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君と写す未来6
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「……帰りたくないな。まだ明日海と一緒にいたい」
ぽそりとイジュンが言った言葉が聞こえてくる。俺もイジュンと一緒にいたかった。今離れてしまったら、イジュンと俺の気持ちが重なったことが夢になってしまいそうで。
「俺の部屋来る? 30分くらいかかるけど」
「行っていい? 帰れって言われても今夜は帰らないけど、それでもいい?」
「いいよ」
そうしてイジュンを一緒に俺の家に帰ることにする。
電車の中でもイジュンは無駄に喋らなかった。もちろん、俺も。2人の間に沈黙が流れたけれど、それは嫌な感じではなかった。というより、イジュンと一緒に自分の家へ帰るということがなんだか気恥ずかしい。それでも、誘ったのは俺だし、来られることが嫌なわけではない。
最寄り駅に着くと、改札を出てすぐのコンビニの明かりが目に入る。
「なにか買って行く? 飲み物とかつまむものとか。今、なにもないから」
「じゃあ寄っていこう」
店内に入るとイジュンはまっすぐに冷蔵庫の前へと行き、俺に訊いてくる。
「ビールはアサヒがいい? キリンがいい?」
「どっちでもいいよ」
「良くないよ」
まるで、とても大切なことだと言わんばかりの表情をしている。その表情を見て俺は笑ってしまう。見てみると、結局どちらも手にしている。それを俺が持って来たかごに入れて、スナック菓子の棚を見る。ポッキー、チョコレート、ポテトチップス、そしてアイスまでかごに入れる。
「夜に食べるの悪い?」
そう言って子供みたいに笑うイジュンに、俺もつられて笑ってしまう。
「お腹すいた?」
「だって、一世一代の告白したんだよ? 神経使ったからお腹空いた」
「なんだよ、それ」
「とにかくお腹空いたの。それに日本のコンビニ来るの最後だと思うから。韓国に帰ったら来れないんだから」
「わかったよ」
そう言えば、初めてコンビニに行ったとき、イジュンは目をキラキラさせていたなと思い出す。俺にとっては当たり前のコンビニの品揃えでも、韓国に暮らすイジュンには当たり前じゃないんだ。
「後悔のないようにな」
「うん!」
そうして買い物袋を2人でぶら下げて俺の家まで行く。駅からは徒歩10分ほど。その道のりを2人でゆっくりと歩く。昼間なら人通りも多いけれど、夜遅い時間の今ではすれ違う人さえいない。ほんとに世の中、俺とイジュンしかいないみたいだと思う。
アパートの階段を上がり、部屋のドアを開ける。真っ暗な6畳の明かりをつけると、俺が朝出て言ったときのまま、マグカップが流しにひとつ置いてある。今朝はちょっと寝坊したから洗い物は帰ってきてからしようと思って置きっぱなしにしていたのだ。
玄関をあがり、アイスを冷凍庫に入れ、ビールとお菓子はローテーブルに置く。そして、ローテーブルの前、ベッドに寄っかかるようにして座ると、イジュンが隣に腰を下ろした。肩と肩が自然に寄る。少しでも動けば触れてしまう距離。その距離に鼓動が早くなる。
「落ち着くね」
「狭いだけだよ」
「ううん。なんか温かい」
俺はそれになんて返したらいいのかわからずに、ビールに手を伸ばした。
「キリン飲むけどいい? 韓国ではアサヒが人気なんでしょう?」
「よく知ってるね」
「ネットニュースに出てた」
「じゃあアサヒ貰うね」
そしてプルタブを引き、カツンと缶を合わせ、乾杯をする。
「コンベ!」
「よく覚えてたね」
「これくらいはね」
「でもね、友人とか身近な人とくだけた席のときでは、チャンって言ったりするんだよ」
「チャンってグラスがぶつかったときの音に似てる」
「そうだね。だから、チャン」
そう言ってイジュンは手に持った缶を俺の缶に当ててくる。それだけのことなのに、なんだかイジュンとの距離が少し縮まったような気がした。
ぽそりとイジュンが言った言葉が聞こえてくる。俺もイジュンと一緒にいたかった。今離れてしまったら、イジュンと俺の気持ちが重なったことが夢になってしまいそうで。
「俺の部屋来る? 30分くらいかかるけど」
「行っていい? 帰れって言われても今夜は帰らないけど、それでもいい?」
「いいよ」
そうしてイジュンを一緒に俺の家に帰ることにする。
電車の中でもイジュンは無駄に喋らなかった。もちろん、俺も。2人の間に沈黙が流れたけれど、それは嫌な感じではなかった。というより、イジュンと一緒に自分の家へ帰るということがなんだか気恥ずかしい。それでも、誘ったのは俺だし、来られることが嫌なわけではない。
最寄り駅に着くと、改札を出てすぐのコンビニの明かりが目に入る。
「なにか買って行く? 飲み物とかつまむものとか。今、なにもないから」
「じゃあ寄っていこう」
店内に入るとイジュンはまっすぐに冷蔵庫の前へと行き、俺に訊いてくる。
「ビールはアサヒがいい? キリンがいい?」
「どっちでもいいよ」
「良くないよ」
まるで、とても大切なことだと言わんばかりの表情をしている。その表情を見て俺は笑ってしまう。見てみると、結局どちらも手にしている。それを俺が持って来たかごに入れて、スナック菓子の棚を見る。ポッキー、チョコレート、ポテトチップス、そしてアイスまでかごに入れる。
「夜に食べるの悪い?」
そう言って子供みたいに笑うイジュンに、俺もつられて笑ってしまう。
「お腹すいた?」
「だって、一世一代の告白したんだよ? 神経使ったからお腹空いた」
「なんだよ、それ」
「とにかくお腹空いたの。それに日本のコンビニ来るの最後だと思うから。韓国に帰ったら来れないんだから」
「わかったよ」
そう言えば、初めてコンビニに行ったとき、イジュンは目をキラキラさせていたなと思い出す。俺にとっては当たり前のコンビニの品揃えでも、韓国に暮らすイジュンには当たり前じゃないんだ。
「後悔のないようにな」
「うん!」
そうして買い物袋を2人でぶら下げて俺の家まで行く。駅からは徒歩10分ほど。その道のりを2人でゆっくりと歩く。昼間なら人通りも多いけれど、夜遅い時間の今ではすれ違う人さえいない。ほんとに世の中、俺とイジュンしかいないみたいだと思う。
アパートの階段を上がり、部屋のドアを開ける。真っ暗な6畳の明かりをつけると、俺が朝出て言ったときのまま、マグカップが流しにひとつ置いてある。今朝はちょっと寝坊したから洗い物は帰ってきてからしようと思って置きっぱなしにしていたのだ。
玄関をあがり、アイスを冷凍庫に入れ、ビールとお菓子はローテーブルに置く。そして、ローテーブルの前、ベッドに寄っかかるようにして座ると、イジュンが隣に腰を下ろした。肩と肩が自然に寄る。少しでも動けば触れてしまう距離。その距離に鼓動が早くなる。
「落ち着くね」
「狭いだけだよ」
「ううん。なんか温かい」
俺はそれになんて返したらいいのかわからずに、ビールに手を伸ばした。
「キリン飲むけどいい? 韓国ではアサヒが人気なんでしょう?」
「よく知ってるね」
「ネットニュースに出てた」
「じゃあアサヒ貰うね」
そしてプルタブを引き、カツンと缶を合わせ、乾杯をする。
「コンベ!」
「よく覚えてたね」
「これくらいはね」
「でもね、友人とか身近な人とくだけた席のときでは、チャンって言ったりするんだよ」
「チャンってグラスがぶつかったときの音に似てる」
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そう言ってイジュンは手に持った缶を俺の缶に当ててくる。それだけのことなのに、なんだかイジュンとの距離が少し縮まったような気がした。
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