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第4章 4 束縛の果てに
真実はいつも
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「なぁ、あれ、間違いなく心出だよな?」
「はい。……でも、どうしてここにいるんでしょう」
「まさかっ、あいつ、ケモナー衝動を抑えきれずに俺たちをつけてきたんじゃ……」
「でも、そうだとしたらどうしてあんなに落ち込んでいるんでしょう。心出のケモナーさんからしたらここは楽園。あのクソキャバ嬢に抱き着かれていたときの誠道さんのように鼻の下を伸ばしまくっていてもおかしくはないのに」
「あのときのことはいい加減忘れてくれ」
あと、心出のケモナーじゃなくてケモナーの心出な。
順番逆になっちゃってるから。
……と、そのとき、心出が不意に顔を上げ、目が合った。
「あ、誠道くん、にミライさん」
「よう」
この状況では、流石に声をかけないわけにいかない。
「どうしたんだよ。グランダラにいるはずじゃなかったのか?」
「そうだったんだが、猫族の里にどうしてもいってみたい気持ちが抑えられなかったんだ。もう一度、コハクさんに気持ちを伝えたいと思って誠道くんたちを追いかけ、昨日の夜にここにたどり着いたんだ」
「なぁ、心出。俺はちょっとだけ思ってしまったんだが、それってただのストーカ」
「コハクさんへの愛が抑えられなかったんだ」
「私も誠道さんと同じ意見で、心出さんはただのスト」
「愛が抑えられなかったんだ」
「だからさ、心出。愛が抑えられないのをストーカーって言うんじゃ」
「抑えられるものを愛とは呼ばないんだ。だって愛という言葉は五十音の一番上にあるんだから」
うん。
全然まったくこれっぽっちも意味がわかりません。
思考回路が完全にストーカーのそれですね。
「……ただ、俺は見てしまったんだ」
心出ががっくりと肩を落とし、頭を抱える。
そういやこのストーカー、猫族の里にきてるのにコハクちゃんをストーカーしてないな。
つまりストーカーは間違いだったのか。
なんか悪いことをしたな。
頭ごなしに偏見を押しつけてしまった。
あとで謝らないといけない。
「この里についてすぐコハクさんが里から出てくるのを見つけて、思わず後をつけたとき」
「やっぱストーカーじゃねぇか! 思わず後をつけるなよ!」
「でも……」
「でもじゃねぇ!」
「何度も言わせないでくれ! 俺はストーカーじゃない。夜道を、しかもコハクさんが里の外の森を歩いていたら心配で警護したくなる――いや、警護しなければいけなかったんだ。あのときの俺はコハクさんを陰ながら守る正義のヒーローだったよ」
「もはや思考回路がストーカーのそれだよ。悪のヒーローだよ」
「俺はストーカーじゃない」
「じゃあなんで話しかけないんだよ! 危ないと思ったんだろ! 正直に伝えて、ついていけばよかったじゃないか」
「そんなのできるわけないだろう! だって……そんな雰囲気じゃなかったんだから」
心出の表情が一気に曇る。
「だって、あのときのコハクさんはものすごく思いつめたような顔をしていて、本当に辛そうで、とても話しかけられるような感じじゃなかったんだ」
そして――。
心出が拳をぎゅっと握りしめ、鼻をヒクヒクとさせながらつづけた。
「コハクさんは、巨大な虎になって、冒険者たちを襲ったんだ」
「……は?」
あまりの衝撃に、それしか言葉が出なかった。
コハクちゃんが、虎の?
思わずミライを見たが、ミライは心出を放心状態で見つめたまま固まっている。
長い睫毛がぴくぴくと動いていた。
「俺は、俺にはコハクさんがそんなことをする人には思えなくて、注意すべきか、そのままを愛すべきか、わからなくて、混乱して、その場から逃げてしまったんだ」
その場に座り込む心出の吐き出す息が小刻みに震えている。
「男として、コハクさんのすべてを受け入れてやるのが愛なんだとはわかってる。でも、やっていいことと悪いことはあると思う。それに、俺にはコハクさんが仕方なくやっているようにしか見えなくて、それも俺の願望が見せた幻想なのかもしれないけど」
あれ、ちょっと待って。
心出さんはなんで二人が結ばれてる前提の話をしてるの?
両想い確定で話を進めてるの?
……ってツッコみを思いついているのに、それを実際に口に出してツッコめないほど俺は困惑していた。
だって、もしそうなら、コハクちゃんが虎の魔物なら……。
「でも、そんなはずはないよ。だってコハクちゃんが不治の病を、ハクナさんを呪った、張本人?」
そんなの、どうして、ありえないよ。
この里で唯一自分を見捨てなかった、優しくしてくれたハクナさんに対して恩を仇で返すようなこと、あのコハクちゃんが、するわけないって!
「はい。……でも、どうしてここにいるんでしょう」
「まさかっ、あいつ、ケモナー衝動を抑えきれずに俺たちをつけてきたんじゃ……」
「でも、そうだとしたらどうしてあんなに落ち込んでいるんでしょう。心出のケモナーさんからしたらここは楽園。あのクソキャバ嬢に抱き着かれていたときの誠道さんのように鼻の下を伸ばしまくっていてもおかしくはないのに」
「あのときのことはいい加減忘れてくれ」
あと、心出のケモナーじゃなくてケモナーの心出な。
順番逆になっちゃってるから。
……と、そのとき、心出が不意に顔を上げ、目が合った。
「あ、誠道くん、にミライさん」
「よう」
この状況では、流石に声をかけないわけにいかない。
「どうしたんだよ。グランダラにいるはずじゃなかったのか?」
「そうだったんだが、猫族の里にどうしてもいってみたい気持ちが抑えられなかったんだ。もう一度、コハクさんに気持ちを伝えたいと思って誠道くんたちを追いかけ、昨日の夜にここにたどり着いたんだ」
「なぁ、心出。俺はちょっとだけ思ってしまったんだが、それってただのストーカ」
「コハクさんへの愛が抑えられなかったんだ」
「私も誠道さんと同じ意見で、心出さんはただのスト」
「愛が抑えられなかったんだ」
「だからさ、心出。愛が抑えられないのをストーカーって言うんじゃ」
「抑えられるものを愛とは呼ばないんだ。だって愛という言葉は五十音の一番上にあるんだから」
うん。
全然まったくこれっぽっちも意味がわかりません。
思考回路が完全にストーカーのそれですね。
「……ただ、俺は見てしまったんだ」
心出ががっくりと肩を落とし、頭を抱える。
そういやこのストーカー、猫族の里にきてるのにコハクちゃんをストーカーしてないな。
つまりストーカーは間違いだったのか。
なんか悪いことをしたな。
頭ごなしに偏見を押しつけてしまった。
あとで謝らないといけない。
「この里についてすぐコハクさんが里から出てくるのを見つけて、思わず後をつけたとき」
「やっぱストーカーじゃねぇか! 思わず後をつけるなよ!」
「でも……」
「でもじゃねぇ!」
「何度も言わせないでくれ! 俺はストーカーじゃない。夜道を、しかもコハクさんが里の外の森を歩いていたら心配で警護したくなる――いや、警護しなければいけなかったんだ。あのときの俺はコハクさんを陰ながら守る正義のヒーローだったよ」
「もはや思考回路がストーカーのそれだよ。悪のヒーローだよ」
「俺はストーカーじゃない」
「じゃあなんで話しかけないんだよ! 危ないと思ったんだろ! 正直に伝えて、ついていけばよかったじゃないか」
「そんなのできるわけないだろう! だって……そんな雰囲気じゃなかったんだから」
心出の表情が一気に曇る。
「だって、あのときのコハクさんはものすごく思いつめたような顔をしていて、本当に辛そうで、とても話しかけられるような感じじゃなかったんだ」
そして――。
心出が拳をぎゅっと握りしめ、鼻をヒクヒクとさせながらつづけた。
「コハクさんは、巨大な虎になって、冒険者たちを襲ったんだ」
「……は?」
あまりの衝撃に、それしか言葉が出なかった。
コハクちゃんが、虎の?
思わずミライを見たが、ミライは心出を放心状態で見つめたまま固まっている。
長い睫毛がぴくぴくと動いていた。
「俺は、俺にはコハクさんがそんなことをする人には思えなくて、注意すべきか、そのままを愛すべきか、わからなくて、混乱して、その場から逃げてしまったんだ」
その場に座り込む心出の吐き出す息が小刻みに震えている。
「男として、コハクさんのすべてを受け入れてやるのが愛なんだとはわかってる。でも、やっていいことと悪いことはあると思う。それに、俺にはコハクさんが仕方なくやっているようにしか見えなくて、それも俺の願望が見せた幻想なのかもしれないけど」
あれ、ちょっと待って。
心出さんはなんで二人が結ばれてる前提の話をしてるの?
両想い確定で話を進めてるの?
……ってツッコみを思いついているのに、それを実際に口に出してツッコめないほど俺は困惑していた。
だって、もしそうなら、コハクちゃんが虎の魔物なら……。
「でも、そんなはずはないよ。だってコハクちゃんが不治の病を、ハクナさんを呪った、張本人?」
そんなの、どうして、ありえないよ。
この里で唯一自分を見捨てなかった、優しくしてくれたハクナさんに対して恩を仇で返すようなこと、あのコハクちゃんが、するわけないって!
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