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勉強と兵役と4
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小さく温かいカップを手に取り、俺は一口コーヒーを飲んだ。香ばしい香りとわずかな酸味。深いけれど軽やかで気を張らずに飲める味だった。イジュンも同じようにカップを持ち上げ、ふぅと軽く一息ついてから一口飲んだ。
「美味しい」
自然にその言葉が出てきた。だけど、出会ってまだ数日だし、お互い知らないことだらけなのに、こうやって向かい合ってコーヒーを飲むことに違和感はない。それどころか自然な感じさえする。
俺が小さく笑うと、イジュンは口角を上げた。笑顔の連鎖だ。
「でも、大学の頃ってそういう時期なのかもね」
俺が先ほどの話しの続きをすると、イジュンはもう一度カップに視線を落としてから小さく頷いた。しばらく、木の椅子の軋む音と店内に流れるスロージャズが2人の間を埋めた。外の喧噪は聞こえてこない。まるでここだけ切り抜かれたみたいだ。
「なんで日本に来ようと思ったの?」
そういえばなんで日本に来たかは聞いたことがなかった。俺がそう訊くとイジュンは眉を少し動かした。どう言ったらいいんだろう的な顔。そんなに変なことなんだろうか。
「うーん。昔から興味あったんだよ。本とかアニメとか映画とか。村上春樹は読んだし、アニメはジブリが好き。映画は黒澤明とか小津安二郎とか静かなのが好き」
「渋いな」
村上春樹はわかる。ジブリもわかる。でもなんで黒澤明と小津安二郎? すごく渋くないか? というか韓国人が知っていることにびっくりした。黒澤明とか小津安二郎とか名前は知ってるけど、どんな映画を撮ったかはよく知らない。若い世代はそんなもんだ。だから、悪いと思いながらもつい笑ってしまった。俺が笑うとイジュンも笑う。でも、次の言葉は少し真面目な口調だった。
「でも、多分……今しか来られないと思ったから」
「今しか?」
俺が繰り返すと、イジュンは今度はフルーツに手をつけ、キウイを口にした。そして、視線は下に向けたままだ。俺はイジュンのそんな動きを黙って見ていた。
「大学を卒業して、兵役が終わって、でもまだ仕事は決まってない。ぽっかり時間が空いたんだ。でもさ、そのうち家のこともあるし、それに社会人になったら、もうゆっくりと自由にどこかへ行くってことはできないなと思ったんだ。そう思ったらたまらなくて、気づいたら飛行機の予約取ってた」
そういうイジュンの言葉には切なさのようなものが含まれていた。
「自由にどこかへ、か」
イジュンの言葉を繰り返す。その言葉に俺は同感した。きっと自由なのは今だけだ。
「いつか出来なくなる気がするんだよな。何も考えずにどこかへ行って、誰かとこうやって会うのってさ」
「そうだね」
俺の言葉にイジュンは短く答えたあと、少しだけ俺の顔を見た。
「だから、今会えたのも、たぶんそのタイミングなんだと思う」
唐突だった。でもイジュンは事実を言っただけだ。というように真っ直ぐな目で俺を見ている。俺はその視線から逃げることはできなくて、小さく笑った。
「じゃあタイミングに感謝かな?」
「うん、そうだね」
俺はイジュンの視線から逃れるように下を向いてカップを眺めた。カップのコーヒーはもうぬるくなってしまった。昭和レトロな空間に過去と現在と未来の気配が柔らかく重なっている気がした。
「美味しい」
自然にその言葉が出てきた。だけど、出会ってまだ数日だし、お互い知らないことだらけなのに、こうやって向かい合ってコーヒーを飲むことに違和感はない。それどころか自然な感じさえする。
俺が小さく笑うと、イジュンは口角を上げた。笑顔の連鎖だ。
「でも、大学の頃ってそういう時期なのかもね」
俺が先ほどの話しの続きをすると、イジュンはもう一度カップに視線を落としてから小さく頷いた。しばらく、木の椅子の軋む音と店内に流れるスロージャズが2人の間を埋めた。外の喧噪は聞こえてこない。まるでここだけ切り抜かれたみたいだ。
「なんで日本に来ようと思ったの?」
そういえばなんで日本に来たかは聞いたことがなかった。俺がそう訊くとイジュンは眉を少し動かした。どう言ったらいいんだろう的な顔。そんなに変なことなんだろうか。
「うーん。昔から興味あったんだよ。本とかアニメとか映画とか。村上春樹は読んだし、アニメはジブリが好き。映画は黒澤明とか小津安二郎とか静かなのが好き」
「渋いな」
村上春樹はわかる。ジブリもわかる。でもなんで黒澤明と小津安二郎? すごく渋くないか? というか韓国人が知っていることにびっくりした。黒澤明とか小津安二郎とか名前は知ってるけど、どんな映画を撮ったかはよく知らない。若い世代はそんなもんだ。だから、悪いと思いながらもつい笑ってしまった。俺が笑うとイジュンも笑う。でも、次の言葉は少し真面目な口調だった。
「でも、多分……今しか来られないと思ったから」
「今しか?」
俺が繰り返すと、イジュンは今度はフルーツに手をつけ、キウイを口にした。そして、視線は下に向けたままだ。俺はイジュンのそんな動きを黙って見ていた。
「大学を卒業して、兵役が終わって、でもまだ仕事は決まってない。ぽっかり時間が空いたんだ。でもさ、そのうち家のこともあるし、それに社会人になったら、もうゆっくりと自由にどこかへ行くってことはできないなと思ったんだ。そう思ったらたまらなくて、気づいたら飛行機の予約取ってた」
そういうイジュンの言葉には切なさのようなものが含まれていた。
「自由にどこかへ、か」
イジュンの言葉を繰り返す。その言葉に俺は同感した。きっと自由なのは今だけだ。
「いつか出来なくなる気がするんだよな。何も考えずにどこかへ行って、誰かとこうやって会うのってさ」
「そうだね」
俺の言葉にイジュンは短く答えたあと、少しだけ俺の顔を見た。
「だから、今会えたのも、たぶんそのタイミングなんだと思う」
唐突だった。でもイジュンは事実を言っただけだ。というように真っ直ぐな目で俺を見ている。俺はその視線から逃げることはできなくて、小さく笑った。
「じゃあタイミングに感謝かな?」
「うん、そうだね」
俺はイジュンの視線から逃れるように下を向いてカップを眺めた。カップのコーヒーはもうぬるくなってしまった。昭和レトロな空間に過去と現在と未来の気配が柔らかく重なっている気がした。
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