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第1章 2 俺のステータスだけ特別すぎないか
君の自信になってあげるよ
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ああ、俺、このまま死ぬのか。
この世界で死んだら本当に死ぬんだろうな。
まあいいか、もう。
無価値な引きこもりの俺なんかさっさといなくなって命の枠を開けるべきだし。
最後の晩餐が馴染みある日本食だったから満足だよ。
その最後の晩餐を作った張本人に殺されるなんて、思いもしなかったけどね。
「あ、ちなみにさっき食べた肉はゴブリンの睾丸です」
夢も希望もないんだよ。
「もちろんこの世界にもちゃんとしたお肉はありますが、その方が面白いと思いまして」
ミライがなにか言っているがもうどうでもよかった。
結局、俺はなにも変われないまま、引きこもりとして死んでいく。
惨めなまま、哀れなまま、弱虫として、俺の人生は幕を閉じる。
そんなもんだ、俺なんて。
俺なんて、生きながらえるだけ無駄なんだ――
――私が君の自信になってあげるよ。
そのとき、俺の頭の中で声がした。
鹿目さんの声だ。目の前のミライが鹿目さんそっくりだから思い出してしまったのかもしれない。
「鹿目……さん」
思わず名前を呼ぶ。
最期に鹿目さんのことを思い出せて、それだけで幸せだった。ミライが鹿目さんに似ていたことに感謝しないとな。
俺は死を受け入れてゆっくりと目を閉じる。
鹿目さん。
鹿目さん。
心の中で名前を呼んで、鹿目さんの綺麗な横顔を、弾けるような笑顔を思い出しながら死を迎えることにした。
それが俺の最高の幸せだから。
できなかった。
あんなに見惚れて、何度も何度も記憶に焼きつけたはずなのに、笑顔も綺麗な横顔も思い出すことができない。
代わりに思い出すのは、余命宣告を受けた後の鹿目さんの姿だ。
「どうして私なの! 他の人でいいじゃん! やだよぉ死にたくないよぉ!」
病室のベッドの上で、母親に寄り添われている鹿目さんが泣き叫んでいた。
昨日、俺と話していたときは、
「余命なんか他人に決められてたまるかって。私は生きるよ、これからも」
なんて笑いながら言っていたのに。
それを見て俺は、この人は病気に絶対打ち勝つんだな、と確信したのに。
「あんなに勉強してさぁ、夢が、かなうって思ったのにぃ」
きっと鹿目さんは、俺が今日もお見舞いにくるなんて思っていなくて、俺が扉を開けたことにも気づいていなくて。
「こんなのって、ないよ。なんで私なんだよぉ!」
だからこそ、俺の前では決して見せない姿をさらけ出している。
誰かのお見舞いの品なのか、ベッドの上に置いてあったクマのぬいぐるみをつかんで、投げ飛ばそうとして、それをぎゅっと抱きしめる。
「ごめんねぇ未来。お母さん、寄り添うことしかできなくて」
自暴自棄になっている娘を母親が抱きしめる。
かけるべき言葉が見つからないのか、それから母親はずっと無言だ。
「なんで人間は死ななきゃいけないの。もし私がこのクマみたいに、お人形さんだったら、みんなのそばにずっといられて、夢もかなえられて、みんなを悲しませずにすむのにぃ」
俺はこれ以上鹿目さんを見ていられなくて、その場から走って逃げた。
鹿目さんは強い女の子じゃなかった。
死を恐れる普通の女の子だった。
――私が君の自信になってあげるよ。
鹿目さんは生きたかったのだ。
生きて生きて生きつづけたかったのだ。
――どうして私なの! やだよぉ! 死にたくないよぉ!
鹿目さん。
鹿目さん。
心の中で名前を呼ぶ。
鹿目さんは生きたかった。
そう思うと、諦観の感情に支配されて冷たくなっていた体の奥底から、なにが込みあがってくる。
熱い。
その熱が体を蹂躙していく。
鹿目さんは生きたくて、でも生きられなくて。
生きたくても生きられなかった人がいるのに、生きたくて生きたくてたまらなかった人がいるのに、どうして俺が、一度死んだにもかかわらず転生までさせてもらって生きている俺が、生きることを諦めているのだろう。
存在が無価値だからって、生きたくても生きられなかった人がいるのに、自分で死を選ぶなんて、そんなことしたら無価値以下の存在になってしまう。
「……そんなの、嫌だ」
この世界で死んだら本当に死ぬんだろうな。
まあいいか、もう。
無価値な引きこもりの俺なんかさっさといなくなって命の枠を開けるべきだし。
最後の晩餐が馴染みある日本食だったから満足だよ。
その最後の晩餐を作った張本人に殺されるなんて、思いもしなかったけどね。
「あ、ちなみにさっき食べた肉はゴブリンの睾丸です」
夢も希望もないんだよ。
「もちろんこの世界にもちゃんとしたお肉はありますが、その方が面白いと思いまして」
ミライがなにか言っているがもうどうでもよかった。
結局、俺はなにも変われないまま、引きこもりとして死んでいく。
惨めなまま、哀れなまま、弱虫として、俺の人生は幕を閉じる。
そんなもんだ、俺なんて。
俺なんて、生きながらえるだけ無駄なんだ――
――私が君の自信になってあげるよ。
そのとき、俺の頭の中で声がした。
鹿目さんの声だ。目の前のミライが鹿目さんそっくりだから思い出してしまったのかもしれない。
「鹿目……さん」
思わず名前を呼ぶ。
最期に鹿目さんのことを思い出せて、それだけで幸せだった。ミライが鹿目さんに似ていたことに感謝しないとな。
俺は死を受け入れてゆっくりと目を閉じる。
鹿目さん。
鹿目さん。
心の中で名前を呼んで、鹿目さんの綺麗な横顔を、弾けるような笑顔を思い出しながら死を迎えることにした。
それが俺の最高の幸せだから。
できなかった。
あんなに見惚れて、何度も何度も記憶に焼きつけたはずなのに、笑顔も綺麗な横顔も思い出すことができない。
代わりに思い出すのは、余命宣告を受けた後の鹿目さんの姿だ。
「どうして私なの! 他の人でいいじゃん! やだよぉ死にたくないよぉ!」
病室のベッドの上で、母親に寄り添われている鹿目さんが泣き叫んでいた。
昨日、俺と話していたときは、
「余命なんか他人に決められてたまるかって。私は生きるよ、これからも」
なんて笑いながら言っていたのに。
それを見て俺は、この人は病気に絶対打ち勝つんだな、と確信したのに。
「あんなに勉強してさぁ、夢が、かなうって思ったのにぃ」
きっと鹿目さんは、俺が今日もお見舞いにくるなんて思っていなくて、俺が扉を開けたことにも気づいていなくて。
「こんなのって、ないよ。なんで私なんだよぉ!」
だからこそ、俺の前では決して見せない姿をさらけ出している。
誰かのお見舞いの品なのか、ベッドの上に置いてあったクマのぬいぐるみをつかんで、投げ飛ばそうとして、それをぎゅっと抱きしめる。
「ごめんねぇ未来。お母さん、寄り添うことしかできなくて」
自暴自棄になっている娘を母親が抱きしめる。
かけるべき言葉が見つからないのか、それから母親はずっと無言だ。
「なんで人間は死ななきゃいけないの。もし私がこのクマみたいに、お人形さんだったら、みんなのそばにずっといられて、夢もかなえられて、みんなを悲しませずにすむのにぃ」
俺はこれ以上鹿目さんを見ていられなくて、その場から走って逃げた。
鹿目さんは強い女の子じゃなかった。
死を恐れる普通の女の子だった。
――私が君の自信になってあげるよ。
鹿目さんは生きたかったのだ。
生きて生きて生きつづけたかったのだ。
――どうして私なの! やだよぉ! 死にたくないよぉ!
鹿目さん。
鹿目さん。
心の中で名前を呼ぶ。
鹿目さんは生きたかった。
そう思うと、諦観の感情に支配されて冷たくなっていた体の奥底から、なにが込みあがってくる。
熱い。
その熱が体を蹂躙していく。
鹿目さんは生きたくて、でも生きられなくて。
生きたくても生きられなかった人がいるのに、生きたくて生きたくてたまらなかった人がいるのに、どうして俺が、一度死んだにもかかわらず転生までさせてもらって生きている俺が、生きることを諦めているのだろう。
存在が無価値だからって、生きたくても生きられなかった人がいるのに、自分で死を選ぶなんて、そんなことしたら無価値以下の存在になってしまう。
「……そんなの、嫌だ」
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