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十二章 貴族学舎試験、終了

79 シャルスとセネカ

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 シャルスが墓標群の前にいた。オーちゃんことオーガスタのマナとオドと記憶を持つノリンは

「寝不足だから、シャルスが帰るまで寝る」

と先に帰ってしまい、真面目に祈りを捧げているスバルを尻目に、セネカはガルド神殿を眺めていた。

 神殿長は大抵公爵辺りのマナの強い子弟子女。数年で変わるし儀式の時にしか来ない。ガルドバルド大陸よりユグドガルド大陸の方が、神への祈りと敬意が緩い。今は下級神官しかいないようだった。

 オーガスタのマナを感じたレグルス王国は宿り木でありながら男女を対に考えて伴侶とした独特な国政を有している。腹実は親の身体を痛める罪人を生み出すとして排除し、奴隷にすると噂されていた。隷属陣や精神作用系の陣が禁忌とされていないだけに更に厄介だった。

 オーガスタを探すためにレグルス王国に行くためにはどうしたらいいかと考えていたのだが、オーガスタの魂を持つノリンと会ってしまえは、正直、どうでも良くなっていた。だが、気になったのはオーちゃんことノリンの口からよく出ていた『シャルス』の存在だ。

 そのシャルスが目前にいて、墓標を見つめている。

「彼がシャルスくんか。マナもオドも少ない、覇気のない子だなあ」

 どうしてノリンが気にしているか不思議だった。それはシャルスが小さな頃、オーガスタが世話をしていたかららしい。ふわふわの金髪に深い青い瞳、少し丸めの鼻に厚めの唇に、容姿は並だ。背丈もそれほど高くない。正直美男子とは言い難い全体的に控えめな王太子。

「だってさ、こんなに小さかったんだよ?めちゃくちゃ可愛くてさ」

 ノリンの言葉には『可愛くて仕方ない』から、シャルスの熱が冷めるまで付き合っている感じがするから、どんな子だろうと見ていた。目を凝らして、マナの輝きを見つめる。

 マナもオドもアーネストの子供にしては、王族としても低過ぎる。王妃は伯爵家の出だからかなと思ったが、マナの器にヒビが入っているのに気づいた。オドも流れが滞り緩慢で、しかも、

「忘却陣が展開し続けている?」

忘却陣が塗布されていて、それが再生を繰り返すように、再生陣まで組み込まれている。それは本人にも術師にも負担がかかる。職業魔法師は二種類の陣を塗布し続けるなんてしない。自分のマナを常に使い続けていることになるからだ。

「絶対に思い出してほしくないことがあるのかな」

 精神系の陣がユグドガルド大陸ではまだ生き残っている。曽祖母の体調が万全であれば、すっ飛んできて陣の回収をしたであろうが、ある日を境に魔の森の魔法学舎の寝室から出られなくなっていた。

 今は伴侶の曽祖父のマナを借りてマナに受肉する人型を保ち、魔法制御の授業は行っている。攻撃や剣技はセネカの父が、座学はセネカの母が行いっていて、学舎の管理はスバルの母が行っているのが現状だ。

 だからオーガスタが大事にしていた、ノリンが大事にしている『忘却陣が展開しているシャルス』を間近に見てみたかった。石造りの東屋ガゼボに誘われて座ると、オーちゃん直伝のお茶に癒された。マナが爆上がりする魔の森の茶葉は、収穫できる場所が決まっている。それを知っているのはオーガスタだけだ。

 ああ、ノリンがオーガスタなんだと、しみじみと思ったあと、シャルスと話をして分かった。

 シャルスは小動物系なのだ。

 可愛い!

 なにこれ、可愛くてたまらない。ああ、オーちゃんが手間暇掛けたくなる気持ちが分かる。被虐性?何だろう、守りたくなる。きゅん、きゅんだね!

 しかもポケットの中身、少しはみ出てるのはメーテル商会のメンズランジェリーシリーズのレースリボンラグジュアリー、つまりパンツだよ!ノリンの?ノリンのパンツをお守り代わりにしているの?ちょっと変態チックだけど、そんなにノリンのこと好きなんだ!ちょっと引くけど、その真剣さ、大好きだよ。

 だから話してしまったのだ。

 シャルスのなけなしのマナを削る塗布された陣のことを。塗布されるということは術師も、塗布される側もマナを持っていかれる。

 かつてセネカの曽祖母は忘却陣と洗脳陣に苦しんだと聞いている。少ないマナは常に尽きて床から出られない時期があったという。巨人と獣面の曽祖父たちがマナを授けオドを満たしたらしい。ノリンはオーちゃんだから、きっとサポートをして、大切にしているだろう。

 僕は君の味方だよ、シーちゃん。

 精神系の陣は厄介だ。力づくで解除すると、精神崩壊を招く。一番いいのは術師が死ぬことなんだけど……どうなんだろう。

 セネカは久しぶりの魔の森茶葉のお茶を楽しんだお礼を告げて、スバルと離宮へ戻った。





 部屋に戻るなり靴も脱がず、僕はベッドに大の字になった。アズールとレーンの体液は疲労回復になるんだけれど、睡眠不足は否めない。

 ぐう……

 自分の声が聞こえるほど一度息を吸い込むと眠りに落ちた。

 しばらくすると唇に触れてくる温かさがあった。サラサラの髪が頬に当たる。アズール、意外と早かったんだなあ。甘えたがりめ、レーンがいないからって独り占めか。

 唇を合わせてから、僕は眠くて目を閉じたまま頭を撫でた。その頭が下腹に行き、キュロットを下げて下着にキスをする。レースリボンはアズールもお気に入りだ。それをずらして咥えてくる。

 眠いのに……レーンが怒るぞ、独り占めは。僕はアズールの髪を撫でながら、たまに吸われる良さに溜め息をつく。

 早く終わって……眠い……ああ、出そうだ……先っぽに舌を入れないで……そう、優しく舐めてよ……。

 刺激を受けて出た液体を飲まれて吸われながら、この甘えたがりの髪の毛を撫で回した。

 キュロットを戻してから、指先にキスをされるのがくすぐったい。

 手紙はあとで見るから、今は寝かせて……。

 アズールが離れていき、僕は再び深い眠りに落ちた。

 




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