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第5章 4 運命のライブ、開催
残酷な口臭の現実
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「俺はこいつが女だと思ったから応援してきたんだ。それがなんだ? 男? 騙しやがってふざけんじゃねぇぞ! 俺はこいつにファンが誰もいない時から応援してたんだ!」
叫ぶコジキーの顔が破裂間際の水風船のようにぼこぼこと膨れ上がっていく。
限界まで膨れ上がったと思った瞬間、バチンと皮膚が弾ける。
やけどでただれたイノシシの様な顔に、プロレスラーの様な筋肉ムキムキの肉体、茶色のごわごわした体毛が生えたモンスターが現れた。
コジキーは人間の姿に変装していた魔物だった。
「キリングオークの中でも特に不細工でモテない俺には、人間のアイドルだけが依り代だったんだ」
本来の姿を現したコジキーが雄たけびを上げる。
鋭い牙の生えた口から禍々しい黒炎が漏れ出している。
「ファンが俺しかいない時、ホンアちゃんは俺だけを見てくれた。なのにファンが増えれば増えるほど、別のやつらを見る機会が増え、俺と目を合わせる機会がどんどん減っていった」
え? なに言ってんのこいつ。
俺もファンたちも、それ当たり前では? っていう空気に包まれる。
「俺はそれが許せなかった。俺が最初のファンなんだから、俺は特別扱いを受けなければいけないんだ! なのにこいつはそれをしなかった!」
コジキーがホンアちゃんを指さしながら怒鳴る。
やべぇぞこれ。
なんかもうすげぇ言いがかりなんですけど―。
自分は神様だと思っているクレーマーもびっくりレベルだよ!
おでんつんつんがかわいく思えてきたよ。
「だから、こいつがこんなクソみたいな男とつき合ってるのを知ったときは、ゾクゾクしたねぇ。これを暴露すれば、またファンが減って、俺だけを見てもらえるって、そう思ったのになんだよ! 写真をばらまいたのに誰ひとりファンをやめやしねぇ」
ああ、そういうこと。
俺たちのデート写真を撮ったのはこいつだったのね。
ってか、コジキーみたいなクソ男にクソみたいな男とか言われたくないんですけど。
「それどころか、男だって暴露されても応援するだ? お前らそれでもアイドルファンかよ」
いや、コジキーの方がアイドルファン失格だろ。
俺だけを見てほしいから、スキャンダル写真をばらまくって……って、あれ?
「おい、コジキー」
とある疑問が浮かんだ俺は、コジキーに向けて声を飛ばす。
「仮にスキャンダルでファンが離れても、俺という彼氏は残ったと思うんだが? 自分だけを見てもらえることにはならないんだが?」
俺とホンアちゃんが嘘の彼氏彼女の関係だと、コジキーは知らなかったはずだ。
だからこそ、仮にファンが全員離れたとしても、一番関係の深い彼氏である俺が残ってしまう。
むしろ、ホンアちゃんがアイドルをやめて、彼氏の俺だけに陶酔することだって考えられた。
「ああ? なに言ってる?」
コジキーが俺を見下すように鼻で笑う。
「引きこもりのお前との一騎打ちで俺が負けるわけないからだよ。こんな引きこもりのクソ男だったら、どう考えても俺の方がいい男だろ? 奪えるに決まってるじゃねぇか」
プチンと、俺の中でなにかが弾ける音がする。
脳が熱い。
「てめぇそれもういっぺん言ってみろ」
「だから、お前が敗者で俺が勝者なの。お前に話しかけにいったとき、それは確信に変わったよ。だってお前、クソ引きこもりなうえに、ちょっと口臭いから」
でかい鼻をつまんで、くさいくさいと手を動かすコジキー。
はい、俺キレましたー。
聖ちゃんじゃないけど、こいつは跡形もないほどぐちゃぐちゃにしてやるよ。
「てめぇ! 言わせておけば! 俺がお前に負けるわけねぇだ」
「ちょっとコジキーさん! 誠道さんの前で本当のことを言わないで下さい! みんな気を遣って言えなかったことなんです!」
「……え? なに言ってんのかなミライ?」
「いや、でも待ってください。むしろ言っていただいたことに感謝するべきですかね? これで我慢することなく、私も指摘できるように……」
「おい待て! 俺ってそんなに口臭かったのかよ!」
「はい。聖ちゃんもマーズさんもそうおっしゃってましたが? だから私はイツモフさんの広告に誠道さんが出演することを快諾したのですが」
「なんだよそれ!」
がっくりとうなだれる。
そっかぁ。
俺ってちょっと口臭かったのかよぉ。
「……あ、舞台上からで申しわけないですけど、ちなみに私もそれは思っていました」
「本当に舞台上から、しかもこんな大勢の前で言うセリフじゃないよねそれ」
うそぉ……ホンアちゃんにも気を遣われていたのか。
「落ち込まないでください、誠道さん。自覚したのなら対策すればいいだけの話です。それに、動画投稿サイトの口臭対策や洗顔料のCMを真に受けて、それらを改善すれば俺もモテるようになるんだ! と思ってしまう勘違い男子よりはましです! アレはモテない男子がモテるのではなく、モテている男子がさらにモテるようになるだけです!」
「だから多方面に喧嘩売んなよ! あの広告通りのことをすれば絶対にモテる……はずなの!」
「おい女。てめぇ俺が口臭対策でマウスウォッシュを買ってることをバカにしてんのか!」
……あ、運悪く、あの広告を真に受けてしまっている人(オーク)がここにいましたよ。
叫ぶコジキーの顔が破裂間際の水風船のようにぼこぼこと膨れ上がっていく。
限界まで膨れ上がったと思った瞬間、バチンと皮膚が弾ける。
やけどでただれたイノシシの様な顔に、プロレスラーの様な筋肉ムキムキの肉体、茶色のごわごわした体毛が生えたモンスターが現れた。
コジキーは人間の姿に変装していた魔物だった。
「キリングオークの中でも特に不細工でモテない俺には、人間のアイドルだけが依り代だったんだ」
本来の姿を現したコジキーが雄たけびを上げる。
鋭い牙の生えた口から禍々しい黒炎が漏れ出している。
「ファンが俺しかいない時、ホンアちゃんは俺だけを見てくれた。なのにファンが増えれば増えるほど、別のやつらを見る機会が増え、俺と目を合わせる機会がどんどん減っていった」
え? なに言ってんのこいつ。
俺もファンたちも、それ当たり前では? っていう空気に包まれる。
「俺はそれが許せなかった。俺が最初のファンなんだから、俺は特別扱いを受けなければいけないんだ! なのにこいつはそれをしなかった!」
コジキーがホンアちゃんを指さしながら怒鳴る。
やべぇぞこれ。
なんかもうすげぇ言いがかりなんですけど―。
自分は神様だと思っているクレーマーもびっくりレベルだよ!
おでんつんつんがかわいく思えてきたよ。
「だから、こいつがこんなクソみたいな男とつき合ってるのを知ったときは、ゾクゾクしたねぇ。これを暴露すれば、またファンが減って、俺だけを見てもらえるって、そう思ったのになんだよ! 写真をばらまいたのに誰ひとりファンをやめやしねぇ」
ああ、そういうこと。
俺たちのデート写真を撮ったのはこいつだったのね。
ってか、コジキーみたいなクソ男にクソみたいな男とか言われたくないんですけど。
「それどころか、男だって暴露されても応援するだ? お前らそれでもアイドルファンかよ」
いや、コジキーの方がアイドルファン失格だろ。
俺だけを見てほしいから、スキャンダル写真をばらまくって……って、あれ?
「おい、コジキー」
とある疑問が浮かんだ俺は、コジキーに向けて声を飛ばす。
「仮にスキャンダルでファンが離れても、俺という彼氏は残ったと思うんだが? 自分だけを見てもらえることにはならないんだが?」
俺とホンアちゃんが嘘の彼氏彼女の関係だと、コジキーは知らなかったはずだ。
だからこそ、仮にファンが全員離れたとしても、一番関係の深い彼氏である俺が残ってしまう。
むしろ、ホンアちゃんがアイドルをやめて、彼氏の俺だけに陶酔することだって考えられた。
「ああ? なに言ってる?」
コジキーが俺を見下すように鼻で笑う。
「引きこもりのお前との一騎打ちで俺が負けるわけないからだよ。こんな引きこもりのクソ男だったら、どう考えても俺の方がいい男だろ? 奪えるに決まってるじゃねぇか」
プチンと、俺の中でなにかが弾ける音がする。
脳が熱い。
「てめぇそれもういっぺん言ってみろ」
「だから、お前が敗者で俺が勝者なの。お前に話しかけにいったとき、それは確信に変わったよ。だってお前、クソ引きこもりなうえに、ちょっと口臭いから」
でかい鼻をつまんで、くさいくさいと手を動かすコジキー。
はい、俺キレましたー。
聖ちゃんじゃないけど、こいつは跡形もないほどぐちゃぐちゃにしてやるよ。
「てめぇ! 言わせておけば! 俺がお前に負けるわけねぇだ」
「ちょっとコジキーさん! 誠道さんの前で本当のことを言わないで下さい! みんな気を遣って言えなかったことなんです!」
「……え? なに言ってんのかなミライ?」
「いや、でも待ってください。むしろ言っていただいたことに感謝するべきですかね? これで我慢することなく、私も指摘できるように……」
「おい待て! 俺ってそんなに口臭かったのかよ!」
「はい。聖ちゃんもマーズさんもそうおっしゃってましたが? だから私はイツモフさんの広告に誠道さんが出演することを快諾したのですが」
「なんだよそれ!」
がっくりとうなだれる。
そっかぁ。
俺ってちょっと口臭かったのかよぉ。
「……あ、舞台上からで申しわけないですけど、ちなみに私もそれは思っていました」
「本当に舞台上から、しかもこんな大勢の前で言うセリフじゃないよねそれ」
うそぉ……ホンアちゃんにも気を遣われていたのか。
「落ち込まないでください、誠道さん。自覚したのなら対策すればいいだけの話です。それに、動画投稿サイトの口臭対策や洗顔料のCMを真に受けて、それらを改善すれば俺もモテるようになるんだ! と思ってしまう勘違い男子よりはましです! アレはモテない男子がモテるのではなく、モテている男子がさらにモテるようになるだけです!」
「だから多方面に喧嘩売んなよ! あの広告通りのことをすれば絶対にモテる……はずなの!」
「おい女。てめぇ俺が口臭対策でマウスウォッシュを買ってることをバカにしてんのか!」
……あ、運悪く、あの広告を真に受けてしまっている人(オーク)がここにいましたよ。
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