蒼淵の独奏譚 ~どこか壊れた孤高で最強の魔法使いがその一生を終えるまでの独奏物語~

蔵之介

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三. セトの章

53. 偽りの占い師

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 冷たい風が顔を薙ぐ。

 砂漠はその風に砂を巻き上げるだけで、それ以外はとても静かに佇んでいる。
 沈む夕陽に砂を赤く染めながら。

 災厄から11年、砂漠は常に荒ぶっていた。砂丘は隆起を繰り返し、砂嵐が吹き荒れない日は無かった。数少ないオアシスは枯れ、木々は葉すらも実らせない。
 死の荒野、砂漠。
 砂漠は人の出入りを11年間、ずっと拒んできた。

 その砂漠が静かだった。
 幼少過ぎて覚えていないが、昔の砂漠はこんな感じだったような気がしている。

 遮るもののない砂の世界は、本来はとても綺麗な場所のはずである。
 父ら砂漠の遊牧民達は、風と空の動きを呼んで嵐を予測し、星と月で位置を知り、育みの太陽には畏れを、癒しの月には感謝を捧げた。
 神秘的で美しい砂漠の真の姿は、人を寄せ付けないものではなく、自然の厳しさと優しさを教えてくれる場所でなければならないと、いつか父が教えてくれた事を思い出す。

 久しぶりに感じる涼しさに目を細める僕とは対照的に、黒の行商人の顔色は悪い。
 何があっても変わらなかった気色悪い能面顔は苦しそうで、初めて見る男の表情に人間らしさが覗いていた。

 男が苦しい原因は、砂漠のこの冷たく重い空気だろう。
 占い師御一行が現れるほんの少し前に、この空気は一足先にやってきた。空気は瞬く間に僕らの周囲に充満し、以来、男は優勢だった立場から一気に不利へと転がり落ちた。
 僕を虫けらのように蔑んでいた目が、今は懇願している。さっき僕が男に殺してくれと泣きついたように、その目には必死さが現れていた。

「しゃべります、セトにかんすることならば。ですが―――」

 男は大きく息を吸い込み、動く方の手で僕の首を掴んだ。

「ひぐっう!!!」

 ギリギリと首に食い込む爪の鋭さを痛みで理解する。
 喉仏と筋の柔らかい部分を掴まれた僕は言葉を封じられた。抗議しようにも、首は急所で下手すると致命傷を負うのは僕の方である。

「あなたにくみするつもりもありません、まほうつかいよ。あなたをころすのは、われわれのひがんなのです。あなたさえいなくなれば、すぐにでもけがれのまちをじょうかできるのに!」

 渾身の力を込めて、男は後ろに飛んだ。
 僕の体内に腕を治めた状態で数メートルは高く飛び、占い師が張り巡らせた水晶の囲いを飛び越える。
 しかし僕の身体が邪魔だった。空中で僕の自重が振り子のように軸となってしまい、殆ど距離を取れずに地面に落ちてしまった。

「痛ったっ!!!」
「ぐう…」

 しかも運の悪い事に、僕が男を下敷きにしてしまう。
 男は僕ごと地面に叩きつけられ、変な声を出した。

「はぁはぁ…、せめてじゆうになれば」

 男はとにかく苦しそうで、息が出来ないと肩を上下に激しく動かしている。
 その姿もまた、初めて見る姿だった。

「随分と勝手な言い草じゃねえか。そんなのがまかり通ると思ってんのか、あんた」

 前に進み出たのはアッシュだった。
 三白眼で元々目つきが悪いのに、更に険しく吊り上げて男を睨みつけている。
 アッシュにあるのは怒りの感情だ。抑えきれない激情が、離れた僕の所までひしひしと伝わってくる。

 アッシュはこの男を明らかに知っている風であり、初対面の相手に対する態度ではなかった。
 それはアッシュの隣で男を牽制するニーナにも現れていたのだ。

「ここであったが100年目!俺を忘れたとは言わせねえぞ、行商人!!」
「選択肢を与えられているだけでもマスターに感謝するべきなのに、まだ抵抗するつもりなのかしら。本当なら私が殺してやりたいのに、我慢しているこっちの身にもなって欲しいわ」
「……」

 占い師は黙っている。
 男が水晶の囲いを飛び越え、せっかく張った戒めを解かれても尚、顔色一つ変えずに黒衣の前で腕を組んで僕らをじっと見つめている。

「ひゃくねんではありません。にねん、ですよ。それにあなたのむらをめちゃくちゃにしたのは、わたしではありません。、わたしです。わたしはむらのきゅうせいしゅでもあったのに、ひどいいいぐさでですよ」
「あんだと!!」
「あなたのおとうさんがしんだのは、人のよくがみせた『自業自得』ですし、けがれのないさくもつを、そだてるていあんをしたのは、このセトです。むしろ、しょくりょうせいさんちをうばわれて、そんをしたのはこっちのほうですよ」
「て、てめぇ…!!」

 グググとアッシュの拳に力が入る。
 今にも男に跳びかからんと勢い付くアッシュを止めたのはニーナだった。

「アッシュ、落ち着いて!」
「くそっ!旦那、つべこべ言わずに生け捕りにするならさっさとやっちまえよ!俺はこの胸糞悪い顔をこれ以上見たくねえ!…俺の村に関わったあの坊々もな」
「ぼ、僕は…ただ助言を…」

 ちょっと待って、何が起きているというんだ。
 目まぐるしく展開が変わって、正直頭が付いていけてない。
 一体、何が行われて、何がどうなってこんな状況になっている?
 どうして誰も一から僕に説明しないのだ。謎が新たな謎を呼び、一人蚊帳の外で長い糸にこんがらがっている僕は、哀しいかなただの道化だ。

 蟲の襲来から始まり、父と町を失って、失意のまま砂漠へ僅かな望みを懸けてやってきた。
 もう一度取引して、全てやり直そうと願った僕を、黒の行商人は無下に断った。あろうことか殺そうとまでしてきた。
 余りの辛さに生きる事を諦めた僕の前に、ギルドの占い師達が急に現れて一気に形勢逆転。
 行商人は占い師の事を魔法使いのギルドマスターと呼び、彼女もそれを否定しなかった。

 占い師は行商人に提案を持ち掛けた。全て喋るか、死ぬか、拉致されるかの三択で、男は僕に関する事なら喋ると言いながらも占い師に従うものかと真っ向勝負を挑んでいる最中だ。なのに碌に息も出来ず苦しそうでなんだか雲行きはかなり怪しい。
 その隣に男の腕を貫通させた僕がいて、その僕こそどうする事もできず、こんなところで頭をこんがらさせて呻いている。誰からも無視された状態で。

 酷い有様なのは、誰がどう見たって僕しかいない。

「マスター、アッシュの意見には私も賛成です。ここで無駄に時間を与えずとも《中央》に連行して拷問すれば全て訊ける事です」
「やさしいのですね、カモメのしょうじょ。あなたはわたしからいしをかわずに、おちているのをぬすんだ。それをいもうとにあたえるから、あなたのだいじな人がみんなしんだのです。いちじはなかまになれたのに、おろかなむすめ。それもまたちがうわたしのしわざ、ですがね」
「黙りなさい!!あなたを殺す力を私は得たの。一年前の私と同じと思わないで頂戴。あなたをここで殺さないのは、マスターがそう望んでいないからよ。気持ちは私もアッシュと同じだという事を覚えておきなさい!」
「テルマもやっちゃうよ!!泣いても許してあげないんだから!!」
「……」

 黒の行商人は人間の世界に深く入り込み、怒れる神グレフけしかける為に、必ず対象の町村を訪れる。そこで準備を施し、物語の筋書きを描いて行く末を見守る。
 怒れる神を派遣するのも配置するのも、指示を与えるのも全てこの行商人の仕事だ。
 故郷を彼らに襲われた事こそ、僕が知るニーナとアッシュの共通点だ。恐らく行商人と顔見知りなのも、その準備段階の時点で男と出会っていたのだろう。

 怒れる神グレフは一切の慈悲を与えない。感情そのものがないのだから人を殺す事に躊躇せず、感情論に発展しないから誠実に与えられた任務を淡々とこなす。
 彼らに殺された人の数はそれこそ莫大な数に上り、滅ぼされた町の数も両手の指では足りないくらい多い。

 ギルドの助っ人達もまた、その滅ぼされた中の一人なのだと僕に言った。僕の町ヴァレリの非日常の惨劇を彼らも味合わされているとすれば、その原因の一端にいる行商人を憎むのは当然の感情である。
 だけど僕が間接的に関わっていたと暴露するのだけはいただけないね。余計な一言だ。そんな事、被害者本人が聴けば何と思うものやら。

 ああ、もう遅いね。アッシュの僕を見る目にも、憎悪が滲んでいる。
 この騒ぎがなければ男として初めての友人になってあげても良いと思うくらいには、アッシュの事を気に入っていたのに残念だ。

が、これの出来る、精一杯の反抗なのさ」

 涼しい顔で占い師は言った。
 組んだ腕を解き、指でとんとんと頭を突く。

「これもまた、思考を持たない生き物なんだろう。怒れる神グレフと同様に、もっと上からの指示に従っているに過ぎない。奴らの意思はリンクしているが、その繋がりを俺の結果によって断たれた今、こいつは焦っている。どうにかして外部と連絡取ろうと画策しているその一つが、時間稼ぎだ。分かり易くお前たちを挑発しているのに敢えて乗る馬鹿が何処にいる」
「……まほうつかい、め…」

 図星、だったんだろう。
 ぐぅと喉を鳴らして、占い師の呼称を憎らし気に呟いた。

「ねえ、君は…占い師サンじゃないの…?」

 どこからどう見ても、どうひっくり返っても占い師の外見は女性そのものだ。
 どんなに繊細で耽美な男が女装したとて、あんな姿にはならない。

「魔法使いのギルドマスターは、『男』…でしょ?君は昨夜僕の前で、裸を見せてくれた。一糸纏わぬその姿は、間違いなく女性だったよ!」

 僕は彼女の全裸を見たのだ。夜で視野が暗かったという言い訳は効かない。占い師は僕の部屋の蝋燭全部に火を点けて、昼間よりも明るい室内で僕は彼女の身体を組み敷いたからである。
 雑誌や体験談でしか女を知らない童貞なんかじゃない。妄想で女の躰が作れるのなら、世の男はずっと幸せになっているはずだ。あの夜の僕の記憶は曖昧だったけれど、それでも目が、脳が覚えている。
 物心付いた頃から女とベッドを共にしてきた僕が言うのだから間違いない。

 彼女は上も下も、そして顔も、『女』だった。
 柔らかな唇も、しっとりとした白い肌も、ふっくら手のひらに収まる胸も、ピンと張り詰めたピンク色の乳首も。
 硬いだけの男にはない包容力で僕を抱きしめてくれたし、その柔らかさは絶品でいつまでも愛撫していたかった。
 なによりその股間に、僕と同じモノはぶら下がっていなかったのだ。

「僕と寝た…じゃないか!君は確かに女性だった。男とした事はないけど、どんな女より君は僕を感じさせてくれたよ。初めての感情を君に抱いたんだ!それに君は言ってたじゃないか、ギルドマスターの男が大嫌いだって。その男の一部として扱われ、囚われていると!」

 思い出したよ、彼女との凄絶なセックスを。
 最初から最後まで、彼女は僕を翻弄し続けた。全て彼女がリードしていた。泣き叫んでも快感を与えられ、果てても許しを乞うても挿入は繰り返された。
 地獄と天国を同時に味わった稀有な体験だった。

 彼女はギルドマスターに操を立てているからと、僕に前を触るのだけは許さなかった。勿論、挿入も無しだ。
 女性が一番感じる小さな突起にも、僕は触らせてもらっていない。だけどそれ以外は、彼女は何でもさせてくれたのだ。
 きわどい恰好も、普通の人なら嫌がる体位も、恥ずかしげもなく全て曝け出してくれた。

 ただ一つ、前だけは頑なに守った。
 あの激しいセックスの中で、冷静に守り通したのだ。

 それはつまり―――。

「全て魔法による錯覚だ。男に膨らんだ乳房はないし、残念ながら穴も一つしか持ち合わせていない。初めから開いていない場所に挿れる事など不可能だよ」

 、だったのだ。

 占い師は笑っている。ニヒルに口角を上げて、妙に男臭い仕草で笑っている。
 顔は美しい。それこそ天女に見間違うほどに美麗だ。その麗しさと仕草が実にアンバランスで、でもそのちぐはぐさえも美しいと思った。

「君がお尻しか許してくれなかった理由は…あああああ…何てことだ…ぼくは、ぼくは…男とセックスに興じてしまったのか…」

 ガックリと沈み込む。膝を地に付け、完全に項垂れる。
 僕に釣られて行商人も地面に尻を付けてしまう。文句を言われるが、そんなの構ってなんていられない。

「そんな、馬鹿な…」

 悔しくて涙が出てきた。

「ひどい、酷いよ!占い師さん!!」
「まだ“占い師”っていうかね。旦那自ら正体を明かしてくれたじゃねえか」
「でも騙していたのは事実ですし。本気でマスターを…いえ、を好きになっていたみたいでしたから…」
「じゅんあいだねえ。お兄ちゃん、モッテモテ」

 やや同情的な声が聴こえてくる。一人は完全に面白がっているが。

「こんなのってある?僕を何だと思っているんだ。僕はこと女性に関しては、完璧な男だったんだよ!それを君は騙したんだ!!」
「……」
「セト、どうでもいいので、たちあがりなさい」
「どうでもよくないよ!これは由々しき事態なんだって分かるかい?僕の20年の輝かしい人生に、『野郎と交わった』汚点を残してくれた事だけでも許し難いのに、どうしてだろう…身体は拒絶しているのに心は君に傾いているんだ!占い師サンに嫌悪感を抱かないんだよ!!」
「なんだそりゃ。言ってる事が支離滅裂だぞ、坊々」
「お相手がマスターなのだから、男女構わず惹かれてしまうのも分かりますけどね」

 そう。あってはならない汚点なのだ。
 ハーレムを築く男として、同じ男にうつつを抜かすなど、この上ない恥なのだ。

 中には男の癖に女装が好きな奴もいる。
 先天的に男の身体に生まれたのに、女性の心を持っている人もいる。
 何らかの障碍で両性具有の人もいるし、性が備わっていない人もいる。
 男なのに男しか愛せない物好きな奴もいる。

 一つの愛の形として、色んな恋が在る事を僕は知っているし、余計な偏見も持っていないつもりだ。
 ただ僕はそれに該当しないだけで。
 自他共に認める異性愛者で、根っからの女好きなのが僕。それは不変のものだった。愛の対象を、男に向けた事など過去一度たりとも存在しない。
 女の柔らかさを味わっている時こそ至福。女を支配している時こそ、絶対なる優越感に浸れる。
 全世界の女は僕にひれ伏すべきだし、自ら衣を脱いで僕に愛されるべきだと本気で思っている。

 僕の夢はハーレムだ。
 全世界の女を手中に収める。王となるよりも遥かに強い望みを持つ僕に、男なんぞ下働き以下でも使いたくない。

「なのに、なのに、なのに!!!この僕が、男なんかに騙されて、男とベッドを共にするなんて事があってたまるものか!!ああああっ、なのに君を嫌いになれない僕もいるっ!!こんなに僕が参っているのに、君がまだ女装を解かないのが悪いんだ!!!」

 思えば可笑しなところは最初からあったのだ。

 出逢った時からやたら偉そうだったのも、アッシュやニーナが彼女に頭が全く上がらなかったのも、奔放なテルマ嬢が彼女の言う事だけはきっちり従うのも、そりゃギルドの一番エライ人なのだから当然である。
 ニーナがギルドマスターを語る時に含みある物言いをしたのも、アッシュがやたら献身的に彼女に尽くすのも変だと思ったんだ。彼女が一人称を『俺』と称した時に、もっと深く突っ込めば良かった。
 気にするなと云われたから素直に気にしないようにしていたけど、改めて考えてみたら違和感だらけで笑えてくるよ。

「嘘だと言って、占い師サン。君は、本当は誰なの?」
「………」
「僕を最初から騙していたの?それは何故、どうして僕はこんな目に遭わなければならないの?」

 今までの事とか、これからの事。全部ひっくるめてぐちゃぐちゃとなった感情が一気に溢れて混乱した。

 これは誰が仕組んだ事なの。
 最初からって、いつからなんだろう。
 フレデリク将軍も戦犯なのかな。皆で共謀して、僕をハメて何をしたかったの。泳がせていた?それともただ揶揄っただけ?

 父も知らなかったのかな。知らずに死んだのかな、だとすれば可哀想だ。
 そんな可哀想な父に手籠めにされた母は、もっと可哀想だ。
 どうして父は死んだのかな。あんな死に方、死体も残らないなんて酷すぎる。
 母は何故いなくなったのかな。僕は何も知らない赤ん坊だったのに、他に兄妹を作っちゃうなんて狡いよ。
 そもそも僕はいつから女の子が好きで、どうしてハーレムを作りたかったのかな。
 王になって、何をするつもりだったんだろうね、僕は。

 町は?
 僕は?
 僕の行く末みらいは…?

「ねえ、教えてよ、占い師サン。僕と情を交わしたんだから答えられるよね」

 取引は?
 ブリッサ達の、民の殺し合いの行方は?
 僕の愛は?

 ―――僕の、命は?

「…僕は、なんだったの?」
「それも全てこの行商人から訊けばいい。元々の本質もあるだろうが、発端は全部そいつだ」

 あくまで“占い師”で在り続けるこの人は、涙で滲んだ瞳で見ても、やはり真から女性だった。

「セトからわたしをぬきなさい。けがれがからまり、つらいのです!」
「何度も言わせるな。喋れば解放すると言っている。あの泣きべその疑問を解消してやれ。それが俺の仮説の答え合わせにもなるからな」

 そう言って、厚み10センチほどの石塊の上に、どかりと胡坐を掻いて座った。

「見届けてやる。“紡ぎの塔”を束ねるこの俺マスターが、な」

 僕の情けない体たらくを見て笑っている占い師の瞳は蒼く、深い淵に吸い込まれそうなほど澄んでいて、惚れ惚れする輝きを湛えていた。
 彼女なのか彼なのか、どっちなのか分からないこの人への思慕を一層募らせる僕は、既に身も心も囚われていた事に薄々気付いていた。

 まるで手足をもがれた虫だ。
 生殺与奪すら、この人に奪われている。

 心の奥底が未だ彼女を激しく求めていて、僕は支配される側として全てを彼女に委ねたくなっている。

 そんな情けない僕は、成り行きをただ見ているしか出来ない。
 僕に意思なんてものは、彼女と出逢った時から既に剥奪されていたのだ。

 彼女の奔放過ぎる美しさによって。

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