59 / 360
第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい
恐怖
しおりを挟む
一日中二人に振り回されつづけていた俺は、当然ながら疲労困憊だった。
イツモフさんの見送りはミライに任せて、ソファの上で寝そべっている。
なんだろう。
イツモフさんみたいなふざけた人がメンタリストを名乗っているのだから、俺もメンタリストとして名乗っていいような気がしてきた。
資格もないし、勉強も一切したことはないが、イツモフさんがこうして仕事にありつけているのだから、俺のところにも仕事が舞い込んでくるに決まっている。
よし、そうと決まれば行動しよう。
って……あれ?
俺、今イツモフさんの口コミ通りのことを思ってるぞ?
やっぱりイツモフさんは人を前向きにする優秀なメンタリストだったの――なわけないない。
あんなフマジメンタリストに洗脳されるな。
「あー、今日はもうなんにもしたくねーな」
心の声を素直に吐露しながら、大きく伸びをしたときだった。
突然玄関でドタバタと物騒な物音がしたため、ソファから飛び起きる。
物音はすぐに聞こえなくなり、十秒ほど無音が響いていた。
「なに、が……」
震える足をなんとか動かしてリビングを出る。
転げ落ちないよう手すりを頼りに一階へ下りると、そこには。
「イツモフ、さん?」
床に横たわっているイツモフさんを見つけた。
慌てて駆け寄ると、お腹のあたりに靴裏の跡がついており、口の端からは真っ赤な血液が垂れている。
蹴られたのは確定だ。
「イツモフさん!」
彼女のそばでしゃがんで肩を揺する。
「イツモフさん! なにがあったんですか! イツモフさん!」
「……ん、あ、誠道、くん」
わずかに目を開けたイツモフさんは、虚な目で俺を見てから玄関の方を向いた。
「申しわけありません。ミライさんが、連れ去られてしまって」
「え……」
連れ去られた?
つまり、攫われた?
「誰に……」
そんなことをするのが誰か心のどこかでわかっていたと思う。
だけど、俺は違う答えを期待していた。
違ったならば、そうじゃないのなら、俺でも助けにいけるかもしれないと。
「金髪の男と、他に三人いて」
その瞬間、俺は廊下に尻もちをついた。
体に力が入らない。
腹の底から湧き上がる震えが、全身を支配していく。
「ミライさんはそいつらに連れられて、一瞬で消えて……」
吐血するイツモフさん。
ってか、一瞬で消えた?
そういえば、鶏真喜一の固有ステータスがそんなだったような。
「誠道さん……。マジ、ゴメンタリスト」
イツモフさんはこっくりと意識を失った。
俺は、そんなイツモフさんをただ見ているだけ。
震えている自分の体を見下ろして、「ああ、ああ」とかすれた声を出すだけ。
ミライが、大度出たちに攫われた。
その事実を知ってもなお――その事実を知ったからこそ、俺の体は恐怖に支配されて動かない
イツモフさんの見送りはミライに任せて、ソファの上で寝そべっている。
なんだろう。
イツモフさんみたいなふざけた人がメンタリストを名乗っているのだから、俺もメンタリストとして名乗っていいような気がしてきた。
資格もないし、勉強も一切したことはないが、イツモフさんがこうして仕事にありつけているのだから、俺のところにも仕事が舞い込んでくるに決まっている。
よし、そうと決まれば行動しよう。
って……あれ?
俺、今イツモフさんの口コミ通りのことを思ってるぞ?
やっぱりイツモフさんは人を前向きにする優秀なメンタリストだったの――なわけないない。
あんなフマジメンタリストに洗脳されるな。
「あー、今日はもうなんにもしたくねーな」
心の声を素直に吐露しながら、大きく伸びをしたときだった。
突然玄関でドタバタと物騒な物音がしたため、ソファから飛び起きる。
物音はすぐに聞こえなくなり、十秒ほど無音が響いていた。
「なに、が……」
震える足をなんとか動かしてリビングを出る。
転げ落ちないよう手すりを頼りに一階へ下りると、そこには。
「イツモフ、さん?」
床に横たわっているイツモフさんを見つけた。
慌てて駆け寄ると、お腹のあたりに靴裏の跡がついており、口の端からは真っ赤な血液が垂れている。
蹴られたのは確定だ。
「イツモフさん!」
彼女のそばでしゃがんで肩を揺する。
「イツモフさん! なにがあったんですか! イツモフさん!」
「……ん、あ、誠道、くん」
わずかに目を開けたイツモフさんは、虚な目で俺を見てから玄関の方を向いた。
「申しわけありません。ミライさんが、連れ去られてしまって」
「え……」
連れ去られた?
つまり、攫われた?
「誰に……」
そんなことをするのが誰か心のどこかでわかっていたと思う。
だけど、俺は違う答えを期待していた。
違ったならば、そうじゃないのなら、俺でも助けにいけるかもしれないと。
「金髪の男と、他に三人いて」
その瞬間、俺は廊下に尻もちをついた。
体に力が入らない。
腹の底から湧き上がる震えが、全身を支配していく。
「ミライさんはそいつらに連れられて、一瞬で消えて……」
吐血するイツモフさん。
ってか、一瞬で消えた?
そういえば、鶏真喜一の固有ステータスがそんなだったような。
「誠道さん……。マジ、ゴメンタリスト」
イツモフさんはこっくりと意識を失った。
俺は、そんなイツモフさんをただ見ているだけ。
震えている自分の体を見下ろして、「ああ、ああ」とかすれた声を出すだけ。
ミライが、大度出たちに攫われた。
その事実を知ってもなお――その事実を知ったからこそ、俺の体は恐怖に支配されて動かない
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる