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15.6-6 魔法使い。レモーナ家当主
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禍々しい魔力を纏った剣を振るい、ゴーレムの心臓とも言える核を破壊して土へと戻していく。
助けにいけと送り出された。
勇者を助けてと願われた。
まだ城に着いていなく、南の勇者の冤罪を晴らしていない。
南の聖女と勇者を護りながら戦う。そんな勇者らしいことを一切したことない自分には荷が重すぎた。
約束を放棄する後ろめたさがあった。
注意を自分に向かせて時間を稼ぐ。そんな悠長に戦える相手でもない。この復讐を始めれば、集中しなくてはならない。
胸がざわめくほどの不安はある。だが、この絶好の機会を逃すわけにはいかないのだ。
罠だらけの屋敷。結界に阻まれた領地。そこから引きずり出すにはもう少し時間がかかると最後に回していた復讐相手が目の前にいる。
壊れた結界の下を潜る。結界の外にゴーレムはいるが、術者の背後に控えている様子でこちらに襲いかかる様子はない。
速攻で復讐を果たしたい。そんな甘い夢を抱く。
状況は違うが、それでも早期決着を考えた戦い方は用意してある。
それ通りに叶ってもマナの消耗を考えれば、後から追いかけて城まで共に行くのは厳しいだろう。
否。すぐに決着はつかない。
これは叶わない夢。愚かな自己都合でしかない。
同行できるのはここまでと察したからこそ、託された2通の書状を聖女に渡した。
自分は復讐を優先することを選んだ。
約束を果たせなくて申し訳ない。
この場にいない人物に向けて、心の中で謝った。
足を止める。1番会いたくなかった人物に対峙する。
「・・・・・・聞いたときは耳を疑ったが───」
昔は同行者の魔法使い。今では王都の両翼の護り手の1人。
「───本当に生き延びていたとはな・・・・・・」
壊れた結界の向こうで、自分が来るのを待っていたかのように、フードを深く被ったレモーナ家当主が嘲笑っていた。
剣を構えたまま、レモーナ家当主の出方を窺う。
レモーナ家当主は、確実に自身の周辺に罠の魔法を設置している。
罠の魔法を消費させるまで、一定の離れた距離を保ちながら攻撃を仕掛けていくしかない。
背後で、聖女が結界を張った。
ここら一帯を巻き込む戦いになると察したのだろう。
「処刑で失った部位は・・・・・・完全に治っているようだな」
確信を持った言い方に、どこから情報を得たのかと疑問を抱く。
それを質問しても、答えは返ってこないのを知っている。
「北の魔神のような怪物にでもなったつもりであるのなら、それは無理というものだ。この大陸の人間として生まれた以上、その役目を担い生き続け、己の真っ当な人生と功績を誇りに抱いて人間として終わりを迎える。それすらできぬ無能なら、恥を重ねるより潔く自害すべきだ。それが人間という誇り高き存在だ。──勇者とは思えない罪を犯し、処刑されてもなお、恥を晒してまで生きたいのか?」
人間とは、と哲学的な言葉をかけられても困る。
自分はその答えを持っていない。
ただひとつ言えるのは、復讐を完成させずに死ぬ方が、自分にとっては恥だ。
言えるが口にしない。自分は否定される側の人間だった。
そうだとわかっていて、自分から復讐を穢す愚かなことはしない。
レモーナ家当主は杖を掲げる。その杖の頭に着いている、魔法陣を刻んだ石が光る。
地面は盛り上がり、魔法で強化された土人形の隊列が体を起こす。
魔法使いは、己の魔力の波長に合う属性の魔法を好んで使う。威力が上がるうえに、魔法の制御がしやすく、魔力の消費が少なくすむ。
レモーナ家は土属性の相性の良さも遺伝のように継がれている。ゴーレムもその1つ。
このゴーレムも代々引き継がれている魔法。そう北の聖女に語っていたのを耳にした。
自分の目の前にいる魔法使いは土の魔法だけでなく、大賢者に弟子入りをし、短期間で様々な魔法を習得。後衛職である魔法使いでありながら、前衛に立ち敵を全滅させるほどの実力を持っている。
素質はあったのかもしれない。だが、そのほとんどは絶え間ない努力で得たもの。
他者の功績を己のものにするために、狡猾で卑怯な手を使うアルバースト家当主とは真逆。
南の魔神が自分を天才剣士と呼ぶなら、最強の天才魔法使いはレモーナ家当主になるだろう。
だからこそ、妙な違和感があった。
造形的に教会で排除役に置かれていたゴーレムより繊細。それだけだ。
魔力量と機能面ではかなり怠っている。
勇者の時は、戦闘においてこのゴーレムより勝る同一の存在はいないと思っていた。
今は違う。ただ土を固めただけの中身のない人形だ。
自分が強くなった。眷族になった。それで見方感じ方が変わった。
そんな理由で片付けていいものではない。
レモーナ家当主の上昇していく魔力量に、ゴーレムの隊列は釣り合っていない。
ゴーレムの方が足を引っ張っている。そんな印象があった。
「行け」
魔法使いの指示に、ゴーレム達が駆け出す。
剣を横に振るい、纏っていた魔力で飛ぶ斬撃を打ち出す。
湾曲を描いて飛ぶそれが直撃して、あっけなく吹き飛び粉々になるゴーレム達。
潜伏中に編み出した攻撃方法。
昔にレモーナ家当主が退治した、盗賊団の纏め役が使っていた打ち出す風の拳を自分なりに改良した。影とは違い1回で成功した。その喜びは、別の思考によって打ち消された。
何かがおかしい。
鋏で紙を切るよりも手応えがない。そちらの方が気になった。
理由はわからないが、嫌な予感がした。
魔族に寝返ったと気づかれても、すぐにレモーナ家を無力化すべき。頭の中に鳴り響く警鐘に混じって、そんな指令が降りた。
自分の影に魔力を注ぎ、実体ある形に変える。鏃付きの鎖として幾十も伸ばし、剥き出しの土とゴーレムを破壊する。
破壊と同時に、ゴーレムの影に飛び込ませ、鎖を介して支配下に置くための干渉を行う。
今までの方法は時間がかかった。それを解消させる手段として、自身の影で直接干渉する方法に変えた。
支配下に置いたゴーレムの影を使い、さらに影の鎖を増やす。
地面を抉るように、ゴーレムを攻撃していく。
その中で数本の影を操り、レモーナ家当主へ向かわせる。
飛ぶ斬撃と鎖の干渉から免れた1体のゴーレムの拳を躱し、踏み台にして空へ向かうように高く跳ぶ。
影の鎖に対して、仕掛けられていた罠の魔法が発動する。
拘束なら良かった。だが、そのほとんどが殺傷率の高い罠ばかりだ。
その罠に、影で作られた鎖は悉く壊されていく。その中には防御に特化した罠の魔法もあった。
それを発動させるのがこちらの目的だ。
上空という邪魔が入らない場所から、この一撃で仕留める。
自分の体が地上へ帰還する前に、再び魔力を纏わせ、跳ぶ斬撃を放った。
距離があった。それだけではない。
音を立てて動く影の鎖で、砕かれていくゴーレムで、発動していく罠の魔法で、レモーナ家当主が詠唱しているのに気付くのが遅れた。
ゴーレムと同様に、杖に魔法を記録させておけばいい。記録させることのできる数に上限はない。
詠唱や魔法陣をひとつずつ行うという手間が省ける。即座に魔法を打ち出せる。
その利点を無視して詠唱を選んだ。
何かを行う。自分の中で警戒心が強まる。
「──風の魔法よ!!」
杖を自分に向けて、魔力の込められた言葉を解き放った。
その風の魔法に、眼を見張った。
風を竜巻のように吹かすだけでなく、意志を持っているかのように地を這うようにゴーレムを巻き込む。影の鎖を呑み込んからこちらに向かってくる。
竜巻の中に風の刃が無数に発生して、呑み込んだものを粉々にしていく。
ナーマの魔力では生み出すことのできない出力。追加の魔法を使った様子はない。詠唱という言葉と杖で押し込めるように安定させて操っている。
まるで、自身が想像した風を魔力で作り出したかのように。
自分は、この現象を起こせる力を知っていた。
知らなければ、自分はこの一撃を放って死ぬところだった。
仕留めるために放った魔力の刃による飛ぶ斬撃と、杖から放たれた竜巻が正面からぶつかった。
案の定。魔力の刃は竜巻に絡め取られた。こちらに襲いかかってきた。
影の鎖を伸ばして、それを掴む。
竜巻の進行方向上から強引に外れ、近くの屋根に着地する。
魔神の話通りなら、即座に次の手を打たないと自分が殺される。
すぐに影の鎖を作り出し、がら空きのレモーナ家当主に、量という暴力で襲いかからせた。
レモーナ家当主は、杖の先端を自分に向けようとして、地面の方に変えた。
竜巻が急回転し、大地を舐めるように吹き降りた。
風という重たい質量で押し潰しながら、影の鎖だけでなく、ゴーレムすら切り刻みつつ粉砕した。
その攻撃をもって、魔力で作られた風は吹き止んだ。
地上から攻撃していたら、自分がああなっていた。
バラバラになる自分の体が脳に浮かび、背中に悪寒が走った。
そして、ひとつの確信を得た。
──打ち破るが勝利の条件になって、必ず後手に回らないといけなくなる。
そう自分に言った南の魔神は、始めからこれを知っていたのだろう。
否。知っていた。魔神の立てた王都の復讐計画で、レモーナ家当主の名前が最初にくるはずがない。
魔神が言っていた、過去に眷族にした人間の特徴。
マナを吸収して魔力に変換することができ、毒に対する耐性を持つ特異体質の持ち主。
レモーナ家当主はその分類の人間だ。
詠唱は、マナの魔力のみを使うための魔力変換機関の開閉機的な役割と、使用する魔法の方向性を決めるためだ。それだけで制御できないとわかっていたから杖の二刀流という形をとった。
ゴーレムの違和感の正体もわかった。
ナーマで作り出した魔力を使っていたのだ。ゴーレムは詠唱無しで発動させたのを考えれば、それが1番しっくりくる。
一緒くたにして使わない時点でなにかしらの決まりを設けているのか。あるいは、設けざるおえない事情があるのかもしれない。
特異体質のレモーナ家当主なら大丈夫だが、他の人間がマナに触れれば死に至る。
だから単身で来た。部下や味方を連れてきて、有害なマナあるいはマナを使った魔力による魔法で死なせるわけにはいかない。そんな配慮だ。
そして、この魔力を用いて自分を殺すためにやってきた。
だが、マナが発生した形跡はない。あれば自分も吸収できるはずだ。
マナを閉じ込め、レモーナ家当主に直接渡るような魔法具でも持っているのだろう。
そうでなければ、こんなマナのない場所で、あれほどの威力を振るえるはずがない。
マナ不足に悩み、苦戦を強いられている自分とは真逆。
魔神の言うとおり、本当に相性最悪の復讐相手だ。
距離をとるため、聖女達がいる場所から遠ざけるため、着地した屋根からすぐに跳躍して、離れた場所にある別の屋根へと降り立つ。
ここからでも、補足はできる。
この最悪な事実を打倒する、立ち直す方法を考えなくてはいけない。
そう考える自分を、止めにくる。
この大陸の恥晒しである自分を、殺しに来る。
冤罪だと知っている南の勇者より、優先的に罪人である自分に攻撃しに来る。
人々の生活を平気に脅かす人間を許さない。それがレモーナ家当主だ。
宙を漂うような浮遊の魔法はある。
けれど、鳥のように空を飛ぶ飛行魔法は存在しない。
否。他の大陸にはあるかもしれない。少なくとも、この大陸では見たことがなく、聞いたこともない。
レモーナ家当主の移動手段はふたつに限られる。
ゴーレムたちに運ばせるか。自ら走ってくるか。
その考えでいた。
風の魔法を自ら纏い、風そのもののように高速で飛んでくるまでは。
まだ逆転の一手は思いついていない。だが、ここで驚いているだけでは格好の的になるだけだ。
風の魔法が使えるなら、と自身の影を四方に持ち上げて壁を作る。さらに魔力で強固にする。
影の壁の向こうから、全力で殴りつける音が響く。
「──氷の魔法よ!!」
壁のすぐ向こうから、魔力の込められた言葉が解き放たれる。
四方に展開した影の壁から氷が迫ってくる。それは内側にも侵入して足下にも近づいてくる。
ピエロの蒼い炎の攻撃が、脳裏に過ぎった。
捕まったらいっかんの終わりだと、頭の中の警鐘が鳴り響く。
剣に魔力を纏わせ、魔法で作られた氷ごと足場を切り捨て、自分の体は建物の中に落ちる。
影の壁は消えたらしく、開けた穴から月の光が降り注ぐ。建物の中の影に潜って、影から影へと移り渡って壊された扉から外に出る。
レモーナ家当主は魔法で浮遊していた。辺りを見ている様子から、自分を捜しているのがわかった。
地上に落ちているレモーナ家当主の影に、1番近い別の影から飛び出して直接触れる。魔力を流して干渉する。
この技は、自身の影を介して操ることは難しい。
干渉しきるより、気付かれる方が早いのはわかっていた。
自身の影を再び鎖状に具現化し、時間稼ぎとして向かわせた。
自分に攻撃を向ければ、影の鎖を身代わりにした。
レモーナ家当主が移動しようとすれば、影の鎖で意地でも動かさないように妨害させた。
ナーマの魔力では一撃すら持ちこたえられない。
マナの方の魔力を出し惜しみせず、影の鎖を補充していく。
そこまでしてようやく、干渉が完了した。
影の鎖で妨害したまま、操った影にぱっかりを口を開けさせるように穴を作り、影の持ち主に戻るように高速で向かわせる。
気付いたレモーナ家当主が杖を向け、影より大きな氷塊を打ち出す。
影はその氷塊を、そしてレモーナ家当主を呑み込んだ。
あの時は制御を失敗して山ひとつ消滅させた技。
自分が扱える最も殺傷能力が高い技だ。
「──風と火炎の魔法よ!!」
影から響く声に、自分は驚いてびくりと体を震わす。
ふたつの属性の魔法を同時に使うなんて聞いたことがない。
呑み込んだ影は膨張して破裂した。
踏みつけ倒そうとする暴風に耐えながら、自分めがけて降り注ぐ火の玉を、禍々しい魔力を纏わせた剣で薙ぎ払う。
風と火の玉の猛攻に耐えきってから見上げれば、1人の老人がいた。
服装はレモーナ家当主と全く同じ。露わになった顔は、自分の知っているその男の面影があった。
老人がゆっくりと降下し、大地に足を着ける。炎を伴った竜巻などなかったかのように、ふたつの力は静かに消えた。
否。解除したと言うべきだろう。
老人はゆるりと両手を持ち上げ、拍手をする。
「・・・・・・なんの真似だ?」
自分は禍々しい魔力を纏わせ剣を構えなおし、警戒する。
「決まっていよう。ただの称賛と説得だ」
老人──否。レモーナ家当主は無表情でそう告げた。
「無能と嘲っていた者が、人生の全てを魔法に費やしてきた私を全力にさせた。人ならざるその力を我が物にするまでの努力を、認めぬ愚か者ではない」
声は全く変わっていない。拍手を止めた。
容姿と声が合っていないせいだろう。とても不気味に思えた。
「どうやって生き延びたかと不思議に思っていたが──まさか魔族の力を得るとは・・・・・・この大陸でその手段を見つけ、自らの力としようと奮闘し、こんなにマナが少ない中でよく頑張った」
本当に称賛だった。
まさか、復讐相手からそんな言葉を貰うとは思ってもいなかった。
「私は一族の中で異端と言われた。当たり前だ。人間を死に追いやる力を吸収して魔力にして使うことができる。それの魔力は他の者達とは比較にならないほど強力なのだ。一族はそれを許さなかった。人間の敵だ。恥曝しと罵られもした。それでも、私はこの大陸の人間の義務を果たそうとひらすら模索した。この大陸で最も魔法の知見に富んだウォール大賢者に自ら弟子入りを懇願し、さらなる魔法の高見を目指した。──そしてようやく、この力があっても人の上に立つ者としてこの地位と実力を得た。代償はあれど、それでも私は良かったと思っている」
突然の自分語り。魔法を使うための時間稼ぎの様子は見られない。
このタイミングで話すのはなぜだと思いながら、耳を傾ける。
「私がこの大陸の人間だからだ。大陸のためにこの身を捧げ、大陸のために魔法を使役する。私の存在はこの大陸の繁栄を未来へ繋げるためにいるのだ」
言いたいことがわかった。
これは、説得のための材料だ。
「・・・・・・ゼルシュの陋劣の言葉が正しければ、貴様の目的は復讐であろう。だが、貴様も北の大陸の者であるならその身を捧げるのが道理ではないか? 復讐などという無価値に精を出さずに己の役割を果たすべきだ」
レモーナ家当主の後ろに、ピエロの姿が見えた。
無論、ここにいるわけがない。ただの幻だ。
「今の貴様はあの無能の勇者ではない。その力を使いこなし、私の力の正体を知って対策を講じるほどの知識を持ち、人として他者を守ることを優先して動けている。別の人間としてやり直せるよう私が取り計らおう。この大陸のためにその人生を捧げるべきだ」
勇者として、北の大陸の人間として、この身を捧げてた人生は、他人にとってくっそ惨めで、自業自得だと罵倒された。
お前に復讐に向いていない。復讐を望む権利がない。そうピエロに言われた。
復讐を捨ててこの大陸のために人生を捧げるべきだと、レモーナ家当主に諭された。今の自分は無知で無能じゃないから、勇者の自分を殺したこの大陸に身を捧げろと。
誰も彼もが、自分の生き方を否定する。
仕方ないとわかっていた。
顔の知らない母親に捨てられ、生きていると思っていなかった堕胎されたと思っていたと国王に笑顔で告げられ、城の人たちからは疎ましい視線を向けられるほど、産まれていたことを望まれていなかった。
勇者として都合よく利用されては理不尽な目にあい、最後は裏切り者で大犯罪者で愚か者として烙印を押された。
実際、自分は罪人だ。生きているだけで、歩き続けるだけで、恥晒しだった。
自分という存在は、否定され続けるか、利用されるかのどちらかだ。
自分だって、それぐらいわかっていた。
わかっているから否定できない。言葉にして否定する権利など自分にはない。
けれど、この復讐だけは誰にも否定させない。させたくない。
言葉でわかりあえない怪物のように、自分は無言を選んだ。
しばしの静寂を経て、それが自分の答えだと気づいたかのように、レモーナ家当主は落胆の溜息を吐いた。
「・・・・・・そうか。──今度こそ死んでもらうぞ無能よ」
レモーナ家当主は杖で地面を軽く叩く。
地面は盛り上がり、ゴーレムの隊列が体を起こす。
ゴーレムの背後に隠れるように、幻のピエロは見えなくなった。
詠唱はさせないと、罠の魔法を設置させないと、自分は影の鎖を作り出して先行させる。
ひとつの復讐を果たさんと、その命を奪わんと、自分も駆けだした。
助けにいけと送り出された。
勇者を助けてと願われた。
まだ城に着いていなく、南の勇者の冤罪を晴らしていない。
南の聖女と勇者を護りながら戦う。そんな勇者らしいことを一切したことない自分には荷が重すぎた。
約束を放棄する後ろめたさがあった。
注意を自分に向かせて時間を稼ぐ。そんな悠長に戦える相手でもない。この復讐を始めれば、集中しなくてはならない。
胸がざわめくほどの不安はある。だが、この絶好の機会を逃すわけにはいかないのだ。
罠だらけの屋敷。結界に阻まれた領地。そこから引きずり出すにはもう少し時間がかかると最後に回していた復讐相手が目の前にいる。
壊れた結界の下を潜る。結界の外にゴーレムはいるが、術者の背後に控えている様子でこちらに襲いかかる様子はない。
速攻で復讐を果たしたい。そんな甘い夢を抱く。
状況は違うが、それでも早期決着を考えた戦い方は用意してある。
それ通りに叶ってもマナの消耗を考えれば、後から追いかけて城まで共に行くのは厳しいだろう。
否。すぐに決着はつかない。
これは叶わない夢。愚かな自己都合でしかない。
同行できるのはここまでと察したからこそ、託された2通の書状を聖女に渡した。
自分は復讐を優先することを選んだ。
約束を果たせなくて申し訳ない。
この場にいない人物に向けて、心の中で謝った。
足を止める。1番会いたくなかった人物に対峙する。
「・・・・・・聞いたときは耳を疑ったが───」
昔は同行者の魔法使い。今では王都の両翼の護り手の1人。
「───本当に生き延びていたとはな・・・・・・」
壊れた結界の向こうで、自分が来るのを待っていたかのように、フードを深く被ったレモーナ家当主が嘲笑っていた。
剣を構えたまま、レモーナ家当主の出方を窺う。
レモーナ家当主は、確実に自身の周辺に罠の魔法を設置している。
罠の魔法を消費させるまで、一定の離れた距離を保ちながら攻撃を仕掛けていくしかない。
背後で、聖女が結界を張った。
ここら一帯を巻き込む戦いになると察したのだろう。
「処刑で失った部位は・・・・・・完全に治っているようだな」
確信を持った言い方に、どこから情報を得たのかと疑問を抱く。
それを質問しても、答えは返ってこないのを知っている。
「北の魔神のような怪物にでもなったつもりであるのなら、それは無理というものだ。この大陸の人間として生まれた以上、その役目を担い生き続け、己の真っ当な人生と功績を誇りに抱いて人間として終わりを迎える。それすらできぬ無能なら、恥を重ねるより潔く自害すべきだ。それが人間という誇り高き存在だ。──勇者とは思えない罪を犯し、処刑されてもなお、恥を晒してまで生きたいのか?」
人間とは、と哲学的な言葉をかけられても困る。
自分はその答えを持っていない。
ただひとつ言えるのは、復讐を完成させずに死ぬ方が、自分にとっては恥だ。
言えるが口にしない。自分は否定される側の人間だった。
そうだとわかっていて、自分から復讐を穢す愚かなことはしない。
レモーナ家当主は杖を掲げる。その杖の頭に着いている、魔法陣を刻んだ石が光る。
地面は盛り上がり、魔法で強化された土人形の隊列が体を起こす。
魔法使いは、己の魔力の波長に合う属性の魔法を好んで使う。威力が上がるうえに、魔法の制御がしやすく、魔力の消費が少なくすむ。
レモーナ家は土属性の相性の良さも遺伝のように継がれている。ゴーレムもその1つ。
このゴーレムも代々引き継がれている魔法。そう北の聖女に語っていたのを耳にした。
自分の目の前にいる魔法使いは土の魔法だけでなく、大賢者に弟子入りをし、短期間で様々な魔法を習得。後衛職である魔法使いでありながら、前衛に立ち敵を全滅させるほどの実力を持っている。
素質はあったのかもしれない。だが、そのほとんどは絶え間ない努力で得たもの。
他者の功績を己のものにするために、狡猾で卑怯な手を使うアルバースト家当主とは真逆。
南の魔神が自分を天才剣士と呼ぶなら、最強の天才魔法使いはレモーナ家当主になるだろう。
だからこそ、妙な違和感があった。
造形的に教会で排除役に置かれていたゴーレムより繊細。それだけだ。
魔力量と機能面ではかなり怠っている。
勇者の時は、戦闘においてこのゴーレムより勝る同一の存在はいないと思っていた。
今は違う。ただ土を固めただけの中身のない人形だ。
自分が強くなった。眷族になった。それで見方感じ方が変わった。
そんな理由で片付けていいものではない。
レモーナ家当主の上昇していく魔力量に、ゴーレムの隊列は釣り合っていない。
ゴーレムの方が足を引っ張っている。そんな印象があった。
「行け」
魔法使いの指示に、ゴーレム達が駆け出す。
剣を横に振るい、纏っていた魔力で飛ぶ斬撃を打ち出す。
湾曲を描いて飛ぶそれが直撃して、あっけなく吹き飛び粉々になるゴーレム達。
潜伏中に編み出した攻撃方法。
昔にレモーナ家当主が退治した、盗賊団の纏め役が使っていた打ち出す風の拳を自分なりに改良した。影とは違い1回で成功した。その喜びは、別の思考によって打ち消された。
何かがおかしい。
鋏で紙を切るよりも手応えがない。そちらの方が気になった。
理由はわからないが、嫌な予感がした。
魔族に寝返ったと気づかれても、すぐにレモーナ家を無力化すべき。頭の中に鳴り響く警鐘に混じって、そんな指令が降りた。
自分の影に魔力を注ぎ、実体ある形に変える。鏃付きの鎖として幾十も伸ばし、剥き出しの土とゴーレムを破壊する。
破壊と同時に、ゴーレムの影に飛び込ませ、鎖を介して支配下に置くための干渉を行う。
今までの方法は時間がかかった。それを解消させる手段として、自身の影で直接干渉する方法に変えた。
支配下に置いたゴーレムの影を使い、さらに影の鎖を増やす。
地面を抉るように、ゴーレムを攻撃していく。
その中で数本の影を操り、レモーナ家当主へ向かわせる。
飛ぶ斬撃と鎖の干渉から免れた1体のゴーレムの拳を躱し、踏み台にして空へ向かうように高く跳ぶ。
影の鎖に対して、仕掛けられていた罠の魔法が発動する。
拘束なら良かった。だが、そのほとんどが殺傷率の高い罠ばかりだ。
その罠に、影で作られた鎖は悉く壊されていく。その中には防御に特化した罠の魔法もあった。
それを発動させるのがこちらの目的だ。
上空という邪魔が入らない場所から、この一撃で仕留める。
自分の体が地上へ帰還する前に、再び魔力を纏わせ、跳ぶ斬撃を放った。
距離があった。それだけではない。
音を立てて動く影の鎖で、砕かれていくゴーレムで、発動していく罠の魔法で、レモーナ家当主が詠唱しているのに気付くのが遅れた。
ゴーレムと同様に、杖に魔法を記録させておけばいい。記録させることのできる数に上限はない。
詠唱や魔法陣をひとつずつ行うという手間が省ける。即座に魔法を打ち出せる。
その利点を無視して詠唱を選んだ。
何かを行う。自分の中で警戒心が強まる。
「──風の魔法よ!!」
杖を自分に向けて、魔力の込められた言葉を解き放った。
その風の魔法に、眼を見張った。
風を竜巻のように吹かすだけでなく、意志を持っているかのように地を這うようにゴーレムを巻き込む。影の鎖を呑み込んからこちらに向かってくる。
竜巻の中に風の刃が無数に発生して、呑み込んだものを粉々にしていく。
ナーマの魔力では生み出すことのできない出力。追加の魔法を使った様子はない。詠唱という言葉と杖で押し込めるように安定させて操っている。
まるで、自身が想像した風を魔力で作り出したかのように。
自分は、この現象を起こせる力を知っていた。
知らなければ、自分はこの一撃を放って死ぬところだった。
仕留めるために放った魔力の刃による飛ぶ斬撃と、杖から放たれた竜巻が正面からぶつかった。
案の定。魔力の刃は竜巻に絡め取られた。こちらに襲いかかってきた。
影の鎖を伸ばして、それを掴む。
竜巻の進行方向上から強引に外れ、近くの屋根に着地する。
魔神の話通りなら、即座に次の手を打たないと自分が殺される。
すぐに影の鎖を作り出し、がら空きのレモーナ家当主に、量という暴力で襲いかからせた。
レモーナ家当主は、杖の先端を自分に向けようとして、地面の方に変えた。
竜巻が急回転し、大地を舐めるように吹き降りた。
風という重たい質量で押し潰しながら、影の鎖だけでなく、ゴーレムすら切り刻みつつ粉砕した。
その攻撃をもって、魔力で作られた風は吹き止んだ。
地上から攻撃していたら、自分がああなっていた。
バラバラになる自分の体が脳に浮かび、背中に悪寒が走った。
そして、ひとつの確信を得た。
──打ち破るが勝利の条件になって、必ず後手に回らないといけなくなる。
そう自分に言った南の魔神は、始めからこれを知っていたのだろう。
否。知っていた。魔神の立てた王都の復讐計画で、レモーナ家当主の名前が最初にくるはずがない。
魔神が言っていた、過去に眷族にした人間の特徴。
マナを吸収して魔力に変換することができ、毒に対する耐性を持つ特異体質の持ち主。
レモーナ家当主はその分類の人間だ。
詠唱は、マナの魔力のみを使うための魔力変換機関の開閉機的な役割と、使用する魔法の方向性を決めるためだ。それだけで制御できないとわかっていたから杖の二刀流という形をとった。
ゴーレムの違和感の正体もわかった。
ナーマで作り出した魔力を使っていたのだ。ゴーレムは詠唱無しで発動させたのを考えれば、それが1番しっくりくる。
一緒くたにして使わない時点でなにかしらの決まりを設けているのか。あるいは、設けざるおえない事情があるのかもしれない。
特異体質のレモーナ家当主なら大丈夫だが、他の人間がマナに触れれば死に至る。
だから単身で来た。部下や味方を連れてきて、有害なマナあるいはマナを使った魔力による魔法で死なせるわけにはいかない。そんな配慮だ。
そして、この魔力を用いて自分を殺すためにやってきた。
だが、マナが発生した形跡はない。あれば自分も吸収できるはずだ。
マナを閉じ込め、レモーナ家当主に直接渡るような魔法具でも持っているのだろう。
そうでなければ、こんなマナのない場所で、あれほどの威力を振るえるはずがない。
マナ不足に悩み、苦戦を強いられている自分とは真逆。
魔神の言うとおり、本当に相性最悪の復讐相手だ。
距離をとるため、聖女達がいる場所から遠ざけるため、着地した屋根からすぐに跳躍して、離れた場所にある別の屋根へと降り立つ。
ここからでも、補足はできる。
この最悪な事実を打倒する、立ち直す方法を考えなくてはいけない。
そう考える自分を、止めにくる。
この大陸の恥晒しである自分を、殺しに来る。
冤罪だと知っている南の勇者より、優先的に罪人である自分に攻撃しに来る。
人々の生活を平気に脅かす人間を許さない。それがレモーナ家当主だ。
宙を漂うような浮遊の魔法はある。
けれど、鳥のように空を飛ぶ飛行魔法は存在しない。
否。他の大陸にはあるかもしれない。少なくとも、この大陸では見たことがなく、聞いたこともない。
レモーナ家当主の移動手段はふたつに限られる。
ゴーレムたちに運ばせるか。自ら走ってくるか。
その考えでいた。
風の魔法を自ら纏い、風そのもののように高速で飛んでくるまでは。
まだ逆転の一手は思いついていない。だが、ここで驚いているだけでは格好の的になるだけだ。
風の魔法が使えるなら、と自身の影を四方に持ち上げて壁を作る。さらに魔力で強固にする。
影の壁の向こうから、全力で殴りつける音が響く。
「──氷の魔法よ!!」
壁のすぐ向こうから、魔力の込められた言葉が解き放たれる。
四方に展開した影の壁から氷が迫ってくる。それは内側にも侵入して足下にも近づいてくる。
ピエロの蒼い炎の攻撃が、脳裏に過ぎった。
捕まったらいっかんの終わりだと、頭の中の警鐘が鳴り響く。
剣に魔力を纏わせ、魔法で作られた氷ごと足場を切り捨て、自分の体は建物の中に落ちる。
影の壁は消えたらしく、開けた穴から月の光が降り注ぐ。建物の中の影に潜って、影から影へと移り渡って壊された扉から外に出る。
レモーナ家当主は魔法で浮遊していた。辺りを見ている様子から、自分を捜しているのがわかった。
地上に落ちているレモーナ家当主の影に、1番近い別の影から飛び出して直接触れる。魔力を流して干渉する。
この技は、自身の影を介して操ることは難しい。
干渉しきるより、気付かれる方が早いのはわかっていた。
自身の影を再び鎖状に具現化し、時間稼ぎとして向かわせた。
自分に攻撃を向ければ、影の鎖を身代わりにした。
レモーナ家当主が移動しようとすれば、影の鎖で意地でも動かさないように妨害させた。
ナーマの魔力では一撃すら持ちこたえられない。
マナの方の魔力を出し惜しみせず、影の鎖を補充していく。
そこまでしてようやく、干渉が完了した。
影の鎖で妨害したまま、操った影にぱっかりを口を開けさせるように穴を作り、影の持ち主に戻るように高速で向かわせる。
気付いたレモーナ家当主が杖を向け、影より大きな氷塊を打ち出す。
影はその氷塊を、そしてレモーナ家当主を呑み込んだ。
あの時は制御を失敗して山ひとつ消滅させた技。
自分が扱える最も殺傷能力が高い技だ。
「──風と火炎の魔法よ!!」
影から響く声に、自分は驚いてびくりと体を震わす。
ふたつの属性の魔法を同時に使うなんて聞いたことがない。
呑み込んだ影は膨張して破裂した。
踏みつけ倒そうとする暴風に耐えながら、自分めがけて降り注ぐ火の玉を、禍々しい魔力を纏わせた剣で薙ぎ払う。
風と火の玉の猛攻に耐えきってから見上げれば、1人の老人がいた。
服装はレモーナ家当主と全く同じ。露わになった顔は、自分の知っているその男の面影があった。
老人がゆっくりと降下し、大地に足を着ける。炎を伴った竜巻などなかったかのように、ふたつの力は静かに消えた。
否。解除したと言うべきだろう。
老人はゆるりと両手を持ち上げ、拍手をする。
「・・・・・・なんの真似だ?」
自分は禍々しい魔力を纏わせ剣を構えなおし、警戒する。
「決まっていよう。ただの称賛と説得だ」
老人──否。レモーナ家当主は無表情でそう告げた。
「無能と嘲っていた者が、人生の全てを魔法に費やしてきた私を全力にさせた。人ならざるその力を我が物にするまでの努力を、認めぬ愚か者ではない」
声は全く変わっていない。拍手を止めた。
容姿と声が合っていないせいだろう。とても不気味に思えた。
「どうやって生き延びたかと不思議に思っていたが──まさか魔族の力を得るとは・・・・・・この大陸でその手段を見つけ、自らの力としようと奮闘し、こんなにマナが少ない中でよく頑張った」
本当に称賛だった。
まさか、復讐相手からそんな言葉を貰うとは思ってもいなかった。
「私は一族の中で異端と言われた。当たり前だ。人間を死に追いやる力を吸収して魔力にして使うことができる。それの魔力は他の者達とは比較にならないほど強力なのだ。一族はそれを許さなかった。人間の敵だ。恥曝しと罵られもした。それでも、私はこの大陸の人間の義務を果たそうとひらすら模索した。この大陸で最も魔法の知見に富んだウォール大賢者に自ら弟子入りを懇願し、さらなる魔法の高見を目指した。──そしてようやく、この力があっても人の上に立つ者としてこの地位と実力を得た。代償はあれど、それでも私は良かったと思っている」
突然の自分語り。魔法を使うための時間稼ぎの様子は見られない。
このタイミングで話すのはなぜだと思いながら、耳を傾ける。
「私がこの大陸の人間だからだ。大陸のためにこの身を捧げ、大陸のために魔法を使役する。私の存在はこの大陸の繁栄を未来へ繋げるためにいるのだ」
言いたいことがわかった。
これは、説得のための材料だ。
「・・・・・・ゼルシュの陋劣の言葉が正しければ、貴様の目的は復讐であろう。だが、貴様も北の大陸の者であるならその身を捧げるのが道理ではないか? 復讐などという無価値に精を出さずに己の役割を果たすべきだ」
レモーナ家当主の後ろに、ピエロの姿が見えた。
無論、ここにいるわけがない。ただの幻だ。
「今の貴様はあの無能の勇者ではない。その力を使いこなし、私の力の正体を知って対策を講じるほどの知識を持ち、人として他者を守ることを優先して動けている。別の人間としてやり直せるよう私が取り計らおう。この大陸のためにその人生を捧げるべきだ」
勇者として、北の大陸の人間として、この身を捧げてた人生は、他人にとってくっそ惨めで、自業自得だと罵倒された。
お前に復讐に向いていない。復讐を望む権利がない。そうピエロに言われた。
復讐を捨ててこの大陸のために人生を捧げるべきだと、レモーナ家当主に諭された。今の自分は無知で無能じゃないから、勇者の自分を殺したこの大陸に身を捧げろと。
誰も彼もが、自分の生き方を否定する。
仕方ないとわかっていた。
顔の知らない母親に捨てられ、生きていると思っていなかった堕胎されたと思っていたと国王に笑顔で告げられ、城の人たちからは疎ましい視線を向けられるほど、産まれていたことを望まれていなかった。
勇者として都合よく利用されては理不尽な目にあい、最後は裏切り者で大犯罪者で愚か者として烙印を押された。
実際、自分は罪人だ。生きているだけで、歩き続けるだけで、恥晒しだった。
自分という存在は、否定され続けるか、利用されるかのどちらかだ。
自分だって、それぐらいわかっていた。
わかっているから否定できない。言葉にして否定する権利など自分にはない。
けれど、この復讐だけは誰にも否定させない。させたくない。
言葉でわかりあえない怪物のように、自分は無言を選んだ。
しばしの静寂を経て、それが自分の答えだと気づいたかのように、レモーナ家当主は落胆の溜息を吐いた。
「・・・・・・そうか。──今度こそ死んでもらうぞ無能よ」
レモーナ家当主は杖で地面を軽く叩く。
地面は盛り上がり、ゴーレムの隊列が体を起こす。
ゴーレムの背後に隠れるように、幻のピエロは見えなくなった。
詠唱はさせないと、罠の魔法を設置させないと、自分は影の鎖を作り出して先行させる。
ひとつの復讐を果たさんと、その命を奪わんと、自分も駆けだした。
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