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居場所のはじまり4
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厨房は1階の奥まったところにあった。そして厨房へ行くとニコラスさんが料理人さんに声をかけた。
「アベル」
「ニコラスさま。わざわざ厨房までいかがいたしましたか?」
「旦那様の客人でタクヤさまです」
「あ、あのタクヤ・キヨイシです。あの、猫のご飯を作っていただきましたよね?」
「ああ、あの黒猫の。はい。お作りしましたが、なにか問題でもありましたでしょうか?」
「いいえ。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。ありがとうございます」
「気にしないで結構ですよ。猫は可愛いし、特にあの猫は黒猫で特別ですからね」
黒猫は特別? なんだろう? 縁起が悪いとかだろうか。昔は縁起が悪いとか言われたらしいし、今でもヨーロッパではそう言われているみたいだし。大丈夫かな?
「黒猫が特別って?」
「黒猫は神の使いと言われているのですよ」
「神の使い!」
縁起が悪いわけではなく、逆か。良かった。
「そうです。俺は猫好きだし、それが黒猫なら、喜んで作りますよ」
「ありがとうございます」
「好き嫌いはないのですか?」
「ありません。肉でも魚でもなんでも食べます。だから、余ったものでも大丈夫です。朝は申し訳ないですけど」
「気にしなくて大丈夫ですよ。黒猫のお世話をできるなんて光栄です」
良かった。良い人みたいだ。ルナが神の使いっていうのは笑ってしまうけれど。それでもいじめられたりするよりはいい。
「それで、旦那様が今夜、タクヤさまの作る食事を召し上がるというので、手伝ってやってください」
「わかりました。新しい料理の手伝いができるなんて楽しみですよ」
「ありがとうございます。夕方、こちらに来ますね」
「お待ちしてます。あ、猫のミルクとか欲しくなったらいつでもどうぞ」
「ありがとうございます」
そうアベルさんに挨拶をして厨房を後にすると、今度はメイドさんと顔合わせをした。今朝お水を持って来てくれた人だ。年は俺と大差なさそうな若いメイドさんだ。
「タクヤさま。これからタクヤさまのお世話をするメイドのクララです」
「今朝はお水をありがとうございました。タクヤ・キヨイシです。これからよろしくお願いします」
「あ……。こちらこそ、よろしくお願いします。なにかあったらいつでもお呼びください」
「はい」
そうしてクララさんに挨拶を済ませると、午後には服の仕立屋が来ると言われた。俺なんか貴族じゃないから仕立屋なんて贅沢なのに。そう思ってニコラスさんに言うと、吊るしの洋服屋と言う物がないらしい。だから服が必要になったら自分で作るか仕立屋に頼むしかないらしい。庶民はどうするんだろうと思ったら、ある程度のパターンを持っている仕立屋がいるから、それを使うと安いらしい。そうか。確かにパターンを持っていたら、サイズを合わせる必要はないから安く済むのだろう。そして、貴族の客人にそんな安い服を用意するわけにはいかないというので、いつもレオニスさんがお願いしている仕立屋に頼むのだという。なんか着の身着のままで来たのが申し訳なくなってきた。いや、俺だってまさか異世界に来るなんて思わなかったけど。
クララさんに挨拶したあとはニコラスさんに屋敷の中を案内して貰った。まぁ厨房とダイニングルームの場所と自分が寝起きする部屋さえわかればいいと思っていたけど、他に図書室なんてあってびっくりした。色々な本があるというから、もしかしたら異世界に戻る方法も書かれているんじゃないかと思ったけど残念ながら文字は読めない。レオニスさんが言っていたけれど、もし家庭教師をつけてくれるなら頑張って覚えよう。外国語は一切ダメな語学センスのない俺だけど、ここの言葉は覚えたいと思った。
屋敷の中を案内して貰ったあとは、昼食まではやることがないから、庭に出てみた。噴水があったりして、ヨーロッパ辺りにありそうな手入れがよくされた庭園だった。これ、迷子になりそうだ。そう思いながら歩いていると、後ろからにゃ~と暢気な声が聞こえてきた。ルナだった。
「お前も庭の散歩か? もう起きてたんだな」
「にゃ~ん」
ご機嫌そうな鳴き声だった。そうだろうな。天気もいいから散歩日和だ。きっとルナにとってもそうだろう。でも、こんなふうに外を歩いていて、ルナはきちんと部屋に戻れるんだろうか。っていうか、どこから出てきたんだ? 日本にいたときみたいに交通事故の心配や野良猫との接触はないだろうけれど、ワクチンは3種しか打ってないからできるだけ外に出さないようにしないと。
「外を歩けるのも今日だけだからな」
俺がそう言ってもルナには伝わってないだろう。にゃ~と暢気な声が返ってきたから。でも、このわけのわからない世界だけど、ルナがいるだけ心強いし癒やされる。甘えん坊なルナは基本的に俺のそばにいたがる。だからきっと今も探していたのかもしれないし、もしかしたらあとをつけていたのかもしれない。それはわからないけれど、ルナがいれば心強いのは変わらない。そう言えば、ルナを追っててこの世界に来ちゃったから、向こうに戻る鍵もルナが握ってるのかもしれないな。だけど、ルナにそれを聞いたところでなにを言われてるのかわからないからな。まぁ、大学の夏休みは長い。気長に待ってもいいのかな?
「お前は元いた世界に戻りたい?」
俺がそう訊くとルナはにゃ? と小さく鳴いた。黒猫は神の使いか。やっぱりなにか関係ありそうだけど、ルナ本人にわかることではない。俺はルナを抱っこして屋敷へと戻った。
「アベル」
「ニコラスさま。わざわざ厨房までいかがいたしましたか?」
「旦那様の客人でタクヤさまです」
「あ、あのタクヤ・キヨイシです。あの、猫のご飯を作っていただきましたよね?」
「ああ、あの黒猫の。はい。お作りしましたが、なにか問題でもありましたでしょうか?」
「いいえ。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。ありがとうございます」
「気にしないで結構ですよ。猫は可愛いし、特にあの猫は黒猫で特別ですからね」
黒猫は特別? なんだろう? 縁起が悪いとかだろうか。昔は縁起が悪いとか言われたらしいし、今でもヨーロッパではそう言われているみたいだし。大丈夫かな?
「黒猫が特別って?」
「黒猫は神の使いと言われているのですよ」
「神の使い!」
縁起が悪いわけではなく、逆か。良かった。
「そうです。俺は猫好きだし、それが黒猫なら、喜んで作りますよ」
「ありがとうございます」
「好き嫌いはないのですか?」
「ありません。肉でも魚でもなんでも食べます。だから、余ったものでも大丈夫です。朝は申し訳ないですけど」
「気にしなくて大丈夫ですよ。黒猫のお世話をできるなんて光栄です」
良かった。良い人みたいだ。ルナが神の使いっていうのは笑ってしまうけれど。それでもいじめられたりするよりはいい。
「それで、旦那様が今夜、タクヤさまの作る食事を召し上がるというので、手伝ってやってください」
「わかりました。新しい料理の手伝いができるなんて楽しみですよ」
「ありがとうございます。夕方、こちらに来ますね」
「お待ちしてます。あ、猫のミルクとか欲しくなったらいつでもどうぞ」
「ありがとうございます」
そうアベルさんに挨拶をして厨房を後にすると、今度はメイドさんと顔合わせをした。今朝お水を持って来てくれた人だ。年は俺と大差なさそうな若いメイドさんだ。
「タクヤさま。これからタクヤさまのお世話をするメイドのクララです」
「今朝はお水をありがとうございました。タクヤ・キヨイシです。これからよろしくお願いします」
「あ……。こちらこそ、よろしくお願いします。なにかあったらいつでもお呼びください」
「はい」
そうしてクララさんに挨拶を済ませると、午後には服の仕立屋が来ると言われた。俺なんか貴族じゃないから仕立屋なんて贅沢なのに。そう思ってニコラスさんに言うと、吊るしの洋服屋と言う物がないらしい。だから服が必要になったら自分で作るか仕立屋に頼むしかないらしい。庶民はどうするんだろうと思ったら、ある程度のパターンを持っている仕立屋がいるから、それを使うと安いらしい。そうか。確かにパターンを持っていたら、サイズを合わせる必要はないから安く済むのだろう。そして、貴族の客人にそんな安い服を用意するわけにはいかないというので、いつもレオニスさんがお願いしている仕立屋に頼むのだという。なんか着の身着のままで来たのが申し訳なくなってきた。いや、俺だってまさか異世界に来るなんて思わなかったけど。
クララさんに挨拶したあとはニコラスさんに屋敷の中を案内して貰った。まぁ厨房とダイニングルームの場所と自分が寝起きする部屋さえわかればいいと思っていたけど、他に図書室なんてあってびっくりした。色々な本があるというから、もしかしたら異世界に戻る方法も書かれているんじゃないかと思ったけど残念ながら文字は読めない。レオニスさんが言っていたけれど、もし家庭教師をつけてくれるなら頑張って覚えよう。外国語は一切ダメな語学センスのない俺だけど、ここの言葉は覚えたいと思った。
屋敷の中を案内して貰ったあとは、昼食まではやることがないから、庭に出てみた。噴水があったりして、ヨーロッパ辺りにありそうな手入れがよくされた庭園だった。これ、迷子になりそうだ。そう思いながら歩いていると、後ろからにゃ~と暢気な声が聞こえてきた。ルナだった。
「お前も庭の散歩か? もう起きてたんだな」
「にゃ~ん」
ご機嫌そうな鳴き声だった。そうだろうな。天気もいいから散歩日和だ。きっとルナにとってもそうだろう。でも、こんなふうに外を歩いていて、ルナはきちんと部屋に戻れるんだろうか。っていうか、どこから出てきたんだ? 日本にいたときみたいに交通事故の心配や野良猫との接触はないだろうけれど、ワクチンは3種しか打ってないからできるだけ外に出さないようにしないと。
「外を歩けるのも今日だけだからな」
俺がそう言ってもルナには伝わってないだろう。にゃ~と暢気な声が返ってきたから。でも、このわけのわからない世界だけど、ルナがいるだけ心強いし癒やされる。甘えん坊なルナは基本的に俺のそばにいたがる。だからきっと今も探していたのかもしれないし、もしかしたらあとをつけていたのかもしれない。それはわからないけれど、ルナがいれば心強いのは変わらない。そう言えば、ルナを追っててこの世界に来ちゃったから、向こうに戻る鍵もルナが握ってるのかもしれないな。だけど、ルナにそれを聞いたところでなにを言われてるのかわからないからな。まぁ、大学の夏休みは長い。気長に待ってもいいのかな?
「お前は元いた世界に戻りたい?」
俺がそう訊くとルナはにゃ? と小さく鳴いた。黒猫は神の使いか。やっぱりなにか関係ありそうだけど、ルナ本人にわかることではない。俺はルナを抱っこして屋敷へと戻った。
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