春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

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すれ違いの再会6

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 東大門市場では、俺は飲食店を中心に見たいと言い、服飾系が多く売られているビルはチラッとしか見なかった。就職するならスーツとか靴とか見るけれど、俺としてはイジュンと韓国でお店を出すことを考えているから買わなくてもいいかなと思った。それ以外は特に欲しいと思うものがないので市場の屋台やその周りにある飲食店を見て回った。すると、イジュンが言うようにチキン屋がたくさんあった。正直、ここもチキン屋かと思ったくらい。イジュンに訊くと韓国ではコンビニよりもチキン屋の方が件数が多いという。フランチャイズ、個人経営。それは様々だけど、チキン屋であることに変わりはない。こんなにチキン屋が多いのなら、確かに「ここにしかない一品」を作るのは難しいと思う。反して、クレープ屋は見かけない。屋台で見かけないのならカフェにはないだろうかと思って数件入ってみたけれど、扱ってはいない。確かにカフェでクレープって日本で少ないもんな。普通にクレープ屋になってしまう。この韓屋ハノッカフェは建物から想像できるように韓国伝統菓子とお茶がメインだ。

「ほんとにチキン屋だらけだな」
「でしょう? だから打って出ても厳しいかなって」
「確かに、『ここにしかない一品』を出すのは並大抵じゃないと思った。クレープ屋はなかったけど、若者が集まる街ではどうなの? 学生街とか。あとは女性が多いところ」
「若者が多い街は、江南かんなむ明洞みょんどん弘大ほんで新村しんちょん梨大いでかな。明洞は若者の他に観光客も多い。でも、クレープ屋はない。弘大、新村、梨大は学生街で、梨大は女子大があるから女性の多い街かな。弘大、新村、梨大は全部隣あってるから、この一角は若者ばかりって言ってもおかしくない。それでも、俺の知ってる限りはクレープ屋はない。他の大学のあるところはわからないけど。江南はお金持ちエリアではあるけど、カロスキルとか若者が多いエリアもあるけど、クレープ屋は見たことないな」
「梨大っていうところは女子大があるのにないの?」
「ない。カフェは普通にあるんだけどね。お洒落なお店も多いし。だけどないんだ。それは江南も一緒」
「イジュンを信じてないわけじゃないけど、お前が軍隊にいる間に出来てることもあるかもしれないから、明日にでも行ってみないか」
「明日は観光して、夜にでも明洞に行こう。観光スポット周辺も見た方がいいでしょ。弘大とかはうちの親に会ってからでもいい? 明日海と一緒にやるって言ったら会いたいって。恋人とは言えてないけど……」
「わかった。会うよ。今は言わなくていいと思う。同性愛者が市民権ないなら余計に。そこは慎重になった方がいいよ」
「うん。ありがとう」

 韓屋カフェで伝統茶を飲みながらそんな話しをした。日本でも、そんなにクレープ屋が多いわけではないけれど、原宿とか若者が多い街を中心に点々とお店はある。でも、やたらに多いチキン屋と見かけないクレープ屋では両極端だなと思った。でも、そんなにないとなるとクレープ屋を出したって、人が集まるかはわからない。クレープという知名度が低いとそうなる。

「ちなみにさ。新村って俺が出た大学があるんだ」
「そうなのか。大きな大学なんだろ?」
「うん、大きい」
「ちょっと見てみたい。楽しみだな」

 そんな話しをしたあとは、東大門市場の隣にあるという広蔵市場へと移動する。ここは俺が思い描いていた市場に近かった。道が広くて、中央に食べ物屋の屋台が軒を連ねている。

「ここに来たら麻薬キンパを食べなきゃね」
「なんだか怖い名前だな」
「安心して。本物の麻薬は入ってないから。麻薬みたいに癖になるっていう意味だから」
「そんなに美味しいんだ?」
「キンパなんて韓国ではあちこちで食べられるけど、確かに麻薬キンパは半端なく美味しい」
「じゃあ今日、麻薬キンパを食べて、明日以降普通のキンパを食べてみる」
「そうしてみて。普通のキンパを食べる気なくなるよ」

 そう言って麻薬キンパを買ってくれたので、その場で食べると確かに美味しかった。他の普通のキンパををまだ食べてないけれど、確かに癖になるっていうのは納得できた。俺がそう感想を伝えると、持ち帰り用も買ってくれた。
 麻薬キンパを食べたあとは、野菜ビビンバ、カルグクス(手打ち麺)をシェアして食べた。ビビンバはコチュジャンが使われているけど、そんなに辛いという訳ではないし、カルグクスはうどんみたいでコチュジャンが使われているわけじゃないから、辛いのが苦手な人には嬉しい味だなと思った。
 半日、東大門市場、広蔵市場と2つの市場を回ったけど、確かに市場ごとに特色があって面白かった。でも、食べ物は広蔵市場の方が屋台が多いし、外国人がほとんどいなくて面白かった。明日まわる弘大、新村、梨大はどんな街なんだろうと思うとなんだかワクワクしてきた。でも、やっぱりイジュンといるのは楽しいし楽だなと思う。この先もイジュンといられたら、それはいいかもしれない、そう思った。

 
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