愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

水無瀬 蒼

文字の大きさ
60 / 106

初めての4

「久しぶりにステーキが食べたいな。それとスープ。それでいい」
「え? そんなのでいいんですか?」
「ステーキは肉を焼くだけだが、今俺が食べたいのがそれだ」
「スープはなにがいいですか?」
「それは千景に任せる。美味いのを作ってくれ」
「わかりました。そしたら少しでもいいお肉を買ってきたいので買い物に行ってきます」
「下じゃないのか」
「ええ。隣の駅まで」
「そうしたら車を出す」

 陸さんの要望がステーキだったので、少しでもいいお肉を焼いてあげたいと思った。
 下のスーパーにも牛肉は売っているけれど、ちょっとでもいいお肉をと思ったらちょっといいスーパーに行った方が美味しいお肉が売っているだろうから、隣の駅にある少しリッチなスーパーに行くことにした。
 普段なら下のスーパーで十分だけど、今回陸さんは大変な目にあったのだからそれくらいのことは贅沢にならないだろう。
 でも、車を出してくれるという陸さんに、いいのだろうかと思う。だって、陸さんのプライベートな空間だ。いや、もう何度か乗せて貰っているけれど。
 だけど、車を出してくれるというのに電車で行くと言い張るのは違う気がするのでそこは甘えることにする。最近はこうやって車を出したりしてくれるようになって、ほんの少し距離が縮まった気がするのは気のせいではないはずだ。年末には熱海にまで連れて行ってくれたほどだ。

「お肉は陸さんが選んで下さいね」
「わかった。たまには贅沢してもいいだろう」

 陸さんがたまにの贅沢をするのはいいと思う。でも、僕まで贅沢してしまってもいいんだろうか。僕1人なら下のスーパーで十分だけど、違うのをわざわざ買いに行くのも変なので、せめてほんの少しでも安いものを選ぼうと思う。

「目的地を教えてくれ」
「はい」

 目的地をナビに入力し、車が出る。お天気が良くて陽射しが強いので陸さんはサングラスをかけた。その姿を見た僕はまた息が止まるかと思った。それくらい格好良いのだ。助手席からその姿が見れるなんて、なんて贅沢なんだろう。お肉が贅沢という以前にそんなに格好良い陸さんを見れることが贅沢だ。でも、じーっと見ているのも不審者っぽいので、なんでもない振りをして窓の外に目をやる。
 僕は子供の頃から陸さんが好きだけど、一緒に住むようになってから以前よりも好きだという気持ちが大きくなっている。結婚した当初は離婚にならなければいいと思っていたけれど、今はほんの少しでもいいから僕の方を見てくれないかなと思うようになった。
 わがままだ。わかってる。でも、少しでいいから僕のことを好きになって欲しい。陸さんの好きな人の次でいいから。そう願ってしまう。
 そんなことを考えているうちにスーパーに着いた。元々近い距離だからすぐだ。

「ここなら陸さんが食べたいと思うお肉もあると思います」

 そう言って僕は買い物カゴを持って店内に入る。

「米とか重い物は大丈夫か? 下のスーパーからでも持ってあがるのは大変だろう。今日は俺が持つから重い物も遠慮なく買え」

 陸さんはそう言ってくれる。陸さんのこういう優しさが僕は好きだなと思う。

「ありがとうございます。でも、お米は先日買ったばかりなので大丈夫です」
「そうか。いつもすまない」

 ほら、陸さんの優しさ。その優しさに触れて僕の心はほんわりと温かくなった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。