ふしぎっぎ!!

蔵之介

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UFO 編

下(完)

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 いい加減、テレビも飽きていた。
 何の番組だったのかは覚えていない。

 母に風呂を洗ってくれるよう頼まれていて、このあったかい空間から中々出れなくて、いつまでもグタグタしていた。



 ぼう、とテレビを眺めていた時、ふと目に二つの光が入ってきた。


 光の間隔から、最初は車のヘッドライトだと思った。
 父と母が帰ってきたのだろうか。
 やばい、まだ風呂掃除はやっていない。


 怒られる前にと、重い腰を上げた。

 チコはこたつの中で寝ている。僕の足を枕にしていたから、体勢が変わってゴロンゴロンしている。
 オレオは我関せずに丸くなっている。外犬だが冬は寒い。勝手口にラグを敷いて、夜はその上で過ごすのだ。



 ん?


 ヘッドライトが両親の車のものだったら、居間を通り過ぎて隣の和室の真正面で切り返し、バックで駐車場に入れるはず。


 おかしいのだ。


 ヘッドライトは、僕のいる居間を照らしている。

 そういえば、車のタイヤの音がしない。
 両親が帰ってきたわけじゃないのか?

 違和感が僕を怖がらせ、僕は中腰の姿勢のまま固まっている。


 だっておかしいのだ。


 先も述べた通り、僕の家の前を走る道路は名もなき生活道路。
 中央車線もなく、家と電柱に挟まれたアスファルトは細く、車は二台同時にすれ違う事すら叶わない。
 どちらかが寄って譲らないと、通れないのに。

 増して居間の真ん前の小道は、電柱が出っ張っていて更に狭くなっている。



 変なのだ。
 に。

 車が



 前は二メートルはある空き地の丘の斜面。飛び出た電柱。そのすぐ横は隣の人の路駐車。



 僕に向かって縦に車が真正面を向くなんて、絶対にあり得ない!


 そう理解した瞬間だった。

 二つの光が僕を煌々に照らしたのだ。
 それはヘッドライトを間近でハイビームにされたような眩しさだった。

 等間隔の光は、僕を照らし続けている。



 眩し過ぎて目が開けていられない。

 何の音もしない。

 テレビはずっと付いているのに、その音でさえも聞こえない。
 ただ、何故か台所の冷蔵庫の稼働音、あのブーンというノイズがやけに大きく聞こえていた。



 固まったまま考える。

 あれは、なんだ?



 間違いなく車じゃない。

 丘の上の空き地から僕の家を照らしているかとも思ったが、こんな夜にそんなことを仕出かす意味も分からないし、なにより空き地の入り口はボヤ騒ぎがあってから封鎖されている。
 それに丘は二メートルもある。どう考えたって角度がおかしい。



 怖い、眩しい。

 怖い、なぜ僕を照らす。

 どうしてずっと照らすのだ。



 そういえば、猫は心霊的な気配を察知するという。田舎はこういった話が多いから、その類なのかとコタツの布団を捲り上げたが、肝心のチコがいない!


 さっきまでこの中で僕の足に爪をひっかけて寝ていたのに!!


 勝手口を振り返って惰眠を貪るオレオを見る。こいつはさっきから僕の状況など丸無視で呑気な態度だ。
 あてにはならないが、ここに僕以外の誰かの存在がいる事に安心する。


 何の嫌がらせなのだと思った。
 落ち着いてくると、余裕も出てくる。

 こんな夜に眩しいったらありゃしない。


 庭に出て行って、文句の一つでも言ってやろうかと思った。


 居間の大窓を開ければ庭に出られる。
 役に立たないオレオしか味方はいないが、一人きりより遥かにマシである。


 僕は意を決して立ち上がり、窓へと近づこうとした。


 その時、ある事に気づく。

 この光が道路も庭も通り抜けて、僕が今まさに開けようと思った窓のにいる事を。


 僕は愕然と竦んだ。

 庭を入ってくるなんて!それに光の位置は一定だ。
 家の前にはフェンスも目隠し用の木もある。乗り越えたとすれば光は上下するだろうし、、僕はいま何を考えた?


 そもそもフェンスも目隠し用の木もあるっていうのに、どうしてこんなにハッキリと光のライトが見えるのだと。


 もう大混乱だった。



 その光は最初から窓を隔てたほんのすぐ側にいたのだ。
 僕のすぐ近くに。



 そして僕はその正体をUFOだと決めつけた。



 だってそうだろう?

 心霊現象だったら僕は発狂する自信がある。
 生身の人間で不審者か泥棒だったら、僕の命の危機だ。

 でも、UFOだったら、それよりは少しだけ怖くない。
 テレビで観たことがある。宇宙人はちょっとだけ拐って何か変なものを埋め込んですぐに帰してくれると。
 幽霊や泥棒よりマシじゃないか!



 僕は居間のど真ん中に踏ん張って、二つの光がと対峙した。

 光はどんどん強くなって、僕を包み込む。



 ああ、飲み込まれる。

 拐ってもいいから、来週の金曜日までには帰してほしい。
 あのアニメのクライマックスを見逃すわけにはいかないのだから。


 そんな事を思いながら目をぎゅうと瞑り、瞼の外側の白い光が瞬いたのを感じる。




 来る!

 そう強く思った瞬間だった。



 ゴインと急に頭に衝撃が走ったのだ。

「痛っ!」

 驚いて目を開ける。


「立ったまま寝るな。風呂掃除はどうした」

 野太い聞き覚えのある声に身体がビクつく。
 目の前に作業服姿の父が立っている。
 凄く不機嫌そうな顔。

 その後ろで母が笑っている。


 我に返るのは早かった。


「え!おかえりなさい!すぐやります!!」

 いつのまにか両親が帰っていた。

 付けっ放しのテレビの音が戻っている。
 くだらないバラエティ番組のわざとらしい笑い声が耳につく。


 父の鉄拳パンチが飛んでくる前に、慌てて風呂場へ向かった。
 仕事帰りの父は本当に怖いのだ。




 窓の外は何もなかった。

 あれだけ眩しかった光は無くなって、冬の真っ暗な夜があるだけだった。



 ■■■



 風呂上がり、土産の饅頭を頬張りながら僕はさっきの出来事を両親に語っていた。

「車のライトを見間違えたんよ。それよりあんたが立ったまま寝てた方が変やわ」

 母が笑う。
 父は黙って夕食を食べている。

「ほんとやって!それに考えられんやん?居間を照らすとか無理やん?道路を縦に止めるスペースとかないやん」

 必死に説明するも理解してくれない。
 子供の戯言。いや、夢と思っているのだろう。

 僕はもう高校生で子供じゃない。


「ライトは僕を真正面に照らしてたんよ!うちにはフェンスも木もあるやん。車高が高くないとあり得んやろ?」

「じゃあパジェロだ、それ」

「パジェロ」

「車高高い。でかい。パジェロやん」

「だから車の音すらしなかったんだって!!」


 結局最後まで両親はこの不可思議な現象を信じてくれなくて、犯人はパジェロと結論づけられて僕は二階の自室に追いやられてしまった。


 光に包まれた一瞬で僕は連れ去られてしまったのだろうか。
 それとも両親が帰ってきたから未遂に終わったとか。

 なんにせよUFOに攫われると記憶を失うというので今更僕に確かめる術はないのだけど。



 何となく釈然としない気持ちを抱きながら僕は眠りにつくのであった。

 怖さが尾を引いて電気を消すことは出来なかったけれど。







 この話には続きがある。



 あの日より数週間が経った。

 ようやく怖い気持ちが薄れて電気を消して眠れるようになった頃だった。



 僕はまた、あの光を見る事になるのだ。



 僕の自室は二階。
 居間の真上にある。


 時刻は夜中。僕は夜更かししてライトノベルを読み耽っていた。
 あれはハマるとやめ時が分からない。この巻を読んだら寝ようと思ったその手が次の巻を取っているものだ。


 静かな夜。すごく遠くに暴走族のバイクの爆音が聞こえるのみで、いつもと変わらない夜だった。


 あの時と同じ、冷蔵庫のノイズがした。
 僕は瞬間的に思い出し、本を放り投げて電気を消した。

 布団を頭から被って、窓から外を覗く。



 僕を探しにきた。
 見つかってはいけない。

 何故かそう強く思った。



 光が唐突に現れた。

 道路をゆっくりと進み、僕の家の居間の前で止まる。


 二階からは光の様子がよく見える。


 ライトが二つ。車のように等間隔に並んで。

 光は居間を照らす。
 両親はすぐ隣の和室で眠っている。

 誰もいない真っ暗な部屋を、探るように照らし続ける。


 すると光は庭のフェンスを通り抜けて、居間の窓にへばり付いた。



 何がパジェロだ。フェンスを貫通するパジェロなんて聞いた事がない。




 それに。

 UFOですらない。




 上から食い入るように見つめても、光以外は何も無かった。てっきり光の発生源、機械的な何かがあると思っていたのに。
 あるのは二つの光だけ。


 何しに来たんだ。
 何故、僕に執着するんだ。

 あの光は何なんだ。
 あれに見つかったら、僕はどうなる。



 その時だった。

 三つ目の光が、二階の僕の部屋の前を横切ったのだ。




 僕はまさか三つ目があるなんて思わなくて、余りにビックリしてベッドから転がり落ちてしまったのだ。

 僕の部屋の前を一度は通り過ぎた光がまた舞い戻ってきて、僕の気配を探り出す。



 僕は怖くて怖くて。



 一階の二つの光がふわりと浮いて僕の部屋を照らした時。

 僕は居ても立っても居られなくて部屋から飛び出し、春休みで家に帰って来ていた妹のベッドの中に転がり込んだ。

 スヤスヤと寝行っている妹の小さな体をしっかり抱きしめて、これで攫われるなら一人きりじゃなくて妹も一緒だと、勝手に妹を巻き込んで安堵する。



 開けっ放しの僕の部屋から光の瞬きが漏れていたが、一時間もするとそれも収まり静かになる。




 僕は部屋に戻らなかった。


 よくあるだろう?
 一度去ったと見せかけて、実は監視して張っていた罠だったとか。


 妹を抱きしめて僕は眠った。

 朝、何がなんだかといった表情の妹に叩き起こされるまで。






 結局あの光がなんだったのかは分からない。
 不可思議な体験はあれきりで、あの後一度も現れていない。

 大人なった今、自分の車を持つようになって何度かあの光が再現できるか実験した事もあるが、やはり縦になる事が不可能で車のライトという可能性がゼロになっただけである。


 あの時、両親の帰りがもう少し遅かったら。

 あの時、妹がいなくて部屋に僕は一人しかいなかったら。



 僕はどうなっていただろう。



 絶対に家に帰してくれるのなら、少しだけ攫われても良かったと思う。
 だって満を持して迎えたアニメの最終回が、主人公とヒロインのこっ恥ずかしい必殺技で終わって、とても観ていられるものじゃなかったからである。


 ちなみにあの日から1ヶ月は、僕は部屋の電気を消すことが出来なかった。


 いずれにせよ、人外魔境のモノなのは間違いないだろうから。
 僕を怖がらせるには充分だ。




 ■■■


「ただいま」

 19時50分、妻が帰ってきた。
 娘が千鳥足で妻に駆け寄る。抱きしめ合う二人を見て幸せだと僕は思った。

「おかえり。今日のご飯は餡掛け肉団子と卵巾着だよ」

 僕の一日。
 娘が寝たらこれで終わりだ。





「あの最終回を見るなって警告に来てくれた親切な宇宙人だったりしてな。よくいうやん?UFOの中身は未来人だって」

 よく染みた巾着の汁をボトボト零しながら妻が言う。

「あれは師匠の最期が最終回だと何度言えば」

 妻と僕は8つも離れているのに、好きなアニメが被っている事こそが不思議だ。

「じゃああれは不本意な終わり方をするアニメの度に出てくるってこと?あの後一回こっきりだったのに」

 だよねえ。そしたら私の周りを四六時中光が飛んでる羽目になるわな。

 そう言う妻はゲーマーである。
 なかなか彼女の納得するエンディングを迎えるゲームに出会わないらしい。
 彼女の至高とする「ドラクエ3」を超えるゲームなんて早々ないと思うけども。





 唐突に現れ、突然消えた光は僕の錯覚だったのだろうか。


 でも世の中では理屈では説明出来ない摩訶不思議な事がたくさん存在する。

 僕が遭遇した光がその一つだったとしても、それほどおかしな事ではないのかもしれない。




 それにしても、あの時僕は本当に攫われなかったのかな。


 どうしてだろう。




 そこはかとなく残る僅かな記憶に、



 終わり


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