うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

文字の大きさ
111 / 360
第2章 4 金の亡者の本懐

大切だから

しおりを挟む
 なんでここにイツモフさんが。

 彼女を見たとき、真っ先にそう思った。

 もちろん、最愛の弟であるジツハフくんを助けにきたことはわかりきっている。

 彼女の足は震えたままで、なんならカイマセヌを見上げた瞬間に、その震えはさらに大きくなった。

 暴力に対する怖さを、彼女は克服したわけではないのだろう。

 じゃあいったいなにが、彼女をここまで連れてきたのか。

「お前、誰だ?」

 カイマセヌが俺たちへの攻撃をやめ、イツモフさんの方を向く。

 とりあえず助かった。

 イツモフさんは気づいていないかもしれないが、彼女が足を震わせながらもここへやってきた、その事実だけで、すでに二つの命を救っている。

「私はジツハフの姉だ! 弟を取り返しにきた!」

 かすれてはいるものの、その声はとても力強い。

「取り返し、弟……ああ、お前がクリストフの言ってたやつか。どうした? 俺たちに金を渡す気になったか。お前らのせいで俺たちは金を稼げなかったんだからなぁ」

「ふざけんな! ジツハフはどこだっ!」

「どこって、あそこにいるじゃねぇか」

 カイマセヌが遺跡の一番奥を見る。

 つられるように、イツモフさんの視線もそこへ向かった。

「ジツハフっ!」

 ジツハフくんの姿をようやくとらえたイツモフさんは、弟の名前を呼びながら駆け寄っていく。

「ジツハフっ! しっかり! なにがあって」

 イツモフさんが、手足を縛られて意識を失っているジツハフくんの肩を揺らす。

「なにって、そいつが金の隠し場所を言わないから、ちょっといたぶってやっただけだよ」

「……お前、ふざけんなよ」

 イツモフさんが横たわるジツハフくんの前に立って、頭上にいるカイマセヌを睨みつける。

「威勢だけはいいなぁ。滑稽だぞお前。そんなに体を震わせて、恐怖に支配されて、なにができるんだ? ほら、死にたくなけりゃ早くしっぽ巻いて逃げるんだな。ただの弱虫なんて殺してもなんの価値もない」

 その瞬間、俺の中でなにかが弾けた。

「黙れよ! 取り消せよ! イツモフさんはなぁ、弱虫なんかじゃねぇんだよ!」

 カイマセヌに向かって叫ぶ。

 イツモフさんが弱虫だ?

 そんなはずがない。

「彼女はなぁ! こうして助けにきたんだよ! 恐怖を抱えながらでも、守りたいもののために立ち向かいにきたんだよ!」

「それを無謀だって言うんだよ。弱者は強者の前では無力! 力を持たないやつに他の命を考える資格はない。だからこうして命を無駄にするんだ」

 にやりと笑ったカイマセヌが、俺たちに向けるはずだった暗黒のエネルギーをイツモフさんとジツハフくんに向ける。

「無様に消えろ。【巨大鬼殺美悪デスキャビア】」

「イツモフさん!」

 必死で叫ぶが、俺の思いとは裏腹に体は全く動かない。

 ミライはすでに意識を失っている。

 くそぉ! なんでこんなときに見てるだけしかできないんだよぉ!

「イツモフさん! イツモフさ――」

 そのときだった。

 ただ名前を叫びつづけるしかなかった俺の目に映ったのは、弟を守るようにして両手を広げた、使命感に満ちた姉の横顔だった。

 まだ足は震えているのに、顔面蒼白なのに、弟を守るために自らの体を盾にしたのだ。

 そして、イツモフさんは俺の方を見て。

「ありがとう」

 ふわりと笑った。

 次の瞬間には、その笑顔は黒のエネルギーの中に消え去ってしまう。

 衝撃と爆風で、俺は目を開けていられなかった。

「イツモ、フ……さんっ」

「はっ、無様だなぁ。ただの無駄死に。死ぬのは弟だけだったのに、弱虫がいきがってこんなとこまできたばっかりによぉ」

 カイマセヌの高笑いが聞こえてくる。

 くそっ。イツモフさんたちはどうなった。

 立ち上る黒い煙のせいでなにも見えない。

 あれほどの攻撃をもろに食らったのだ。

 まさか跡形もなく消え去ったなんてことは――

「誰が、死んだって?」

 その力強い声がした後、煙が消えていく。

 体中傷だらけ、ボロボロのイツモフさんが、先ほどの場所から一歩も動かずに立っていた。

 しかも、挑発するような笑みを浮かべている。

「おあいにくさま。私は恐怖で足が震えて動かない弱虫なんだ。だから、弟のためにこの場で立ち尽くして、あんたのよわっちぃ攻撃を防ぐことしかできなかったよ」

 その煽りを受け、カイマセヌの纏う圧が一段階強まった。

「俺の攻撃がよわっちぃだと? そんなボロボロで、舐めた口きくじゃねぇか」

「お前はそのボロボロの私すら倒せないんだよ」

「ふざけやがって。【鬼殺美悪癌頭キャビアガンズ】」

 今度は無数の小さな暗黒エネルギーが出現し、イツモフさんに向かって爆進する。

 エネルギーを一点に込めて貫く力を上げた攻撃のようだ。

「そのまま蜂の巣になりやがれ!」

「私は、ジツハフを守るためなら動かないって言ったろ」

 イツモフさんはカイマセヌを睨みつけたまま、やはり一歩も動かなかった。

 今度ばかりは本当にヤバいと、俺はとっさにイツモフさんに手を伸ばしたが、その行動がカイマセヌの攻撃を防ぐ手段にはなりえない。

 無数の暗黒エネルギーがイツモフさんの体に風穴を開け――

「お姉ちゃんをいじめるなっ!」

 意識を取り戻したジツハフくんがお姉ちゃんを後ろから押し倒して、間一髪で交わした。

 先程の【巨大鬼殺美悪デスキャビア】の衝撃で手足を縛っていたロープが焼き切れていたようだ。

「クソ姉弟がっ、ふざけやがって。何度あがこうが同じなんだよ! 一緒に死にたいならお望み通りしてやらぁ! 【超巨大鬼殺美悪ハイデスキャビア】ッ!」

 カイマセヌが両手を頭上にかざし、暗黒エネルギーを溜めはじめる。

 先ほどよりもはるかに大きい。

 この一撃ですべてを終わらそうとしているのは明白だ。

「ジツハフ、あんただけでも逃げなさい! 私はもう動けない」

「いやだっ! 僕がお姉ちゃんを守るんだ!」

「そんなこと言ってる場合じゃない! 早く逃げて!」

「だってお姉ちゃんは、僕のたった一人の家族だから!」

 ジツハフが涙を流しながら叫ぶ。

「家族になった日に、絶対にずっと一緒にいるってそう決めたからぁ!」

 立ち上がったジツハフは、倒れて動けないイツモフさんの前に立つ。

 先ほどイツモフさんがしたように両手を大きく広げる。

「チビが。そんなことしたってなぁ、どうせなんも変わらねぇんだよ」

「うるさい! お前なんか怖くないぞ! お姉ちゃんは僕が守るんだ!」

 ジツハフくんは敵意をむき出しにしている。

 幼い体の中にある勇気を振り絞って、カイマセヌに立ち向かっている。

「守る力のねぇやつらがあがいてんじゃねぇ! 大人しく死にやがれ!」

 先ほどよりも大きな暗黒エネルギーの球体が放たれる。

 ジツハフくんは一歩も引かない。

 口をぎゅっと結び、歯を食いしばって、カイマセヌを睨みつけて、自分より一回りも二回りも大きな攻撃を受け止める気満々だ。

「お前の攻撃なんか怖くないんだ! 大好きなお姉ちゃんを失う方が、守れない方がよっぽど怖いことなんだぁああ!」

 絶叫するジツハフくんのもとに迫る【超巨大鬼殺美悪ハイデスキャビア】。

 禍々しいその黒い球体がジツハフくんの体にぶつかり、互いを思い合っていた兄弟の命が終わりを告げる――



 はずだった。



「――【黄金の右足ごうがしゃ】」



 ……え? と俺は目を疑う。

 ジツハフくんの前に割り込んだイツモフさんが、巨大な暗黒エネルギーの塊を黄金に輝く右足で蹴り飛ばしていた。

 よく見ると、右足に張りついて光っているのは無数の札束だ。

 その札束は金色の炎に包まれて燃え尽きていく。

 巨大な黒い球は進路を変え、カイマセヌの元へ一直線。

「……は?」

 驚きで放心状態になっていたカイマセヌが、【超巨大鬼殺美悪ハイデスキャビア】の中に消えた。

 轟音と衝撃と爆風が、遺跡内に猛然と広がる。

「イツモフさん!」

 俺が名前を呼んだ直後、落ちてきたカイマセヌの体が床とぶつかる鈍い音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...