穢れによりて魔を祓う

ブリッジ林

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①聖女視点

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 普通に朝飯を食べていたら、急に異世界に召喚された。


 いや本当にこう言うしか無い状況なんだけど。
 朝起きてこたつでトーストとコーヒーもそもそ食べてたら、視界が真っ白に塗りつぶされた。

 そして視界に色が戻ると、そこは石造りの冷え冷えとした屋内空間だった。

 周囲には何か何かずるずるした布を着た人達の姿。
 尻の下には灰色の石の床と、光り輝く魔法陣。
 私の手には食べかけのトーストとマグカップ。


(あっこれ見た事ある)


 これアレだろ、ラノベによくあるやつだろ。
 いやラノベによくあるやつでもトーストとマグカップ持ったままって言うのがよくあるのかは知らんが。

 周囲の人達は私を見てざわざわと嬉しそうに騒いでいる。

 何かたぶん世界の危機とかで呼ばれたんだろうな。
 そんでこの人達はえらく苦労をして私を呼んだんだろうな、お疲れ様です。


『おお……成功だ……!』

『聖女様が召喚されたぞ……!』

『救世の聖女……!』

『聖女様、どうか我らの世界をお救い下さい……!』


 こいつら三点リーダーとエクスクラメーションをセットにせんと喋れんのか。

 取り敢えず食べかけのトーストをぽそぽそ食べながら、あるであろう説明を待つ。
 説明なしにヨッシャ世界救って来いって言われても困るしな、多分流れ的に偉い人が来て説明してくれるんだろう。

 しかしそのへんでざわざわしてる人達は、顔の鼻から上が良く見えないと言うか、ぼんやりした印象の人達ばっかりだ。
 こんな分かりやすいモブ描写あるかお前ら、ひどい世界だよこれ。

 それにしてもどうやって救うんだろうなこの世界、私が旅するのかそれとも間接的に何かするのか。
 救世のって言ってる時点で私が救うのは間違いないんだろう、出来るだけ楽で痛くない内容だと有り難いんだけど。
 つか偉い人まだかな。

 ずず、とコーヒーをすすっていると、バン、と大きな音を立てて扉が開かれる。
 音の方へと顔を向けてみれば、そこに立っていたのは良い感じのイケオジだった。

 走ってきたのか、肩で息をしながら私を見下ろす整った顔立ち。
 ステレオタイプの長い金髪と青い目だ、捻りがないと言えば無いんだけど分かりやすさは評価したい。

 豪奢な衣装、えーと何て言うんだろう、何か見るからに王様って感じの見た目をしてる。

 駄目だ自分の語彙と知識が役に立たなすぎる、乙女さが足りなすぎる。


 取り敢えず王様って感じのイケオジが部屋に飛び込んできたって事だ。


「聖女の召喚……実際に可能だったとは……」


 王様よくこのなりの女を見て聖女だって思えるな。

 と言うか何で寝起きでジャージの上に半纏を着て胡座をかいた状態で人目に晒されなければいけないのだろう。

 まあこっちに歩いてきた人が王様なのは見たら分かるし、それらしく挨拶とかした方が良いんだろうな。
 何かアレだろ、スカートの裾つまんでお辞儀とかするんだろ、今ジャージなんだけど。


「救世の聖女よ、突然の召喚に応じて頂き感謝する」

「応じた記憶無いですけど」

「えっ」

「朝飯食ってたら急にここに居たんですけど」

「あっ、そ、そうか、それは申し訳無い事をした、私はこの国の王」

「そんな見た目してますよね」

「あっうん、ぱっと見て分かる事も重要だから……聖女殿の名をお教え頂きたいのだが」

「ひのえ」

「ヒノエ、良い名だ」

(せやろか)

「ではヒノエ、説明をさせて頂きたいのでこちらへ」


 そっと手を差し出されたので、トーストを持っていた手を服で払ってからその手を掴む。
 立ち上がって手を離すと、尻を軽く払ってから王様の後をついて歩き出した。

 手を空けるためにくわえていたトーストを咀嚼して飲み込むと、コーヒーで喉を潤す。
 随分と冷めてしまったので、後で熱々を入れてもらえないかなあ。


「ところでヒノエの歳をお聞きしても?」

「成人はしてますね」

「ほう、10と幾つかかと」

「日本人若く見える説ってマジで有効なんだなあ」

「そちらでの成人年齢は?」

「20ですね」

「ではこちらより2年ほど遅いか……ヒノエは年下は」

「つか呼び捨てなんすね」

「あ、はい、ヒノエ殿」

「いやすみません、言ってみたかっただけなんです」


 そっかぁ……と小さく呟く王の背中が少し小さく見えた。
 茶々入れてすみません王様、ちょっと気になったから言ってみたかったんです。

 本来なら不敬だって斬首もあったけど王様の様子からして大丈夫そうだ。
 と言うかこの王様あんまり威厳無いな、見た目は良いのにそのへんのおっちゃんより威厳無いな。


---


 その後、王様にフッカフカの絨毯が敷かれた部屋に通されてから、召喚された理由なんかの説明を受けた。


 取り敢えずこの世界には魔王がぐわー居るって事と、このままだと世界がヤバいって事。
 私が元の世界に戻るには、魔王を倒す必要がある事。

 この王様の息子である王子が勇者なんだけど、勇者としての力はまだ持っていないと言う事。

 んでその力を呼び起こすには私が王子の筆下ろしをする必要がある事。
 王子は年下で国を挙げて童貞を守らされていた事。


 そっかー。

 これそう言うやつだったかー、困ったなー私も経験無いんだよなー。
 と言うか何で異世界にポーンと投げ込まれて年下メンズの筆下ろししなきゃいけないんだよ。
 ちょっと王子の存在が哀れにも感じるけどそれは別の話だよ。

 王様は説明するだけして頭を下げて私を置いてどっか出てくし。
 入れ違いで入ってきたメイドさんに風呂にブチ込まれて身支度整えられるし。


 私は入れ直して貰ったコーヒーと新しく焼いてもらったトーストを貪りながら、ぼんやりと天井を仰ぐ。

 綺麗な天井だ。
 他に言いようが思いつかないけど何かちょっとしたシャンデリア下がってる。
 綺麗な天井だと思う。

 部屋も綺麗だ。
 どう言えば良いのか分からないけど、取り敢えず天蓋付きのベッドの存在感がすごいある。
 絨毯フッカフカだし壁も天井も何か高そうな家具も綺麗だ。
 とても綺麗な部屋だと思う。

 正直テレビで見た事あるくらいしか言えない。


(うーん筆下ろしかぁ)


 まあ筆下ろししたら家に戻れるんなら受け入れるべきか。
 でも何で急に呼び出されて息子の息子をよろしくなって扱い受けなきゃいけないんだ。


 正直な話、こう言うのってすこぶる理不尽だと思う。

 私が拒否したら世界の危機なんだろうけど、それでも気分的に何となく嫌なのは当然だ。

 取り敢えず上から上からで言ってくるなら一回は拒否するか。

 世界滅ばれても困るし家には帰りたいから最終的には受け入れるけど。

 あの王様の息子なら顔は良いだろうしな、良い経験になると思おう、どうせ彼氏も居ないし。
 あとこのトースト美味しいな。

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