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沈黙の婚約4
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夕食はなにも考えたくなくて、たまにアベルさんと話しながら作った。ただ、それで気持ちが落ち着いたかといえば微妙だった。作りながら考えていたのは、レオニスさんがあのリシアさんと結婚するのであれば俺はなんとかしてでも元の世界に帰りたいと思った。そこで思ったのは、来訪者がたまにとはいえ訪れることがあるというし、魔法酔いなんて言葉があるのなら、魔法使いとかいないのだろうか。もしいるのなら、その魔法使いに帰してもらうなんてことはできないんだろうか。ここの国の言葉を勉強して、話すのはなんとかなっても読み書きが難しい。俺に語学のセンスはないんだろうな。それでも、なんとかしてここの本を読めるようになりたいから必死に勉強はしてる。でも、もし魔法使いなんていうのがいたら楽じゃないのかなと思う。レオニスさんがリシアさんと結婚するのなんて見たくない。それに、レオニスさんがリシアさんと結婚したら俺はどうすればいいんだろう。今は俺のことを来訪者として保護してくれているけれど、あのリシアさんは来訪者も黒猫も嫌いなようだ。そうしたら俺はどうなる? 市場で俺を雇ってくれる人はいないだろうか。そうすれば自分1人で生きていくこともできる。お金さえあればなんとかなるのだ。
そんなことを思いながら作っていたら竜田揚げは少し時間が長すぎたようだ。でも、これくらいなら大丈夫かな? ほうれん草のおひたしは失敗することはないからいいけれど。味噌汁はいつものようにアベルさんが作ってくれた。そうして作り終わったときはちょうど夕食の時間になったので、俺は厨房を離れ、ダイニングルームへと向かう。ダイニングルームには既にレオニスさんが来ていた。
「味噌スープの匂いがするが、今日は和食か?」
「……はい。鶏の竜田揚げとほうれん草のおひたし、それに味噌汁です」
「タツタアゲとは初めてだな。楽しみだ」
レオニスさんは努めていつものように接してくれている。でも、俺にはそういうことができなかった。まだ子供だな、俺も。もう少し大人にならなくちゃな。
食事がサーブされ、俺は黙ったまま自分で作った食事を食べる。ここに来てからいままで、レオニスさんが書斎に籠もっていたとき以外はいつもレオニスさんと食べていたから感じなかったけれど、今日はまるで1人で食べているみたいで、食事が味気ない。1人で食べる食事はこんなに味気ないものだっただろうか。それとも、今日は気分が塞がっているからそう感じるのだろうか。両方なのかもしれない。夕食前は、料理で厨房に籠もっていられたけど、夕食後は特にすることがない。どうやって過ごそうかな。勉強、するか。俺が一番しなくてはいけないものだろうし。
夕食の時間、いつもの楽しい時間ではなくて、空気が重く、どんよりとしていた。そんなふうに食べていたから、食事は味気ないだけでなく、残してしまった。それを見たレオニスさんが声をかけてきた。
「食欲がないのか? 大丈夫か? 夕食後、少し話したい」
それに俺はなにも答えることができなかった。食欲がないのは、こんな気持では当然だろうし、大丈夫なんかじゃないし、話したくはない。でも、話さなきゃダメ……なんだろうな。そう思って俺は頷いた。そうでしか返事を返すことはできなかった。ただ、食事をしながら考えていたのは、レオニスさんがあのリシアさんと結婚をするのなら俺はこの屋敷を出ていこうということだった。この世界に俺の居場所はない。なんなら今の俺は無一文だ。仕事をしていないからお金なんて全く持ってない。それでもこうして困らずに食べていられるのはレオニスさんの温情のおかげだ。でも、リシアさんは俺を歓迎することはないだろうから、なんとか仕事にありついて、どこか部屋を借りて。そうして生きていこう。それでなんとか帰る方法を探さなければ。いや、レオニスさんがリシアさんと結婚する前に、あの遺跡のところに連れて行って貰おうか。そしてルナと2人で戻れる方法を試してみようか。ルナを追いかけて、俺が転ぶ。それは俺がここの世界に来たときのことだ。だからここでも、ルナを追いかけて俺が転べば、うまくしたら帰れるかもしれない。ただ、気になるのがルナの首輪の鈴が鳴るのと、光だ。こっちに来てからも何度かルナの鈴が淡くて小さく光ることがある。こちらの世界に来たときに鈴の音と光があった。だから鈴が発する光というのは関係あると思うんだ。でも、あのときのような大きな光を見ることはない。なんかそれがキーになっている気がするけれど、憶測でしかない。なんとかして帰る方法を見つけなくては。そして、レオニスさんのことは忘れて生きよう。心は通じ合った。でも、それは儚いものだったんだ。婚約者がいるのなんてわかっていたはずなのに。俺は身をひかなくてはいけない存在なのに。たとえひとときでも心を通い合わせることができた。それだけでも俺にとっては夢のようなことなんだから、良しとしなきゃ。贅沢なんて言ってられない。それにまだ若いんだから、向こうの世界に戻ってからだって、きっと恋人ができるはずだ。そうしたらレオニスさんのことも忘れられる。大丈夫だ。生きていける。
味気ない食事を終えて、俺はトボトボと部屋へと戻った。レオニスさんは話をしようと言ったけれど、俺は話すことはない。それでも顔を合わせなくてはいけないんだろうなと思うと余計に気持ちが滅入ってきた。
そんなことを思いながら作っていたら竜田揚げは少し時間が長すぎたようだ。でも、これくらいなら大丈夫かな? ほうれん草のおひたしは失敗することはないからいいけれど。味噌汁はいつものようにアベルさんが作ってくれた。そうして作り終わったときはちょうど夕食の時間になったので、俺は厨房を離れ、ダイニングルームへと向かう。ダイニングルームには既にレオニスさんが来ていた。
「味噌スープの匂いがするが、今日は和食か?」
「……はい。鶏の竜田揚げとほうれん草のおひたし、それに味噌汁です」
「タツタアゲとは初めてだな。楽しみだ」
レオニスさんは努めていつものように接してくれている。でも、俺にはそういうことができなかった。まだ子供だな、俺も。もう少し大人にならなくちゃな。
食事がサーブされ、俺は黙ったまま自分で作った食事を食べる。ここに来てからいままで、レオニスさんが書斎に籠もっていたとき以外はいつもレオニスさんと食べていたから感じなかったけれど、今日はまるで1人で食べているみたいで、食事が味気ない。1人で食べる食事はこんなに味気ないものだっただろうか。それとも、今日は気分が塞がっているからそう感じるのだろうか。両方なのかもしれない。夕食前は、料理で厨房に籠もっていられたけど、夕食後は特にすることがない。どうやって過ごそうかな。勉強、するか。俺が一番しなくてはいけないものだろうし。
夕食の時間、いつもの楽しい時間ではなくて、空気が重く、どんよりとしていた。そんなふうに食べていたから、食事は味気ないだけでなく、残してしまった。それを見たレオニスさんが声をかけてきた。
「食欲がないのか? 大丈夫か? 夕食後、少し話したい」
それに俺はなにも答えることができなかった。食欲がないのは、こんな気持では当然だろうし、大丈夫なんかじゃないし、話したくはない。でも、話さなきゃダメ……なんだろうな。そう思って俺は頷いた。そうでしか返事を返すことはできなかった。ただ、食事をしながら考えていたのは、レオニスさんがあのリシアさんと結婚をするのなら俺はこの屋敷を出ていこうということだった。この世界に俺の居場所はない。なんなら今の俺は無一文だ。仕事をしていないからお金なんて全く持ってない。それでもこうして困らずに食べていられるのはレオニスさんの温情のおかげだ。でも、リシアさんは俺を歓迎することはないだろうから、なんとか仕事にありついて、どこか部屋を借りて。そうして生きていこう。それでなんとか帰る方法を探さなければ。いや、レオニスさんがリシアさんと結婚する前に、あの遺跡のところに連れて行って貰おうか。そしてルナと2人で戻れる方法を試してみようか。ルナを追いかけて、俺が転ぶ。それは俺がここの世界に来たときのことだ。だからここでも、ルナを追いかけて俺が転べば、うまくしたら帰れるかもしれない。ただ、気になるのがルナの首輪の鈴が鳴るのと、光だ。こっちに来てからも何度かルナの鈴が淡くて小さく光ることがある。こちらの世界に来たときに鈴の音と光があった。だから鈴が発する光というのは関係あると思うんだ。でも、あのときのような大きな光を見ることはない。なんかそれがキーになっている気がするけれど、憶測でしかない。なんとかして帰る方法を見つけなくては。そして、レオニスさんのことは忘れて生きよう。心は通じ合った。でも、それは儚いものだったんだ。婚約者がいるのなんてわかっていたはずなのに。俺は身をひかなくてはいけない存在なのに。たとえひとときでも心を通い合わせることができた。それだけでも俺にとっては夢のようなことなんだから、良しとしなきゃ。贅沢なんて言ってられない。それにまだ若いんだから、向こうの世界に戻ってからだって、きっと恋人ができるはずだ。そうしたらレオニスさんのことも忘れられる。大丈夫だ。生きていける。
味気ない食事を終えて、俺はトボトボと部屋へと戻った。レオニスさんは話をしようと言ったけれど、俺は話すことはない。それでも顔を合わせなくてはいけないんだろうなと思うと余計に気持ちが滅入ってきた。
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