国王親子に迫られているんだが

クリム

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十三章 婚約期間準備と黒い影

86 医局長メイザース

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 あけましておめでとうございます。まだ続きますが、よろしくお願いします。







 無事にレーダー公爵家から出て、僕は馬車に乗って、王宮へと戻ってきた。

 黒マントなんて相当な数といる。きっと気のせいだ。そう自分に言い聞かせたがなんだろう、知っている感じがしてたまらない。

「坊ちゃん、大丈夫ですか?」

 馬車から降りるとアズールに言われた。

「……うん。先に医局へ行く」

「はい」

 僕はレーダー公の寿ぎに対して、医局へ向かおうと決意していた。王宮医師団のトップであるメイザース・ユングはどう思っているのか、シャルスの敵が味方か探りたくて、足は自然に医局に向いていた。近衛兵に礼を言い、踵を返して歩き出す。

 医局は魔法省の近くの別棟にあり、なかなかの巨大な白い巨塔だった。馴染みがないから僕には分からないけれど、メイザース・ユングには物申すことがある。

「坊ちゃん、王宮に戻りましたことを殿下に報告しませんと」

「うん。アズール、一足先に言ってきて」

「かしこまりました」

 アズールは僕の影にいて、レーダー公とのやりとりを聞いている。特には思う節はないだろうけれど、確かにシャルスへの伝言は大切だよな。アズールは本当に頼りになる。

 僕は医局の中に入り、医局長室をノックした。中からは

「待ちたまえ、シャルス殿下コレクション、オーパス十一を鑑賞中だ」

と。

 知るかっ!

 何がオーパスだ、この変態が!と僕は遠慮なく扉を開けて中を見たら、地べたを這いつくばっているメイザース・ユングと目があった。

 人の行き来が少ないとはいえここは、普通に誰もが入ることのできる場所だ。医局長の部屋もしかりで、僕は遠慮なく片足を踏み入れた。

「お、ああああっ!吾輩のオーパス十一があああああっ!」

 僕はしれっとした顔をして、

「大丈夫ですか?メイザース先生」

と変態に笑いかけた。

「お、お前が踏んだのは今朝殿下がお寄りになった際に踏んだおみ足の足跡。その微かな埃のかけらを堪能していたのに」

 うつ伏せになっている中肉中背の変態に、

「すみませんでした。僕、うっかりしていて」

と嘯き、

「シャルス様は、どうかなさったのですか?」

と聞いた。

 メイザースは丸眼鏡の鼻当てを持ち上げると、椅子にかけるように指示してきたから僕は椅子に座るが、医局長室は二人きりで、しかもメイザースのシャルスコレクションが棚にびっしりだ。正直気色悪い。

「殿下は吾輩に意見を仰りに来たのだよ。あの殿下が自らの足を御運びになられた喜びの十一回目!」

 あー、はいはい。だから、作品オーパス十一なんだ。

「殿下が吾輩に面と向かって意見する少し緊張した、殿下の顔、香り、震える指。全てを網膜に焼き付けるために大変な苦労をしたものだ。ーーなんだ、その顔は。誰かを思い出して腹が立ってくる」

 あまり接点はなかったが、昔からこういう奴だった。老齢の医局長の横にいたメイザースは、舐めるような視線を浴びさせて、シャルスに怖がられていたな。

「シャルス様、体調が悪かったのですか
?」

 メイザースにもう一度聞くと、

「吾輩に諫言をしにきたのだ。それはお前の耳に入れる必要はない。それでお前はどうしたのだ。体調不良か?」

僕は迷ってからメイザースに答えた。

「先程、レーダー公から寿ぎを受けました。シャルス様との婚約を喜ぶと。そのあとはカモン様の妾人……」

 口を開いて話していた声がだんだんと弱くなって、最後は自分でも分からないけれど途切れてしまった。

 続く言葉を吐こうとしたが出てこなくて、待って見つめ上げていると、シャルスコレクションに目を落としていたメイザースが吐き捨てる様子で

「余計なことを、耄碌じじいが」

と口にしてからこう続けた。

「おおかたマナの少ない殿下とお前との婚約・婚儀を寿ぐと言いながら、殿下とお前のマナの格の違いを話し、恐れ多くも殿下が早くに亡くなった暁には王位第二位にあたるカモン・レーダーを王として担ぎ、お前をマナの強い実を孕む腹として強軍隊維持のための力のある赤子を成すために徴用するとでも話したのだろう。殿下のマナの少なさ、お前のマナの多さは魔法省により検分済み。しかもレーダー公は魔法省の重鎮。お前はいずれ赤子の実を孕む腹袋として、生涯を終えるのだよ。決して表には出られず、離宮から出されない腹袋。レーダー公の寿ぎは言葉の力がある『呪言』でもある」

「メイザース先生はシャルス様のことを……」

 僕が恐る恐るメイザースに尋ねると、

「吾輩は殿下が誕生した瞬間から敬愛している」

ときっぱりと言われた。

「吾輩の生きがいは天使のような殿下と共にある。殿下の不利になるようなことは決してしない。殿下の言われようを知っているかね?『種無し殿下』『国王に似合わない王太子』。種があるのを確認したが、マナは微量。だからこそ殿下にお前より低いマナの娘を婚約者にした方が良いと進言し断られ、マナを溜めるように進言したのも断られ、吾輩はさらに進言したのだ。では、王族の血の存続を取るか、伴侶にしたいお前を取るかと尋ねた。お前とはガルド神の奇跡でも起こらない限り、絶対に実は成せないと話したのだが……」

「……なんでそんな事を話したんだ。なんで、シャルスに話したんだよ!」

 淡々と話すメイザースにようやく出た言葉は素の言葉だった。思わず涙がこぼれて、僕の手の甲に落ちていく。

 小さな頃は天真爛漫で明るく元気だったシャルスの努力を、頑張りをほんの少しの間だが見てきた。アーネストの代わり、必死で分からない書類をただ見てサインしてきただろう幼少期を想像した。素直で可愛い子供の時期を取り残し、不安で猜疑の中で国をなんとか平穏にしたいとサインと御璽を押す。それすらもマナを必要とする。命を削って国に尽くしてきたシャルスに対しての、年上の奴らの言い分が悔しくて胸が張り裂けてしまいそうだった。

 シャルスにおいて僕の気持ちは昔も今も『庇護の情』だ。でも、それがなんだ。僕はオーガスタ時代からシャルスが可愛くてたまらない。それは愛ではないかもしれない。愛ってなんだ?分からない。だってシャルスは特別なんだ。メリッサもアーネストも、オーガスタの『家族』だと言ってくれた。かりそめかもしれないが、欲しかったものの一つが家族シャルスだ。

 僕が全てを投げ打って、血肉さえ与えたくなるほどの子供に、そんな辛く苦しいものを重い物を背負わせて、馬鹿にして笑うなんて。
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