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三. セトの章
21. 災厄から六年目の承認欲求 ―回想―
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「君たちは人間を模倣しているの?」
災厄から6年。
僕は15歳になり、成人した。
僕の成人式は大々的に執り行われ、要所から名のある著名人や有力者が集まり祝ってくれた。
僕はヴァレリの次期当主として帝王学を習得し、父に劣るとも勝る成長ぶりを発揮していた。
その夜、久々に僕を訪れた行商人に、僕は疑問を投げかけた。
彼は出会った時から一切変わらない。
僕は与えた黒の行商服が随分とくたびれていて、最初の彼だと思ったから嬉しくなって引き留めてしまったのだ。
「もほうとはなんですか」
「真似する、という事だよ」
6年の年月は更に情勢を変えた。
ヴァレリはかつてないほどに発展した。
もはやちょっとした都市といっても過言ではないだろう。
騎士団がほぼ駐屯しているし、旅人も商売人もこぞってやってきた。豊かなこの町で商売をするのは領主の許可がいるから厳しいけれど、どんな手を使ってでもこの町に住みたい人間が日々賄賂を運んでくる。
そうして外貨を定期的にふんだんに得られるこの町は、大規模な土木事業に取り組みだした。
《中央》に引けを取らない便利さを追求した結果を形にするのだ。
騎士団は何とか砂漠を越えんと我が町にやってくる。フレデリク将軍は王様の守護騎士だったから、とにかく是が非でも無事を確認し、《王都》を取り戻したいのだろう。
しかし砂漠は未だ、攻略されていない。
僕ですら砂漠の先を見られないのだ。
災厄から一度も、砂漠の先―――《王都》を見た者は誰も存在しない。
そういえば最近機会があって、6年前の砂漠で僕らを殺そうとしたあの野蛮な蛮族の住処に赴いたんだった。
騎士団が砂漠越えを何度もチャレンジするから、面白そうで着いていったらたまたま見つけた。
何があったのだろうか、石の強固な建物は厚さ数センチもないほどまでにペシャンコとなり、砂に埋もれて風景と同化していた。
中にいた蛮族もろとも潰されたのか、ひしゃげた骨も見つかった。長い間、人の気配はない。奴らは知らないうちに、自滅していた。
僕はホッとした。あいつらは危険極まりない野蛮人だったからね。砂漠の憂いはまた一つ、消えたというワケだ。
僕らはしたたかに立ち回った。
一方で人類の脅威である怒れる神の通行を許してその関連者である行商人に手を貸し、また一方で騎士団にいい顔をして我が町に駐屯するのを歓迎し、神と共闘する準備や砂漠越えの手助けを請け負う。
どっちつかずの「コウモリ」とでも評しようかな。
僕自身は人類と彼らが戦争をして、どっちが勝っても構わないのだから。
騎士団が兵を起して人類が勝てば、僕は王家の血筋を引き継ぐ次代の王として君臨しよう。
彼らが返り討ちしてマナを失くした世にしても、僕は彼らの一部を飲み込んで身体に馴染ませているし、生き残った人類の王として立ち上がろう。
どちらにせよ、僕は損をしないのだ。
「セトはかわりませんね。それがさいぜんだとおもいこんで、あさましい」
「承認欲求が人よりも強いんだよ。そう思わなければ、夢なんて実現しない」
「しょうにんよっきゅう」
「内面な心を満たす欲の事さ。自分の存在を世界に認めて欲しいという気持ちだよ」
「わたしはあなたをみとめています。せとはりっぱなくずだと」
「そうだよ。それがどんな言葉であろうと褒められると嬉しい。人は常に強欲な生き物なんだよ」
《中央》では多くの人々が集まり、かつての《王都》や《貿易都市》を凌ぐ賑わいを見せていた。
僕らが食料や労働力を買うのも、《中央》から卸している。
今あの都市は、人や物資、食料。仕事、教育、娯楽など、あらゆるものが揃っていた。
そんな中、“ギルド”という組織が《中央》に発足する動きが出ている。
フレデリク将軍率いる騎士団の他にも力ある者が出てきたのか、噂では人外族のエルフ族長までもが将軍に賛同し、共に怒れる神への共闘を申し出たと聞く。
騎士団だけでは心許なかったのか。いや、確実に怒れる神に対抗する強固な組織を動かす為に、大それた大義名分で周囲を騙しているだけで、本当は権力をモノにしたいだけなのだろう。
力を付けられれば付けられるほど、厄介なのは間違いない。
僕は王となるべく、そういう風に立ち回り、町を造ってきた。
世界の中心は《王都》でも《中央》でもなく、僕の町であるべきなのだ。
多勢に無勢というじゃないか。
ヴァレリと中央の面積は雲泥の差。人の数も言わずもがなである。
どうせ寄せ集めの烏合の衆だが、そんなのでも一気に攻められたら負けるのは必定。
だから僕は自治権を主張し続けなければならない。
この町は砂漠を目の前に都合の良い立地条件だ。
フレデリク将軍はもう目を付けている。この町を欲しいと、手中に収め戦争の足掛かりにしたいといつか言ってくるに違いない。
「収穫は順調みたいだね。たくさんの「君」が、毎日僕の町を通って行くよ」
荷台を引いて、えっちらおっちらと黒の行商人が収穫物を《王都》に運び、砂漠に消えていく。
連日連夜、休みなくだ。
「それに最近は食べ物だけじゃないね。別の誰かが進言でもしたのかな?人間の赤ん坊も混じっているようだけど」
「かずをふやすのは、ひとのげんしてきなほんのうだとしりました。けがれていないものは、はいじょするひつようはありません」
「成程…、男女の営みを知ったか。それも僕らのようにマナを保持しない人間同士を掛け合わせ、出来た子供が遺伝した、と」
「ひとはめんどくさいものですね。つがいがいなければかずをふやせないなんて」
農耕して食物を作り、ひとの要望を聞き入れてその意にそぐおうと努力し、人を掛け合わせて子を成す。
まさに生命の循環を、彼らは意図せずに担っていた。
「だから人を真似ているのかって聞いたんだよ」
「そうかもしれませんね」
「へえ…。でもあんまり非人道的な事をやり過ぎると、《中央》に目を付けられて台無しになるよ。こんな地にまで、【桃源郷】の噂は流れてきているんだから」
彼らはこの町を中間点として通るだけ。
その荷の中身と、彼らの行先を誰かに咎められないように、若干の便宜を図ってやっているだけ。
後はノータッチだ。
僕は自己実現の欲求を満たすので忙しい。
いつの間にか彼らは人間の世界に入り込んで生態を深く学び、模倣するかのように振舞い始めていたのには驚いた。
「セトのようなたくさんのクズにおしえてもらったからです。わたしたちはじょうかをすすめるのに、こうりつのよいほうほうをとりました」
人間が肺で呼吸し、心臓の脈動で生きている事さえ知らなかった彼らだったのに。
今やヒトを人間で利用するまでになっていた。
【桃源郷】の噂もその一つだ。
限られた人間を、彼らが浄化を進める土地へ誘い出し、拉致しているようだ。
そこで何が行われているかまでは知らない。
僕らの町こそ、十二分に恵まれているからだ。あくせく働かずとも、半自動的に入ってくる外貨だけで領民の生計を賄えているから、そんな噂に乗る必要なんてなかったからね。
「そう、営みを覚えたんだね。セックスはいいものだよ。子を成す為の本能的な行為なのに、副作用として快感まで感じさせる。セックスに興じている時の脳内麻薬は、他のどの快楽より勝ると僕は思うよ」
「せいよく」
「ひとの、最も原始的な欲…だね。さっき君が言った通り、人は子孫を残す為に交わって数を増やす。それを苦痛にさせない為に、神は性交に快楽を与えてくれたのかもしれないね」
そこで行商人はパンと両手を合わせて叩いた。
未だかつて見たことのない、実に人間的な動作である。
「セト。わたしにはみほんがひつようです」
「え?」
「わたしにみせなさい。そのかいらくとやらを」
「……は?」
人間が性交する事で精子と卵子が受精して子種を作り、数か月後に胎から産みだす事は理解しているようだ。
必ずしも交わったからといって百発百中、腹がでかくなるわけでもない事も。
「ほかのクズはおしえてくれません。クズなのにおかしなはなしです。セトは、りっぱなクズですから、わたしにかいらくをみせてくれるでしょう」
だが、やり方を知らなかった。
今すぐにでも教科書を引っ張り出して、男女の違いや妊娠に至る経緯を図説入りで説明してやろうかと思ったけれど、彼の知りたい事はそうじゃないだろう。
もっと原始的な、理屈もクソもない快楽の享受だ。
「まさか僕が君の前で、公開セックスでもしろと言うのかい?それを見せて、君はどうしたいの。そもそも君らに、快楽なんて感覚があるのかすら疑わしいのに」
「わたしたちもつくります」
「え?子供を?」
「はい」
ニコニコと能面を張り付けた目の奥底で何を考えているのやら。
実際は何も考えて―――いや、思考すらしていないんだろうけども。
こうして成人を迎えた一発目の記念すべき僕の愉しみの宴は、彼を交えた公開セックスで幕を上げる羽目となった。
極上の女を抱こうと思っていてそれなりに準備もしていたのに。何が悲しいかって、どんな痴態も気にしない幸薄そうな商売女を引っかけて、思うがままに腰を振ってやったよ。もう、ヤケクソだった。
彼は興味深そうに僕らの獣のような交わりを見ていて、見られている事に興奮した女が喘いで喘いで大変だった。
興に乗った女が、じっと座って僕らを観察していた彼をこの宴に誘ったのも勘弁してほしかった。
無理やり黒衣を脱がせたその中身が、性器も乳首も臍も何もかもがないツルツルで、ビックリした女が逃げようとした時に余りに叫ぶものだから白いモヤのあの化け物が現れて、サクっと殺してしまったのだ。
もはや溜息すらも出なかった。
彼は股を開いたまま死んだ女の膣と、情事の愛液をもぎり取って満足げに帰っていった。
「セト、ゆういぎなじかんでしたよ。よくわかりました」
「それはどうも…」
記念すべき成人の日に、裸一丁で女の死体と血みどろのシーツを始末する僕の気持ちを少しでも考えた事があるかい?
父は事情を知っているから死体処理には困らなかったけれど、精神的にはクるものさ。
結局、あの時の行為が彼らにどう伝わり、どう活用されたのかまでは知らない。
嫌な思い出だけが残った夜だった事だけは確かだけれども。
災厄から6年。
僕は15歳になり、成人した。
僕の成人式は大々的に執り行われ、要所から名のある著名人や有力者が集まり祝ってくれた。
僕はヴァレリの次期当主として帝王学を習得し、父に劣るとも勝る成長ぶりを発揮していた。
その夜、久々に僕を訪れた行商人に、僕は疑問を投げかけた。
彼は出会った時から一切変わらない。
僕は与えた黒の行商服が随分とくたびれていて、最初の彼だと思ったから嬉しくなって引き留めてしまったのだ。
「もほうとはなんですか」
「真似する、という事だよ」
6年の年月は更に情勢を変えた。
ヴァレリはかつてないほどに発展した。
もはやちょっとした都市といっても過言ではないだろう。
騎士団がほぼ駐屯しているし、旅人も商売人もこぞってやってきた。豊かなこの町で商売をするのは領主の許可がいるから厳しいけれど、どんな手を使ってでもこの町に住みたい人間が日々賄賂を運んでくる。
そうして外貨を定期的にふんだんに得られるこの町は、大規模な土木事業に取り組みだした。
《中央》に引けを取らない便利さを追求した結果を形にするのだ。
騎士団は何とか砂漠を越えんと我が町にやってくる。フレデリク将軍は王様の守護騎士だったから、とにかく是が非でも無事を確認し、《王都》を取り戻したいのだろう。
しかし砂漠は未だ、攻略されていない。
僕ですら砂漠の先を見られないのだ。
災厄から一度も、砂漠の先―――《王都》を見た者は誰も存在しない。
そういえば最近機会があって、6年前の砂漠で僕らを殺そうとしたあの野蛮な蛮族の住処に赴いたんだった。
騎士団が砂漠越えを何度もチャレンジするから、面白そうで着いていったらたまたま見つけた。
何があったのだろうか、石の強固な建物は厚さ数センチもないほどまでにペシャンコとなり、砂に埋もれて風景と同化していた。
中にいた蛮族もろとも潰されたのか、ひしゃげた骨も見つかった。長い間、人の気配はない。奴らは知らないうちに、自滅していた。
僕はホッとした。あいつらは危険極まりない野蛮人だったからね。砂漠の憂いはまた一つ、消えたというワケだ。
僕らはしたたかに立ち回った。
一方で人類の脅威である怒れる神の通行を許してその関連者である行商人に手を貸し、また一方で騎士団にいい顔をして我が町に駐屯するのを歓迎し、神と共闘する準備や砂漠越えの手助けを請け負う。
どっちつかずの「コウモリ」とでも評しようかな。
僕自身は人類と彼らが戦争をして、どっちが勝っても構わないのだから。
騎士団が兵を起して人類が勝てば、僕は王家の血筋を引き継ぐ次代の王として君臨しよう。
彼らが返り討ちしてマナを失くした世にしても、僕は彼らの一部を飲み込んで身体に馴染ませているし、生き残った人類の王として立ち上がろう。
どちらにせよ、僕は損をしないのだ。
「セトはかわりませんね。それがさいぜんだとおもいこんで、あさましい」
「承認欲求が人よりも強いんだよ。そう思わなければ、夢なんて実現しない」
「しょうにんよっきゅう」
「内面な心を満たす欲の事さ。自分の存在を世界に認めて欲しいという気持ちだよ」
「わたしはあなたをみとめています。せとはりっぱなくずだと」
「そうだよ。それがどんな言葉であろうと褒められると嬉しい。人は常に強欲な生き物なんだよ」
《中央》では多くの人々が集まり、かつての《王都》や《貿易都市》を凌ぐ賑わいを見せていた。
僕らが食料や労働力を買うのも、《中央》から卸している。
今あの都市は、人や物資、食料。仕事、教育、娯楽など、あらゆるものが揃っていた。
そんな中、“ギルド”という組織が《中央》に発足する動きが出ている。
フレデリク将軍率いる騎士団の他にも力ある者が出てきたのか、噂では人外族のエルフ族長までもが将軍に賛同し、共に怒れる神への共闘を申し出たと聞く。
騎士団だけでは心許なかったのか。いや、確実に怒れる神に対抗する強固な組織を動かす為に、大それた大義名分で周囲を騙しているだけで、本当は権力をモノにしたいだけなのだろう。
力を付けられれば付けられるほど、厄介なのは間違いない。
僕は王となるべく、そういう風に立ち回り、町を造ってきた。
世界の中心は《王都》でも《中央》でもなく、僕の町であるべきなのだ。
多勢に無勢というじゃないか。
ヴァレリと中央の面積は雲泥の差。人の数も言わずもがなである。
どうせ寄せ集めの烏合の衆だが、そんなのでも一気に攻められたら負けるのは必定。
だから僕は自治権を主張し続けなければならない。
この町は砂漠を目の前に都合の良い立地条件だ。
フレデリク将軍はもう目を付けている。この町を欲しいと、手中に収め戦争の足掛かりにしたいといつか言ってくるに違いない。
「収穫は順調みたいだね。たくさんの「君」が、毎日僕の町を通って行くよ」
荷台を引いて、えっちらおっちらと黒の行商人が収穫物を《王都》に運び、砂漠に消えていく。
連日連夜、休みなくだ。
「それに最近は食べ物だけじゃないね。別の誰かが進言でもしたのかな?人間の赤ん坊も混じっているようだけど」
「かずをふやすのは、ひとのげんしてきなほんのうだとしりました。けがれていないものは、はいじょするひつようはありません」
「成程…、男女の営みを知ったか。それも僕らのようにマナを保持しない人間同士を掛け合わせ、出来た子供が遺伝した、と」
「ひとはめんどくさいものですね。つがいがいなければかずをふやせないなんて」
農耕して食物を作り、ひとの要望を聞き入れてその意にそぐおうと努力し、人を掛け合わせて子を成す。
まさに生命の循環を、彼らは意図せずに担っていた。
「だから人を真似ているのかって聞いたんだよ」
「そうかもしれませんね」
「へえ…。でもあんまり非人道的な事をやり過ぎると、《中央》に目を付けられて台無しになるよ。こんな地にまで、【桃源郷】の噂は流れてきているんだから」
彼らはこの町を中間点として通るだけ。
その荷の中身と、彼らの行先を誰かに咎められないように、若干の便宜を図ってやっているだけ。
後はノータッチだ。
僕は自己実現の欲求を満たすので忙しい。
いつの間にか彼らは人間の世界に入り込んで生態を深く学び、模倣するかのように振舞い始めていたのには驚いた。
「セトのようなたくさんのクズにおしえてもらったからです。わたしたちはじょうかをすすめるのに、こうりつのよいほうほうをとりました」
人間が肺で呼吸し、心臓の脈動で生きている事さえ知らなかった彼らだったのに。
今やヒトを人間で利用するまでになっていた。
【桃源郷】の噂もその一つだ。
限られた人間を、彼らが浄化を進める土地へ誘い出し、拉致しているようだ。
そこで何が行われているかまでは知らない。
僕らの町こそ、十二分に恵まれているからだ。あくせく働かずとも、半自動的に入ってくる外貨だけで領民の生計を賄えているから、そんな噂に乗る必要なんてなかったからね。
「そう、営みを覚えたんだね。セックスはいいものだよ。子を成す為の本能的な行為なのに、副作用として快感まで感じさせる。セックスに興じている時の脳内麻薬は、他のどの快楽より勝ると僕は思うよ」
「せいよく」
「ひとの、最も原始的な欲…だね。さっき君が言った通り、人は子孫を残す為に交わって数を増やす。それを苦痛にさせない為に、神は性交に快楽を与えてくれたのかもしれないね」
そこで行商人はパンと両手を合わせて叩いた。
未だかつて見たことのない、実に人間的な動作である。
「セト。わたしにはみほんがひつようです」
「え?」
「わたしにみせなさい。そのかいらくとやらを」
「……は?」
人間が性交する事で精子と卵子が受精して子種を作り、数か月後に胎から産みだす事は理解しているようだ。
必ずしも交わったからといって百発百中、腹がでかくなるわけでもない事も。
「ほかのクズはおしえてくれません。クズなのにおかしなはなしです。セトは、りっぱなクズですから、わたしにかいらくをみせてくれるでしょう」
だが、やり方を知らなかった。
今すぐにでも教科書を引っ張り出して、男女の違いや妊娠に至る経緯を図説入りで説明してやろうかと思ったけれど、彼の知りたい事はそうじゃないだろう。
もっと原始的な、理屈もクソもない快楽の享受だ。
「まさか僕が君の前で、公開セックスでもしろと言うのかい?それを見せて、君はどうしたいの。そもそも君らに、快楽なんて感覚があるのかすら疑わしいのに」
「わたしたちもつくります」
「え?子供を?」
「はい」
ニコニコと能面を張り付けた目の奥底で何を考えているのやら。
実際は何も考えて―――いや、思考すらしていないんだろうけども。
こうして成人を迎えた一発目の記念すべき僕の愉しみの宴は、彼を交えた公開セックスで幕を上げる羽目となった。
極上の女を抱こうと思っていてそれなりに準備もしていたのに。何が悲しいかって、どんな痴態も気にしない幸薄そうな商売女を引っかけて、思うがままに腰を振ってやったよ。もう、ヤケクソだった。
彼は興味深そうに僕らの獣のような交わりを見ていて、見られている事に興奮した女が喘いで喘いで大変だった。
興に乗った女が、じっと座って僕らを観察していた彼をこの宴に誘ったのも勘弁してほしかった。
無理やり黒衣を脱がせたその中身が、性器も乳首も臍も何もかもがないツルツルで、ビックリした女が逃げようとした時に余りに叫ぶものだから白いモヤのあの化け物が現れて、サクっと殺してしまったのだ。
もはや溜息すらも出なかった。
彼は股を開いたまま死んだ女の膣と、情事の愛液をもぎり取って満足げに帰っていった。
「セト、ゆういぎなじかんでしたよ。よくわかりました」
「それはどうも…」
記念すべき成人の日に、裸一丁で女の死体と血みどろのシーツを始末する僕の気持ちを少しでも考えた事があるかい?
父は事情を知っているから死体処理には困らなかったけれど、精神的にはクるものさ。
結局、あの時の行為が彼らにどう伝わり、どう活用されたのかまでは知らない。
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