、舞台の暗転

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 黒い靄と比喩するそれの考察は正しい。
 だが、それを阻止する方法の考察は既に過去の過ちとなった。 

 無駄な潜伏期間の間に、マナの量と感情の揺らぎという条件は変わった。
 支配権を得た乃公の意のままとなった。
 
 力を行使する度に、あの大馬鹿者の支配力は弱まり、乃公の支配が強固になった。
 それだけの結果。しかし、あの大馬鹿者の愚かさを物語っているかのようにも感じた。


 断言しよう。
 期待などしていなかった。
 
 ただ、大馬鹿者に灸を据えるには丁度良い道具。
 13年も時間を使うなど無駄でしかない。乃公の依り代の尻を叩くには丁度良い道具。
 それらの理由から声をかけた。ただそれだけのこと。

 初めから力を与える気でいた。
 あのやり取りは余興。しかし、力を与える道具がどんなものかと興味はあった。
 
 明るさ求めて火に飛び込む蛾の如く。何かを為せる力があれば、何も考えずに手にするのが人間と呼ばれる生物。

 対話してあの大馬鹿者を思い出す。あまりに似ていた。
 
 嫌悪したのは、出来ぬことに啖呵を切る姿に。
 失望したのは、結果だけしか見ぬ口先だけに。
 落胆したのは、矮小たる存在そのものに。
 あの大馬鹿者のように愚かでありながら、似つかわぬ脆弱さ。

 どうしてこの世に誕生した。そう質問を投げたくなるほど、この世にいることすら無意味な愚か者。息をしてまで生き続ける理由などない過去を持つ存在。
 それが道具に対する、乃公の印象だ。

 行動に出ようと思えば、力を渡したときに行動に移れた。
 長い長い付き合いだ。乃公の依り代もそれに気付いていた。乃公が動けば、すぐにでも行動できるように注意を払っていた。
 体の良い理由を告げて道具自身に決まった形での使い方を仕込んでいた。少しでも違和感があれば、その道具の心を読んで対処できるようにするためだ。

 遠回りではあるが、あの大馬鹿者にきつい灸を据える目的のためだ。やむなし。
 即座に行動したかった。だが、準備もなく早急に行えば、あの大馬鹿者に乃公の存在を感知されてしまう。それだけは避けなくてはならない。

 何か起きれば、乃公の依り代が立ち回り、最後の局面まで守護するだろう。
 そうでなくては、両者の物語の始点にすらならない。 


 その始点に立てば、2つの物語がせめぎ合いだす。

 あの大馬鹿が描くは、依り代に自らを下ろさせる新生の物語。
 魔力変換機関を中心に、聖剣を生み出すよう調整された依り代へ降臨。己の力を分け与えた者達を引き連れ、大陸中の魔神と魔族を排除し人間の世界を確立させる。人間達に安泰と祝福を与え、人間達から崇め奉られる存在となること。

 乃公の依り代が描くは、魔神の役割を担いつつも致命的な欠損を塗り替える変化の物語。
 初めから妨害する気など微塵もないのだ。
 ある目的のための、必ずあの大馬鹿者を降臨させる。 
 重要なのはその時と場所。
 それらが整えば、あの大馬鹿者に気付かせずに降臨させ、下らん私用の目的を果たし、周期を狙って依り代として乃公に体を1度明け渡し、あの大馬鹿者にぶつけて追い返すのが狙い。
 その際に大馬鹿者が用意した依り代は破損するであろうが、おそらく脱却させる手をすでに打ってある。そのあたり抜け目のなさが乃公の依り代の長所。
 如何なる場面においても最善となる手を打つ。そうなるように設計した。
 後処理でも、その設計は発揮する。
 北の大陸における儀式を1度破棄。己の記憶を型枠に再生させた北の魔神を、守護神か何かの偉大なる存在に当てはめ、北の大陸そのものの安定を計る。他の勇者達を招き、儀式を裏で遂行させつつ、邪剣の1件のように代わりとなる聖剣に似て非なる剣を拵えるか、旧式の儀式で間を持たせ、北の大陸のみ成立する別の儀式方法を提供する。そのあたりだろう。
 
  
 実に下らん。
 あの大馬鹿者も、乃公の依り代も、描く物語は共に下らん。


 求められるのは均衡。世界並びに大陸の維持のみ。
 重要なそれが抜けている新生は要らぬ。
 重要なそれが遅れる変化など要らぬ。
 それが即座に遂行されるなら、幸福の結末、不幸の結末、どちらでも構わん。
 
 南の大陸の時のように1度白紙化。即座にあるべき状態に戻すのが最善策。
 乃公の依り代を用いて自らそれを行えば、それこそ乃公の依り代の思う壺。白紙化もままならぬ。
 過去に1度、乃公の依り代に手酷く手を噛まれている。今回も噛んでくるのは明白。
 乃公の干渉を弱めるためだけに、自身の在り方を強引に歪ませたほどだ。秩序のためならば乃公の命令に従うが、それは結果だけでやり方を勝手に変える。鈍間と低評価を付けたい程にだ。
 

 とりあえず。乃公の計画を早急に進めるには、あの大馬鹿者に来てもらうしかない。
 事前に手をつけていた分身体を使って、乃公の依り代から遠ざけることにした。

 さて。どのような一手を打てば最速かつ最善へと導けるか。
 様々な考察を重ねる中で、それに気付いた。

 落胆、失望、嫌悪を向けた道具の思わぬ成長。
 制限をかけた微弱な力とはいえ、潜伏期間という無駄な時間の中で、乃公の力を使いこなすとは予想外だった。

 理由など些事でしかない。
 この結果を使わぬ手はない。それだけが重要なことだ。 

 乃公の一手が決定した。
 故に、その時が来るまで乃公が黒い靄を抑えることにした。 
 

 同じ神の身から別れし半身。旧友たる大馬鹿者よ。
 貴様の依り代。乃公が使役させてもらうぞ。
 
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