猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼

文字の大きさ
7 / 51

猫と鈴と夕暮れの神社7

しおりを挟む
 上体を起こしたところで、トレイを受け取ろうとしたら、スープをすくったスプーンを口元に持って来られた。え? ちょっと待って。なんで自然に「あーん」になってるんだ。

「あの……自分で飲めます」

 それでも、なんだかそう言うことが悪いような気がして、肩をすくめて上目遣いで小さい声で言う。

「そうか」

 レオニスさんはそう言うと、スープの乗ったトレイを俺の腿の上に置いてくれた。ああ、こうするとお皿と口との距離が遠いんだな。仕方がないお皿を持って飲むか。お皿の中にはとろりとしたオレンジ色。これはかぼちゃのポタージュか? コクリと一口飲むと予想通りのとろみのあるかぼちゃの味がする。かぼちゃのポタージュは俺の大好物だ。ここにもあるんだな。ということは食事は俺のいたところとほぼ同じなのだろうか。そう考えると、手が止まってしまっていて、レオニスさんに心配された。

「また吐き気が来たか? それとも口に合わないか? 合わないようなら他のものを……」
「違う。違うんです。かぼちゃのポタージュって好きだから。俺のいたところと同じなんだなと思って」
「そうか。口にあったのなら良かった。食事か。明日になればわかるが、肉や魚をメインにしている。サラダやスープもある」
「え? 一食でそれ全部食べるんですか?」
「朝は軽くパンとサラダとスープといったところだが、夜はサラダやスープから初めてメインを食べるな」
「1、2品足りないけどコース料理じゃん! マジか」

 食事内容を聞いてびっくりした。簡易コース料理じゃん。そんなもの毎日食べるの? 貴族なら当然なのか。

「なにが足りない? 言ってくれれば料理人に言って作らせるが」

 ああ。誤解させちゃった。

「違います。違います。毎日そんなコース料理みたいなの食べるってすごいなと思って」
「すごい? タクヤのところは違うのか?」
「いや、お金持ちはどうだかわからないけど、俺は庶民なんでサラダとメインとご飯です」
「それなら、スープがないだけではないか?」
「ん? あれ? あ! ほんとだ」

 恥ずかしくて顔が熱くなる。絶対赤くなってる。もう! と俺が1人で恥ずかしがっているとレオニスさんが小さく笑っている。笑われてるよ……。ああ、ほんと恥ずかしい。それを隠すようにひたすらスープを飲む。美味しいなぁ。っていうか人の作った料理なんて普段はほとんど食べないから嬉しい。特に体調が悪いときは作るの辛いから嬉しい。
 と、全部飲み終わるとお腹はいっぱいだった。

「全部飲めたか。それだけでもいいな」
「ありがとうございます。美味しかったです」

 とレオニスさんにお礼を言ったところで思い出した。ルナのご飯! なにか魚かお肉か貰えないかな。

「あの……。猫にご飯あげたいので、お魚かお肉を少しいただけないですか?」

 図々しいことを言っているとは思ってる。でも、俺だけ腹を満たしてるのに、ルナが空腹だったら可哀想だ。と思って俺がそう言うと、レオニスさんは大丈夫だと笑う。

「それは大丈夫だ。申し訳ないがタクヤを起こす前に真鯛をあげた。猫がいると言ったら料理人が真鯛をほぐしてくれたから、それをあげたよ」

 真鯛! 随分いいもの食べたな。お腹がいっぱいになったから満足して寝たんだな。

「すいません。ありがとうございます」
「いや、そんなのはいい。私たちが食べるものをあげただけだから。それともなにか決まっているものを食べているのか?」
「いえ。いつもはキャットフードのカリカリか缶詰なので」
「キャットフード?」

 レオニスさんは不思議そうに言葉を繰り返す。え? もしかしてキャットフードってないの? それとも貴族だから? レオニスさんの不思議顔に、俺も不思議顔になってしまう。

「キャットフードとは、猫の食事ということだと思うが」
「そうです。栄養のバランスの取れたものが売られているので」
「栄養のバランスも考えられているのか。それは素晴らしい」
「キャットフードってないんですか? 庶民の家にはあるんですか?」
「キャットフードという言葉を初めて聞いたよ。だから庶民の家にもないだろうな」

 人間の食べるものは同じものっぽいけど、キャットフードがないとは思わなかった。

「明日からはできるだけ栄養を考えてあげるようにしよう」
「あ。残りものでいいですから。ソースとか味付けする前とかのだったら」
「いや、客人にそんなものを出すわけにはいかない。あ、でも人間の食べるものそのものはダメなのか」
「ダメかはわからないけど、猫には味が濃すぎるんじゃないかな? あ、でも猫が食べたらいけないものもあるので、それだけは食べさせないでください。勝手なこと言って申し訳ありませんが」
「いや。食べたらいけないものがあるのなら、それだけは気をつけよう。なにがダメなのか教えてくれ」

 真剣な顔をするレオニスさんに俺は猫に食べさせたらいけない食材を伝えた。まぁキッチンに行かなければ大丈夫だと思うんだけど、一応、念のためにだ。でも、猫のご飯にまで申し訳ないな。体調が良くなったらなにかお手伝いをさせて貰おう。そう思った。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

無能と呼ばれた婚約者は王を完成させる〜替え玉婚約者のはずが、強すぎる王太子に手放してもらえません〜

統子
BL
兄の身代わりとして王太子の婚約者になった伯爵家次男リュシー。 嘘の名を名乗ったはずが、冷静で誠実な王太子リオンは彼を「力の装置」としてではなく、対等な伴侶として扱おうとする。 本物になりたいと願う替え玉と、完成された王太子の静謐な王宮ロマンス。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

隠された令息は、護衛騎士と息をする。

木漏れ日の庭
BL
公爵家に生まれながらも、妾の子として蔑まれ、固有魔法すら使えない令息のユリシス。彼は足が悪く、うまく歩くことが難しい。そんな彼の元に、護衛騎士としてキースという美しい男が訪れる。始めはなんの関わりも持たない二人だが、ユリシスの静かな優しさが、キースの心を溶かしてゆく。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

牙を以て牙を制す

makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――

神様は身バレに気づかない!

みわ
BL
異世界ファンタジーBL 「神様、身バレしてますよ?」 ――暇を持て余した神様、現在お忍び異世界生活中。 貴族の令息として“普通”に暮らしているつもりのようですが、 その振る舞い、力、言動、すべてが神様クオリティ。 ……気づかれていないと思っているのは、本人だけ。 けれど誰も問いただせません。 もし“正体がバレた”と気づかれたら―― 神様は天へ帰ってしまうかもしれないから。 だから今日も皆、知らないふりを続けます。 そんな神様に、突然舞い込む婚約話。 お相手は、聡明で誠実……なのにシオンにだけは甘すぎる第一王子!? 「溺愛王子×お忍び(になってない)神様」 正体バレバレの異世界転生コメディ、ここに開幕!

処理中です...