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第二章 子育て奮闘中
36. ミルクを作ってみよう ③
しおりを挟むどうせ使った後は厨房で洗わねばならないし、うるさいボンジュールは畑仕事で暫く戻ってこないとの事なので、そのまま厨房の樽の上に座ってリアにミルクをあげた。
フアナはその場から立ち去らず、興味深く俺とリアの様子を見ている。
ちなみに聖女の巫女らの3人は、今日から交代で俺の世話と力を失ったリアの護衛をするようになったらしい。
エメラルドグリーンの透き通った瞳が、食い入るように俺を見つめている。
その視線は熱心で、彼女にそんな気はさらさらないのに思わずドギマギしてしまう。
フアナは美人だ。
ピンクの髪にミニ丈の巫女服、ニーハイの上から覗く絶対領域にツインテールと、オタク心を揺さぶる要素が詰め込まれたあざとい恰好をしているのに、ちっとも嫌味を感じない。
それどころか自然に似合っていて、違和感なんて全くないのが凄い。
あの双子とは違う、少女と女性の中間というか、第二次性徴期を終えて大人になりかけた不安定な年頃の、何ともいえない色気すらフアナには感じるのだ。
こういう外観が完璧なところが異世界っぽい。
ゲームの世界ならばヒロインポジション。もしくは重課金のアバターだ。
「あたしを熱心に見つめているところ悪いんだけど、コウハ」
「へ?み、見てないぞ!」
「鼻、膨れてる。あたしが可愛くて魅力的なのは分かるけど、あんたの実年齢っておじさんなんでしょ?犯罪よ、ハ・ン・ザ・イ」
「ま、まだギリ20代だ!それに俺はガキには興味ないね!お前がピンポイントな恰好してるから悪いんだろ」
「意味分かんない。このロリコン!!」
「ぐぬぬ…。赤ん坊のミルクとかトイレとかいう言葉は通じないくせに、異世界でそんな言葉が共通しているとは…!解せぬ!!」
バシバシと片手で肩を殴り合う。本気じゃないのは俺もフアナも同じだ。
気の滅入った俺を元気づけようとしてくれている行動の末である事も理解している。
フアナは美人で気の利くいい子だ。少々気が短くて物言いが乱暴なところが欠点ではあるが、それを無視しても可愛いと思う。
だからといって、この子とどうにかなりたいワケではない。
異世界召喚されたのだから、この際はっちゃけて現地の娘とハーレムを作っちゃったりするのもアリかとは思うが、先の見えないこの状況で、そんな気持ちにならないというのが正直なところである。
あんなのはやっぱりゲームや漫画の世界だからこそ成り立つものなんだろう。そう簡単に割り切れないし、出会って一秒で恋なんぞにゃ落ちん。
歳の離れた兄妹のような。
双子とはあまり接点がないが、初っ端から突っかかってきてくれたフアナとは明け透けなく話せるそんな関係だと俺は思う。
「そんな事より、コウハ」
「そんな事って、人をロリコン呼ばわりしてそりゃないだろ…」
フアハは俺に向き直る。
リアを片手に抱いて、もう片方は哺乳瓶を持っているから両手の塞がっている俺に見せつけるように、粉ミルクの入った缶を振った。
「ミルク?それがどうかしたか?」
「これ、リア様のご飯なんでしょ?もう半分以上無くなってるけど、お代わりはあるの?このペースだとすぐになくなってしまうわ」
80mlを一日8回。
缶の中身は800グラム。
当然ながら、使えば使うほど中身は消えてしまう。
「ミルクって、いつまであげないといけないものなの?それに、ずっとこの量でいいのかな。なんだか足りないみたい」
「……問題直面だな」
俺は溜息を吐いた。
実のところ、フアナに指摘される以前から、俺はこの問題をどうにかせねばと考えていたのだ。
リアの、ミルク事情である。
俺の世界から俺と一緒に召喚された赤ちゃんグッズには限りがある。
粉ミルクや紙おむつは最たる例で、必然だからこそ問題なのだ。
要は、早くとも一月も経たずに道具が尽きる、のである。
今はこの量でいいらしいが、成長に従って量も増える、
育児マニュアルを読む限り、個人差はあるが1歳を過ぎても授乳しているケースが殆どで、ピークは7,8ヵ月頃、一日あたり250mlを5回と、飲む量も半端なくなる。
流石に俺はもう自分の世界に帰っているだろうから、そんな時期まで心配する必要はないのだけど、今――となると死活問題である。
残りの缶は一つ。
多分、二週間ももたない。
腹一杯だと感じる満腹中枢がまだ未発達な赤ん坊には、『ミルクを飲ませている時間』が重要なのであり、余りにも早く飲ませ過ぎると飲んだ気がせず、まだくれもっとくれといつまでも欲しがって泣いてしまうのだそうだ。
母乳だと片方で10分ずつ。人工ミルクでも大体10分以上は咥えさせていないと満足しない。
リアのミルクを飲むスピードは徐々に上がってきている。
初めは口の周りをベタベタにさせて咥えるだけで精一杯だったのに、今は随分上手くなってしゅごしゅご言わせながら夢中でミルクを吸い取っている。
いずれ近いうちに、リアに与えるミルクの量も増やさねばならないだろう。
「まだ文の返事はないけど、今から代わりのシッターが《王都》を出発しても到着するのは早くて2週間後。その時あんたがいてもいなくても、ミルクはとっくに無くなってる。これ、どうすればいいんだろう」
不死身だと思われていた聖女が、当初はぞんざいに扱われてミルクも碌に飲ませて貰えず、力を失って死にかけたのだ。何も手を打たず呑気に次のシッターを待つ間、リアは今度こそ死んでしまうかもしれない。
これはのんびり構えていい問題ではない。
粉ミルクが尽きればリアの飯も尽きる。早々に解決しなければならない問題なのだ。
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