2 / 6
第2話 取られる
しおりを挟む
「神崎さん、ちょっとちょっと。」
その日のバイトを終え更衣室に向かう途中、店長に呼び止められた。
「神崎さん。ほら、今月の給与明細」
手渡された茶色い封筒を受け取り、私は店長の顔を見た。
「あ、店長、前々からお伝えしていましたが、来月の7月から9月までバイトを休ませてください」
「ああ、介護体験だったな。頑張ってこいよ」
しばらく寂しくなるなと言い残して、店長は現場に戻っていった。私は受け取った封筒を開けて、給与明細を確認した。わかってはいるが毎度見て、ため息をついてしまう。
「今月は積み立て税で8000円ももってかれてる…」
数年前、国の偉い人が『高校生に介護体験をさせよう』と言い出した。超高齢化社会を迎えた現代、働き盛りの若者だけでは介護の人手不足を補えなくなったのだ。もちろん当時は賛否両論だった。賛成側の意見として『就職してから若者がお年寄りへの対応に困らないように学習することができる。企業としても研修費を抑えられる。』、『核家族化により今の若者は、お年寄りとの接点がない。そのため、人生経験豊富なお年寄りとふれあう機会を構築することで、充実した人生を送れる。』などなど偉い人たちがそれぞれの立場から精いっぱいメリットを語った。いろんなことを言っていたが、要は若者にボランティアで介護をさせようということだった。
反対側の意見として『脱ゆとり教育、体育祭、受験など高校生のカリキュラムはすでにパンク状態である。これ以上、他のことに時間を割くのは現実的に不可能。』といった建設的な意見も飛び交った。
しかし、介護の担い手不足を解消しようとする国の意思のもと、助成金をばらまかれた。高校の経営者にしてみれば、少子化で子供がいなくなったから学生集めは年々激化している。そんななかで、国の政策は都合がよかったのだろう。金がもらえるとわかれば、われ先にと多くの高校がカリキュラムに介護体験実習を組み込んだ。その助成金でさえ元をたどれば私のバイト代でもあるというのに…
これにともない、校則も変化してきた。ブラック校則で有名だった『茶髪を黒染めに強要』も『茶髪はお年寄りが怖がる危険があるから』という大義名分のもと合法となった。これまで時代と共に自己表現とされてきたことが次から次へと禁止になっていった。すべてはお年寄りのためだった。
意識の高い高校生たちが「奨学金とバイト代で授業料を賄っている。介護をしている時間はない」と必死に署名活動を行った。当時はニュースでも取り上げられた。SNSを利用して、五万人分の署名をかき集め、文部科学省に提出した。しかし、文部科学省は『自分達が歳をとったときにありがたみがわかるから』と一蹴した。
このことで高校生たちは戦う威力を失った。そこまでしてもダメだったから何をしても無駄だという風潮が厚い雲のように高校生たちの心を覆った。今では不満を漏らすだけで精一杯だ。あげくに、介護体験を今しかできない貴重な体験とも言い出す輩まで現れた。
新制度が始まれば国の予算が問題になるはずだ。しかし、元からの計画だったのか、国は高校生に介護をさせるだけではあきたらず、新たに『積み立て税』なるものを作った。この税金は若いときに国に対して所得の一部を積み立てておき、年を取って働けなくなった際に支給されるというものだった。名前こそ違えど、国民年金そのものだった。
新しい税金制度ができようものなら、たいていデモ活動が起こるだろう。だが、積み立て税では「 若いときに国に対して所得の一部を積み立てておく 」が前提の税金なので『再雇用の老人たちからは徴収しない』という公約が掲げられた。そのため、老人たちは満足し、若者はもはや反対運動を起こす気力すらわかなかった。
このままでは老人達に潰される。自分がババアになるまで奴隷のように働かされる。きっと私が老人になったころには、年金の支給額は80歳からとなっているだろう。70過ぎまで健康で働けるなんて幸せなことだと宗教染みたことを言われるのだ。なんとしてでも今まで取られてきた分、ジジイとババアからむしりとってやりたいが、そんな方法思いつきもしなかった。
その日のバイトを終え更衣室に向かう途中、店長に呼び止められた。
「神崎さん。ほら、今月の給与明細」
手渡された茶色い封筒を受け取り、私は店長の顔を見た。
「あ、店長、前々からお伝えしていましたが、来月の7月から9月までバイトを休ませてください」
「ああ、介護体験だったな。頑張ってこいよ」
しばらく寂しくなるなと言い残して、店長は現場に戻っていった。私は受け取った封筒を開けて、給与明細を確認した。わかってはいるが毎度見て、ため息をついてしまう。
「今月は積み立て税で8000円ももってかれてる…」
数年前、国の偉い人が『高校生に介護体験をさせよう』と言い出した。超高齢化社会を迎えた現代、働き盛りの若者だけでは介護の人手不足を補えなくなったのだ。もちろん当時は賛否両論だった。賛成側の意見として『就職してから若者がお年寄りへの対応に困らないように学習することができる。企業としても研修費を抑えられる。』、『核家族化により今の若者は、お年寄りとの接点がない。そのため、人生経験豊富なお年寄りとふれあう機会を構築することで、充実した人生を送れる。』などなど偉い人たちがそれぞれの立場から精いっぱいメリットを語った。いろんなことを言っていたが、要は若者にボランティアで介護をさせようということだった。
反対側の意見として『脱ゆとり教育、体育祭、受験など高校生のカリキュラムはすでにパンク状態である。これ以上、他のことに時間を割くのは現実的に不可能。』といった建設的な意見も飛び交った。
しかし、介護の担い手不足を解消しようとする国の意思のもと、助成金をばらまかれた。高校の経営者にしてみれば、少子化で子供がいなくなったから学生集めは年々激化している。そんななかで、国の政策は都合がよかったのだろう。金がもらえるとわかれば、われ先にと多くの高校がカリキュラムに介護体験実習を組み込んだ。その助成金でさえ元をたどれば私のバイト代でもあるというのに…
これにともない、校則も変化してきた。ブラック校則で有名だった『茶髪を黒染めに強要』も『茶髪はお年寄りが怖がる危険があるから』という大義名分のもと合法となった。これまで時代と共に自己表現とされてきたことが次から次へと禁止になっていった。すべてはお年寄りのためだった。
意識の高い高校生たちが「奨学金とバイト代で授業料を賄っている。介護をしている時間はない」と必死に署名活動を行った。当時はニュースでも取り上げられた。SNSを利用して、五万人分の署名をかき集め、文部科学省に提出した。しかし、文部科学省は『自分達が歳をとったときにありがたみがわかるから』と一蹴した。
このことで高校生たちは戦う威力を失った。そこまでしてもダメだったから何をしても無駄だという風潮が厚い雲のように高校生たちの心を覆った。今では不満を漏らすだけで精一杯だ。あげくに、介護体験を今しかできない貴重な体験とも言い出す輩まで現れた。
新制度が始まれば国の予算が問題になるはずだ。しかし、元からの計画だったのか、国は高校生に介護をさせるだけではあきたらず、新たに『積み立て税』なるものを作った。この税金は若いときに国に対して所得の一部を積み立てておき、年を取って働けなくなった際に支給されるというものだった。名前こそ違えど、国民年金そのものだった。
新しい税金制度ができようものなら、たいていデモ活動が起こるだろう。だが、積み立て税では「 若いときに国に対して所得の一部を積み立てておく 」が前提の税金なので『再雇用の老人たちからは徴収しない』という公約が掲げられた。そのため、老人たちは満足し、若者はもはや反対運動を起こす気力すらわかなかった。
このままでは老人達に潰される。自分がババアになるまで奴隷のように働かされる。きっと私が老人になったころには、年金の支給額は80歳からとなっているだろう。70過ぎまで健康で働けるなんて幸せなことだと宗教染みたことを言われるのだ。なんとしてでも今まで取られてきた分、ジジイとババアからむしりとってやりたいが、そんな方法思いつきもしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる