蒼淵の独奏譚 ~どこか壊れた孤高で最強の魔法使いがその一生を終えるまでの独奏物語~

蔵之介

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三. セトの章

48. 僕が愛した人

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 互いに火照り、前戯は充分堪能した。あれほど快楽に身を捩らせていたのだ。下は洪水のように濡れて、僕を受け入れる準備は万端だと思った。

 嬉々として今まで一切触れなかった下腹部のさらに下の、金色の茂みに手を差し入れた時だった。
 やんわりとその手を止められた。
 それは彼女からの、はじめての拒絶だった。

「そこは、だめだ」

 この期に及んで怖気付いたのか。
 今更後には引けぬというのに。

「どうして?怖くなっちゃった?大丈夫だよ、僕は上手い。君を傷付ける事は、絶対にしないと約束するよ」

 張り詰めた股間を握らせ、僕の余裕の無さを教えてあげた。
 こんなにも君に欲情している。君の所為で大きく脈打っているのだからと囁いた。
 だけど彼女は頷かなかった。頑なだった。
 ベッドから身を起こし、眉尻を下げて僕を見た。

「こんな事をしておいて説得に欠けるが、実はこれでもみさおを立てている身でな。を暴かせるわけにはいかないんだよ」
「は、初耳だよ!それに操って…相手は誰?もしかして、アッシュとか言うんじゃないだろうね!」

 淫乱で男の扱いがやたらに上手すぎる彼女が貞操とは、質の悪い冗談かと思った。
 だけどその顔は真剣そのもので、嘘を吐いているようには見えない。
 怖気付いたわけでもなさそうで、話の最中に肢体を撫でてあげると、それにはちゃんと反応してくれるのだ。

「アッシュとは、まあただれた関係ではあるがそういうものじゃない。あれの気持ちは純粋だ。ユリウスは完全に支配欲だがな。あいつは自分が俺を所有していると勝手に思い込んでいるだけだ」
「じゃあ、誰…って、まさか…あの“紡ぎの塔”のギルドマスターだったりする?」

 嫌な予感ほど的中するのはなんでだろうね。
 そのまさかだったのだ。

 占い師は笑う。艶やかに。

「俺とあの男とはいわば一心同体の間柄。この躰の髪の毛一本に至るまで、全部あの男マスターのものだ。特にここは、俺にもどうしようもない。俺自身の指とて、そこに立ち入る事は許されていないのだから」
「そんな……」

 また、ギルドマスターとか抜かす野郎の名が出てきた。
 ニーナといい、テルマ嬢といい、この人もアッシュも将軍も!
 その男の存在が間接的に僕の邪魔をする。

 一体なんだというのだ。
 そのギルドマスターとやらは、そんなにも女を虜にするほどいい男だと言い張るのか。
 綺麗で完璧な占い師すら手玉に取って、支配下に置いて、自分はのうのうと《中央》で高みの見物か。
 吐き気がするくらい、ご立派な身分のようだこと。

「ねえ、そのマスターってどんな人?」
「……」
「ニーナはその人に惚れていたよ。フレデリク将軍も君に執着する一方で、本音はその人が好きなんだという口調だった。ふふ、将軍がゲイとは知らなかったけどね。それにテルマ嬢も一目置いてるし、そんなに凄い人なの?完璧な君を侍られるほど、強い人なの?」
「……」

 占い師は答えない。回答を拒否しているのではなく、どう答えるべきか即答を迷っているようだった。
 動じない彼女にしては、稀有な行動である。

「思い出したよ。ニーナはその男の事を、この世のものとは思えない美形だと言っていたんだ。それを聴いた時、同じ男として悔しくてね。君も僕からしてみれば想像を絶する美人さんだけど、君から見てもそのマスターさんは美しいと思う?僕よりも恰好良いのかな?」

 我ながら下らない質問だと思った。
 閨で交わすには相応しくないと分かっているのに、どうしても彼女の口から訊きたかった。
 僕に組み敷かれながら他の男を頭に浮かべるなんて言語道断。理不尽すぎる要求を彼女に求めた。
 嘘でもいい。僕の方が格好いいよと言って欲しくて。

 だけど彼女の口から出てきた言葉は、そのどれでもなかった。

「あんな顔、大嫌いだ。反吐が出るほどな」
「え?」
「嫌いすぎて何度も顔を切り刻んでやったよ。ズタズタに、何度も何度も顔を潰した。でも――」

 恐ろしい台詞をいとも簡単に言ってのけているのに、その表情は京々だ。
 美しさに影が宿り、神々しささえ感じる。

「外傷は負うが回復も早い。直ぐに元通りになるんだけどな。本当に、忌々しい」
「君は、ギルドマスターに囚われているのかい?不自由な目に遭っているのでは?」
「……言っただろ、俺の全てはあの男のものだと。俺はあれの一部に過ぎない」
「はあ…がっかりだな。君と交われると楽しみにしていたのに」
「それは、どうかな?」
「え?だって操を立てているんでしょう?君は貞操を固く守っているんじゃ…」

 占い師はそっと僕を押し倒した。
 顔に掛かる髪を一房掬い、口付ける。
 彼女はマスターのことなど忘れたように、瞬時に妖艶な顔に戻って僕に跨った。

 そして勃ち上がった僕の半身をやんわりと掴み、彼女の中心部ではなく、そのもっと奥の窪みにあてがったのである。

「前が駄目なら後ろが空いている。俺はむしろ、こっちの方が得意でな。お前を満足させられる自信はあるよ」
「お、お尻ってこと!?い、いや、まあ、それも悪くはないと思うけど…」

 双方の尻の肉は押し込むと跳ね返ってくるほど張りがある。
 誘われるまま割れ目の中に指を入れたら、生理的に濡れもしないのにしっとりと絡みついて離さなかった。

 ゴクリと思わず嚥下した生暖かい唾が喉を通り、僕はまた混乱してしまう。

 性技としてを使うことは、大いにある。一種の変態プレイをしている時に好んで弄ったり玩具を入れたりする程度だが、メインとしての挿入はあまりない。
 尻は本来入れる場所ではなく、出す場所だ。
 膣と違ってどれだけ愛撫しても濡れず、膣特有の脾肉を感じることもなければ、慣れていないと互いに痛くてそれどころではなくなる。

 それに尻には雑菌も多く、入念な準備を施さないと病気になる可能性も高い。生の挿入は危険だし、粘膜を刺激しすぎて痔となる場合もある。
 碌な知識もなく興味本位でやってのちに痛い目に遭うなんて事も珍しくない。

 男は快楽のもとである前立腺が尻の中のあるから、そこを刺激されると気持ちいいが、女の場合は何もない。
 尻の中はただの直腸であり、内臓なのだ。

 ここにきて及び腰になったのは僕の方だった。
 でも一物はしっかり反応しているんだから始末に負えない。

「じゃあ、一つ賭けをしようか」

 すりすりと腰を押し付け、占い師は言った。

「30秒だ。ここでお前を30秒以内に果てさせてやる。しっかり感じられるのを証明してやるよ」
「言うね、君。…僕はこれでも玄人だって何度言えば。ふふ、出来るものならやってみるといいよ。僕もこのままじゃあ、収まりがつかないし。でも、何を賭けてくれるのかな?」
「俺を。俺をお前にやる。その時は制約など構わず、好きにすればいい」
「…ふうん、君には不利な賭けだけど、僕が負けた場合はどうなるの?」

 面白くなってきた。
 彼女の真意は分からない。閨事ねやごとのちょっとした戯れなのかもしれないし、僕に内部を許せない詫びのつもりなのかもしれない。

 いずれにせよ、僕は既にノっていたのだ。

「俺にその身を、おとなしく預けて欲しい」
「願っても無い事だけど、それだけでいいの?」
「ああ、構わない。絶対的な快感を約束をしよう。お前は何をせずとも、そこに転がって快楽をひたすら追っていればいいだけだ。俺が何をしようと、その邪魔さえしなければ、な」

 意地悪そうに笑う顔も、神をも勝る美女が言うならば、それは神様以上の訓告となるのだ。

 僕は頷き、キスで賭けの同意を示してあげた。


 果たして30秒を待たずして、彼女に降参して平伏してしまうとは、全く想定外の何物でもなかったけれどね。




 身も心も、彼女に支配された。

 僕は約束通り大人しく、彼女の成すがままにされている。

 穴がどこであろうと、ちっとも気にならなかった。
 僕は彼女の体重を支えるだけで、実質何もしなくてよかった。
 本当に快楽を追っているだけでいいなんて、こんなに楽なセックスは初めてだった。

 僕は獰猛に彼女を求めた。
 愛は枯渇し、欲は迫りくる。自分ですらコントロール不能な欲情の波に襲われて、僕は息も絶え絶えりなりながらも彼女から与えられる快感に喘ぐばかりだ。

 怒涛のセックスは激しくて、小さな女の躰では身が持たないのではないか心配になる。それだけ健気に尽くす痴態に、僕は見惚れるのだ。

 僕はとっくに陥落している。
 彼女と初めて出会った時から…いや、フレデリク将軍から彼女の話を聴いた時から、多分恋をしていたんだろう。
 そして今、その恋は愛に成就する。

「君と結婚したいよ…」

 自惚れだろうか。それでも言わずにはいられなかった。

「言っていなかったけど、実は僕は高貴な生まれなんだ。君のマスターよりも、どんな人よりも僕は偉いんだよ。僕と一緒になれば、何でも望みは思いのままなんだよ」
「ほう?それは興味深いな」
「僕が特定の女性を選ぶなんて、とても珍しいんだよ。みんなその座を狙っているんだから。ねえ、二人でこの世界を支配しようよ。の力を借りてさ、ギルドなんて捨てて、いつまでも僕と抱き合って生きよう」
「……」
「僕は君が好きだよ。君と結婚したい。君は僕といるべきだし、誰にももう触れさせたくないよ。明日、結婚式を挙げよう。バージンロードを君は歩けるかな?父がいないのが残念だね、せっかく孫の顔を見せられると思ったのに。さあ、今すぐ結婚しよう?」

 うわ言のように、僕は彼女に愛を囁き続ける。
 そして占い師は腰を思い切りグラインドさせて、その愛に応えてくれるのだ。

 何度も何度も腰を打ち付けて、何度も何度も果てた。

 実のところ、抜かずの二発目までは気が乗ればいけるけど、三発目、四発目になると気持ちいいというよりは苦痛の方が勝る。
 散々使った股間は擦れて痛いし、腰も膝もイカれる。何より男はそうそう連続して勃起を保てないし、一度放つと結構満足で、そこから無意識に襲い来るいわゆる「賢者タイム」に微睡んでいたいと思い始めるのだ。

 その分、女はいつまでも気持ち良さを持続できるというし、達した快楽の度合いは男の数倍以上とも聞くから、本当に羨ましいと思う。

 なのに、何回ったか分からないくらい、僕は獣のような短い射精を繰り返している。
 一生終わらない快楽の攻めは、一種の拷問と同じだ。

 僕は彼女と交わりながら、多分数回は意識を飛ばしている。
 僕でも気付かないある瞬間から、セックスのやり方が変わっていた。

 色んな意味で限界だった。
 腰は砕けそうだし、股間の刺激が強すぎて激痛に変わる。達する度に弛緩を繰り返す身体は肉離れ寸前で、激しい呼吸は頭痛を引き起こす。
 身体中が悲鳴を上げている。精神的にも肉体的にも、僕はとっくに限界を迎えている。
 もうやめたい。もうこれ以上はきつくて堪らない。

「か、かんべんしてっ!!」

 情けない声が出た。
 しかし女の絶妙な腰の動きは止まらない。

 なにかがおかしいと、この時初めて気付いた。
 心と苦痛はリンクしているのに、身体は別だった。
 彼女だけが動いているかと思ったが、僕はやめてくれと叫びながら僕自身で腰を浮かしてへこへこしていたのだ。

「もう、何もでないから!」

 どれだけ達しようとも、もう何も出てこない。睾丸で精液が作られて溜まる前に、どんどん出されてしまうのだから当たり前だ。
 もう萎えてもいいはずなのに、どうしてか僕の半身は勃起が収まらない。

「つ、つらい!!た、たすけ…」

 いっそのこと、ちょん切って欲しいとさえ思った。
 僕の意思と、身体の反応はバラバラだ。
 こんなにも身体が言う事を聞かないなんて。

 身体が熱い。芯から熱い。
 ドキンドキンと自分の心臓の音がはっきりと聴こえる。ここで爆発してしまうんじゃないかと不安になるくらいに。

「ようやく…」

 占い師が何か喋っている。でも心臓の音が大きすぎて聴こえやしない。
 目も見えなくなった。眼前が真っ赤だ。
 ふと口の中に鉄臭さを感じて気付く。両の鼻の穴から血が滴り落ちている。

 これは、なんだ。
 こんな乱暴なセックスなんて知らない。こんなのは望んでなんかいない。

 舌が回らず、咀嚼もできないから唾がだらしなく垂れて首筋を濡らす。その不快感すらも身体は快感と捉えてしまい、ビクビクと波打つのだ。
 息を吐いた時に辛うじて言葉が出た。
 僕は懇願する。もうやめてほしいと。お願いだから、僕を解放してくれと。

「お前の心は限界でも、はまだまだ元気だぞ」
「変っ…なんだ!…くっ…どうして、萎えない!?」
「お前の内部なかにマナを断続的に与えているからだ」

 何を言っているか分からない。

「核が吸収するマナの許容量を超えて苦しんでいるのを、お前も間接的に味わっているのさ。引き摺りだせばこっちのもんだからな、わざとマナを与えてみたんだよ。そいつはセックスするか、マナを吸い取るかの二択しか能力がない。奴らにそうインプットされた行為をしているだけで、お前の意思なんて関係ない」
「意味がっ…あぁ!…分からない!!お願いだから、もうやめて…!!!」

 これじゃあ、どっちが犯されているか分かったものじゃない。

「抗うな。素直に意識を飛ばしてろ」
「……へ?」
「欲に従えば、今よりは楽になれるぞ」

 ふと、彼女の動きが止まった。
 僕はぜえぜえと息を吐きながら、ようやく訪れた静寂に歓喜する。
 鼻から流れる血を拭って声の主である占い師の顔を見上げたら、彼女は僕の上に跨った扇情的な恰好で、僕をじっと見つめていた。

 恐ろしいくらいの無表情で。

「…な、に…?」

 共に快楽を貪り尽くした同士とは思えない。
 それが散々尻を振り、僕を放そうとしなかったセックス中の女の面構えか。
 憎き相手に無理やり強姦させられた顔でもなく、愛してやまない男を想う顔でもない。

 ――刹那。

 僕は抗い難い眩暈と眠気に襲われたのである。

 機械人形のように、なんの感情も篭っていない蒼い瞳が、その辺に群がる虫ケラを見ているかのような視線で僕を見下ろしている。

「ぐっ!!…う……」

 抗うなんて到底無理な話だ。凄まじい精神力の持ち主でさえ、この眠気には勝てない絶対的な力があった。
 麻酔を静脈注射されると、瞬時に意識を失い痛みも感じることはないという。
 今の僕は、まさにそれだ。

 微睡みに落ちる寸前、心臓の辺りを桐で刺されたような、ツキリとした痛みを感じた。

「マナの同化は出来なかった。お前にマナは一つも残っていなかったからな。実験その二は失敗だったが、三つ目を試してみようと思う」
「……ぁ…」

 思考回路がぐちゃぐちゃだ。
 もう言葉すら発せない。

 眠い、痛い、きつい
 気持ちいい、気持ち悪い
 好き、愛してる。

 眠りたい。痛いのはいやだ。キツすぎる。
 気持ちいのは好き。気持ち悪いのは大嫌い。
 貴方が好きだ。結婚しよう、愛してる。

 ―――眠い。眠い。眠い。

 あらゆる感情がスパークし、耐えられなくなった僕は、呆気なく意識を手放す選択をする。
 意識を保って辛い思いをするのは、余程のマゾかただの馬鹿だ。

「あまりマナを与え過ぎてしまうと、それが死んでしまうかもしれん。それだと実験にならんし、依頼を放棄する事にもなる。だから、を施した。これで蟲が還る場所は無くなった。多分、お前だけは生きるだろう。俺の魔法が効いている間の一時的にはなるがな」

 ……

「それが本当にそうなるのか、俺は見てみたい」

 ズズと、結合が解かれる。
 彼女は何事も無かったかのような涼しい顔で、僕の汗と唾液に濡れたプラチナブロンドを一つに纏めた。
 未だ勃ち上がったままの半身を彼女は指で摘まんで、薄っすらと笑う。

「結界は、俺の痕跡そのものだ。再び目が覚めた時、奴らに出逢い訊いてみるといい。己が滅ぼされる理由をな。今度こそ、奴らはお前の前に現れるかもしれんぞ」

 占い師の低音は心地良い子守唄。
 その声色が先程までとは明らかに違っているのに妙にしっくりきて、疑問に思わない事に驚く。
 思えないくらい、眠いのだ。

 低さの質が―――根本的に違う。
 まるで男性の地声だ。僕と同じ喉仏を持つ、声変りを果たした青年の声。

(君は…本当に占い師さんなのかい?)

 声が出せないから、頭の中で思う。

(でも、彼らに逢うのはグッドアイデアだね)

 何故だか、すっと腑に落ちた。
 なんだ、黒の行商人に逢えばいいんじゃないかと、脈略も無く安堵する。
 迷子の子羊に天から与えられた道しるべ。パアっと目の前が晴れた気分になって、それに従えば間違いないと思い込んだ。

 数分前まで激しく睦み合っていたとは思えない。
 耐え難い強い刺激に泣き叫んで許しを乞うた僕は、訪れた平穏に身を委ね、苦痛から解放された安寧を心の底から受け入れた。

 もう、なにもかんがえない。

 あしたになったら、またあそぼうね、うらないしさん。

「…またな」

 その声を最後に、僕は微睡みに堕ちる。




 人は意識を失っても、備わる第六感のうち、聴覚だけは最後の最後まで残っているという。
 僕は思考すら手放しているのに、真っ黒な意識の中で耳があの人たちの声を拾っている。

「お疲れ様でした、マスター」
「…朝か。蟲は還ったか?」
「はい、全て終わりました」
「さいごの追い込み怖かったよ!!さすがのわたしもやられちゃうかと思った!!」

 おんなのこの、こえ。

「生存者は?」
「鉄の部屋にいたものは全員無事です。町にもちらほら見受けられます。恐らく昨日の補強が効いたのでしょう。果たして生き残って良かったのか悪かったのか。いっそ昨晩死んでれば、と恨まれそうですね…」
「民の様子が見たい。それと馬は?」
「準備万端だぜ、旦那。ほら、服も。その姿は目に毒だ」
「ラクダさん、どうしていなくなっちゃったんだろう」

 らくださん、いなくなっちゃった。

「マナの同化は行われたのでしょうか?」
「いや、マナの一片も残っていなかったからな。お前の父親と似たようなものだが、真核と一体化している時点で人間といえるかどうか」
「なあ、ホントにこいつとやっちまったのか?淫魔だっけか?本気でこんな奴と…」
「…極度の性的興奮によりこれは初めて姿を見せる。疑似行為では無意味だ。これが四六時中盛っているのもその所為だろうな。本性が出ない事には手がだせなかった」
「昨晩あんたが俺を部屋に呼んだのも、奴を挑発する為だったんだろ…ったく、俺を利用しやがって…」
「本体はサキュバス…男性型ですからですか。もう剥がせないんですね」
「これの生存がユリウスの依頼だ。腐っても王家の血筋、利用価値はいくらでもあるという事だ。代わりにユリウスが騎士団を使ってグレンヴィルの開港をやってくれている。“塔”では人脈がなくて無理だっただろう。等価交換さ」

 いんきゅばす。

「セトくん、ほったらかしでいいの?」
「いいのよ。仕方ないとはいえ、マスターと共に過ごした罪は大きいわ!」
「だな。その貧相なチンチン、丸出しで笑われてろってんだ」
「あはははは!!」
「―――いくぞ、時が惜しい。暗示もうまく働くだろう」
「旦那、だから上着を着ろって。あんたまだ女のカッコしてるって忘れてねえか!?」
「……」

 砂を踏む足音が遠去かっていく。

「…ものの見事にな」

 そして静寂が支配する。



 僕はもう、何も聞こえていない。


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