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天狗山 編
上
しおりを挟む僕は、特別な用事がない限り、いつも決まった日常を過ごしている。
毎朝6時30分に起きて、妻の弁当を作る事から僕の一日は始まる。
7時、夢うつつで寝ぼけまなこの娘を抱いて、妻が起きてくる。
娘のオムツを妻が替えている間に、僕は僕たちの朝食と娘の朝ごはんを用意する。
娘の朝ごはんの前に、妻が出勤する。
僕の作った弁当を持って、僕と娘を食わす為に妻は働く。
娘の朝ごはんが終わると、娘をしばし教育テレビにお任せして、僕は掃除、洗濯、昼食作りとあくせく動く。
それから娘が眠くなるまで少し遊ぶ。
寝相の悪い娘が大人ベッドでゴロゴロするのを横目に見ながら、僕は資格の勉強をする。
娘が起きると、昼食まで少し遊ぶ。
休みの次の日の平日は朝から機嫌が悪い。少しでも離れると泣くので付きっきりだ。
まだ2本しか生えていない歯を上手に使ってもぐもぐ食べる娘の成長を噛みしめながら、めちゃくちゃになった床を掃除して、ようやく僕が昼ごはんを食べる番。
歌って踊る着ぐるみが殊更お気に入りの娘に、幼児向けのDVDを見せている間に、スマホ片手に昼ごはんを食べる。
見ているのは、主に巨大掲示板のまとめサイト。
ジャンルは問わない。
事件、事故、ゲーム、アニメ、政治、生活。
目に付いたもの、片っ端から読む。
この一時間にも満たないほんの僅かな外との繋がりこそが、家に引きこもって育児に明け暮れる僕の唯一の息抜きだった。
行儀が悪いといつも妻に怒られるけれど、なかなかやめられない。
ふと、とある記事に目が止まった。
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『天狗だけど質問ある?』
大型掲示板あるあるネタの、◯◯だけど質問ある?シリーズだ。
僕はこのくだらないスレが好きだったりする。たまに本当の事を書いている人もいるが、大抵は暇人たちを喜ばせるネタだ。
オカルト的には、幽霊だったり未来人だったり異世界人と様々なバージョンがあるが、今日上がったスレは「天狗」だったので興味深く読ませてもらった。
「天狗」を知っているだろうか。
古くから日本に民間伝承で伝わる伝説上の妖怪の事だ。人間を魔の道に引き摺り込むとも言われ、地域によっては神と同一視されることもある。
一般的に山伏の恰好で、赤ら顔で鼻が高く翼があり、空中を飛翔するとされる。
天狗伝説は日本全国で囁かれていて、その不思議な話に尽きないのはご存知の通りだろう。
ふと、思い出す。
僕の話を聞いて貰えないだろうか。
娘が僕の胸の上で微睡んでいる間に。
僕の体験した、ちっとも怖くはないけれど、ほんの少し日常から外れたお話を。
応援ありがとうございます!
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