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第一章 異世界召喚
28. 俺氏、ついに怒る ②
しおりを挟むう…、なんだこれ。
俺が悪代官みてぇになってんじゃねえか。
「あなた様はこの世界に召喚されて間もない。混乱するのは無理もありません。一度に色々な事を言われ、あなた様も理解はし難いでしょう」
「ボンジュ~ルっ!!!でもわ~たしたちは、大変困っているので~あります!」
デザートタイムが始まってから、ただ一人無言だったボンジュールが縋り付いてくる。
「で~すが、コウハさぁんには休息が必要で、ありまぁ~す!」
「…ですわね。残念ですが、今夜はこれでお開きにいたしましょう」
「だな!夜も更けたし、煮詰まった時は寝るに限ると言うからな!ガッハッハ!!」
煮詰まっているとか、そういう問題を言ってる訳じゃねえんだけどな。
やっぱりこのハゲ、ちっとも分かってない。
しかし、この居心地の悪い空間から一刻も早く逃げ出したかったのは事実だから、ハゲのその申し出は正直ありがたかった。
「巫女達もよろしいですわね。今後については、また日を改めて話せばよろしくてよ。あなた方が巫女の責務を果たそうと必死なのは分かりますが、このお方はユミルではないのです。それを失念してはいけませんわ」
「……はい、パルミラさん」
「グス、グス…」
「…はぁ…」
俺は本気で居た堪れなくなった。
ブチ切れた時、こうなる事も一応は予測して、悪者になるのを承知で腹を括り、あんな態度を解放させたはずなのに。
こいつらに悪気はない。
こいつらだって、想定外だったのだ。
意気揚々と魔王退治に出掛けた聖女は失敗した挙句、何らかの理由で赤ん坊になっちまって。
ベビーシッターを頼んでみたものの、実際にやってきたのは異世界人の俺だった。
外見は聴いていた姿だが、中身が違うとか言い出して、肝心な赤ん坊の面倒も碌に見られない役立たず。
ユミルの意識は?俺の身体は?
魔王城は吹き飛んだのに、魔王は死んでなくて行方不明。
王様は逃げた勇者を戦犯として指名手配中。
どうしてこうなった?と問いたいのに、原因の一つに確実に絡んでいる聖女本人は、赤ん坊で口すら聴けないとは。
彼らだって被害者なのだ。
この訳も分からない状態に、放り出されたのはこいつらもおんなじ。
って、それは重々承知しているけれど。
…俺の心が付いて行かないのだからしょうがないだろ。
「悪ぃ…ちょっと一人にしてくれないか」
「コウハ…」
俺はフアナの何か言いたげな瞳を振り切って、逃げるように食堂を飛び出した。
僅かに松明が照らすだけの真っ黒な長通路を、出来るだけ全速力で駆け抜ける。
いたたまれない。
でも、俺にはどうにもできない。
走りながら何故こんなにスピードが出ないのか考えた。
それは、手が振れないからに決まっている。
そこで初めて気が付いた。
本当に無意識に、腕の中の赤ん坊を一緒に連れてきてしまっていた事に。
「は…なにが聖女だ…」
ミルクをしこたま飲んで満足したんだろう。あの騒ぎの中でリアは知らぬ内に寝入っていた。
俺の腕の中が定位置のようにすっかり収まって気持ちよさげに。
しかし走る振動で起こしてしまった。一本棒になっていた瞳が今、俺を真正面に捉えてまん丸く見開いている。
――蒼く、深い淵。
全て見透かされているような、そんな瞳で俺を見ていた。
「クソ…なんなんだよ!」
俺に与えられた部屋に戻り、鍵もそこそこにリアを抱えたままソファにダイブする。
腕の暖かい温もりを感じながら、月明かりだけが照らす薄暗い部屋の中をぼうっと見て、悶々と思案に耽る。
後味が悪い。
別にキレなくとも冷静に話は出来たはずなのに。
それを俺は大人気ない態度で。
今更後悔が襲ってくるが、それこそ今更だ。
もういい、寝てしまおう。
ガチで寝ればもしかしたらこれまでの体験はただの悪夢で―――。
朝起きてしまえば、俺は住み慣れた実家の俺の匂いがする布団の中で気持ちよく目覚め、母の作った朝食を、親父とねーちゃんとおかんと俺の、束の間の家族水入らずな生活が、また―――。
無駄に繰り返される答えの出ない一人問答は、いつしか睡魔の誘いへと変化して。俺は流れるまま目を閉じ、身を任せる。
その時の俺はただ早く眠って朝が来て欲しくて。
リアが産まれて間もない新生児で、この一瞬間、あいつらにほとんど世話など受けていなかった事を完全に失念していた。
俺は眠ってしまった。
身体ごと沈むソファはとにかく気持ちが良すぎて―――もう、なにも考えられない。
翌日の、朝の陽射しもだいぶ過ぎた頃。
リアのけたたましい泣き声に起こされた俺は、自分がビチョビチョに濡れている事に頭が付いていけなくて、ひどく狼狽してしまっている。
最悪の目覚めは、リアの盛大にやらかしたお漏らしから始まった。
俺はまだ理解していない。
育児放棄された赤ん坊の、最期に行きつく先を。
リアは―――弱っていた。
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