遠回りのしあわせ〜You're my only〜

水無瀬 蒼

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結婚5

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 あきママに話した翌週。
 立樹に告白だけしようと決めた。
 何も望んでいない。ただ好きだと伝えて、他の誰かを好きになるからとだけ伝えられれば十分だ。
 でも、それで立樹が離れて行ってしまうのなら、それは悲しいし嫌だけど受け入れなければいけないという覚悟も同時に持っていた。
 それでも、何も望まないならなぜ告げる必要があるのかと考えたりもした。ただの自己満じゃないかと。
 それは今でも思っている。だけど、立樹のことを好きだという気持ちが溢れそうなんだ。だからほんの少し持って欲しい。

「難しい顔してるぞ」

 金曜日の夜。
 いつものように立樹の部屋での宅呑み中。
 俺はビールを手にしたまま考え込んでしまっていたようで、立樹から指摘されて我に返る。

「どうした? なにか悩みごと? それなら聞くよ?」

 悩みごとだと思われるくらいに難しい顔してたのか。
 もう言おう。
 タイミングを考えていたけど、そうしたら難しい顔していたみたいだし。
 そうしたら言ってしまうしかない。
 でも、どうか聞いたあとも友達でいて欲しい。わがままだけど。
 だけど、友達ではいられなくなるかもしれないことは覚悟しなければ。
 そう決めて、ビールを一口呑んで喉の乾きを癒やしてから深呼吸をした。
 よし! 言うぞ。

「あのさ、聞いて欲しいことがあるんだ」
「やっと言う気になったか。なんだ? なんでも聞くぞ」
「うん、ありがとう。あの……あのさ……」

 言うと決めたのに、なかなか言葉が出てこない。
 立樹はなにも言わないで俺の顔を見ている。聞き逃さないっていう顔だ。
 あぁ、男らしくないな、俺。
 言うって決めたんだろう。
 でも、顔を見て伝える勇気はなくて下を向いて手をぎゅっと握りしめる。

「これ聞いても友達でいて欲しいんだけど……俺……立樹のこと好きだ。でも、付き合って欲しいとか結婚の邪魔をしようとかそんな気はないんだ。ただ、知っていて欲しいというか、伝えたかった。立樹、ノンケだからこんなこと男から言われたらさすがに気持ち悪いって思うかもしれないけど。でも伝えたかった。ずっと、苦しかった」
「……」

 最後は一気にまくし立ててしまったけど、伝えた。
 立樹はなにも言わない。気持ち悪いともなにも。気持ち悪いと言うのさえ嫌だったとか?
 そう思うとソロソロと上目遣いで立樹を見る。
 嫌悪感じゃなければいいけど。
 そうしてチラリと見た立樹は、目を少し見開いて固まっていた。
 え? 固まってる? そんな反応は想像してなかった。

「たつ、き?」

 俺が名前を呼ぶと我に返ったようだった。

「あ、ごめん。びっくりしちゃって」
「ううん。びっくりさせてごめん」

 その後、お互いに無言が続く。
 これ、帰った方がいいのかな? どうしよう。

「あの……俺、帰るよ。ごめん」
 
 やっぱり伝えなければ良かった。
 そう思うと涙が滲んでくる。
 ばか。こんなところで泣くな。

「待って! 違う! 違うんだ!」

 立樹がそう言いながら俺の腕を掴んできた。
 今度は俺がびっくりして止まってしまう。

「待って、悠。あの、びっくりしただけで気持ち悪いとかじゃないんだ。ほんと、単に驚いただけだから。悠からそんなこと言われるなんて思ってもみなかったから」
「え? 俺、立樹のこと格好いいって言ったことあると思うけど……」
「格好いいっていうのと好きっていうのとは違うだろ」

 そう、か。言われてみたらそうかもしれない。

「でも、そう言って貰えて嬉しいよ」
「ほんと? これからも友達でいてくれる?」
「友達……うん、もちろん」

 なんだか間があった気がするんだけど、嬉しいというのは方便?

「あの……嫌なら嫌って言っていいから」
「違う。嫌なんかじゃないよ。うん、これからも今まで通りで」
「ほんと? いいの? 無理してない?」
「無理なんてしてないよ。言っただろうびっくりしただけって。だからこれからも今まで通りでいよう。これからも悠は俺の大事な友だちだから」

 大事な友だち……。
 その言葉に涙が落ちてしまった。

「なに泣いてるんだよ」
「だって、大事な友だちって」
「大事だよ。普通の友達もだけど、悠のことはそれ以上だから。それじゃ物足りない?」
「まさか! 十分過ぎるくらいだよ」

 普通の友だちでも嬉しいのに、それ以上って……。

「結婚してもさ、一緒に呑もうよ」
「うん! 立樹の都合のいい日にでも呑もう。俺はいつでもいいから」
「じゃあ今と同じで毎週! って言いたいんだけど、さすがにダメだろうな」
「うん。彼女さん嫌がると思う」
「だよな。でも、できるだけ呑もう」

 そう言ってくれた立樹の顔がすごく甘くて優しくて、俺はすごく嬉しくなった。
 そうして笑っていると、立樹の顔が近づいてくる。
 キス、される。と目を瞑ると思った通り立樹の唇が俺のそれに軽く触れた。
 アルコールが入るとされるキス。
 なんで立樹はキスしてくるんだろう。
 それはなんだか訊いたらいけない気がして訊いたことがない。
 これが、大事な友だちっていうことなんだろうか。
 わからないけれど、嫌じゃないからされるがままにしている。
 でも、結婚したらしちゃダメだ。
 だから今だけ。
 
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