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二章 死に至る
21 最後の賭け
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ジーンが迷ったのは一瞬だった。ジーンに万能薬が手渡される。
「母上、直接腹実へ薬を転移ではだめなのですか?」
ずっと神癒陣と透視陣をソニンティアムが展開しているが、その中で話をしてくれた。
「今回の万能薬には私の兄に頼み妖精国に僅かばかりいらっしゃる古代白竜の血をいただき一滴混ぜました。黒竜の血の残り香を消してくれるはずですよ、殿下」
貴重な白竜の血を分けてもらっていたのだとジーンが頷くと、タークが封をした小瓶を出す。この小瓶にドラゴンブラッドを移すらしい。タークは掛布を下腹部まで下げると、腹実の宿る部分に触れた。
「多分、最初で最後の賭けです。アキラくんの赤ちゃん、今から腹実の結合部を開き毒を流し込みます。あなたを神癒で保護しますからこの身体を守る力を貸してください」
すると下腹部が頷くように金色に点滅する。
「この光り方だともうひと月もすりゃあ捥げるぞ?」
マイペースなセフェムに言われて先の発情期を思い出したが、今はアキラを救うことのみに集中する。ジーンは腹実同様に少量のマナをアキラの体内に流し全ての血管をマナでコートする。そして透視陣から見える結腸壁から瘤のようについた腹実への血流ルートだけを保存する。
「出来ましたーー神癒解除を」
「はいっ」
ソニンティアムの神癒が解かれると、黒い毒の点は一斉に腹実に向かって流れ込んでいく。溶解して生き延びるための本能なのだ。
「赤子への神癒開始します。ターク様っ!」
タークがガリウスとセフェムに背中と肩を触れてもらいながらアキラの腹実部分に手を当て、
「転移陣発動っ」
と全身ごと光出し、自分の手の平に陣を乗せて反対側の手に瓶にした。一気に毒は腹実に向かいタークの手の中の瓶に一滴二滴と毒が入る。しかし毒自身が抵抗しているのか一定量しか入らないのを見て、ジーンは思わず叫んでしまった。
「アキラの身体から出て行くがいい」
体内からマナが噴き出しアキラの身体の中をマナが流れていく。一気に流れたマナは毒を押し流しタークの持つ瓶がとぷんと満たされた。
「ジーン、万能薬を!」
ドラゴンブラッドを封印しながら叫ぶタークに頷き、ジーンは小瓶をアキラの口に傾けるが飲み込みを拒む唇に、ジーンは瓶の中味を口に含み唇を合わせる。舌で舌を下げて咥内を広げ嚥下を促した。唇を合わせながらくん……と喉が動くと治癒を促す。
「腹実、大丈夫です」
「ドラゴンブラッド捕獲しました」
光を失ったタークがくたくたと伴侶たちの手の中に包まれた。その手をジーンが掴み、ドラゴンブラッドの小瓶が手渡された。
「……絶滅したはずの暗黒竜の血を入手した経緯は分かりませんが、あなたが管理するのです。あなたが先に逝けば腹実が。アキラくんがアキラくんの意思で死にたくなった時のために」
アキラは再生し続ける。だから死がないが、この小瓶の中身はアキラを確実に死に至らしめる。いつの日の終焉かそれはアキラが決めることだろう。ジーンは小瓶を握りしめた。
「神癒をかけ続けましたが、影響がないとは言えません、殿下」
ソニンティアムの遠回しの言葉に、ジーンは頷いた。最善の方法がこれしかなかったのたから、仕方がないのだと誰もが沈黙する。
その沈黙を破るかのようにマナの放出をやめたタークがぐったりとしながら、ジーンから離れガリウスの差し出した腕にもたれた。
「ガリウス、セフェム、僕は動けません。罰は後から受けますから、二人のオドをもらってから少し眠りたいのです。アキラくんが来る頃には起こしてください……腹実を出す……方法が……ありますから……」
母タークが父ガリウスの腕の中で目を閉じている。このまま本国へ向かうようだった。ジーンは神癒を終えたソニンティアムに礼を告げると、地下のポートに転移すると本国に行ってしまう親族に頭を下げる。
「ありがとうございます。お母さん、お父さんたち」
何十年ぶりに口にした平らで真っ直ぐな言葉だった。
白いもやの中にずっといたような気がする。もう、一度ジーンの金の瞳が見たくて薄目を開いてジーンの姿を探した。ジーンは軍服のままベッドの横の椅子に座り、ぼんやりと宙を見つめていた。光が差し込んで金髪がキラキラ光りまるで神様か何かのようだ。
「ジーン……は、綺麗ですね……」
僕が乾いた喉に唾を何度か送りそう告げると、ジーンがびっくりした顔で振り向きベッドの上の僕に抱きつき背中を撫でる。
「アキラ、良かったっ!痛いところや、苦しいところは?」
ジーンが布団を剥いであちこち触ってくる。くすぐったいし身体を捩りながら、
「ーーありません、あれ……」
答えてから、僕は何かを忘れているような気がして動きを止めた。
最後の戦いで僕はハミルさんに何かの毒を飲まされて……
「ジーン、ハミルさんは?みんなは?国はどうなったんですか?」
ジーンは僕の頭を撫でながら、
「……ハミルは両親が眠る坑道に埋蔵したよ。一緒に眠っているからね、心配しないでくれないかな」
少し寂しそうな顔をしながら、そう話してくれた。
「母上、直接腹実へ薬を転移ではだめなのですか?」
ずっと神癒陣と透視陣をソニンティアムが展開しているが、その中で話をしてくれた。
「今回の万能薬には私の兄に頼み妖精国に僅かばかりいらっしゃる古代白竜の血をいただき一滴混ぜました。黒竜の血の残り香を消してくれるはずですよ、殿下」
貴重な白竜の血を分けてもらっていたのだとジーンが頷くと、タークが封をした小瓶を出す。この小瓶にドラゴンブラッドを移すらしい。タークは掛布を下腹部まで下げると、腹実の宿る部分に触れた。
「多分、最初で最後の賭けです。アキラくんの赤ちゃん、今から腹実の結合部を開き毒を流し込みます。あなたを神癒で保護しますからこの身体を守る力を貸してください」
すると下腹部が頷くように金色に点滅する。
「この光り方だともうひと月もすりゃあ捥げるぞ?」
マイペースなセフェムに言われて先の発情期を思い出したが、今はアキラを救うことのみに集中する。ジーンは腹実同様に少量のマナをアキラの体内に流し全ての血管をマナでコートする。そして透視陣から見える結腸壁から瘤のようについた腹実への血流ルートだけを保存する。
「出来ましたーー神癒解除を」
「はいっ」
ソニンティアムの神癒が解かれると、黒い毒の点は一斉に腹実に向かって流れ込んでいく。溶解して生き延びるための本能なのだ。
「赤子への神癒開始します。ターク様っ!」
タークがガリウスとセフェムに背中と肩を触れてもらいながらアキラの腹実部分に手を当て、
「転移陣発動っ」
と全身ごと光出し、自分の手の平に陣を乗せて反対側の手に瓶にした。一気に毒は腹実に向かいタークの手の中の瓶に一滴二滴と毒が入る。しかし毒自身が抵抗しているのか一定量しか入らないのを見て、ジーンは思わず叫んでしまった。
「アキラの身体から出て行くがいい」
体内からマナが噴き出しアキラの身体の中をマナが流れていく。一気に流れたマナは毒を押し流しタークの持つ瓶がとぷんと満たされた。
「ジーン、万能薬を!」
ドラゴンブラッドを封印しながら叫ぶタークに頷き、ジーンは小瓶をアキラの口に傾けるが飲み込みを拒む唇に、ジーンは瓶の中味を口に含み唇を合わせる。舌で舌を下げて咥内を広げ嚥下を促した。唇を合わせながらくん……と喉が動くと治癒を促す。
「腹実、大丈夫です」
「ドラゴンブラッド捕獲しました」
光を失ったタークがくたくたと伴侶たちの手の中に包まれた。その手をジーンが掴み、ドラゴンブラッドの小瓶が手渡された。
「……絶滅したはずの暗黒竜の血を入手した経緯は分かりませんが、あなたが管理するのです。あなたが先に逝けば腹実が。アキラくんがアキラくんの意思で死にたくなった時のために」
アキラは再生し続ける。だから死がないが、この小瓶の中身はアキラを確実に死に至らしめる。いつの日の終焉かそれはアキラが決めることだろう。ジーンは小瓶を握りしめた。
「神癒をかけ続けましたが、影響がないとは言えません、殿下」
ソニンティアムの遠回しの言葉に、ジーンは頷いた。最善の方法がこれしかなかったのたから、仕方がないのだと誰もが沈黙する。
その沈黙を破るかのようにマナの放出をやめたタークがぐったりとしながら、ジーンから離れガリウスの差し出した腕にもたれた。
「ガリウス、セフェム、僕は動けません。罰は後から受けますから、二人のオドをもらってから少し眠りたいのです。アキラくんが来る頃には起こしてください……腹実を出す……方法が……ありますから……」
母タークが父ガリウスの腕の中で目を閉じている。このまま本国へ向かうようだった。ジーンは神癒を終えたソニンティアムに礼を告げると、地下のポートに転移すると本国に行ってしまう親族に頭を下げる。
「ありがとうございます。お母さん、お父さんたち」
何十年ぶりに口にした平らで真っ直ぐな言葉だった。
白いもやの中にずっといたような気がする。もう、一度ジーンの金の瞳が見たくて薄目を開いてジーンの姿を探した。ジーンは軍服のままベッドの横の椅子に座り、ぼんやりと宙を見つめていた。光が差し込んで金髪がキラキラ光りまるで神様か何かのようだ。
「ジーン……は、綺麗ですね……」
僕が乾いた喉に唾を何度か送りそう告げると、ジーンがびっくりした顔で振り向きベッドの上の僕に抱きつき背中を撫でる。
「アキラ、良かったっ!痛いところや、苦しいところは?」
ジーンが布団を剥いであちこち触ってくる。くすぐったいし身体を捩りながら、
「ーーありません、あれ……」
答えてから、僕は何かを忘れているような気がして動きを止めた。
最後の戦いで僕はハミルさんに何かの毒を飲まされて……
「ジーン、ハミルさんは?みんなは?国はどうなったんですか?」
ジーンは僕の頭を撫でながら、
「……ハミルは両親が眠る坑道に埋蔵したよ。一緒に眠っているからね、心配しないでくれないかな」
少し寂しそうな顔をしながら、そう話してくれた。
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