零の世界で幸あれと

在里

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3.学園生活の始まり

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 目が覚めて周りを見渡すと、レイシウスは一瞬自分が何処にいるのか解らなかった。少し考えて、ああ、自分の部屋なのだと理解する。

 今日から学園に行かなければならない。昨日父親にそう指示を出された。昨日家に帰ってきたばかりだというのに、と粗雑に思える扱いにため息がでる。
 別に行きたく無いわけではないが、体調が良くなったとはいえ治癒室から出て一日も空けていないのだ。本調子かどうかも解ったものではない。

 前のレイシウスのように我儘を言って休むことは出来なくもないけれど、あんな父親に我儘を言うのは負けた気がして、今となってはレイシウスのプライドが許さない。厄介な性格になってしまった。いや、厄介な性格なのはもともとで、両親に対しての認識が変わったせいだけれど、とレイシウスはできるだけ客観視して納得する。

 部屋の扉が叩かれて、昨日と同じ若い侍女ともう一人、30代くらいの侍女が部屋に入ってきて、朝食までの準備を始めた。
 侍女が机にテーブルクロスを引きレイシウスの身なりを整えれば、給仕を部屋に迎い入れて朝食を用意していく。彼女たちの動きは洗練されていて、仕える相手が私じゃなければもっと綺麗な笑顔で、楽しく働けるんだろうな、なんて思った。

  お待たせしました、と若い侍女から下手な笑顔を向けられて椅子を引かれる。レイシウスが合わせて椅子に座ると、目の前のテーブルに朝食が用意される。レイシウスは一言食前のお祈りをして、その用意されたパンとサラダを淡々と口に運んだ。
 前のレイシウスならこのときまでに朝食はサンドイッチが良いとか、飲み物は柑橘系のジュースにしなさいとか色々あったが、もうその必要もないのだ。

 侍女も給仕も怪訝な顔をするが、特に何かを言うこともないのでそのまま無言を貫き通した。見つめられながら食べるのは美味しくない。せめて一人で味わいたいと思うものの、そう簡単には無理だろうと自分を窘める。

 食事を取り終えれば、綺麗な学園服が用意され、それを手際よく身に付けさせらていく。髪留めを聞かれるがなんでも良かったので、前のレイシウスのお気に入りで大きな宝石をあしらった派手な髪留めにしておく。ただ結い方は凝った形ではなく簡単に一つにまとめるだけしてもらった。
 かなり前よりも早く終わった準備の時間に、どれだけレイシウスが色々と無茶を言っていたのかが解る。

 侍女たちのあり得ない物を見るような目が何度もあって痛かったが、別に無理難題を言っている訳ではないのだ。むしろ言わなくなったのだし、悪いことをしているわけではない。だからはやく今のレイシウスに慣れてくれればいいな、なんてレイシウスは心で希望だけ述べておく。

 そうして家族の誰にも会うことなく、学園へと迎う馬車に乗り込んだ。

 あれからクラスメイトに会うのも初めてだ。特段興味も持てないけれど、普通だったら気まずくて胃が痛くなるレベルじゃないの! という玲衣の時の気持ちが心に浮かぶ。だが結局気にならないからいいか、という気持ちに落ち着いたので深く考えないようにする。だが馬車が学園の門に入ったのを感じて、少しだけ気が張った。今は馬車の中に護衛と侍女がいるが、降りてしまえば一人だ。

 学園には側仕えを連れていけない。それは権力を振りかざすことをよしとしないためである。魔力持ちは権力に従うのではなく、その力を等しく国延いては国民のために、というのがこの学園の理念らしい。 
 何事も自分でしなければならないことが前までは面倒で仕方なかったが、今ではそれがありがたい。父親に付けられる側仕えなんてもの、監視以外の何物でもない。居心地の悪くなってしまった家や治癒室でいるよりは一人で学園に居る方が良いなんて、なかなかどうして居場所がないな、なんてレイシウスは思ってしまう。

 学園の馬車が通れる一番奥まで行けば、ざわざわと騒がしかった声が小さくなった。
 レイシウスが御者にエスコートをして下ろしてもらえば、そこに立ちすくんでいる数人の生徒と目が合った。顔は青く見えて、少なくとも健康そう顔色ではない。

 周りを確認すると、顔を合わせたくないと思ったのかそそくさと学舎に入っていく子がいるのが見えた。だいたい年下くらいの年齢の子は足早に室内に入り、上の学年だろうという子は面白そうにこちらを見てくるようになっている。

 目の前の生徒は――

「レイシウス、カルシア……」

 呆然と呟かれるようにクラスメイトの口からレイシウスの名前が零れ落ちた。見世物になっているような状況にレイシウスの冷静な気持ちとは別の所でに不愉快指数が上がっていく感じがした。
「私の名前をそのように軽々と扱わないでくださる? 不愉快だわ。それに私、見世物になんてなりたくありませんの。どいてちょうだい」

 考えていた訳でもないのに高慢な言葉が滑り落ちるように相手に転がっていく。言おうとも思っていない言葉が口から勝手に出てきて、レイシウスは自分で言ったにも関わらず一瞬誰がそんなことを言ったのかとすら思った。ひそかに驚愕に固まるレイシウスに気が付く人間は幸いにもいない。
 クラスメイトの一人は一瞬言い返しそうな雰囲気になったものの、他の二人から肩を掴まれていた。彼は言葉をぐっと飲み込んで背を向けるものの、レイシウスを気にしながら先に学舎に入っていった。

 驚きつつもレイシウスは気を持ち直した。レイシウスと玲衣が一緒になったのだ、口から勝手に自分でも意識していないような言葉が出ても不思議でない……のか? 自分でも無理やりだと思う理由づけに首を傾げつつ、答えは出ないということは解っているので思考を放棄する。多少、現実逃避でもあった。

 クラスメイト達が去ってこれ以上何もないだろうと解っているくせに、野次馬は残ってレイシウスの行動を見つめている。なんて煩わしい。自然にそう思って、いつ自分の口からこの不特定多数に喧嘩を売る言葉が出るとも限らないと考えたために、さっさとレイシウスはその場から足を遠ざけた。

 クラスメイトへの対応にレイシウスは別に後悔はしていないが、性格が変わったのに口から勝手に言葉が出るのは非常に厄介だ。本当に脊髄反射のように言葉が出たのが自分でも怖い。
 確かに脊髄反射であれだけ高慢な態度をとられていたなら、今までクラスメイトもさぞムカついていたことだろう、と少しだけレイシウスはクラスメイトを憐れんだ。


「レイシウス・カルシア!」
 
 レイシウスが教室まで向かう途中、学舎をはしたない音を立てて走り寄ってきたのは担任である、カルロ・ランスメットだった。面倒な気配を感じるが逃げられるものではないので、仕方なく足を止める。

 ランスメットはまだ25歳で、下等部の教師の中でも若い方である。長い青髪は後ろで束ねられていて、青い目は大きく、彼を年齢よりも若く見せる。柔和な目は優しそうだが、下がった眉がどことなく苦労性なイメージを与えてくる。

「お久しぶりでございます、ランスメット先生。そのように声を荒げられなくとも聞こえております。なにか御用でも?」
 癖でというか、無意識にというかランスメットに冷たい視線を送ってしまう。レイシウスの批難のこもった目を受けてもランスメットは慣れたように眉を下げて力なく笑った。
「いや用って、お前なあ。無断で上級部の狩場に行って大怪我して帰ってきた人間が……何か用って」
「要点を早く教えてくださいませんか? そのように無駄な時間を取らせるようにグチグチとおっしゃっているのをただ聞いているほど暇ではございません」

 冷たい視線と言葉にランスメットはますます眉を下げる。その年齢で国立の学園で教鞭をとれるということは実力者であろうというのにその威厳はなく、まるで聞き分けがない小さな子供相手に手を焼く年長者のようだ、と思った所で納得した。なるほどそういう扱いか。
 小さな子供扱いはあまり良い気はしないけれど、考えてみればレイシウスなんてまだ10歳だ。高圧的で攻撃的な教師に目の敵にされるよりよほど都合が良いし相性もましだろう。

 こんな可愛くないレイシウスを他の子供と差別せずに同じ小さな子供扱いにしているところはむしろ好感が持てる。前のレイシウスの時から、面倒で品の無い人間だとは思っていたが嫌いではなかった。

 とりあえず廊下の真ん中でするような話ではないとのことで、近くの空いた教室で向かい合わせに座らされる。教師と向かい合わせに座るだなんてまるで個人面談だ、なんて悠長にレイシウスは考えた。

「交流って大事だぞ、レイシウス。……なんで狩場にとか、そういうのはクラスの連中に一応もう聞き取った。怪我は大丈夫なのか?」
「お気遣いどうも。怪我も問題ございません。これでお話は以上ですか?」
「だから! そんなに急いで話しを切ろうとするなよ! 傷つくぞ俺だって」
 溜息を吐きながら覇気の無い自分の顔に手を当てるランスメットに、疲れの色を見る。あー……クラスの不祥事だものね、そりゃあいろいろ大変だっただろう。

 当事者だけれどまるで他人事の気分で疲れたランスメットを見る。いや、多少の罪悪感というか、申し訳なさは感じた。なので仕方なく最後まで話を聞くことを決めて、静かにランスメットの言葉の続きを待った。

「まあ、本当にレイシウスが無事で良かった。運が悪ければ死んでいてもおかしくなかったんだ。聞き取りではクラスの連中が、必要な薬を集めるためにレイシウスに手伝ってもらったんだと聞いたが、間違いないか」
 クラスメイト達はなかなか素直に白状したようだ。薬の信憑性は疑わしいし、悪意については黙っているだろうが。レイシウスの思考を他所に、ランスメットは本当に申し訳なさそうな顔をして言葉を続けた。ランスメットもクラスメイトの思考を言われずとも理解しているようだ。

「クラスの連中を許せ、なんてとても言えない。お前の両親は今回のことについて、不幸な事故だったと不問とされたが、お前が希望するならほかのクラスに入ることも可能だろう。事前に知って止めることが出来なかった俺にも責任はある。本当に辛くて怖い思いをさせた。本当に申し訳ない」
 言葉に、素直に驚いた。国立の学園だ、不祥事は気にするしよっぽどのことがなければ個人の特別扱いなんて行われないはずだ。それを本当にするならば、問題は大きくなりクラスの担任であるランスメットの教師としての信用も、もしかしたらその地位だって危うくなるのではないだろうか。
 レイシウスは思い至ってランスメットの顔を見たが、その顔にはやはりいつもの優しそうな、申し訳なさそうな顔が浮かぶのみだ。その大人ぶった顔を余裕とともに崩してやりたくなる。だからレイシウスも口を開いた。

「ご心配、痛み入ります。しかし今回の事、私がそれほどまで気にしている弱い人間だと思われるのはあまりにも屈辱的ですわ。私が誰かに唆されてやるわけがありません。私がやりたくてやったこと、それほどまでに弱者に語り掛けるように言われるのは業腹です」
 口が開いた。うーん、頭の中では「大丈夫です、自業自得ですから」としか考えてなかったのに、口にすればこんなことになるのはレイシウスのプライドが高い言葉しか喋れなくなる呪いみたいなものにでもかかっているのだろうか。

 でもランスメットは良い先生だ。それを前のレイシウスのような我儘娘のせいで辞めさせられるよりは、可愛くないレイシウスのプライド自慢を聞くほうがいいだろう。そう判断して口を噤むことはしない。

「私、そのように他者に憐れまれて善意を押し付けられること、大嫌いなんですの。解っていただけたのならとっととその案を撤回して、この場から解放してくださる? やはり時間の無駄でしたわ」
「あー……その回答は予想外だったなあ……ハハ」
 乾いたランスメットの笑いがあまり物もない教室に短く響くかと思うと、急に笑顔を消してランスメットは真面目な顔でレイシウスを見つめる。

「とりあえずレイシウスの意見も併せて、今回の事はこのままなかったようになると思う。だがクラスとの関係も、辛いだろう。俺は教師だ。何かあったら、すぐに相談してほしい」
「教師のくせして、物分かりが悪いのですね。私がまるで弱者のようにおっしゃるの」
「そんなつもりじゃない! ただ、」
 話はここまでだとばかりにレイシウスが席を立つ。言い募ろうとするランスメットを、また一度冷たい視線で制した。

「私がどのように強い人間か、その悪い目と耳を必死に使って眺めていらっしゃったら良いのです。私は、レイシウス・カルシア。誰にも何にも、決して屈しません」

 これをレイシウスプライド劇場とでも名付けようか。レイシウスは心の中でこの茶番に羞恥で死にたくなった。



 攻撃的な言葉とレイシウスプライド劇場をどうしようかなんて事を悩みつつ、教室に着けば教室内の会話が無くなり、視線のすべてがレイシウスに集まった。また見世物か。

「不躾な視線を止めてくださいな。本当、朝から皆様お暇ですこと。そんなことをしている暇があるならもっと努力でもなされば? 赤子でももっと有効な時間の使い方をしますのに……」

 うん、攻撃的な言葉止まらないね! これレイシウスの標準装備なの? 外したーい! 外せなーい!! この装備は呪われている!
 なんだかハイテンションだが別に壊れたわけでもなく、今日のいろいろな出来事に玲衣の方のキャパシティーがオーバーしただけである。

 レイシウスの呪われた装備の一言に誰もなにも言わなかったので気にせず席に座った。玲衣が心のどこかで鉄の心臓かよ! なんて叫んだ気がした。
 正直誰かは噛みついてくるか謝ってくるかと考えていたが、レイシウスの想像以上にこのクラスは気が弱いのか。やはり誰も人の命を背負える器ではないと、想像通りで安心した。死ねば良いと思うほどは嫌われていなかったようだ。

 かといって仲直りする気も一切ないので、どうしようということもないのだけれど。レイシウスはまるで自分一人しかいないように誰も音を立てたがらない異様な教室で頬杖をつく。
 死にかけたのはやっぱりレイシウスの自業自得だし、でもそれが痛い目を見れば良いという作為的な気持ちで引き起こされたというのはあまりに拙い。
 最初の一言以降、クラスメイトを見ることもなく興味を無くしたようなレイシウスの行動に、クラスメイト達は静かに各々の席へと戻っていった。

 授業が始まり、いつもの通り座学と実技が行われていく。ファンタジーな授業にいつも通り簡単だと思う気持ちと、テンションが上がりまくる気持ちが混ざり、いつもよりは真面目に取り組んだ。
 結局クラスメイトはぎこちない態度しかしておらず、何度か何かを言いたそうな目はもらったもののその何かを言われることはなかった。

 ……と、思いきや。レイシウスは帰り際に呼び止められた。
「か、カルシア様!」

 振り帰ると気弱そうな男の子一人が前に出て、後ろに残りのクラスメイトたちがそれを見ていた。
 あー、生け贄みたいなものかな。お前がいけよ、みたいなものか。現代日本と変わらないやり方に、人とはこういうものかとレイシウスは因果というものを感じた。

 この学園は、魔力の値が規定値以上の者なら誰でも入れる。貴族は当然として、平民、商人、それこそ下層民に至るまで。私学の学校とは違い、支援も受けられるために選ばれさえすれば、意思さえあれば通うことができるのだ。
 ただ、高い魔力を持つのは貴族に圧倒的に多く、それ以外からで魔力の素養が高い者は千人に一人とも、万人に一人とも言われている。貴族は規定値以上の魔力を持つ者は10人に3、4人程、と言われ、割合としてはかなり多く貴族が魔力を持っている可能性が高い。
 だから学校の規模は大きいが、学年でクラスは3クラスしかなく、1クラスには10、11人程度しかいない。レイシウスのいるクラスもレイシウスを入れてちょうど10人、小規模なクラス編成だ。

 だからレイシウスを除いて9人しかいない教室のクラスメイトだ、名前はなんとなく覚えているとレイシウスは思っていた。

 たしか目の前のこの子は……ユナ? ユノ?
 訂正、覚えていなかった。
 このユナだかユノだか言う子は平民の出だ。それは姿を見ればわかる。
 たとえ学園内の平等を唱えていようと、圧倒的な実力かコミュニケーション力が下の立場の者になければ上下関係は出てきやすい。
 だから彼は解りやすい生贄とされてしまっているのだ。


「カルシア様が、お怪我して、僕ら、ずっと謝りたくて……」
「あら、謝る必要がどこに?」
 途切れ途切れの言葉を待つことはしない。別に許し許されるつもりはなかったがランスメットの手前、謝りたいというなら受け取っておこうとは思っていたのだ。だけれど、こんなにも誠意もないやり方でくるのなら、それなりに平等にさせてもらおう。レイシウスは呪いの装備を掲げた。

「で、でも僕らのせいで……カルシア様は、怪我を」
「あら、そんなこと気になさっていたの。私の怪我なんて良いのです、だって自業自得ですもの」
 レイシウスの優しいとも思える言葉にクラスの人間はざわざわとどよめいている。
 それもそうだろう、前のレイシウスなら「一生をかけて償いなさい!」とでも言いそうだ。

「じゃ、じゃあ、カルシア様は僕たちのことを、許してくれるの?」
「重ねて言いますが、許すも何も、謝られる覚えがありませんもの」
 気の弱そうな彼はとても明るい笑顔になる。周りの雰囲気も明るくなって、今までの重い空気が嘘のようだ。

「私が死にかけたのは私の責任ですわ。だから――私を殺しかけたのは皆様の責任ですもの。謝るとか、そんな話じゃないでしょう? 自業自得、ですものね」

 空気が凍り付いた。先ほどまでの軽い空気が嘘のようだ。温度差と言うか、重力差というか、が激しい。固まった空気を溶かすように再度レイシウスが言葉を投げ込んだ。
「時にあなたは、どんな道にお進みになりたいと思っているの? 上等部になったら」

 気の弱そうな男の子の後ろ、朝にレイシウスに言い返そうとした男の子だ。その子に少し近づいてレイシウスが尋ねる。
「は、き、騎士生、だけど」
「そうですの。では騎士生になって、何をなさりたいの?」
「そんなの、魔物を倒して、人を守るに決まってるだろう!」
 不愉快そうに眉を顰めて、今度は怯えずその子が言いきった。レイシウスは顔色をまったく変えず、平坦な声を出した。
「そう。魔物を倒し、精錬で立派な、人を守るお仕事ね。でもあなたはもう、人を殺そうとしたの。それを、どうかお忘れなく」
 
 男の子は目を見開いた。レイシウスの言葉を理解したのかなんて解らないし、そんなもの関係ないとばかりにレイシウスは違う女の子に目を向けた。視線だけで女の子は体を大きく揺らした。
「ねえ、あなたは将来、何を目指してらっしゃるの」
「ち、治癒師、です」
「そう。優しくて清廉な人を癒す、幸せなお仕事ね。でもあなたはもう、そのお仕事とは正反対のことをしたのではなくて?」

 泣きそうな顔でこちらを見てくるクラスメイトたちに、私は笑顔で話し続ける。

「あなた方がこれからどんなことをなさっていくのか、私は全く存じませんけれど。でもクラスメイトを殺そうとした事実は、忘れず、覚えていてくださいね。だって、それが自業自得、というものでしょう?」

 レイシウスのその言葉に、誰も何も答えはしなかった。


 こうして、レイシウスが変わってからの、学園一日目は各々の心に傷を埋め込み終わった。
 もちろんレイシウスの心にも、プライド劇場の代償に羞恥と言う名の傷を作って。

 
 改めてレイシウスがクラスメイトを見ると、結局ほとんど名前はあやふやだった。どこから知っているなんて自信がきていたのかは不明である。
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