私は逃げます

恵葉

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第一歩

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宿屋では、部屋を譲った二人連れと、晩御飯も一緒に食べる事になりました。
全員揃ったところでアルが尋ねました。
「ところで名前は?聞かない方が良いのかな?であれば、何と呼んだら良いか教えてもらえる?」
相手はどこの国のとかも分からない、されど着ているものや所作から高位貴族と思われ。
それが従者と二人きりで旅というのも、訳ありとも考えられるので、名乗るかどうかを相手に尋ねた。
「宜しければ私の事はハルと呼んでいただければ。
彼は供をしてもらっているダレンだ。そちらは?」
「私はアルフレッド、アルと呼んでくれ。彼女はマリーナ、私たちはリーナと呼んでいる。
そしてレイモンド、レイ、レイの弟のアンドリュー殿、リーナの侍女兼護衛のマーサ、護衛のダン、ロニー、マイカ、御者をしてもらっているジム、ショーン、ラルフ、エミリオだ。
私とレンとリーナはまあ…幼馴染みたいなものだな…。」
「友と大勢で旅とは羨ましいな…。」
「まあ遊びではないのだけれどな。
俺…私…すまないが、普段通りの喋り方でも良いか?堅苦しいのは苦手なんた。」
「あぁ、もちろん、気を使わないでくれ。」
「ありがとう…それで俺とリーナが、この国の学校へ留学をしようとしていて、今回はその受験のために来ているのだ。」
「レイやアンドリューは留学しないのか?」
「レイたちはまだ今回は、あちこち見て回って、それからだな、この先の事を考えるのは。」
自己紹介をしている間に、頼んだ料理が運ばれ始めたので、暫くは食事に集中した。
隣国で陸続きとはいえ、やはり多少は料理なども変わってくる。
トマトソースで煮込んだ、まるで米粒のようなパスタが出てきた。
心の中で、前世でギリシャで食べたパスタの様だと感動していると、レイが言った。
「これは我が国の南の方の離島にあるパスタと似ているね。
形状は異なるけど、この粒粒なのが似てる…。」
「え?!そうなの?!レイ、その離島へ行ったことがあるの?凄いもの知りだね!」
驚いて言うと、何でも、まだアンドリュー様が生まれる少し前に、家族旅行で行ったのだとか。
かなり幼い頃の思い出で、初めて見た時、その粒粒の見た目をまるで鳥の餌だと思ったのだとか。
ところが食べてみたら、とても美味しくて、滞在中は毎日のように食べたがったのだそうです。
「あの島へ隠居するのもありかな…。」
レイがボソッと呟くのを、私は聞き逃しませんでした。
「いやいや!隠居するのはまだ早いでしょ…。人生これからよ!」
レイは返事はせずに、寂しそうに微笑んでいましたが…でも私は騙されませんよ…。
その夜は他愛ない話で過ごしました。

翌朝は、私たちも、ハルとダレンも、出立は早かったので、宿屋の前でお別れしました。
「いつかまた会うことがあれば、また食事でもしよう!
それと今回、俺たちはここに滞在するし、今回の受験で失敗しなければ、また一ヶ月後にはここに戻ってくる。
もし、近くに来ることでもあれば、連絡してくれ!」
アルはそう言って、私たちが滞在する予定の、アルの叔母様の邸の住所をメモした紙を渡しておりました。
二度と会うことは無いかもしれないし、また会うかもしれないし…。
これもまた一つの旅の醍醐味かなと思います。
そして私たちはいよいよアルの叔母様の邸へ向けて、出発しました。
予定通りなら、午後のお茶くらいの時間までには着いているはず。
お天気にも恵まれ、順調に旅は進みました。

馬車の中では、相変わらずレイは、あまり話さず、少しボーっとしていて。
「ねえ…もしも可能なのであれば、レイもいっそ、留学してしまえば?
例え、1年とか2年とか3年でも、少なくとも私たちの国の社交界とは物理的に距離を置くことが出来ると思うんだけど?」
「それは難しいよ、リーナ…。私は嫡男だから…。」
「嫡男だと何で難しいの?」
「私たちの国では、嫡男は後を継ぐために父親や執事から領地経営を学ばなければいけないんだ。
それに留学すると、何かあってもすぐに帰る事は出来ないだろ?
だからどこの家も、嫡男を他国へはあまり行かせたがらないんだ。
今回、私が行かせてもらえたのも、妹の事もあったのと、マスターソン公爵のお陰なんだ。」
「アルの家でもお兄様は留学とかしていないの?」
「うちはそもそも叔母上が他国へ嫁いでいるし、父上の従兄弟たちで他国の貴族もいるから、兄上も他国へは行っているよ。
行っているけど、兄上の場合は短期留学だったな…。
一年間の期間限定で、俺たちが留学しようとしている学校と、それからまた別の国の学校へも同じく一年間の期間限定で留学したよ。
でも留学先の学校を卒業までというのは、兄上は無くて俺だからだな…。」
「そういうものなの?」
「そういうものだな…。」
「でも…この国の方が学校制度は進んでいるし、卒業出来れば家の為にもなると思うんだけどね…。」
皆が沈黙した…。
「兄上…父上に短期留学で交渉してみるのは如何でしょう?
それで兄上の成績が優秀であれば、勿体ないからそのまま卒業までと、更に延長する交渉も可能なのではないでしょうか?
我が家は男は私も居るのですから、代わりに私が父上の手伝いをし、将来は兄上の補佐をと説得すれば、いけるのではないでしょうか?
いや!今回の事で家に汚点を付けてしまった今だからこそ!他家とは異なる、新たな方法で家を盛り上げなくてはいけないのではないでしょうか?」
「それではお前が犠牲になってしまうだろ?」
「ふっ…兄上…甘いですよ。
兄上が留学できれば、私が留学するハードルも下がるのです。
兄上が帰国したら、入れ替わりで、私は短期ではない留学を目指します。
そして!あわよくば私は他国の高位貴族の元へ婿入りし、我が家をマスターソン家のように、他国とも太い繋がりを持つような家にしたいのです!
私は転んでも、ただでは起きませんよ。
次男には次男の強みというものがあるのです。
それは長男を見て、それを参考に上手く立ち回る事ですから!」
「アンドリュー…知らない間に随分、大人になったんだね…。」
馬車の中で、レイとアンドリュー様の将来についても、少しだけ話が出来、レイも少し明るくなったようでした。
先が見えないって辛いですからね。


そうこうしているうちに、アルの叔母様の嫁ぎ先である、ドナテッロ公爵家のお屋敷へ到着致しました。
いよいよここからこの国での第一歩が始まる!…はず!うん!始まるよね?!
これから受験なんだけど…受験に失敗したら、大きなチャンスが一つ潰れてしまうけど…。
でも大丈夫だよね!うん!大丈夫!
頑張ろう…受験もだけど、アルの叔母様ご一家に少しでも気に入られるように…。
頑張ろう…。

驚いた!門からお邸が遠い!お邸も最早まるで宮殿のよう!
これ、本当に貴族の邸?!という感じで。
こんなところに本当に滞在してしまって良いのかな?!私?
門をくぐり抜けて馬車が正面の玄関にたどり着く頃、玄関にはずらっと使用人の皆様が並びまして。
正直言って、どこのお偉い方々のお出迎え?という感じで、焦ってしまいました。
執事さんらしき方が、ご案内をしてくださいました。
「ようこそいらっしゃいました。アルフレッド様、お友達の皆様も。
どうぞ中へ、奥様と旦那様がお待ちです。」
「久しぶり!ジェラルド!皆を紹介するよ!
スチュアート侯爵家のレイモンドと、その弟のアンドリュー、フォーサイス伯爵家のマリーナ、そしてうちから連れてきた、マリーナの侍女兼護衛のマーサ、護衛のダン、ロニー、マイカ、御者はジム、ショーン、ラルフ、エミリオだ。
これから宜しく頼みます!」
「皆様、こちらこそよろしくお願い致します。さ!さ!どうぞ中へ!」

執事のジェラルドさんに促され、中へ入ると、何と!ドナテッロ公爵ご一家と思われる皆様が勢ぞろいしておりました…。
これは…何だろう?何故に勢ぞろい???うーん…深く考えるのは止めておこう…。
「遠いところをよくいらしてくださった。我が家だと思って、寛いでください。
あ、その前に家族を紹介するよ。
私がこの家の当主のジャン・マルコ・ドナテッロです。
気軽にジャンお兄様と呼んでくれたまえ!」
「父上!何を言っているんですか!」
「頭が固いなぁ。はぁ…。じゃあジャンで良いよ…。」
「いやいや!叔父上!そんな公爵なのに呼び捨てに出来るわけないでしょ!
もう良いや!俺が紹介します。
叔父の事は…ジャン・マルコとでも呼んでやってください。
そして俺の父の妹で、叔母のリサ・マリー・ドナテッロ公爵夫人です。」
「私の事はリサと呼んでね!勿論、お姉さまでも良いわよ!」
「叔母上…。
えっと…ドナテッロ家の長男で俺の従兄弟のフェデリコと、次男のアンドレアです。」
「兄上の事はフェデリコと、そして俺の事はアンドレア兄さまと呼んでくれると嬉しいな!」
ロングヘアを後ろで一つに結んだ金髪に、緑が買った綺麗な蒼い目の素敵な男性が、私の手を握って背中にキラキラの光を背負って仰いました。
私は返事に困って固まった…。
「おいおいおい!何を言っているんだ!お前は俺と同じ歳だろ!レイモンドだって同じ歳なんだ!
あ、これ、レイモンド…レイって呼んでやって!
それで何を初対面のリーナの手を握っているんだ!」
そう言ってその手を剥がしてくれました。
「え!?じゃあリーナちゃんはアルの事をお兄様って呼んでいるの?」
「呼んでませんよ…アルフレッド様はアル、レイモンド様はレイです。
レイの弟のアンドリュー様はアンドリュー様ですが…。」
「リーナちゃんは俺たちの幾つ下なの?」
「アルは15歳で私は11歳になりましたので、4つですね。
あ、アンドリュー様も私と同じ歳です。」
「リーナちゃん、可愛いね!アルの事はほっといて、俺の事はお兄様と呼んで良いんだよ、本当に!
俺、自分が下だからさ、お兄様って呼ばれたいんだよね…。」
「それを言うならリーナ!先ずは俺をアルお兄様と呼ぶべきだろ?!」
「え…アルは…アルだし…。」
「まあまあ!早速仲良しさんになって!良かったわ!
でも先ずはお茶でも頂きながらお話しましょ!」
「母上、先ずは一旦、それぞれの部屋に案内した方が良いのでは?」
ご長男のフェデリコ様が仰ってくださいました。
うん、先ずは部屋で一息…一息で良いので一息つきたい!
フェデリコ様は、シルバーブロンドの肩下のセミロングヘアにグレーがかった青い瞳に眼鏡の、とても知的なそれこそお兄様!と呼びたくなるような男性です。
フェデリコ様がこのご家族の中で、一番落ち着いて見える…。
「じゃあリーナちゃんは私が案内してあげるね…私の隣の部屋で良いかな?」
私の手を取って指先に口付けながら言われた瞬間、再びアルがその手を引き剥がしてくれました。
「フェデリコ兄さん!リーナはそういうの慣れていないんだから、止めてください!
っていうかフェデリコ兄さんの隣の部屋は、アンドレアの部屋でしょうが!」
「あ、覚えてた?でもさ、どうせなら可愛い子が隣の部屋にいた方が楽しいじゃない?」
「リーナ…フェデリコ兄さんは、黙っていれば、クールなイケメンに見えない事もない…が!信用しちゃいけない!
フェデリコ兄さんというか、この兄弟はいつもこんな感じなんだ!
女性が居たら、口説くのがマナーくらいに思っているから!」
あ、そうなんだ!前世のイタリア人くらいに思っておけば良いって事ね?!OK!
「アル!大丈夫だよ!私、社交辞令くらいは分かるから!」
結局、アルとレイ、アンドリュー様の部屋は、3人並びの部屋で、私の部屋は公爵夫妻の隣の部屋となりました。
留学が叶えば、こちらでお世話になる事になっております。
ここが新たな第一歩…。
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