51 / 86
幕間ならぬ、舞台の暗転
しおりを挟む
黒い靄と比喩するそれの考察は正しい。
だが、それを阻止する方法の考察は既に過去の過ちとなった。
無駄な潜伏期間の間に、マナの量と感情の揺らぎという条件は変わった。
支配権を得た乃公の意のままとなった。
力を行使する度に、あの大馬鹿者の支配力は弱まり、乃公の支配が強固になった。
それだけの結果。しかし、あの大馬鹿者の愚かさを物語っているかのようにも感じた。
断言しよう。
期待などしていなかった。
ただ、大馬鹿者に灸を据えるには丁度良い道具。
13年も時間を使うなど無駄でしかない。乃公の依り代の尻を叩くには丁度良い道具。
それらの理由から声をかけた。ただそれだけのこと。
初めから力を与える気でいた。
あのやり取りは余興。しかし、力を与える道具がどんなものかと興味はあった。
明るさ求めて火に飛び込む蛾の如く。何かを為せる力があれば、何も考えずに手にするのが人間と呼ばれる生物。
対話してあの大馬鹿者を思い出す。あまりに似ていた。
嫌悪したのは、出来ぬことに啖呵を切る姿に。
失望したのは、結果だけしか見ぬ口先だけに。
落胆したのは、矮小たる存在そのものに。
あの大馬鹿者のように愚かでありながら、似つかわぬ脆弱さ。
どうしてこの世に誕生した。そう質問を投げたくなるほど、この世にいることすら無意味な愚か者。息をしてまで生き続ける理由などない過去を持つ存在。
それが道具に対する、乃公の印象だ。
行動に出ようと思えば、力を渡したときに行動に移れた。
長い長い付き合いだ。乃公の依り代もそれに気付いていた。乃公が動けば、すぐにでも行動できるように注意を払っていた。
体の良い理由を告げて道具自身に決まった形での使い方を仕込んでいた。少しでも違和感があれば、その道具の心を読んで対処できるようにするためだ。
遠回りではあるが、あの大馬鹿者にきつい灸を据える目的のためだ。やむなし。
即座に行動したかった。だが、準備もなく早急に行えば、あの大馬鹿者に乃公の存在を感知されてしまう。それだけは避けなくてはならない。
何か起きれば、乃公の依り代が立ち回り、最後の局面まで守護するだろう。
そうでなくては、両者の物語の始点にすらならない。
その始点に立てば、2つの物語がせめぎ合いだす。
あの大馬鹿が描くは、依り代に自らを下ろさせる新生の物語。
魔力変換機関を中心に、聖剣を生み出すよう調整された依り代へ降臨。己の力を分け与えた者達を引き連れ、大陸中の魔神と魔族を排除し人間の世界を確立させる。人間達に安泰と祝福を与え、人間達から崇め奉られる存在となること。
乃公の依り代が描くは、魔神の役割を担いつつも致命的な欠損を塗り替える変化の物語。
初めから妨害する気など微塵もないのだ。
ある目的のための、必ずあの大馬鹿者を降臨させる。
重要なのはその時と場所。
それらが整えば、あの大馬鹿者に気付かせずに降臨させ、下らん私用の目的を果たし、周期を狙って依り代として乃公に体を1度明け渡し、あの大馬鹿者にぶつけて追い返すのが狙い。
その際に大馬鹿者が用意した依り代は破損するであろうが、おそらく脱却させる手をすでに打ってある。そのあたり抜け目のなさが乃公の依り代の長所。
如何なる場面においても最善となる手を打つ。そうなるように設計した。
後処理でも、その設計は発揮する。
北の大陸における儀式を1度破棄。己の記憶を型枠に再生させた北の魔神を、守護神か何かの偉大なる存在に当てはめ、北の大陸そのものの安定を計る。他の勇者達を招き、儀式を裏で遂行させつつ、邪剣の1件のように代わりとなる聖剣に似て非なる剣を拵えるか、旧式の儀式で間を持たせ、北の大陸のみ成立する別の儀式方法を提供する。そのあたりだろう。
実に下らん。
あの大馬鹿者も、乃公の依り代も、描く物語は共に下らん。
求められるのは均衡。世界並びに大陸の維持のみ。
重要なそれが抜けている新生は要らぬ。
重要なそれが遅れる変化など要らぬ。
それが即座に遂行されるなら、幸福の結末、不幸の結末、どちらでも構わん。
南の大陸の時のように1度白紙化。即座にあるべき状態に戻すのが最善策。
乃公の依り代を用いて自らそれを行えば、それこそ乃公の依り代の思う壺。白紙化もままならぬ。
過去に1度、乃公の依り代に手酷く手を噛まれている。今回も噛んでくるのは明白。
乃公の干渉を弱めるためだけに、自身の在り方を強引に歪ませたほどだ。秩序のためならば乃公の命令に従うが、それは結果だけでやり方を勝手に変える。鈍間と低評価を付けたい程にだ。
とりあえず。乃公の計画を早急に進めるには、あの大馬鹿者に来てもらうしかない。
事前に手をつけていた分身体を使って、乃公の依り代から遠ざけることにした。
さて。どのような一手を打てば最速かつ最善へと導けるか。
様々な考察を重ねる中で、それに気付いた。
落胆、失望、嫌悪を向けた道具の思わぬ成長。
制限をかけた微弱な力とはいえ、潜伏期間という無駄な時間の中で、乃公の力を使いこなすとは予想外だった。
理由など些事でしかない。
この結果を使わぬ手はない。それだけが重要なことだ。
乃公の一手が決定した。
故に、その時が来るまで乃公が黒い靄を抑えることにした。
同じ神の身から別れし半身。旧友たる大馬鹿者よ。
貴様の依り代。乃公が使役させてもらうぞ。
だが、それを阻止する方法の考察は既に過去の過ちとなった。
無駄な潜伏期間の間に、マナの量と感情の揺らぎという条件は変わった。
支配権を得た乃公の意のままとなった。
力を行使する度に、あの大馬鹿者の支配力は弱まり、乃公の支配が強固になった。
それだけの結果。しかし、あの大馬鹿者の愚かさを物語っているかのようにも感じた。
断言しよう。
期待などしていなかった。
ただ、大馬鹿者に灸を据えるには丁度良い道具。
13年も時間を使うなど無駄でしかない。乃公の依り代の尻を叩くには丁度良い道具。
それらの理由から声をかけた。ただそれだけのこと。
初めから力を与える気でいた。
あのやり取りは余興。しかし、力を与える道具がどんなものかと興味はあった。
明るさ求めて火に飛び込む蛾の如く。何かを為せる力があれば、何も考えずに手にするのが人間と呼ばれる生物。
対話してあの大馬鹿者を思い出す。あまりに似ていた。
嫌悪したのは、出来ぬことに啖呵を切る姿に。
失望したのは、結果だけしか見ぬ口先だけに。
落胆したのは、矮小たる存在そのものに。
あの大馬鹿者のように愚かでありながら、似つかわぬ脆弱さ。
どうしてこの世に誕生した。そう質問を投げたくなるほど、この世にいることすら無意味な愚か者。息をしてまで生き続ける理由などない過去を持つ存在。
それが道具に対する、乃公の印象だ。
行動に出ようと思えば、力を渡したときに行動に移れた。
長い長い付き合いだ。乃公の依り代もそれに気付いていた。乃公が動けば、すぐにでも行動できるように注意を払っていた。
体の良い理由を告げて道具自身に決まった形での使い方を仕込んでいた。少しでも違和感があれば、その道具の心を読んで対処できるようにするためだ。
遠回りではあるが、あの大馬鹿者にきつい灸を据える目的のためだ。やむなし。
即座に行動したかった。だが、準備もなく早急に行えば、あの大馬鹿者に乃公の存在を感知されてしまう。それだけは避けなくてはならない。
何か起きれば、乃公の依り代が立ち回り、最後の局面まで守護するだろう。
そうでなくては、両者の物語の始点にすらならない。
その始点に立てば、2つの物語がせめぎ合いだす。
あの大馬鹿が描くは、依り代に自らを下ろさせる新生の物語。
魔力変換機関を中心に、聖剣を生み出すよう調整された依り代へ降臨。己の力を分け与えた者達を引き連れ、大陸中の魔神と魔族を排除し人間の世界を確立させる。人間達に安泰と祝福を与え、人間達から崇め奉られる存在となること。
乃公の依り代が描くは、魔神の役割を担いつつも致命的な欠損を塗り替える変化の物語。
初めから妨害する気など微塵もないのだ。
ある目的のための、必ずあの大馬鹿者を降臨させる。
重要なのはその時と場所。
それらが整えば、あの大馬鹿者に気付かせずに降臨させ、下らん私用の目的を果たし、周期を狙って依り代として乃公に体を1度明け渡し、あの大馬鹿者にぶつけて追い返すのが狙い。
その際に大馬鹿者が用意した依り代は破損するであろうが、おそらく脱却させる手をすでに打ってある。そのあたり抜け目のなさが乃公の依り代の長所。
如何なる場面においても最善となる手を打つ。そうなるように設計した。
後処理でも、その設計は発揮する。
北の大陸における儀式を1度破棄。己の記憶を型枠に再生させた北の魔神を、守護神か何かの偉大なる存在に当てはめ、北の大陸そのものの安定を計る。他の勇者達を招き、儀式を裏で遂行させつつ、邪剣の1件のように代わりとなる聖剣に似て非なる剣を拵えるか、旧式の儀式で間を持たせ、北の大陸のみ成立する別の儀式方法を提供する。そのあたりだろう。
実に下らん。
あの大馬鹿者も、乃公の依り代も、描く物語は共に下らん。
求められるのは均衡。世界並びに大陸の維持のみ。
重要なそれが抜けている新生は要らぬ。
重要なそれが遅れる変化など要らぬ。
それが即座に遂行されるなら、幸福の結末、不幸の結末、どちらでも構わん。
南の大陸の時のように1度白紙化。即座にあるべき状態に戻すのが最善策。
乃公の依り代を用いて自らそれを行えば、それこそ乃公の依り代の思う壺。白紙化もままならぬ。
過去に1度、乃公の依り代に手酷く手を噛まれている。今回も噛んでくるのは明白。
乃公の干渉を弱めるためだけに、自身の在り方を強引に歪ませたほどだ。秩序のためならば乃公の命令に従うが、それは結果だけでやり方を勝手に変える。鈍間と低評価を付けたい程にだ。
とりあえず。乃公の計画を早急に進めるには、あの大馬鹿者に来てもらうしかない。
事前に手をつけていた分身体を使って、乃公の依り代から遠ざけることにした。
さて。どのような一手を打てば最速かつ最善へと導けるか。
様々な考察を重ねる中で、それに気付いた。
落胆、失望、嫌悪を向けた道具の思わぬ成長。
制限をかけた微弱な力とはいえ、潜伏期間という無駄な時間の中で、乃公の力を使いこなすとは予想外だった。
理由など些事でしかない。
この結果を使わぬ手はない。それだけが重要なことだ。
乃公の一手が決定した。
故に、その時が来るまで乃公が黒い靄を抑えることにした。
同じ神の身から別れし半身。旧友たる大馬鹿者よ。
貴様の依り代。乃公が使役させてもらうぞ。
0
あなたにおすすめの小説
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。
うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。
まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。
真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる!
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる