春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

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プリクラの距離1

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 俺は授業が終わるやいなや駅へと急ぐ。今日は秋葉原散策デーだ。秋葉原なんて何年ぶりなんだろう。そんなところをガイドなんてできるんだろうか。
 秋葉原の駅に着き、待ち合わせの電気街口へ。いつもなら明日海より先に来ているイジュンがまだ来ていない。時計は約束の時間の5分前。まぁまだ遅刻じゃない。でも、珍しいな。まさか、駅で迷子になってるってことはないよな? 駅構内は至るところにハングルが表記されているから、改札口まではたどり着けると思うんだけど。そんなふうに考えていると、頬に温かいものが触れる。なんだ?! 後ろを振り返ると、コンビニで買ったのだろうコーヒーを両手に持ったイジュンがいた。

「遅くなってごめんね。コンビニが結構混んでた。はい、これ明日海の分」

 そう言って片方のコーヒーを俺に差し出してくれる。

「いつもガイドして貰ってるから、ガイド料」

 その為にわざわざコンビニで買ってきてくれたのか。イジュンの優しさに触れた気がした。

「ありがとう。ちょうど喉渇いてたから助かるよ」

 そう言ってコーヒーを受け取る。

「さ、行くぞ」
「うん。ラジオ会館楽しみ」
「俺にはごった煮にしか思えないよ」
「ごった煮ってなに?」
「色々なものがごちゃ混ぜになってるってこと」
「それだけ色々なものがあるんだね。それって楽しくない?」
「色々ありすぎて頭おかしくなるよ」

 俺がそう言うとイジュンは笑う。まだイジュンは行ってないから笑っていられるんだ。実際に行って、あのごちゃ混ぜの中に身を置けば、俺が言っていることが誇張じゃないってわかるはずだ。口を少し尖らせてそう考えていた。

「明日海。可愛い口してるよ」
「うるせー」

 イジュンに口元を指摘され、普通に戻す。いや、ほんとに。イジュンは知らないからそんなふうにしていられるんだ。それにしても韓国に日本のアニメファンがそんなに多いなんて知らなかった。いや、イジュンがだよな。そんなにアニメが好きなようには見えない。まぁ本人はオタクじゃないって言ってるけど。
 改札を出て左。そこを真っ直ぐ行ってしばらくするとイジュンが楽しみにしているラジオ会館だ。

「イジュン。ここが、お前が楽しみにしてたラジオ会館だよ」
「わーお。ここがラジオ会館かぁ」

 そう言ってイジュンは建物を仰ぎ見る。その横顔を見るとわくわくとした表情をしている。俺には、オタクの聖地としか思えないけど、イジュンにとっては宝島みたいな感じなんだろうか。

「いいフィギュアがあったら買ってもいいな」
「マジかよ。オタクじゃないんだろう?」
「オタクじゃないけど、アニメのワールドは好きだから、いいのがあったら欲しい。部屋に置いたらわくわくするでしょ」
「フィギュア見てわくわく……それってほぼオタクじゃね? そうでなくてもその一歩手前みたいな」
「そう? 明日海はいつでも来れるから。でも、俺は韓国に帰ったら、もう来れないかもしれないし。そうしたら記念だよ」

 記念か。そうか。そう考えると買ってもおかしくはないのか。なんだかイジュンといると、外国人だということはわかるんだけど、ずっと一緒にいるような気がして、イジュンが韓国へ帰るというのがピンとこない。ずっと日本に住んでいるみたいな気がしてしまう。でも、違うんだ。そうだ。明後日にはもう韓国へ帰ってしまうんだ。そう考えると寂しくなった。

「明日海? どうしたの? もしかして、ガイドするのそんなに嫌だった?」
「え? 違う。そうじゃないよ。なんでもない。気にするな」
「ほんとに? もしあれなら、俺1人で見てこようか?」
「大丈夫だよ。さ、行こうぜ。オタクパワーの波に溺れろ!」

 そう言って、1階からお店を覗いていく。

「うわー。ワンピースだ。懐かしい。あ、トトロもある」
「今なら鬼滅の刃じゃね?」
「そうだね。でも、まだそんなに見てないんだ。俺的には千と千尋の神隠しが好き」
「あー。好きな人多いな」
「だって、すっごく日本って感じじゃない? レトロ感とか俺の好み」
「日本の感性、か」
「そう! わかってるじゃん、明日海」
「なんとなくな」

 千と千尋の神隠しが好きなら、昨日の夕焼けと商店街は気に入ってくれたはずだ。ほんとに昭和の日本を感じられるから。

「やばい。お金つぎ込みたくなる」
「落ち着け。まだまだ上があるからな」
「恐るべし、ラジオ会館……」

 テンションが高くなっているイジュンをなだめながら、ゆっくり見て回った。
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