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君と写す未来4
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隅田川は、昼間の喧噪を忘れたかのように静かだった。この広い公園も、他に人がいるはずなのに静かで、まるでこの世界に俺とイジュンだけしかいないかのようだった。水面に映る対岸のネオンは散って、揺れている。俺もイジュンも黙ってそれを見ていた。2人の間には静かな時が流れているようだけれど、実はそうでもない。いや、イジュンはどうかわからないけれど、俺は違う。胸の奥では鼓動がバクバクいって落ち着かない。でも、それを隠すように、わざとなんでもない話題を持ち出す。
「同じ浅草でも、昼と違って夜は落ち着くな。観光地っぽさがなくなる」
「そうだね。それに今日の昼間は浅草とは違った人混みの中へ行ったから、こういうの落ち着く」
イジュンはそう言いながら笑った。その横顔に街の光が映り、目の奥まで柔らかく照らしていた。それを見て俺は視線を逸らしてしまった。視線を逸らしたのは、心臓の音がイジュンに聞こえてしまいそうだったから。視線を逸らしたってバクバクいってるのは変わらないけど、視線を逸らさないでいると余計に大きな音だから。
「日本に来てからいろんな場所を見たけど、こうして川を見ているのが一番記憶に残りそう」
何気ないようでいて、思わず意味を探ってしまう言葉。コーヒーを飲んだというのに、俺は喉が渇いてうまく笑えない。いや、笑うべきなのか? それとも真面目に受け止めるべきなのか? どちらのリアクションを取ったらいいのかわからなくて、戸惑ってしまう。ちらりとイジュンを見ると、イジュンは川に視線を落としたまま、指先を組んだり開いたりしていた。落ち着きがないのは、俺だけではないようで、ちょっとホッとした。
「……そうだな。俺もそうかも」
返事をしながら自分でも驚いた。胸の奥にあることを包み隠さず言ってしまったような気がして。もちろん、そんなことはないんだけど、そう感じてしまったのだ。
俺が返事をすると、また2人の間には静寂が訪れる。音なんてしないはずの風の音が聞こえそうなほどに静かだった。その間に、イジュンの小さな声が落ちた。
「……明日海」
「ん?」
名前を呼ばれただけで体が熱くなる。ただ名前を呼ばれただけだ。友人にだって名前で呼ばれているし、イジュンにだっていつも名前で呼ばれている。だからなんでもないことなのに、それなのに体が熱くなった。そして俺の名前を呼んだイジュンは、言葉を探すように口をパクパクとさせていた。
「俺、最初に明日海を見たとき、女の子だと思った」
「ああ……うん」
そうは思っていたけど、本人に言われるとちょっと傷つくな。それでも、なんで今になってそんなことを言うんだろうと真意を探す。すると、イジュンは声のトーンを下げて先を続けた。
「でも、今はそうじゃないってわかってる。わかってるけど……好きなんだ」
その瞬間、時が止まったかと思った。川面の光も、夜風も、全て遠のく。残ったのはイジュンが言った言葉だけだった。
「……イジュン」
どうしたらいいのかわからなくて声がかすれる。イジュンは視線を逸らさずに真っ直ぐ俺を見ていた。その視線があまりに真剣でちゃかすことはできなかった。でも、その真剣さが嬉しくてたまらないのは事実だった。
「驚かせたよね。でも……ずっと言いたかった。明日海が笑うと、俺はそれを見ると嬉しくてさ、それだけでその日はいい日って思ってた。特別なんだ」
照れも迷いも全部押し殺して絞り出したような言葉だった。俺は唇を噛んで視線を下に向ける。水面に揺れる光が、微かに滲んで見えた。
「……馬鹿だな」
やっと出た言葉がそれだった。けれど、それはイジュンを拒む言葉じゃない。頬が熱くなるのを隠せず、俺は小さく笑って言葉にした。
「俺は……お前といると落ち着くんだよ。他の誰といるよりもずっと」
俺がそう言うと、イジュンは目をわずかに見開いて、次に柔らかく細められる。言葉よりも早く、イジュンの気持ちが伝わってきた。距離がほんのわずかだけど近づく。俺はそれに気づいたけれど、逃げることはせず、でも、だからと言ってどうしたらいいのかわからずに、ただ視線を泳がせた。
「イジュン……」
名前を呼ぶと優しい笑みを浮かべてくれた。それがとても嬉しかった。俺はほんの少し体を傾けた。ほんの一瞬のためらいのあと、互いの距離は自然に縮まって、夜風よりも温かな気配が唇に触れた。
「同じ浅草でも、昼と違って夜は落ち着くな。観光地っぽさがなくなる」
「そうだね。それに今日の昼間は浅草とは違った人混みの中へ行ったから、こういうの落ち着く」
イジュンはそう言いながら笑った。その横顔に街の光が映り、目の奥まで柔らかく照らしていた。それを見て俺は視線を逸らしてしまった。視線を逸らしたのは、心臓の音がイジュンに聞こえてしまいそうだったから。視線を逸らしたってバクバクいってるのは変わらないけど、視線を逸らさないでいると余計に大きな音だから。
「日本に来てからいろんな場所を見たけど、こうして川を見ているのが一番記憶に残りそう」
何気ないようでいて、思わず意味を探ってしまう言葉。コーヒーを飲んだというのに、俺は喉が渇いてうまく笑えない。いや、笑うべきなのか? それとも真面目に受け止めるべきなのか? どちらのリアクションを取ったらいいのかわからなくて、戸惑ってしまう。ちらりとイジュンを見ると、イジュンは川に視線を落としたまま、指先を組んだり開いたりしていた。落ち着きがないのは、俺だけではないようで、ちょっとホッとした。
「……そうだな。俺もそうかも」
返事をしながら自分でも驚いた。胸の奥にあることを包み隠さず言ってしまったような気がして。もちろん、そんなことはないんだけど、そう感じてしまったのだ。
俺が返事をすると、また2人の間には静寂が訪れる。音なんてしないはずの風の音が聞こえそうなほどに静かだった。その間に、イジュンの小さな声が落ちた。
「……明日海」
「ん?」
名前を呼ばれただけで体が熱くなる。ただ名前を呼ばれただけだ。友人にだって名前で呼ばれているし、イジュンにだっていつも名前で呼ばれている。だからなんでもないことなのに、それなのに体が熱くなった。そして俺の名前を呼んだイジュンは、言葉を探すように口をパクパクとさせていた。
「俺、最初に明日海を見たとき、女の子だと思った」
「ああ……うん」
そうは思っていたけど、本人に言われるとちょっと傷つくな。それでも、なんで今になってそんなことを言うんだろうと真意を探す。すると、イジュンは声のトーンを下げて先を続けた。
「でも、今はそうじゃないってわかってる。わかってるけど……好きなんだ」
その瞬間、時が止まったかと思った。川面の光も、夜風も、全て遠のく。残ったのはイジュンが言った言葉だけだった。
「……イジュン」
どうしたらいいのかわからなくて声がかすれる。イジュンは視線を逸らさずに真っ直ぐ俺を見ていた。その視線があまりに真剣でちゃかすことはできなかった。でも、その真剣さが嬉しくてたまらないのは事実だった。
「驚かせたよね。でも……ずっと言いたかった。明日海が笑うと、俺はそれを見ると嬉しくてさ、それだけでその日はいい日って思ってた。特別なんだ」
照れも迷いも全部押し殺して絞り出したような言葉だった。俺は唇を噛んで視線を下に向ける。水面に揺れる光が、微かに滲んで見えた。
「……馬鹿だな」
やっと出た言葉がそれだった。けれど、それはイジュンを拒む言葉じゃない。頬が熱くなるのを隠せず、俺は小さく笑って言葉にした。
「俺は……お前といると落ち着くんだよ。他の誰といるよりもずっと」
俺がそう言うと、イジュンは目をわずかに見開いて、次に柔らかく細められる。言葉よりも早く、イジュンの気持ちが伝わってきた。距離がほんのわずかだけど近づく。俺はそれに気づいたけれど、逃げることはせず、でも、だからと言ってどうしたらいいのかわからずに、ただ視線を泳がせた。
「イジュン……」
名前を呼ぶと優しい笑みを浮かべてくれた。それがとても嬉しかった。俺はほんの少し体を傾けた。ほんの一瞬のためらいのあと、互いの距離は自然に縮まって、夜風よりも温かな気配が唇に触れた。
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