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第5章 1 私はぷりちーアイドル!
ちょろい視聴者
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「誠道さん、いっぱい出ましたねぇ。すごくおいしそうな匂いもします」
後ろに立つミライが俺の肩に手を置いて、覗き込むようにして俺が出したものを見ている。
うっとりした横顔がものすごく魅力的だ。
背中に当たっているミライの胸の感触も……思わず顔がにやけそうになる。
さて、ここまで読むと、めちゃくちゃえっちに思えるかもしれないが、実際にはそんなことはない。
なぜなら俺はいま、髪にシャンプーの泡、顔面には洗顔の泡をまとっている。顎には髭の脱毛魔道具を当て、そして手に持っているマグカップには、口の中をゆすいでぐちゅぐちゅぺっしたマウスウォシュの液が入っている。
「いやSNSに流れる広告のオールスターかよ!」
ちなみに、いっぱい出たのはマウスウォシュ液の中にある汚れ、いい匂いはシャンプーのことだ。
「はいカット!」
俺んちのリビングにわざわざ持ってきた椅子(形から入るタイプだからと言う謎の理論で)に足を組んで座っているイツモフ・ザケテイルさんが、メガホンをバンバンさせながら、不満げに声を飛ばす。
「ちょっと誠道くん。本番は明日なんですよ? ちゃんと役に入り込んで演技してください」
本番と言うのは、明日、グランダラの広場で商品の宣伝のために一芝居打つことを指している。
イツモフさんが謎のルートで大量に入手した、シャンプーに洗顔料、脱毛魔道具、マウスウォッシュを売るために、俺たちに広告塔になってくれと頼んできたのだ。
「いいですか。もし誠道くんが失敗して完売しなかったら、売れなかった分の商品代を、損害賠償として請求しますからね!」
「ふざけんな! ってかなんだよこれ! エッチな意味に聞こえる思わせぶりなセリフ言わせてんじゃねぇよ! いや本家の広告もそうだから文句言えねぇわ!」
見ている人にスキップさせないための策略なのだろうが、あれ、男女複数人で動画を見てるときにいきなり流れはじめたら気まずいんだよなぁ。
あ、俺は引きこもりだから男女複数人で見ることなんてなかったわ! ははは!
ちなみに、どうして俺がこんな面倒なことを引き受ける羽目になってしまったのかというと。
当然、ミライのせいです。
ほんの数時間前、イツモフさんが我が家にやってきて、
「お願いします。どうか脱毛や口臭対策の商品の広告塔になってください」
と頼んできた際に、
「口臭対策ですか? それはぜひお願いします!」
嬉々とした表情で即答してしまったのだ。
「……え、あ、わかりました」
なぜか動揺しているイツモフさんは、しかしすぐに満面の笑みを浮かべ。
「ここでオッケーと言ってくれるとは思いませんでしたが、この条件でオッケーと言ったので、もちろん賃金は一切払いませんからね」
「ふざけんな! 労働者に金を払うのは雇い主の義務だか」
「わかりました! お金は一切いりませんので!」
「俺はミライの借金返済のために交渉してるんだけど?」
「ちっ、うまくいきそうだったのに、余計なことを」
「正当な主張だよ!」
その後、なんやかんやあって、一応、働いた分の対価は貰えることになっている。
でも、現代日本と同じ宣伝方法だとは思わなかったよ。
あの広告、髭を脱毛したり、口臭対策したりするだけで、仕事も恋愛も生活も性生活も都合よくうまくいきはじめるんだよなぁ。
そんなわけないのにさ。
とある教材を買って勉強したら、恋も部活もレベルアップ!? くらい信用ならねぇ。
「やっぱりさ、イツモフさん」
「イツモフ監督の間違いですよ、誠道くん」
ああもうどうでもいいや。
「イツモフ監督。これ、やめにしない? 別の方法考えた方がいいと俺は思うんだけど」
「なに言ってるんですか? 私を舐めないでください。効果があるから実行に移しているんですよ」
「え? そうなの?」
まあ、たしかにこれでもかって言うほど、あの手の広告はネットの海を漂流していたけどさ。
「それに、今回誠道さんたちに客寄せをしてもらうのは、いま話題の大人気アイドル、ホンアちゃんのライブ会場のすぐ横なんです。アイドルのファンなんてちょろいもんですから。なんてたってアイドルにお金をつぎ込むので絶対に汚らしい……不衛生……私が用意した商品の購買層ど真ん中です。アイドルに清潔な印象を与えて他のファンに差をつけるチャンス! とでも最後に言っておけば、ケーキに群がるアリのようになりますよ」
「アイドルのファンをどんな視点で見てんだよ。まあ、たしかに風呂に入ってこないファンもいるとは聞いたことがあるけど」
「つまり! アイドルファンをカモにすることで、私は儲かり、ファンも綺麗になり、アイドルも不快な思いをせずに済む! まさに一石三鳥なんです!」
イツモフさんのポジティブシンキング力はほんとすごいな。
でも今回の意見は、たしかに……と思わなくもない。
「ちなみに、値段も定価の90パーセント引きで販売する予定です!」
「え? じゃあ今回はマジでお得じゃん!」
「ま、私が設定した定価は、本当の定価より高いんですけどね」
「定価の概念返せよ! 感動して損したわ!」
「なに言ってるんですか? 客の知らないところでいくらさばを読もうと関係ありません。定価はさばを読んでなんぼです」
「フリマは値切ってなんぼですみたいに言うな」
「90パーセント引きで買えたかのように錯覚させることで、お客様にお得感や、買い物上手な俺って天才! という高揚感を与えることができます!」
「ただ騙しているだけだからね」
「付加価値を提供していると言ってください。本来の定価に上乗せさせた分は、高揚感という付加価値代です」
「ほんと、ものは言いようだな」
なんかさ、絶対にイツモフさんって就活が上手だと思うの。
あれって嘘のつき合いっこってよく言うじゃん。
「さぁ、時間は待ってはくれません。明日に向けて、今夜は徹夜で練習しますよ!」
「絶対にそんなことするかー!」
「マウスウォッシュを一個だけ無料であげますから!」
「そんなんで懐柔されるわけ」
「いいんですか? 誠道さん! これはお得です! 無料でマウスウォッシュが手に入るんですよ! 付加価値すごいです!」
「付加価値って言葉この世からなくなれー!」
そして迎えた実演販売当日、イツモフさんが用意した商品は飛ぶように売れた。
アイドルファン、想像を絶するほどのちょろさなんですけどー。
後ろに立つミライが俺の肩に手を置いて、覗き込むようにして俺が出したものを見ている。
うっとりした横顔がものすごく魅力的だ。
背中に当たっているミライの胸の感触も……思わず顔がにやけそうになる。
さて、ここまで読むと、めちゃくちゃえっちに思えるかもしれないが、実際にはそんなことはない。
なぜなら俺はいま、髪にシャンプーの泡、顔面には洗顔の泡をまとっている。顎には髭の脱毛魔道具を当て、そして手に持っているマグカップには、口の中をゆすいでぐちゅぐちゅぺっしたマウスウォシュの液が入っている。
「いやSNSに流れる広告のオールスターかよ!」
ちなみに、いっぱい出たのはマウスウォシュ液の中にある汚れ、いい匂いはシャンプーのことだ。
「はいカット!」
俺んちのリビングにわざわざ持ってきた椅子(形から入るタイプだからと言う謎の理論で)に足を組んで座っているイツモフ・ザケテイルさんが、メガホンをバンバンさせながら、不満げに声を飛ばす。
「ちょっと誠道くん。本番は明日なんですよ? ちゃんと役に入り込んで演技してください」
本番と言うのは、明日、グランダラの広場で商品の宣伝のために一芝居打つことを指している。
イツモフさんが謎のルートで大量に入手した、シャンプーに洗顔料、脱毛魔道具、マウスウォッシュを売るために、俺たちに広告塔になってくれと頼んできたのだ。
「いいですか。もし誠道くんが失敗して完売しなかったら、売れなかった分の商品代を、損害賠償として請求しますからね!」
「ふざけんな! ってかなんだよこれ! エッチな意味に聞こえる思わせぶりなセリフ言わせてんじゃねぇよ! いや本家の広告もそうだから文句言えねぇわ!」
見ている人にスキップさせないための策略なのだろうが、あれ、男女複数人で動画を見てるときにいきなり流れはじめたら気まずいんだよなぁ。
あ、俺は引きこもりだから男女複数人で見ることなんてなかったわ! ははは!
ちなみに、どうして俺がこんな面倒なことを引き受ける羽目になってしまったのかというと。
当然、ミライのせいです。
ほんの数時間前、イツモフさんが我が家にやってきて、
「お願いします。どうか脱毛や口臭対策の商品の広告塔になってください」
と頼んできた際に、
「口臭対策ですか? それはぜひお願いします!」
嬉々とした表情で即答してしまったのだ。
「……え、あ、わかりました」
なぜか動揺しているイツモフさんは、しかしすぐに満面の笑みを浮かべ。
「ここでオッケーと言ってくれるとは思いませんでしたが、この条件でオッケーと言ったので、もちろん賃金は一切払いませんからね」
「ふざけんな! 労働者に金を払うのは雇い主の義務だか」
「わかりました! お金は一切いりませんので!」
「俺はミライの借金返済のために交渉してるんだけど?」
「ちっ、うまくいきそうだったのに、余計なことを」
「正当な主張だよ!」
その後、なんやかんやあって、一応、働いた分の対価は貰えることになっている。
でも、現代日本と同じ宣伝方法だとは思わなかったよ。
あの広告、髭を脱毛したり、口臭対策したりするだけで、仕事も恋愛も生活も性生活も都合よくうまくいきはじめるんだよなぁ。
そんなわけないのにさ。
とある教材を買って勉強したら、恋も部活もレベルアップ!? くらい信用ならねぇ。
「やっぱりさ、イツモフさん」
「イツモフ監督の間違いですよ、誠道くん」
ああもうどうでもいいや。
「イツモフ監督。これ、やめにしない? 別の方法考えた方がいいと俺は思うんだけど」
「なに言ってるんですか? 私を舐めないでください。効果があるから実行に移しているんですよ」
「え? そうなの?」
まあ、たしかにこれでもかって言うほど、あの手の広告はネットの海を漂流していたけどさ。
「それに、今回誠道さんたちに客寄せをしてもらうのは、いま話題の大人気アイドル、ホンアちゃんのライブ会場のすぐ横なんです。アイドルのファンなんてちょろいもんですから。なんてたってアイドルにお金をつぎ込むので絶対に汚らしい……不衛生……私が用意した商品の購買層ど真ん中です。アイドルに清潔な印象を与えて他のファンに差をつけるチャンス! とでも最後に言っておけば、ケーキに群がるアリのようになりますよ」
「アイドルのファンをどんな視点で見てんだよ。まあ、たしかに風呂に入ってこないファンもいるとは聞いたことがあるけど」
「つまり! アイドルファンをカモにすることで、私は儲かり、ファンも綺麗になり、アイドルも不快な思いをせずに済む! まさに一石三鳥なんです!」
イツモフさんのポジティブシンキング力はほんとすごいな。
でも今回の意見は、たしかに……と思わなくもない。
「ちなみに、値段も定価の90パーセント引きで販売する予定です!」
「え? じゃあ今回はマジでお得じゃん!」
「ま、私が設定した定価は、本当の定価より高いんですけどね」
「定価の概念返せよ! 感動して損したわ!」
「なに言ってるんですか? 客の知らないところでいくらさばを読もうと関係ありません。定価はさばを読んでなんぼです」
「フリマは値切ってなんぼですみたいに言うな」
「90パーセント引きで買えたかのように錯覚させることで、お客様にお得感や、買い物上手な俺って天才! という高揚感を与えることができます!」
「ただ騙しているだけだからね」
「付加価値を提供していると言ってください。本来の定価に上乗せさせた分は、高揚感という付加価値代です」
「ほんと、ものは言いようだな」
なんかさ、絶対にイツモフさんって就活が上手だと思うの。
あれって嘘のつき合いっこってよく言うじゃん。
「さぁ、時間は待ってはくれません。明日に向けて、今夜は徹夜で練習しますよ!」
「絶対にそんなことするかー!」
「マウスウォッシュを一個だけ無料であげますから!」
「そんなんで懐柔されるわけ」
「いいんですか? 誠道さん! これはお得です! 無料でマウスウォッシュが手に入るんですよ! 付加価値すごいです!」
「付加価値って言葉この世からなくなれー!」
そして迎えた実演販売当日、イツモフさんが用意した商品は飛ぶように売れた。
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