愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

文字の大きさ
42 / 106

もやもや7

しおりを挟む
 千景をベッドに寝かせた後、スーツを脱いでシャワーを浴びる。温かいシャワーを頭から被り、先ほどのことを思い出す。
 仕事が遅くまでかかった上にロビーで千景を待っていたから正直疲れた。それでも待っていたのは自分が勝手にしたことだから千景に怒る気はないが、あの男に安心しきったように寄りかかっている姿を思い出すとなんとも言えない気持ちになる。
 もちろん感謝はしている。帰る方向が違うというのにわざわざ送ってきてくれた彼には感謝しかない。それは確かだ。でも、千景を半分抱きかかえるようにしていた彼の姿にすっきりとしないものを感じるのだ。
 安心しきった千景の姿。そしてそんな千景を半ば抱きかかえるようにしていた彼の姿。そこには誰も入れないような気がしたのだ。
 安心しているのは当たり前だろう。中・高の6年間ずっと友人だったであろう男だ。クラス会の会場にはあの彼以外の男もいたわけで久しぶりの集まりだから嬉しくて楽しくて、ついお酒を飲んでしまったんだろう。仲の良かったメンバーなら当たり前だ。それでも、送ってきてくれた彼だけじゃなくて、千景と一緒に飲んでいたクラスメートもどうも面白くない。
 シャワーを止め雑に体を拭くと清潔な部屋着を着る。こういった家事を嫌がらずにしてくれているのは千景だ。お互いに干渉しないと提案したが、家事をやらせてくれと言ったのは千景だ。確かに助かっている。今まで人にやって貰っていたし、それに仕事も夜遅くに帰ることがほとんどなので新居の洗濯機は乾燥機付きにした。だから洗剤を入れてボタンを押すだけだとわかってはいる。それでも、それすら面倒になることはわかっていた。だから千景の言葉に甘えたのだ。
 洗濯だけじゃない。共有部の掃除も千景に任せている。もちろんお掃除ロボットは複数個置いてはあるものの、それだけでは済まないだろう掃除に嫌な顔をせずやってくれているのだ。掃除をさせていないのは俺の部屋だけだ。それ以外は千景がやっている。千景をお手伝いさんとは思っていない。心はないけれど、結婚相手だということはわかっている。そんな相手の洗濯をし、そんな相手も使っている共有部の掃除もやっている。面倒で嫌なことをさせられているのに、何が幸せなのか。そんな毎日を送っているのに幸せはないだろう。
 自分の部屋に入り、ため息をつく。部屋にもお掃除ロボットを置いてあるけれど、拭き掃除はできていない。この部屋のきちんとした掃除は週末しかない。きっとお願いすれば千景はやってくれるだろう。でも、それはお手伝いさんではない千景にやらせることではない。
 千景は幸せなのだろうか。愛想もなく、ろくに喋らない自分なんかと結婚をして。千景は愛想もいいし、オメガだけあって華奢で可愛い顔立ちをしている。千景がその気になれば番だってすぐにできるだろうし、結婚だってできただろう。なのに、親が決めたからと俺なんかと結婚したおかげでまだ番にさえなれていない。いや、この先いくら待っても俺と番になることはない。それに聞いたことはないけれど、自分の子供だって欲しかったのではないか。そうだとしたら千景は不幸だ。そんな千景のどこを見たら幸せに見えるのか俺にはわからなかった。それなのに彼は千景が幸せみたいだと言ったのだ。千景の気持ちがわからない。いや、わからないのは自分かもしれない。なぜこんなにもやもやして苛々しているのか。
 1週間仕事で疲れたのにロビーで待っていたからだろうか。でも、それは誰かに頼まれたからではない。心配で落ち着かないから自分がしたくてしたことだ。だから苛々するのはお門違いだ。それでも、それしか心当たりはなかった。
 明日は掃除をしよう。そう思ってベッドに横になり目を瞑る。わけのわからないことは考えたって無駄だ。疲れているのなら寝るに限る。そう思って思考を追い払った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

俺の好きな人は誰にでも優しい。

u
BL
「好きなタイプは?」と聞かれて世界で一番多く答えられているのは間違いなく「優しい人」だろう。 相手の優しいところに惹かれ、気づいた時には引き返せないところまで恋に落ちている。 でも次第に気付くのだ。誰だってみんな「優しい人」ではなく「"自分だけに"優しい人」が好きなのだと。 ロランは、"誰にでも優しい男"、フィリオンに恋をしてしまい、地獄のような日々に身を焼かれていた。 そんなとある日「この恋、捨てたいな…」と溢したら「それ、捨てようとすんの、やめてくんね?オレ、あんたがアイツを見る視線に興奮すっからさ」と遊び人で有名な男、ヒューゴに言われる。 彼は、自分を好きな人間には興味がなく、別の誰かに恋い焦がれている人間の目が好きな変態らしい。 そんな身勝手な遊び人とちょくちょく話すようになってからというもの、フィリオンの様子はどんどんおかしくなっていく。 恋を捨てたい男と、恋を捨てるなと言う男と、優しさが狂い始めていく男の話。 ※作者の意思ではなくキャラの意思で結末が決まります。ご要望は受け付けられませんのでどちらとくっついても美味しいと思う方のみお読みください。 ※中世ヨーロッパ風学園ものです。 ※短編(10万文字以内)予定ですが長くなる可能性もあります。 ※完結までノンストップで毎日2話ずつ更新。

Ωだから仕方ない。

佳乃
BL
「Ωだから仕方ない」 幼い頃から自分に言い聞かせてきた言葉。 あの人と番うことを願い、あの人と番う日を待ち侘びていた僕は今日もその言葉を呟く。 「Ωだから仕方ない」 そう、Ωだから仕方ないのだから。

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...