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第2章 3 夏祭りは浴衣で君と
浴衣
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それから二週間が経ち、早くも祭りの当日を迎えた。
グランダラのメインストリートには、まだ昼間にもかかわらず、提灯と屋台がずらりと並んでいる。
祭りの開始時刻は夕方以降だが、はやる気持ちを抑えられない子供たちが、準備段階の屋台をのぞきにきていた。
俺とミライも割り当てられた屋台に向かい、開店の準備をはじめる。
俺はこの二週間、経験値獲得のための筋トレをおろそかにしてまで、接客のトレーニングに勤しんだ。
その結果、なんとか接客も人並レベルには上達し――
「深夜のコンビニ店員くらいのレベルではないですか? 人並とは程遠い気が」
「見栄はったっていいだろ?」
すぐそばでてきぱきと動いているミライに痛いところを突かれてしまう。
ってか独り言漏れてたの?
でも深夜のコンビニ店員、別にいいじゃん。
日本の通常時の接客が過度に丁重過ぎんだよ。
だから客が「俺たちは神様だ!」なんて威張り散らすんだよ。
「そういや、メニューも仕入れも調理もまかせたけど、ミライこそ大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません」
これまでのミライを知っているからこそ、その断定が逆に怖い。
ミライにまかせて問題がなかったことがないからだ。
「高級食材ばっかり、なんてことはないだろうな」
「まさか。今回用意した食材に高級なものはひとつもありません。むしろどれだけ安く仕入れられるかを極めました。なんせ今回の目的はバカなリア充からぼったくることですので。原価は抑えるに越したことはありません」
「もう少し言い方をかえれば、有能なバイヤーのように聞こえそうなんだけどなぁ」
言葉のセンスが本当にもったいない……が、ミライの言ったことは的を得ている。
今回の俺たちの目的は、祭りに参加するバカなリア充からお金をむさぼり取ること。
そしてその売り上げで借金返済すること。
だから原価を抑えるに越したことはない。
薄利多売なんてもう古い。
時代は濃利多売だ!
読み方も知らんし、そんな四字熟語があるかもわからんけど。
「それはそうとさ、ミライ」
「はい? どうしました?」
「その服、動きにくくないか? いつもの制服でもよかっただろうに」
俺はミライの服装がずっと気になっていたのだ。
今日のミライは、いつものセーラー服ではなく浴衣を着ている。
白い生地の上を真っ赤な金魚たちが優雅に泳いでおり、帯は爽やかな水色。
髪飾りも可愛らしい。
胸が大きいと浴衣は似合わないなんて通説があるが、ミライには当てはまらなかったようだ。
「え、それはつまり似合っていないということですか?」
戸惑いの表情を浮かべるミライ。
「いや違う違う。似合ってるし可愛いけどさ、その……浴衣じゃ動きにくいだろってことだよ」
「あ、そういうことでしたか」
花が咲いたような笑顔を見せたミライは、両腕を少しだけ持ち上げる。
「誠道さんが浴衣を着てほしそうな目をしてましたので、サービスいたしました」
「え、マジで?」
あれ、バレてたの?
ってか浴衣を着てほしそうな視線ってなんだよ。
「というのは二番目の理由で、一番の理由は祭りにきた男どもをの視界を一時的に奪うためです。浴衣姿は男性にとって実に魅力的に映ると聞いておりますから」
「否定はしない」
「つまり私は彼氏の視界を奪って、『ちょっと、なんで私以外の女なんか見てんのよ』からはじまる喧嘩でそのカップルを別れさせようとしているのです。なんせ私はそんじょそこらの女よりもはるかに美しいですから!」
「腹黒さもそんじょそこらの人じゃ太刀打ちできないくらいあるね」
張り合えるのはイツモフさんくらいかな。
にしても、ミライの浴衣姿は本当に美しい。
だからこそ、自分で美しいと言い放ったことに対してツッコめなかったわけだが。
ミライのこの姿を見られただけで、この祭りに参加した意義は大いにあるのではないだろうか。
「それに誠道さんの目も釘づけにしておかないと」
「え? なんて?」
すぐに聞き返す。
小さな声だったのでうまく聞こえなかったのだ。
「別になんでもありませんよ」
ミライは曖昧な笑みを浮かべた後、自分が着ている浴衣を見下ろして満足げに言い放つ。
「でも、誠道さんに褒めてもらえるなんて、原価を抑えた分を浴衣に回したかいがありました」
「いや抑えた分は借金返済に回せよ! 意味ないだろ!」
このメイドはやっぱりバカなのかなぁ。
でも、自分が着ている浴衣を嬉しそうに眺めるミライは絵になっている。
「意味がないって、もう」
ミライは頬をぷくっと膨らませて。
「誠道さんは女心を理解してください」
「女心はともかく、無駄遣いする心理なら理解したくねぇよ」
「もういいです」
なぜか不機嫌になったミライが俺の後ろを指さす。
「そんなことよりもこの屋台のメニュー看板が届きました。誠道さん、受け取りお願いします」
グランダラのメインストリートには、まだ昼間にもかかわらず、提灯と屋台がずらりと並んでいる。
祭りの開始時刻は夕方以降だが、はやる気持ちを抑えられない子供たちが、準備段階の屋台をのぞきにきていた。
俺とミライも割り当てられた屋台に向かい、開店の準備をはじめる。
俺はこの二週間、経験値獲得のための筋トレをおろそかにしてまで、接客のトレーニングに勤しんだ。
その結果、なんとか接客も人並レベルには上達し――
「深夜のコンビニ店員くらいのレベルではないですか? 人並とは程遠い気が」
「見栄はったっていいだろ?」
すぐそばでてきぱきと動いているミライに痛いところを突かれてしまう。
ってか独り言漏れてたの?
でも深夜のコンビニ店員、別にいいじゃん。
日本の通常時の接客が過度に丁重過ぎんだよ。
だから客が「俺たちは神様だ!」なんて威張り散らすんだよ。
「そういや、メニューも仕入れも調理もまかせたけど、ミライこそ大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません」
これまでのミライを知っているからこそ、その断定が逆に怖い。
ミライにまかせて問題がなかったことがないからだ。
「高級食材ばっかり、なんてことはないだろうな」
「まさか。今回用意した食材に高級なものはひとつもありません。むしろどれだけ安く仕入れられるかを極めました。なんせ今回の目的はバカなリア充からぼったくることですので。原価は抑えるに越したことはありません」
「もう少し言い方をかえれば、有能なバイヤーのように聞こえそうなんだけどなぁ」
言葉のセンスが本当にもったいない……が、ミライの言ったことは的を得ている。
今回の俺たちの目的は、祭りに参加するバカなリア充からお金をむさぼり取ること。
そしてその売り上げで借金返済すること。
だから原価を抑えるに越したことはない。
薄利多売なんてもう古い。
時代は濃利多売だ!
読み方も知らんし、そんな四字熟語があるかもわからんけど。
「それはそうとさ、ミライ」
「はい? どうしました?」
「その服、動きにくくないか? いつもの制服でもよかっただろうに」
俺はミライの服装がずっと気になっていたのだ。
今日のミライは、いつものセーラー服ではなく浴衣を着ている。
白い生地の上を真っ赤な金魚たちが優雅に泳いでおり、帯は爽やかな水色。
髪飾りも可愛らしい。
胸が大きいと浴衣は似合わないなんて通説があるが、ミライには当てはまらなかったようだ。
「え、それはつまり似合っていないということですか?」
戸惑いの表情を浮かべるミライ。
「いや違う違う。似合ってるし可愛いけどさ、その……浴衣じゃ動きにくいだろってことだよ」
「あ、そういうことでしたか」
花が咲いたような笑顔を見せたミライは、両腕を少しだけ持ち上げる。
「誠道さんが浴衣を着てほしそうな目をしてましたので、サービスいたしました」
「え、マジで?」
あれ、バレてたの?
ってか浴衣を着てほしそうな視線ってなんだよ。
「というのは二番目の理由で、一番の理由は祭りにきた男どもをの視界を一時的に奪うためです。浴衣姿は男性にとって実に魅力的に映ると聞いておりますから」
「否定はしない」
「つまり私は彼氏の視界を奪って、『ちょっと、なんで私以外の女なんか見てんのよ』からはじまる喧嘩でそのカップルを別れさせようとしているのです。なんせ私はそんじょそこらの女よりもはるかに美しいですから!」
「腹黒さもそんじょそこらの人じゃ太刀打ちできないくらいあるね」
張り合えるのはイツモフさんくらいかな。
にしても、ミライの浴衣姿は本当に美しい。
だからこそ、自分で美しいと言い放ったことに対してツッコめなかったわけだが。
ミライのこの姿を見られただけで、この祭りに参加した意義は大いにあるのではないだろうか。
「それに誠道さんの目も釘づけにしておかないと」
「え? なんて?」
すぐに聞き返す。
小さな声だったのでうまく聞こえなかったのだ。
「別になんでもありませんよ」
ミライは曖昧な笑みを浮かべた後、自分が着ている浴衣を見下ろして満足げに言い放つ。
「でも、誠道さんに褒めてもらえるなんて、原価を抑えた分を浴衣に回したかいがありました」
「いや抑えた分は借金返済に回せよ! 意味ないだろ!」
このメイドはやっぱりバカなのかなぁ。
でも、自分が着ている浴衣を嬉しそうに眺めるミライは絵になっている。
「意味がないって、もう」
ミライは頬をぷくっと膨らませて。
「誠道さんは女心を理解してください」
「女心はともかく、無駄遣いする心理なら理解したくねぇよ」
「もういいです」
なぜか不機嫌になったミライが俺の後ろを指さす。
「そんなことよりもこの屋台のメニュー看板が届きました。誠道さん、受け取りお願いします」
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