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二. ニーナの章
37. 幸せな夢
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夢を見た。
幸せな夢を。
私は15歳になった次の日に、家族に見送られながら冒険者としての最初の旅に出た。
装備はショートソードのみ。
学校卒業のお祝いに、ロルフ先生から贈られたものだ。
剣の腕には少し自信がある。
町の外を徘徊する野生のスライムを一人で倒す事だってできるのだから。
まずは冒険者としての登録に、ここより徒歩で1日かけてリンドグレンの貿易都市へ向かう。
そこで登録して初めて、冒険者として名乗るのを許されるのだ。
私よりひと月ほど先に、私の恋人があの都市へ行った。
すでに簡単な魔物討伐を何件か達成して、パーティを結成しているのだそうだ。
その人達と遠くに旅立つ前に、私と合流する手筈になっていて、街に宿を取って私を待つという手紙が数日前に届いた。
彼は少し無愛想だけど、私を一番に考えてくれる優しい人だ。
大きな都市で右も左も分からず初心者丸出しで一からスタートせずとも、彼が全て私に道を指し示してくれるのだ。
どうしてもワクワク感が収まらず、急く足を止められない。
長い道のりではあるが、早く恋人に会いたい。
私は走る。走って走って疲れ果て、野宿なのに眠りすぎてしまって。
結局貿易都市に辿り着いたのは、次の日の昼過ぎだったのだけれど。
無事に冒険者の登録を済ませ、彼に案内されたのは冒険者の集う酒場だった。彼が組んでいるというパーティを紹介してくれて、美味しい魚介類料理に舌鼓を打つ。
剣使いのアドリアン。槍使いのコルト。斧使いのロロ。弓使いのギャバンに、パーティの頭脳役のアイン。
そして、魔法使いの私の恋人と、ショートソードを装備した私。
酒場で意気投合した私を気に入ってくれて、彼らは私を仲間に入れてくれた。
全部で七名の大所帯パーティになった。
その夜、私と恋人は同じ宿の同じ部屋を取って、久しぶりの逢瀬を重ねている。
冒険者になるという事は、この世界では大人になると言う事。
危険と隣り合わせの冒険者家業、いつ命を落としてもおかしくない。
私と恋人は、この夜初めて交わった。
私は処女を捨て、身も心も恋人のものとなった。
とても痛くて、とても恥ずかしくて、とても愛おしかった。
抱き合う体温は互いに高く、何度も昇り詰めて私は熱に浮かされた。
彼の深い蒼い瞳が、私の心を満たした。
無口で無愛想な彼は相変わらず多くを語らなかったけど、懸命に腰を振って私を慈しむ姿が私をとても大事にしてくれているのだと感じるのは充分すぎて。
私は彼を求め、彼の薄い身体にしがみつく。
男性にしては華奢な体躯。
でも平らな胸といい、程よくついた筋肉といい、女の私とは全く違う身体に興奮する。
彼は女の私の柔らかさを堪能していて。
私達は時間も忘れて一晩中抱き合った。
もうこれ以上は無理だと笑う彼にキスをして、私達は乱れた格好のまま眠る。
私は彼の恋人として、パートナーとして、この長い旅路をいつまでも共に歩むのだ。
決して楽な道ではなかろう。勇者を介しているわけでもないのだ。一冒険者として、魔族と交戦することもあるだろう。
だけど彼と一緒ならば何もかも乗り越えられると思った。
それはワクワクするような未来で。
愛しています、×××さん。
幸せな夜だった。
幸せな夢だった。
――――そう、全てはただの夢。
「さあ、目覚めの時間だ、ニーナ」
なんてぶっきらぼうな言い方なの。
あなたは本当にどうしようもない人。
少しだけ微睡んでもいいじゃない。こんなに幸せな気分なのだから。
「身体が動くのなら早く起きろ、朝だ」
朝?
ああ、長かった夜がようやく明けたのね。
あなたがお休みしていた太陽を叩き起こして動かしてくれた。
「騎士団長様のお出ましだ。ロルフとかいうお前の団長も来てるぞ」
ロルフ団長!!
微睡みからいきなり現実に引っ張り上げられ、私は覚醒する。
「行くぞ、ニーナ。”同化”は成功した。死に損なって良かったな」
「あ……」
見慣れた私の部屋。
爽やかな朝の風が、開けっ放しの窓から吹いてくる。
眩しい程の朝日。
乱れたベッドの傍に、あの人がいた。
ローブを脱ぎ、動きやすそうな軽装姿で私を見下ろしている。
目を何度もパチクリさせている私を見て、彼は薄く笑った。
ちっとも面白くなさそうな顔で、笑った。
幸せな夢を。
私は15歳になった次の日に、家族に見送られながら冒険者としての最初の旅に出た。
装備はショートソードのみ。
学校卒業のお祝いに、ロルフ先生から贈られたものだ。
剣の腕には少し自信がある。
町の外を徘徊する野生のスライムを一人で倒す事だってできるのだから。
まずは冒険者としての登録に、ここより徒歩で1日かけてリンドグレンの貿易都市へ向かう。
そこで登録して初めて、冒険者として名乗るのを許されるのだ。
私よりひと月ほど先に、私の恋人があの都市へ行った。
すでに簡単な魔物討伐を何件か達成して、パーティを結成しているのだそうだ。
その人達と遠くに旅立つ前に、私と合流する手筈になっていて、街に宿を取って私を待つという手紙が数日前に届いた。
彼は少し無愛想だけど、私を一番に考えてくれる優しい人だ。
大きな都市で右も左も分からず初心者丸出しで一からスタートせずとも、彼が全て私に道を指し示してくれるのだ。
どうしてもワクワク感が収まらず、急く足を止められない。
長い道のりではあるが、早く恋人に会いたい。
私は走る。走って走って疲れ果て、野宿なのに眠りすぎてしまって。
結局貿易都市に辿り着いたのは、次の日の昼過ぎだったのだけれど。
無事に冒険者の登録を済ませ、彼に案内されたのは冒険者の集う酒場だった。彼が組んでいるというパーティを紹介してくれて、美味しい魚介類料理に舌鼓を打つ。
剣使いのアドリアン。槍使いのコルト。斧使いのロロ。弓使いのギャバンに、パーティの頭脳役のアイン。
そして、魔法使いの私の恋人と、ショートソードを装備した私。
酒場で意気投合した私を気に入ってくれて、彼らは私を仲間に入れてくれた。
全部で七名の大所帯パーティになった。
その夜、私と恋人は同じ宿の同じ部屋を取って、久しぶりの逢瀬を重ねている。
冒険者になるという事は、この世界では大人になると言う事。
危険と隣り合わせの冒険者家業、いつ命を落としてもおかしくない。
私と恋人は、この夜初めて交わった。
私は処女を捨て、身も心も恋人のものとなった。
とても痛くて、とても恥ずかしくて、とても愛おしかった。
抱き合う体温は互いに高く、何度も昇り詰めて私は熱に浮かされた。
彼の深い蒼い瞳が、私の心を満たした。
無口で無愛想な彼は相変わらず多くを語らなかったけど、懸命に腰を振って私を慈しむ姿が私をとても大事にしてくれているのだと感じるのは充分すぎて。
私は彼を求め、彼の薄い身体にしがみつく。
男性にしては華奢な体躯。
でも平らな胸といい、程よくついた筋肉といい、女の私とは全く違う身体に興奮する。
彼は女の私の柔らかさを堪能していて。
私達は時間も忘れて一晩中抱き合った。
もうこれ以上は無理だと笑う彼にキスをして、私達は乱れた格好のまま眠る。
私は彼の恋人として、パートナーとして、この長い旅路をいつまでも共に歩むのだ。
決して楽な道ではなかろう。勇者を介しているわけでもないのだ。一冒険者として、魔族と交戦することもあるだろう。
だけど彼と一緒ならば何もかも乗り越えられると思った。
それはワクワクするような未来で。
愛しています、×××さん。
幸せな夜だった。
幸せな夢だった。
――――そう、全てはただの夢。
「さあ、目覚めの時間だ、ニーナ」
なんてぶっきらぼうな言い方なの。
あなたは本当にどうしようもない人。
少しだけ微睡んでもいいじゃない。こんなに幸せな気分なのだから。
「身体が動くのなら早く起きろ、朝だ」
朝?
ああ、長かった夜がようやく明けたのね。
あなたがお休みしていた太陽を叩き起こして動かしてくれた。
「騎士団長様のお出ましだ。ロルフとかいうお前の団長も来てるぞ」
ロルフ団長!!
微睡みからいきなり現実に引っ張り上げられ、私は覚醒する。
「行くぞ、ニーナ。”同化”は成功した。死に損なって良かったな」
「あ……」
見慣れた私の部屋。
爽やかな朝の風が、開けっ放しの窓から吹いてくる。
眩しい程の朝日。
乱れたベッドの傍に、あの人がいた。
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目を何度もパチクリさせている私を見て、彼は薄く笑った。
ちっとも面白くなさそうな顔で、笑った。
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