蒼淵の独奏譚 ~どこか壊れた孤高で最強の魔法使いがその一生を終えるまでの独奏物語~

蔵之介

文字の大きさ
104 / 170
三. セトの章

20. 災厄から二年目の彼らの目的 ―回想―

しおりを挟む
「セト。ちまちまところすだけなのは、じょうかになりません」

 災厄から二年後、ちっとも変化のない行商人はニコニコと笑顔を張り付かせたまま、そう言った。

「君は人間を滅ぼしたいのかい?君が今、面と向かって話す僕だって、人間だよ」

 行商人は言う。僕のような彼らの協力者は他にもいるのだと。
 それらに同じ質問を投げかけたのだそうだ。だけど大した回答を得られなかったと嘆き、僕の所に現れたようである。

「白いモヤのあれは、人の世界で怒れる神グレフと呼ばれているよ。まさに天から墜ちてきた異形の神。人如きの力ではどうにもできない存在だ」
「にんげんのよびななんてどうでもいいことです。わたしはじょうかをすすめたい」

 グレフはまさしく人の脅威となった。
 剣も斧も槍も弓も、魔法ですら通じない。
 あんなのがそこら辺をウロウロしていて、思うように復興が進まないのも当たり前だろう。

 僕は行商人の言う「浄化」とは、マナを保持する人間の滅亡だと捉えていたけれど、どうやら本意は違うようである。
 相変わらず間延びした舌足らずで喋るし、的を得ずに大事な事は言わないしで真意を探るのが難しいのだ。

「この世界にマナは充満しているよ。いくらマナを循環させていた創造神を殺したとしてもね」

 人間だけではない。この世の全てにマナは宿っている。
 生き物は全部だ。
 大地、水、天。
 動物、植物。その辺の石ころにでさえも。

 彼らと付き合って二年。
 ヴァレリの町は今、労働者階級の移住者を受け入れている。厳選して、だけどね。
 そろそろグレフの特性を掴み、上手く掻い潜ってこの町に自力でやってくる人達が増え始めてきたからだ。

「旅人は受け入れる。いずれ騎士団も《王都》を目指してやってくるだろうしね。彼らから外貨を得るのさ。それには労働力がいる。元々僕らがやっていたアコギな商売を再開するんだよ」
「さばくにひとをいれるのですか」
「うん。どうせ越える事は出来ないんだ。何度でもチャレンジすればいい。それは僕の知った事じゃないよ」
「さばくはじょうかがすすんでいます。あまりけがれをもちこみたくありません」
「万が一、砂漠を越えて《王都》に辿り着く不穏分子が現れるかもしれないから?砂漠は君たちのだものね」
「ひとのこうどうはよめなせん。たんじゅんなようでふくざつです」
「違う違う、単純さ。人はただ『欲』の赴くまま、生きているだけだよ」

 行商人の目的は『浄化』である。
 この世界の真たるエネルギーである真霊力マナは、彼らにとってはらしい。

 人間はそこに生きる原住民。彼らからしてみれば、生殺与奪すらどうでもいい存在なのだと。
 僕らで例えるならば、虫のようなものか。
 ウザいし気持ち悪いけど、そこらへんにいてもどうでもいい存在だ。
 つまり、彼らにとって人間の生き死には関係ない。世界に漂う「マナ」さえなくせばそれでいいのだったのだ。


「さばくにいたもうひとつのクズはひつようありませんね」
「ああ、あの蛮族ね。まだ砂漠にいたんだ」
「はい。やくにたたないのでほうちしていました」
「砂漠から出られず、食料も尽きる。彼らが襲っていた遊牧民や旅人ももういないだろうし、もっと凶悪化しているかもね」

 ならばこのまま継続して放置だ。いずれ自滅するだろう。
 一応、様子を見に行ってもいいかもしれないね。あの時、僕らを襲った恐怖は未だ忘れていないのだから。

 ところで《王都》を占拠した行商人らが、あそこで何をしているのか、中の様子がどうなっているのか等は分からない。当の行商人も言わないからだ。
 もしかすると知らない可能性もある。
 ただ浄化せよと、彼らの本当の雇い主から厳命されているだけで。

「ならばおしえなさい。すみやかにじょうかするにはどうすればいいか」
「そうだね…」

 僕は考える。
 全ての物にマナが宿るのなら、マナを根本から失くしてしまえばいい。
 領民と他の人たちを区別するために僕らが飲み込んだ黒い粒の塊は、僕らのマナを吸収する効果がある。
 それを飲んで2年。僕らは普通に暮らし、別段不都合は感じていないのだ。

「あの粒、グレフの一部って言ってたよね。それ、利用できないかな」

 人間はマナが無くても順応した。それは僕らが証明している。
 彼らがこの世からマナというエネルギーをゼロにしても、僕らは共存できる道があるのだ。

「思い出してごらん。人の最初の欲を。人が…そして生き物が絶対に必要とするのものだよ」
「さいしょのよく…たべものですね」
「そうだよ、よくできたね。その通り、一から食べ物を造ればいいのさ。それも《中央》から離れた、まだ復興のままならない田舎村なんか丁度いいね」
「ほう」
「マナを最初から宿していない作物だよ。君らの核を栄養にしてね」

 マナを宿さない作物を食し、人の中身を徐々に入れ換えていけばいい。
 長い年月はかかるだろう。作物をゼロの状態から育てるのだから当たり前である。

「地震と黒い雨は、大地を変えた。復興できずに死にゆく田舎の村は、救済を待ち望んでいるはずだ。藁をも掴むだろうね。君らは彼らに作物を育てさせ、それを食わせ、少しずつコントロールしていくんだよ」

 余った作物は輸出すればもっと捗るだろう。
 そうして気付かぬうちに、人は彼らに従属化されるのだ。

「僕らが穢れていなければ、君らはそれでいいんでしょう?敢えて殺す必要もないよね」
「はい。じょうかすればいいだけのはなしですから。セトのあんはきにいりました。ほかのくずとは、やはりちがいますね」


 行商人は数を増やし、僕の進言を聞き入れて世界に散った。
 《中央》の目も届かなそうなド田舎の、排他的で団結力だけは無駄にある集落の中で、マナを保持しない作物を育てる為に。

 そこで僕は初めて知った。
 彼を含め、《王都》を占拠した彼の仲間たちはこの地に降り立ってから、何も食していない事実を。

「すごいね。食べなくても平気なんだ」
「ひとがマナとよぶけがれをじょうかし、そのかすをたべていますよ」

 だから僕の案は即決され、すぐさま行動に移った。彼らも生き物なのだ。霞を食べるように今までひもじい思いをしてきたらしい。

 腹を空かしているならば作ればいいのにと思う。それまでただ人類の土地を侵略するだけに留まり、何もしていなかったなんて阿呆すぎる。
 彼らは「生活」する術を余りにも知らない。この地に降り立った割に順応していない。

 分からなさ過ぎるのだ。
 天から墜ちてきた彼らは一体何をしに、この世界にやってきたのだろうか。


「《王都》にいた人間は何を食べているの?ちゃんと生きてるんだよね?」
「しりません。わたしはそこにいないのですから」

 行商人は常に出ずっぱりである。僕の町だけではなく、様々な場所を訪れているようで、最近は僕と会話する頻度も少なくなった。

 白いモヤの化け物――グレフを栄養分とし、この世界に既存する種を使って作物を作る。
 芽や茎、葉は光合成を行い、マナのない空気を排出するだろう。
 人や家畜はその作物を食べ、空気も少しずつ変えられていく。

 まあ、全てのマナを失くすには気の遠くなる時間が必要だと思うけれどね。そこまで面倒を見るつもりはないから正直、知った事じゃないよ。


 行商人はたくさんいた。
 一番最初に僕が選んだ装いをして、皆同じ格好で同じ顔をしていた。
 だから今まで僕が話していたが分からなくなった。
 どんな彼が来てもいつものように話はするけれど、数年を共に過ごした変わり種の友人が何だか失われた気がして、徐々に疎遠になっていったのである。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

処理中です...