うちのメイドがウザかわいい! 転生特典ステータスがチートじゃなくて【新偉人(ニート)】だったので最強の引きこもりスローライフを目指します。

田中ケケ

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第4章 4 束縛の果てに

名医の目にも涙

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 急に俺たちのこと呼んだのは、少しくたびれた白衣を着た猫族の男――コハクちゃんのお母さんであるハクナさんを診てくれているおじさん医師のテツカさんだ。

「いや、驚かせてすまない。ちょうど通りかかったら君たちを見かけてね。これは運命かなと思ったんだ」

 言い終えると、テツカさんは深呼吸をする。

 なにかを警戒するように俺たちの周囲を見回してから。

「しかも、運よくコハクちゃんもいないようだからね」

 神妙な面持ちを浮かべたテツカさんにミライがペコリと頭を下げる。

「テツカさん。昨日は挨拶できずに失礼いたしました。実は私たちもキャバク――」

 俺は慌ててミライを引っ張って、テツカさんに聞こえないように耳打ちする。

「キャバクラのことは触れるなよ。人は誰しも触れてほしくないことを抱えてるんだ。それがこの場合の優しさだから」

「……なるほど。誠道さんが十二歳のとき、バレンタインデーにチョコをもらったと見栄を張りたくて、自分でラッピングしたチョコを鞄に入れて学校にいき、まるで通学途中にもらったふりをしたのと同じように、触れてはいけないことなんですね」

「だからなんでそんなことばっかり知ってんだよ。触れるどころか思いっきり抉ってるよ」

「どうかしたのかい、二人とも。いきなりひそひそ話を」

「いえ、なんでもありませんよ。あはは……」

 怪訝そうにこちらを見るテツカさんに曖昧な笑みを返してから、俺はごほんと咳払いをする。

「すみません、テツカさん。でも運命ってどういうことですか。コハクちゃんには聞かれたくないってことだけはわかりましたが」

 はっきり言って、俺たちとテツカさんに深い関わりはない。

「それは……君たちに頼みがあるんだ」

 テツカさんの顔が強ばり、目が少しだけ鋭くなった。

「そのためには、君たちに真実を伝えなければいけない」

「真実、とは?」

 ミライとマーズと目を合わせてから聞き返す。

「コハクちゃんのお母さん。ハクナさんの不治の病のことだ」

 テツカさんはメガネをくいっと押し上げる。

 少しだけ強い風が、白衣をバサバサと激しくはためかせていた。

「ハクナさんのことなら、コハクちゃんも交えて話さないといけないのでは?」

「あの子には!」

 俺の声に被せるようにして、テツカさんが大きな声を出す。

 風がぴたりとやんだ。

「絶対に聞かせられないんだ。母親思いの、優しいあの子には」

「……どういうことですか」

 恐るおそる尋ねると、テツカさんは。

「いきなり大声を出してすまない」

 と眉尻を下げた。

「実は、ハクナさんが抱えている不治の病は、正確に言えば『呪い』なんだ。しかも聖職者の浄化にも対抗できるほどの強い呪いで、その呪いをかけた忌まわしき存在が……」

 テツカさんは悔しそうに唇を噛み締める。

「この里が廃れる原因となった、虎の魔物なのだ」

「魔物が呪いをかけられるなんて、私は聞いたことがないけど」

 マーズが質問すると、テツカさんは力なく首を振る。

「わしも最初は驚いたよ。わしの【病状解析カルティング】の結果でその事実を知ったときはね。聞いたことがなかったから」

 マーズが息を呑む音が聞こえてきた。

 テツカさんは申しわけなさそうに眉をハの字にする。

「この事実をお母さん思いのコハクちゃんに伝えたら、無理をしてでも倒しにいってしまう。勝てるはずがないのに。そう思ってわしはあの子に嘘をついてしまった」

 そういうことか。

 たしかに、コハクちゃんなら危険を一切顧みないかもしれない。

「だからこそ」

 テツカさんが俺たち三人を順に見ていく。

「あのマンティコアを倒した君たちに頼みがある。どうか虎の魔物を倒してはくれないか。呪いは術者を倒せば効果は消える。わしが開発した呪いの進行を止める薬も、だいぶ効き目が薄くなってしまっている。そんなときに君たちがやってきて、これは神様が与えてくれたハクナさんを救う最後のチャンスだと思ったのだ」

 悔しそうに拳を握りしめたテツカさんは、つづけて頭を下げた。

「医者のくせに情けないとは思っている。だが、こうする以外に方法がないんだ。知識があるだけでは人は救えない。どうか頼む。君たちにメリットがないことは重々承知だが、それでもお願いしたい。部外者を危険に巻き込んでしまうようなだめ医者に、力を持たぬこのわしに、力を貸してはくれないだろうか」

「顔をあげてください、テツカさん」

 俺はそう言った後で、ミライとマーズと顔を見合わせ、頷き合った。

「あなたは名医です。患者を救うためにこうして全力を、最善を尽くしている。もちろん喜んで協力させてください」

「ありがとう。本当に、ありがとう……」

 顔をあげたテツカさんの目から流れた落ちた涙をバカにするものはいないだろう。
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