愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

文字の大きさ
11 / 106

新婚旅行らしくない新婚旅行4

しおりを挟む
 夕方部屋に戻ると陸さんはいないみたいだった。
 僕は買って来た食材を冷蔵庫に入れるとラナイの椅子に座り、また本を開く。僕がラナイにいたら陸さんはリビングでゆっくりできないかな? と思ったので、陸さんが帰って来たら自分の部屋に戻ろうと思った。
 そうして夢中で本を読んでいて、空が少しオレンジ色に染まった頃になって陸さんが帰ってきた。時計を見るとこれから食事の支度をするとちょうど良さそうだ。

「お帰りなさい。これから食事の支度しますね」
「ああ」

 陸さんが部屋に入って行ったのを見て僕も席を立ち、本を部屋に置くとキッチンへと向かう。今日は美味しそうなお肉があったので簡単だけどステーキにすることにした。結婚して最初の食事だから奮発することにしたのだ。
 サラダは簡単に海老とアボカドのオーロラソースにすることにした。これならソースを作るだけで美味しくなる。マヨネーズ、ケチャップ、レモン汁、おろしニンニク、胡椒を混ぜて簡単ソースのできあがりだ。
 サラダが終わったので、お肉を焼こうと思って、ふと陸さんはどんな焼き方が好きだったか思い出す。確かミディアムだったような気はするけど最初の食事で失敗したくないから確認することにした。

「お肉の焼き方なんですけどどうしますか?」
「ミディアムで」
「わかりました」

 記憶通りだった。ミディアムということで焼きすぎないように注意して焼いていく。そしてソースは醤油がないからどうしようか散々悩んで赤ワインソースにすることにした。料理酒がなくて他に作れなかったのだ。
 主食はお米を買うわけにもいかず、パンを買ってきてあるので、これでおしまい。なんだか手抜きしてるみたいで申し訳ないけど味はいいと思う。

「陸さん。できました」

 そう声を掛けると黙って立ち上がり、洗面所へと行ってからダイニングに来る。陸さんに食べて貰うのに料理をしたのは初めてだ。結婚するのがわかっていたから、いつ結婚となってもいいように料理教室に通っておいてよかった。ゆきな伯母様は家政婦さんを雇って作って貰っていいのよと言っていたけれど、なんだかそれも味気ないかなと思って一応簡単なものならできるようにしたのだ。それが今日役に立った。

「……いただきます」

 きっと話したくはないんだろう。だけど、黙ってそのまま食べるわけにはいかなくて小さな声でいただきますと言ったんだろうな、と思う。こういうところを見るとゆきな伯母様がしっかりと躾をしたんだなと思う。一緒に食べるのに黙って食べられるよりきちんといただきますと言ってからの方がいいと思う。これはうちのお母さんも言っていた。

「ソース、口に合いますか?」
「大丈夫だ」
「良かった」

 とりあえず陸さんの口には合ったようなので安心して僕も食べ始める。自分で作っておいて言うのもなんだけど、そこそこの味は出ていると思う。まぁ素材がいいので失敗のしようがないというのもあるけれど。
 カハラは高級住宅地とも言われている場所なのでスーパーで売っているものも良い物が多かった。これは僕の料理の腕ではない。素材の良さだ。
 陸さんと一緒に食事をするのは、2人きりで食べるのは初めてで少し緊張する。これからは、たまにでもあるんだよね? 日本に帰ってもあるよね? もっとも陸さんは立場的に会食とかありそうだけど。でも、日本に帰国してからもたまにでいいからこうやって作ったのを食べて貰えたらいいな。お手伝いさんに作って貰うのは味気なさすぎるから料理だけは自分で作りたい。
 でも欲張ったらダメだ。一緒の家に住めるだけでも幸せなんだから。そう思いながらお肉を食べると、さっきまで美味しく感じていたのに一気に味が落ちた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。 実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。 こうなることは最初からわかっていた。 それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。 健気オメガの切ない献身愛ストーリー!

処理中です...