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恋華酔月「声劇台本」
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世界観の設定
梛の国
独特の慣習や文化が根付く極東の島国。貴族社会で、政治の中心は神の声を聞く巫・帝が執り行う。
四季がはっきりしていて、温暖な気候。
他の国との交易を広げるため、海を隔てた隣国・彩の国へ遣使を送っている。
彩の国
神の末裔である皇帝が国を治める巨大な帝国。砂漠の交易路「絹の道」の最東端の国。人も物も溢れ豊かで識字率も高い。学び舎では貴族の子も庶民の子も分け隔てなく学問を学び、科挙を受けることが出来る。
長い歴史を有する国で、彩の国の政治制度や文化、学問などを学びに他国から渡来してくる貴族や僧侶などを積極的に受け入れている。
エセン
絹の道の最西端・ロマーナの手前にある国。
多種多様な民族が集まり、独自の文化を形成する国。
元はロマーナの植民地だったが、エセンの中で一番人口の多い民族が先頭に立ち、他の民族をまとめあげ、新たな王となったことで独立。
政治は王を中心とした民族のトップが執り行う。
絹の道の途中にあるので、東西の影響を絶えず受け独自に発展している。貧富の差が激しく、治安が悪い。
+++
登場人物
多 幸成(おおの ゆきなり)
梛の国から彩の国の舞を学びに渡来した貴族。
雅楽のことになると猪突猛進ぎみ。
能天気でマイペース。ここぞという時は頭が切れる。
どんな楽器も弾きこなし、一度聞いた音楽は完璧に再現できる。
次代の最高の舞手「斎陵王」になると周囲から期待されている。
橘 基水(たちばなの もとみ)
梛の国から彩の国の科挙を受けるために渡来した貴族。
お人よしで面倒見がいい。幸成の友人。
彩の国の技術や文化を持ち帰り、星読博士になることを夢見ている。
幸成同様、楽器が得意で笛を常に持ち歩いている。
橘家の次男であるが、才色兼備で父親からの信頼も厚い。
花 黎深(ふぁ れいしん)
彩の国で雅楽、舞楽においての最高権力、花家の嫡男。
物静かで無駄を嫌う。初めて聴く音楽でも即興で舞を舞える。
皇家から「斎王」という称号を与えられるほどの舞手。
しかし、今は日夜酒に溺れている様子。
花 永月(ふぁ えいげつ)
彩の国で雅楽、舞楽においての最高権力、花家の長女。
人見知りで臆病な性格。黎深の妹。
花家で「恋華酔月」を弾きこなせる奏者。
日夜酒に溺れる兄を更生したいと思っている。
べステ(メロディックな、という意味)
西の国、エセンから絹の道を通り、彩の国へ来た踊り子。
明るく前向きな性格。旅芸人・シルフィードの一員。
楽しいことが大好きで、陽気な音楽も大好き。
彩の国の舞や音楽を取り入れ、新しい音楽を作れないか模索している。
ジェミル(親切な心、という意味)
西の国、エセンから絹の道を通り、彩の国へ来た奏者。
べステのお守りを担う苦労人。旅芸人・シルフィードの一員。
礼儀正しく皮肉を述べる常識人。どんな楽器も弾きこなすことができる。
べステ同様、陽気な音楽が好き。
世界中でシルフィードの名を轟かせたいと思っている。
+++
黎深「月の美しい夜に出会った貴方。
貴方はわたしに消えない毒を与えてくれた。
何と甘美な毒だろう。酒のようにわたしを酔わせ、狂わせて仕方がない。
ああ、美しき月夜見(つくよみ)の君。
貴方を想うこの時は何と心地よいのだろうか」
永月「恋に溺れた哀れな男は、美しい月夜の元、恋しい人を想いながら舞ったという。
見るもの全てを魅了する、蠱惑的(こわくてき)で繊細な、ただ一人を想う舞。
後にこの舞は「恋華酔月(れんかすいげつ)」と呼ばれるようになったとか」
+++
彩の国、首都・麗扇(れいせん)
建物や人々を見て興奮気味な幸成とそれを見守る基水。
幸成「ここが、彩の国の首都・麗扇か。建物や人々の装い、空気感など。梛(なぎ)の国とは違った美しさがあるな。これを見られただけでも海を超えた甲斐があったというものだ」
基水「幸成。私たちは遊びに来たわけではないんだよ?わかっているのかい?」
幸成「わかっているさ。私はこの国の雅楽や舞を学ぶため。基水(もとみ)はこの国の科挙を受けるため、彩の国へ来た」
基水「…それならばいいのだけど。私は世話になる寺に向かうけど、君はどうするんだい?」
幸成「私はこのまま花家(ふぁけ)に向かおうと思う」
基水「花家?聞いた事のない名前だな。彩の国の貴族なのかい?」
幸成「ああ。なんでも雅楽、舞において右に出るものは無しと言わしめるほどの名門なのだそうだ。代々皇帝に舞を奉納してきた一族らしい」
基水「なるほど。その家に舞を習いに行くのだね。多家(おおのけ)の嫡男、次代の「斎陵王(さいりょうおう)」になる期待の舞手が、わざわざ習いに行くということは、相当な家柄なのだろうね」
幸成「聞いた話では、花家には代々受け継がれている「恋華酔月(れんかすいげつ)」という舞があるそうだ。口伝でのみ受け継がれている舞で、皇帝の即位記念の祭りに奉納されるらしい。習えるのなら覚えて帰りたいものだ」
基水「ん?習えるのなら?…門外不出の舞ということか」
幸成「恐らくな。習えずとも、この目で見てみたいものだ」
基水「…幸成、私も花家に一緒に行ってもいいかい?ぜひともその口伝で継がれてきたという舞を見てみたい」
幸成「もちろんだとも!まずは世話になる寺に行ってからだな」
+++
麗扇の城下町・央扇(おうせん)
花家の正門前
基水「ここが花家の屋敷か。塀(へい)で全貌は分からないが、広い屋敷だな」
幸成「花家は皇族からの評判もよく、武官を多く輩出する家柄でもあるらしい。先程寺の僧侶から話を聞いた」
基水「で、花家の誰に舞を習うんだい?」
幸成「花家の嫡男、花 黎深(ふぁ れいしん)殿だ。彼は皇帝から「斎王(さいおう)」という称号を与えられる程の舞手なんだそうだ」
基水「「斎王」?梛の国では帝の異名じゃないか。この国ではどういう意味なんだい?」
幸成「神の末裔である皇帝に仕え、舞によって星の流れを読む、最高峰の舞手のことだそうだ」
基水「梛の国では、政治の中心である帝は神々に仕える巫でもある。所変われば名前の持つ意味も地位も違うものとなる。不思議だね」
幸成「だな。よぅし、では早速…(門扉を叩き)たのもー!」
基水「ゆ、幸成!失礼だよ!そんな道場破りみたいな…!」
幸成「では、他になんて呼びかければいい?」
基水「それは……うーん…」
花家の正門が開き、永月が出てくる。
永月「……どなたでしょう?(警戒心を込めた声で)」
基水「…出てもらえたね」
幸成「間違ってなかったろう?(永月に向き直り)…お初にお目にかかります。私は梛の国より参りました。多 幸成と申します。花 黎深殿はご在宅でしょうか?」
永月「…梛の国から?兄にどのような用でしょうか?」
幸成「黎深殿に舞の教授を受けたく参じました。目通りを願いたい」
永月「申し訳ありませんが、お引き取りください」
幸成「え?」
永月「今、兄は舞えません。兄以外の者も祭りの準備で出払っております。舞を教えることができる者はおりません。お引き取りを」
幸成「ま、待ってください!舞えないとはどういうことですか?何かご病気を患われたのですか?」
永月「教えることなどありません。お引き取りください」
幸成「でしたら、せめて花家に伝わる舞「恋華酔月」を見せてもらうことはできないでしょうか?」
永月「……「恋華酔月」?」
幸成「口伝でのみ伝わる、皇帝に奉納される舞だと聞きました。見せてもらうことは可能でしょうか?」
永月「……「恋華酔月」を舞えるのは、兄の黎深のみ。しかし、兄は舞えません。見せることも教えることもできません。お引き取りください」
幸成「あ、ちょっと!」
永月、正門を固く閉ざす
基水「とりつく島もなかったね」
幸成「うーん……これは想定外だった。行けば教えてもらえると思ったのだが…」
基水「行き当たりばったりだったからね。しょうがないよ」
幸成「はぁ……悲しいことだ」
基水「ひとまず、寺に戻ろうか。いつまでもここにいるわけにいかないからね」
幸成「そうだな……。そうしよう」
+++
麗扇の城下町・央扇
城下町を歩く二人。
幸成「はぁ……」
基水「幸成、ため息ばかりついていると幸せが逃げてしまうよ」
幸成「そうは言ってもな……。彩の国へ来た大きな目的が叶わなかったんだぞ?落ち込みもする…」
基水「今日はたまたま人がいなかったという話だし、日を改めてまた訪ねたらどうだろう?黎深殿が難しければ他の方に習うのもありだろう?」
幸成「ううむ…確かにそうなのだが…できれば「斎王」とよばれた黎深殿の舞を見てみたかった……」
基水「諦めるしかないと思うよ」
幸成「はぁ……やはりそうか……ん?」
基水「どうかしたのかい?」
幸成「基水、何か聞こえないか?」
基水「聞こえるって……何が?」
幸成「雅楽……いや違うな。もっと明るく陽気な音楽だ。向こうから聞こえてくる!」
音楽のする方へ走り出す幸成
基水「幸成!?どこに行くんだい!」
追いかける基水
+++
幸成「なんだ?人があんなに集まっている」
基水「幸成、早いよ……(呼吸を整えながら)なんだろうね?楽団でもいるのかな?」
幸成「だが、彩の国の音楽ではないな。もっと軽やかで音が弾(はず)んでいる。見てみるか」
人垣に近づく二人。
べステ「さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!西の国・エセンよりやってきた旅芸人のシルフィード!彩の国での特別公演よ!みんな楽しんでいってね!次にご覧いただくのは、エセンの伝統的なダンス!見逃さないようにしてね!」
軽快な音楽に合わせて踊るべステ
幸成「これは……!」
基水「初めてみる舞だ。あの踊っている娘は白拍子(しらびょうし)かな?」
幸成「だが、白拍子の衣装よりも薄手だな。体の線が見えているし、白拍子の衣装よりも艶がある」
基水「ち、ちょっと!なんてこと言ってるの幸成!」
幸成「しっ!静かに!音楽が聞こえない。この音楽も雅楽と違う不思議な拍子だな。自然と体が動いてしまうような、そんな感じがする」
基水「それには同意するね。一緒に拍子を取りたくなってしまうよ」
踊りと音楽が止み、ベステが観客に語りかける
べステ「テシュキュレル(トルコ語でありがとう)!見てくれてありがとう!明日もまた来てねー!」
歓声と拍手が湧き起こる。
+++
公演が終わったべステがジェミルに話しかける
べステ「今回の公演も大成功!彩の国でもシルフィードは世界一!ね、ジェミル!」
ジェミル「あまり浮かれすぎるのもよくないぞ、べステ。彩の国での公演はまだ二回だ。もっと認知度を上げて、貴族の屋敷に呼ばれるようにならなければ、世界一など遠い夢だ。」
べステ「もう!ジェミルは真面目すぎるのよ!アタシが世界一って思ったんだからそれでいいじゃない」
ジェミル「それは君の主観的な意見であり、客観的視点からすれば我々の活動は、まだまだ世界一を名乗るのは程遠い。もっと精進していかなければいけない」
べステ「はいはい。その話、もう聞き飽きたんですけど~」
ジェミル「それに、俺たちの目的は公演することだけじゃない。彩の国の音楽やダンスをエセンに持ち帰り、新しいダンスを作り出すことだ。新しいものを作って初めてシルフィードは彩の国、いや絹の道の最西端・ロマーナでも認められるはずだ」
べステ「わかってるよ。ひとまず、今日の公演は無事に終わったし、あとは自由行動だよね?」
ジェミル「団長からもそう聞いている。夜までに宿に戻ればいいはすだ」
べステ「やりぃ!じゃあ、市場に行こうよ!さっき美味しそうなお饅頭のお店見つけたんだ!」
ジェミル「…はしゃぎすぎて迷子にならないでくれよ?彩の国でも危険はあるんだから」
べステ「あ!あそこにも美味しそうなお饅頭のお店めっけ!」
ジェミル「ベステ?聞いているのか?」
幸成「もし、そこの白拍子殿」
べステ「え?」
幸成「少しお話をよろしいか?」
ジェミル「何か用ですか?」(ベステの前に立ち)
幸成「貴方は…先ほど演奏をしていた奏者殿だな!もしよかったら貴方にもお話を伺いたい」
ジェミル「話?」
幸成「ああ、先ほど演奏していた音楽は一体なんだ?まるで爛漫(らんまん)に咲き乱れる夏の花のようだった!白拍子殿の舞も実に見事で、風花(かざはな)が舞っているのかと思った!」
ジェミル「は、はぁ……」(勢いに呆然としている)
ベステ「え、えーっと…」
基水「幸成、落ち着いて。君の勢いに驚いてしまっているよ」
幸成「おっと、これは失礼。初めて聞いた音楽に感動してしまって、つい」
べステ「それって、アタシたちの音楽が気に入ったってこと?」
幸成「もちろんだとも!彩の国でも梛の国でもあのような心踊る音楽は初めてだ。よければ、音楽について深掘りしたいのだよ」
べステ「わぁ!喜んでもらえたなら嬉しいわ!あの音楽もダンスもアタシたちの故郷に伝わる伝統的なものよ。シルフィード流にアレンジを加えて、誰でも踊れるようにしているの」
幸成「故郷の伝統的舞踊…!思いがけず他国の舞を見ることができるなんて、嬉しいことだ!白拍子殿!もっとくわしく貴女の故郷の音楽や舞のことを教えてもらえないか?」
ジェミル「話が盛り上がっているところ申し訳ないが…あんたたちは誰だ?見たところ、彩の国の者じゃなさそうだが…」
幸成「そういえば名乗っていなかったな。私は多 幸成。梛の国の武官だ。こちらは橘 基水。私と同じ梛の国の文官だ」
ジェミル「梛の国……ということは、海を渡ってこの国に来たのか?」
幸成「もちろん。それ以外にないだろう?」
べステ「…武官?文官?…って、何?」
ジェミル「国王に仕える貴族の役職のことだ」
べステ「…ってことは、貴方たちは梛の国の貴族なのね!」
基水「そうだけれど…」
べステ「ねぇ!今度アタシたちを貴方たちのお屋敷に招待してよ!最高のダンスや音楽を見せてあげるから!」
ジェミル「ベステ、落ち着け。多分それは無理だぞ」
ベステ「何でよ!その…梛の、国?でもアタシたちの認知度が上がるかもしれないでしょ?」
ジェミル「さっきの話聞いてなかったのか?梛の国は彩の国から船でいく場所にある。屋敷に呼んでもらうには時間がかかりすぎるし、難しい」
ベステ「船?どれくらいかかるの?3時間の船旅なら余裕よ」
基水「白拍子のお嬢さん。我々が彩の国に降り立つまで船で八日はかかりましたよ」
ベステ「……うそでしょ?」
基水「本当です。しかも、彩の国と梛の国の間にある海域は荒れやすく、八日でつけたのは運が良かった方ですよ」
幸成「そうだな。他の航海記録によれば一月かかったということもあったそうだ」
ベステ「…………うそでしょ」
ジェミル「だから、梛の国に行くのはそんな簡単なことじゃない。屋敷に呼んでもらうのはまず無理だ」
基水「我々もすぐ梛の国へ帰る訳ではないからね」
ベステ「そんな………いいアピールになると思ったのに……」
幸成「白拍子殿、そう気を落とさないでくれ。その…あぴーるというのが何かわからないが、機会があったらもう一度貴女の舞を見せてもらえないか?」
ベステ「その、しらびょうし、って何かわからないけど…。いつでも踊ってあげるわ!なんなら今ここでもいいわよ?」
幸成「おお!ぜひにお願いしたい!」
ジェミル「こら。こんな道の往来で踊るやつがあるか。開けた場所でやれ」
ベステ「えー?」
基水「幸成も、調子に乗りすぎだよ」
幸成「む?そうだろうか?」
ジェミル「踊ったり演奏するのは難しいが、宿に戻れば楽譜の一部を見せることはできる」
幸成「本当か!?」
ジェミル「ただし、梛の国の音楽や舞踊を教えてくれればの話だがな」
幸成「もちろん!私は舞手だ。いくらでも教えよう」
ベステ「いいのジェミル?団長にどやされない?」
ジェミル「民族音楽の一部だ。それにシルフィードオリジナルの音楽じゃない」
基水「幸成、そんな安請け合いしていいのかい?」
幸成「異国の音楽や舞を教えてもらえるんだぞ?こんな機会逃してなるものか」
基水「…それで、雅楽はどうするつもりなんだい?」
幸成「基水の笛があるだろう。それにあわせて舞う」
基水「……まぁ、異国の音楽や舞には興味があるし、科挙まで時間がある。付き合うよ」
+++
花家・黎深の部屋
永月「兄(あに)さま。起きてくださいませ」
黎深「んー……」
永月「お水です。飲めますか?」
黎深「頭痛い………」
永月「飲み過ぎですよ。一体どれほど飲まれたのですか?」
黎深「…………覚えていない」
永月「兄さま、もう酒はおやめください。こんな昼間から泥酔して……皇帝から頂いた「斎王」の名に傷が付きます」
黎深「……「斎王」か…。私にはもう名乗る資格はない」
永月「何をおっしゃいますか。兄さまほどの舞手はおりません。兄さま、もう一度舞台に立ってください。そして、「恋華酔月」を舞ってください。皇帝即位記念の祭りはもう間近です。兄さま以上に完璧に舞える者はおりません」
黎深「断る」
永月「兄さま…!」
黎深「私は、もう「恋華酔月」を舞うことはできない」
黎深、部屋を出ていく
永月「兄さま……」
屋敷の外に出る黎深
黎深「舞えるものなら、舞たい。けど……舞ってしまったら……私は…」
+++
城下町・央扇の市場
ベステ「梛の国に伝わる、えーっと、ががく?は彩の国から渡ってきたものが多いのね」
基水「ええ。彩の国の影響を受け、独自に発展を遂げたのが梛の国の雅楽や舞です」
幸成「エセンという国に伝わる音楽は拍子の早いものが多いな。それに舞も!べりーだんす、というものも、あんな複雑に腰を動かすことが出来るのは驚いた」
ジェミル「エセンの国の者はだいたいベリーダンスを覚えさせられます。地域によっては男性も踊ることがあるそうですよ」
幸成「うーむ!話を聞いているだけでも楽しい!やはり、知らないものに触れるのはいいことだな!」
基水「よかったね、幸成」
ジェミル「そういえば、基水殿も幸成殿も科挙を受けるために彩の国へ来たんですか?」
基水「いや、科挙を受けるのは私だけです」
幸成「私は、彩の国独自の舞を習いに渡来したのだ。だがな……」
ベステ「どうかしたの?」
幸成「花家という、代々皇帝に舞を奉納してきた一族に舞を教わりに行ったのだが……」
基水「教えられる人がいないからと、先ほど門前払いをされてしまって」
ジェミル「それは残念だな」
幸成「うむ……青菜に塩とはこのことだ。だが、いいこともあった。ベステ殿とジェミル殿に会って、貴方がたの音楽や舞を知ることができたのだからな」
基水「水を得た魚のようだったね」
ジェミル「いい刺激を与えられたのなら光栄です。……ベステ、どうした?考え込んで」
ベステ「舞を皇帝に奉納してきたってことは、その花家は彩の国でダンスは一流ってことよね?」
ジェミル「…話を聞く限りではそうだな」
ベステ「…ってことは、私たちシルフィードのダンスや音楽を花家で認めて貰えば……」
ジェミル「箔(はく)がつく、ってことか?」
ベステ「そういうこと!シルフィードの公演もやりやすくなるわ!」
ジェミル「……可能性はなきにしもあらず、か。だが、いきなり訪問しては幸成殿のように門前払いをくらう」
幸成「それなら、明日私たちと一緒に花家に行かないか?シルフィードを売り込むための挨拶をするんだ」
ベステ「わぁ!いいの!?あ…でも、幸成さま。門前払いされたって…」
幸成「一度断られたからなんだ。私は教えられるまで。いや、花 黎深殿に目通りが叶うまで何回でも通うぞ!」
ジェミル「……精神がたくましいな」
ベステ「そうだね」
基水「私たち、って……私も行くことになっているんだね……。まぁ、いいけど」
+++
翌日
花家の前
ベステ「こ、ここが花家の屋敷……」
ジェミル「でかいな…」
基水「それだけ皇家と深く繋がりのある家柄だという照明ですね」
幸成「よぅし!今度こそ、黎深殿に目通りを願えますように!」
永月「兄(あに)さま!もうおよし下さい!」
屋敷から永月と黎深が出てくる
黎深「止めるな、永月!この手を離せ!」
永月「いいえ、離しませぬ!祭りも近いこの時期に出家(しゅっけ)するなど、何を考えていらしゃるのですか?!」
黎深「私には舞手の資格はない!いいからどけ!」
永月「退きませぬ!」
離れたところから様子を見守る四人
ジェミル「…なんだあれは?」
ベステ「喧嘩、かな?」
基水「幸成、あの女性は昨日会った…」
幸成「ああ。兄さま、ということは…あの男性が花 黎深殿か。ちょうどいい機会だ。行ってくる!」
基水「行ってくるって……幸成!」
ずんずんと、花兄妹に近づく幸成
幸成「申(もう)し。貴殿が花家の黎深殿でしょうか?」
黎深「……そうだが。貴殿は?」
幸成「お初にお目にかかります。私は、梛の国から参りました。多 幸成と申します。貴方に舞のご教授を願いたく、参(さん)じました」
黎深「…悪いが、私はもう舞えない。帰ってくれないか」
幸成「ふむ…見たところ、足や腕を負傷した訳ではないご様子。では、何か別の原因が?」
黎深「聞こえなかったのか?帰ってくれと言っているんだ」
幸成「目に見えぬ病が原因でしょうか?それで仏に救いを求めて出家を?」
黎深「いいから帰ってくれ!もう話すことなどない!」
基水「幸成、もういいだろう?帰ろう」
幸成「遠路はるばる彩の国まできたんだ。せめて、花家に伝わる舞「恋華酔月」だけでも見て帰らねば」
黎深「「恋華酔月」…!」
幸成「街の者たちが噂しておりましたよ。貴方の舞は天下一品だと。それを拝めず帰るのはもったいない」
黎深「………」
幸成「舞が嫌いになったのですか?それならば舞手の資格がないとおっしゃるのもわかります。しかし、私には貴方が舞を嫌いになったのではないと思うのです。もっと、何か別の理由があって、舞えないのではないかと」
黎深「…「恋華酔月」を見たいなら、妹の永月に頼んでくれ。私には、もう舞う資格はない」
屋敷の中に戻っていく黎深
永月「兄さま……」
幸成「少し言いすぎたかな…」
基水「少しどころじゃなかったと思うよ?」
幸成「永月殿、でしたな。兄君への無礼をお許しください。少し言いすぎました」
永月「いいえ。兄さまの出家を止められただけでもよかった。……兄さまは、いつからか酒に溺れるようになって……舞をしなくなったのです。どうしてなのか聞いても教えてくれなくて……」
基水「そうでしたか……」
永月「「恋華酔月」でしたね。私は、兄さまのような舞手ではなく、奏者なので…舞ではなく「恋華酔月」に使われる音楽を教えることは可能です。それでもよろしければ、一回だけ演奏しますが」
幸成「おお、なんと!それでも構わない!弾いてくれないか?「恋華酔月」を!」
永月「わかりました」
+++
花家からの帰り道
幸成「うーむ…「恋華酔月」を聞くことはできたが…結局舞を見ることはできなかったな……黎深殿も舞えないと断られてしまったし……」
基水「幸成、いい加減諦めなよ。音楽を聴かせてもらっただけでも有り難いと思わなきゃ」
幸成「まぁな………」
ベステ「花家に挨拶に行ったけど、こっちも思ったような反応は返ってこなかったわね」
ジェミル「仕方ないな、次に期待しよう」
+++
その夜
城下町・央扇の寺
幸成「すっかり夜も更けたな。よし……今なら大丈夫だろう」
こっそりと寺を抜け出す幸成
幸成「基水には悪いが、そう簡単に「恋華酔月」を諦めることができん。もう一度花家に向かおう」
央扇の街を歩く幸成
幸成「お、いたな。ジェミル殿。待たせたか?」
ジェミル「いえ。大丈夫です。しかし、幸成殿。本当にやるんですか?」
幸成「もちろん。黎深殿に会って、彼に巣食っている精を追い出す」
ジェミル「……はぁ、余計なことを言わなければよかったか」
幸成「しかし、ジェミル殿から帰り際に黎深殿に精が憑いていると話を聞いた時は耳を疑ったぞ」
ジェミル「俺はどうやらそういうものが「見える」体質らしくて。黙ってるつもりだったんですが、ベステが全部バラしちまって…」
幸成「だが、私にとっては有り難い情報だ。黎深殿が舞えない理由が、彼に取り憑いている精が原因だというのなら、その精をなんとかすればいいのだからな」
ジェミル「精が原因と決まった訳ではないですけど…。基水殿にはなんて言って抜け出してきたんですか?」
幸成「基水ならとっくに眠っているだろう。一度寝たら起きないし、明日の朝までぐっすりだ」
ジェミル「……そうですか。…では、もう一つ。どうやって黎深殿に巣食っている精を追い出すつもりですか?」
幸成「ああ、そのことなら秘策がある」
ジェミル「秘策?」
幸成「剣舞を舞う。我が国や彩の国では、剣(つるぎ)は邪気を払う清めの力を宿していると言われる。私の剣舞でその精を追い出してみる」
ジェミル「……うまくいくんですか、そんなこと」
幸成「やってみなければわからない。まぁ、大船に乗ったつもりで構えてくれ。ジェミル殿は奏者として楽器を弾いて欲しい」
ジェミル「…まぁ、いいでしょう。俺が撒いた種だし。このまま幸成殿を一人行かせるのも心配だし。乗り掛かった船、ということで」
幸成「助かる。……そういえば、ベステ殿はどうしたんだ?」
ジェミル「置いてきました。団長の監視下で大人しく寝ていますよ」
幸成「そうか……大変だな」
+++
夜
城下町・央扇、花家の屋敷
幸成「花家まで来たが…問題はこの塀をどうやって越えるかだな」
ジェミル「幸成殿、運動はできますか?」
幸成「もちろん、私は武官だぞ?」
ジェミル「俺を梯子がわりにして塀を登ってください。俺は一人でも塀を超えられるので」
幸成「そういうことなら、遠慮なく」
幸成とジェミル、屋敷に不法侵入する
幸成「うーむ…皆寝静まっているようだな」
ジェミル「そりゃ、真夜中ですからね。忍び込んだのはいいですけど、黎深殿が寝ていたらどうするんですか?」
幸成「その時は考える」
ジェミル「…………先行きが不安になってきた。お縄になりそうになったら俺一人で逃げますからね」
幸成「ああ、そうしてくれて構わない。自分の面倒は自分で見る」
ジェミル「しかし、妙ですね。見張の者がいない」
幸成「確かに、物音に気づいてすっ飛んでこられると思ったのだが……」
ジェミル「ん?」
幸成「どうした、ジェミル殿?」
ジェミル「砂を蹴る音がします。走っているとか歩いているわけではなさそうな……」
幸成「その音がする方は?」
ジェミル「こちらです」
ジェミルに先導され、花家の広い庭にでる
庭では黎深が寝巻きのまま舞っていた
幸成「あれは……黎深殿?舞っているのか?」
ジェミル「幸成殿、念のためこれを」
幸成「これは単(ひとえ)?」
ジェミル「姿隠しの術を施(ほどこ)した物です。多少は見つかりにくくなります」
幸成「かたじけない」
ジェミル「黎深殿……舞えない、とか舞う資格がない、と言っていた割には、舞っていますね」
幸成「やはり、舞を嫌いになったわけではなさそうだな。あのキリッとした表情、舞を楽しんでいる証拠だ」
黎深「………ぐっ!?うぅぅ!」
黎深、苦しげに膝をつく
幸成「なんだ?どうした?」
ジェミル「幸成殿、静かに」
黎深「うぅぅ……!出て、くるな……!私の、体を………!奪おうと、するなぁ……!!」
幸成「体を、奪う?」
ジェミル「……黎深殿に憑いている精が出てきたんだ」
『』←精のセリフ
精のセリフは黎深の役の人が読む
黎深?「『往生際の悪い奴め、さっさと私に体をあけ渡せば良いものを……』」
黎深「うるさい…!この体は私のものだ…!」
黎深?「『無駄な足掻きよ。早う体を渡せ。そうすれば、そなたも苦しまずにすむ』」
幸成「なんと…!面妖(めんよう)な……」
ジェミル「黎深殿の体を乗っ取るつもりか」
黎深「私の体を好きにさせない!……ああぁ!ぐぅ……!」
黎深?「『強がるな、黎深。眠れ。深く、深く。目を覚すことがないように』」
黎深「あっ……ううぅ………」
その場に頭を抱えてうずくまる黎深
幸成「いかん。ジェミル殿、楽器の準備を」
ジェミル「わかった」
単を脱ぎ捨て、幸成とジェミルが黎深に駆け寄る
精「…ようやく眠ったか。まったく、手こずらせおって」
幸成「……黎深殿?」
精「そなたは……昼間、しつこく食い下がってきた男子(おのこ)か。私に用か?」
幸成「貴殿は、黎深殿ではない。黎深殿に取り憑く、精だな?」
精「ふん…。取り憑くとは随分な言い方だ。私は、黎深の体を有効に使ってやろうとしているだけだ」
ジェミル「それは、余計なお世話ってやつだ」
精「もう一人いたか。さて、私が黎深ではないと知って、そなたたちはどうするつもりだ?」
幸成「貴殿を黎深殿から切り離す」
幸成、腰に挿していた太刀を抜き、ジェミルの演奏に合わせて剣舞を舞う
精「剣舞!…っ。やめろ、私の邪魔をする気か!」
ジェミル「効いている!幸成殿、その調子だ!」
幸成「ああ。黎深殿に憑く精よ。器から離れよ。それは貴殿の器ではない」
精「グッ……!ウゥウウウ…!出て行かぬ!私は、私は…!」
ジェミル「精が離れようとしている!もう少しだ!」
幸成「これで仕舞いだ」
精「グッ、ああぁっ!」
精が離れ、黎深の体が倒れる
幸成「黎深殿!」
ジェミル「……脈は正常。呼吸も安定している。問題ないようです」
幸成「よかった…」
精「おのれ、おのれよくも……!」
幸成「精よ、教えてくれ。なぜ貴殿は黎深殿に憑いた?」
精「………私の………私の「恋華酔月」を、こやつらが奪ったからだ!」
幸成「奪った?どういうことだ?」
精「あの舞は、私がたった一人、愛した月夜見(つくよみ)の君に贈ったもの。私の毒、私の華。それを、こやつらが、花家がむざむざと奪いおって……!!許せぬ、許せぬ!!」
ジェミル「花家が舞を奪った?」
幸成「それはどういう……」
黎深「言葉通りの意味だ」
幸成「黎深殿、気がつかれたか。…言葉通りとは、どういうことだ?」
黎深「…その昔、花家は皇帝に仕えるただの武官だった。舞で名が知られるようになったのは「恋華酔月」を先先代の皇帝の即位式に舞って、評価を得られてからだ。その時に「恋華酔月」を舞ったのは私の曽祖父に当たる方だった。「恋華酔月」は、曽祖父が作ったものだと教えられてきた。だが違かった。曽祖父は「恋華酔月」を作った舞手から、舞とその想い人を奪った。舞手を、無実の罪を着せ、都から追放して」
ジェミル「なんだって!?」
黎深「だから「恋華酔月」は口伝でのみ伝わってきた。何一つ、他者から奪ったものだと証拠を残さないために」
幸成「………して、精よ。貴殿は黎深殿に取り憑いて、その命を枯らすつもりだったのか?」
精「……私は……私は………「恋華酔月」を想い人に、愛しき月夜見の君に………捧げたかった。だから、もう一度、あの方に……私の舞を捧げたい………」
幸成「しかし、もう貴殿の想い人は……」
精「生きている………。あの方の、生きた証がいる……」
ジェミル「それって……」
永月「兄さま……?このような夜更けに何を騒いでいるのですか?」
ジェミル「永月殿…」
永月「まぁ……!昼間の、多(おおの)殿と旅芸人の方?どうして、屋敷に?」
精「ああ、月夜見の君……!」
ジェミル「なるほど。永月殿が、生きた証……」
幸成「……精よ、貴殿に私の体を一時貸そう」
ジェミル「幸成殿!?」
黎深「何を言っている…!?」
幸成「思い残したことを……愛しき人に、舞を捧げよ」
精、幸成に憑依する
幸成?のセリフは幸成役の人が読む
幸成?「『月夜見の君……やっと会えた……』」
永月「多殿?」
幸成?「『どうか、私の舞を見てほしい。あなたのためを思った、「恋華酔月」を』」
黎深「………やむを得ない。奏者殿、琵琶を貸してくれ。永月、何も喋らず、静かに舞を見ていなさい。「恋華酔月」を弾く」
永月「はい………」
幸成?「『ようやく……この時を迎えられた……私の毒、私の華。私を酔わせ、狂わせて仕方なかった、美しい方。今、舞おう。この想いが千年先も途絶えぬように』」
黎深の演奏に合わせて「恋華酔月」を舞う幸成
永月「綺麗………兄さまに負けないくらい、ずっと……」
ジェミル「これが……本物の「恋華酔月」……」
幸成?「『ああ……なんと甘美な……なんと幸せか……もう思い残すことはない』」
精、幸成から離れる
ジェミル「幸成殿!大丈夫ですか?」
幸成「ああ……。少々無茶をしすぎたな……。しかし、これが「恋華酔月」か……。まだ、体に残っている。心地よい舞の感覚が」
黎深「幸成、殿。ありがとう。あなたのおかげで助かった」
幸成「いえいえ。私も貴重な体験ができた」
ジェミル「肝が冷えたがな…」
永月「あの………どういうことか、説明していただけませんか?」
+++
永月「まさか「恋華酔月」にそのような秘密があったなんて……。兄さまも、それで苦しい思いをしていたのですね……。気付けず、申し訳ありません……」
黎深「知らなくて当然だ。曽祖父が隠蔽していたことなのだから。私こそ。たくさん心配をかけたな。すまなかった、永月」
永月「……「恋華酔月」はどうするのですか?」
黎深「真実がわかった以上、その真実を話し、花家は金輪際「恋華酔月」を舞うことがないようにする。それが、あの舞手の望むことだろう」
永月「そうですね……」
黎深「幸成殿、奏者殿。重ね重ね、礼をいう。助けてくれてありがとう。おかげで解放された」
幸成「気にしなさんな。私は「恋華酔月」を舞うことができて満足だし」
ジェミル「幸成殿のことはともかく、無事で何よりです」
永月「兄さま、皇帝即位の祭りはどうするのですか?」
黎深「新たに舞を作り、皇帝に奉納する」
永月「しかし、もうあまり時間が……」
黎深「私を誰だと思っている?「斎王」花 黎深だぞ?あと十日もあれば十分だ」
永月「……わかりました。お手伝いいたします、兄さま」
+++
十日後
皇帝即位記念の祭り
基水「そんなことがあったなんて、初耳なんだけど?幸成」
幸成「いやぁ、すまんすまん。うっかり話すのを忘れていた」
ベステ「ジェミルもよ。私に隠れて何楽しそうなことしてるの」
ジェミル「楽しくない。肝が冷えただけだ。第一、隠密行動なんてお前にはできないだろ。声はでかいし、動きがうるさいし」
ベステ「ひどい!そんなこと思ってたの!?私だって、訓練すれば隠密行動くらいできるし!」
ジェミル「そう言っている時点でもうアウトだな」
ベステ「何よ!」
基水「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
幸成「せっかくの皇帝即位記念の祭りだ。祭りに喧嘩は似合わないぞ。ほら、そろそろ黎深殿の舞が始まる」
ベステ「あ、そうだった!静かにしなきゃ」
基水「花家の計らいで私たちは舞がよく見える特等席での観覧を許されましたからね。思う存分堪能しないと」
ジェミル「彩の国随一の舞。どんなものか見させてもらおう」
+++
舞台袖
永月「兄さま、ご準備はよろしいですか?」
黎深「ああ、大丈夫だ。いつでも行ける。お前はどうだ?」
永月「私も準備は整っております」
黎深「では行こう。「恋華酔月」よりも素晴らしい舞を見せてやる」
永月「はい」
「完」
梛の国
独特の慣習や文化が根付く極東の島国。貴族社会で、政治の中心は神の声を聞く巫・帝が執り行う。
四季がはっきりしていて、温暖な気候。
他の国との交易を広げるため、海を隔てた隣国・彩の国へ遣使を送っている。
彩の国
神の末裔である皇帝が国を治める巨大な帝国。砂漠の交易路「絹の道」の最東端の国。人も物も溢れ豊かで識字率も高い。学び舎では貴族の子も庶民の子も分け隔てなく学問を学び、科挙を受けることが出来る。
長い歴史を有する国で、彩の国の政治制度や文化、学問などを学びに他国から渡来してくる貴族や僧侶などを積極的に受け入れている。
エセン
絹の道の最西端・ロマーナの手前にある国。
多種多様な民族が集まり、独自の文化を形成する国。
元はロマーナの植民地だったが、エセンの中で一番人口の多い民族が先頭に立ち、他の民族をまとめあげ、新たな王となったことで独立。
政治は王を中心とした民族のトップが執り行う。
絹の道の途中にあるので、東西の影響を絶えず受け独自に発展している。貧富の差が激しく、治安が悪い。
+++
登場人物
多 幸成(おおの ゆきなり)
梛の国から彩の国の舞を学びに渡来した貴族。
雅楽のことになると猪突猛進ぎみ。
能天気でマイペース。ここぞという時は頭が切れる。
どんな楽器も弾きこなし、一度聞いた音楽は完璧に再現できる。
次代の最高の舞手「斎陵王」になると周囲から期待されている。
橘 基水(たちばなの もとみ)
梛の国から彩の国の科挙を受けるために渡来した貴族。
お人よしで面倒見がいい。幸成の友人。
彩の国の技術や文化を持ち帰り、星読博士になることを夢見ている。
幸成同様、楽器が得意で笛を常に持ち歩いている。
橘家の次男であるが、才色兼備で父親からの信頼も厚い。
花 黎深(ふぁ れいしん)
彩の国で雅楽、舞楽においての最高権力、花家の嫡男。
物静かで無駄を嫌う。初めて聴く音楽でも即興で舞を舞える。
皇家から「斎王」という称号を与えられるほどの舞手。
しかし、今は日夜酒に溺れている様子。
花 永月(ふぁ えいげつ)
彩の国で雅楽、舞楽においての最高権力、花家の長女。
人見知りで臆病な性格。黎深の妹。
花家で「恋華酔月」を弾きこなせる奏者。
日夜酒に溺れる兄を更生したいと思っている。
べステ(メロディックな、という意味)
西の国、エセンから絹の道を通り、彩の国へ来た踊り子。
明るく前向きな性格。旅芸人・シルフィードの一員。
楽しいことが大好きで、陽気な音楽も大好き。
彩の国の舞や音楽を取り入れ、新しい音楽を作れないか模索している。
ジェミル(親切な心、という意味)
西の国、エセンから絹の道を通り、彩の国へ来た奏者。
べステのお守りを担う苦労人。旅芸人・シルフィードの一員。
礼儀正しく皮肉を述べる常識人。どんな楽器も弾きこなすことができる。
べステ同様、陽気な音楽が好き。
世界中でシルフィードの名を轟かせたいと思っている。
+++
黎深「月の美しい夜に出会った貴方。
貴方はわたしに消えない毒を与えてくれた。
何と甘美な毒だろう。酒のようにわたしを酔わせ、狂わせて仕方がない。
ああ、美しき月夜見(つくよみ)の君。
貴方を想うこの時は何と心地よいのだろうか」
永月「恋に溺れた哀れな男は、美しい月夜の元、恋しい人を想いながら舞ったという。
見るもの全てを魅了する、蠱惑的(こわくてき)で繊細な、ただ一人を想う舞。
後にこの舞は「恋華酔月(れんかすいげつ)」と呼ばれるようになったとか」
+++
彩の国、首都・麗扇(れいせん)
建物や人々を見て興奮気味な幸成とそれを見守る基水。
幸成「ここが、彩の国の首都・麗扇か。建物や人々の装い、空気感など。梛(なぎ)の国とは違った美しさがあるな。これを見られただけでも海を超えた甲斐があったというものだ」
基水「幸成。私たちは遊びに来たわけではないんだよ?わかっているのかい?」
幸成「わかっているさ。私はこの国の雅楽や舞を学ぶため。基水(もとみ)はこの国の科挙を受けるため、彩の国へ来た」
基水「…それならばいいのだけど。私は世話になる寺に向かうけど、君はどうするんだい?」
幸成「私はこのまま花家(ふぁけ)に向かおうと思う」
基水「花家?聞いた事のない名前だな。彩の国の貴族なのかい?」
幸成「ああ。なんでも雅楽、舞において右に出るものは無しと言わしめるほどの名門なのだそうだ。代々皇帝に舞を奉納してきた一族らしい」
基水「なるほど。その家に舞を習いに行くのだね。多家(おおのけ)の嫡男、次代の「斎陵王(さいりょうおう)」になる期待の舞手が、わざわざ習いに行くということは、相当な家柄なのだろうね」
幸成「聞いた話では、花家には代々受け継がれている「恋華酔月(れんかすいげつ)」という舞があるそうだ。口伝でのみ受け継がれている舞で、皇帝の即位記念の祭りに奉納されるらしい。習えるのなら覚えて帰りたいものだ」
基水「ん?習えるのなら?…門外不出の舞ということか」
幸成「恐らくな。習えずとも、この目で見てみたいものだ」
基水「…幸成、私も花家に一緒に行ってもいいかい?ぜひともその口伝で継がれてきたという舞を見てみたい」
幸成「もちろんだとも!まずは世話になる寺に行ってからだな」
+++
麗扇の城下町・央扇(おうせん)
花家の正門前
基水「ここが花家の屋敷か。塀(へい)で全貌は分からないが、広い屋敷だな」
幸成「花家は皇族からの評判もよく、武官を多く輩出する家柄でもあるらしい。先程寺の僧侶から話を聞いた」
基水「で、花家の誰に舞を習うんだい?」
幸成「花家の嫡男、花 黎深(ふぁ れいしん)殿だ。彼は皇帝から「斎王(さいおう)」という称号を与えられる程の舞手なんだそうだ」
基水「「斎王」?梛の国では帝の異名じゃないか。この国ではどういう意味なんだい?」
幸成「神の末裔である皇帝に仕え、舞によって星の流れを読む、最高峰の舞手のことだそうだ」
基水「梛の国では、政治の中心である帝は神々に仕える巫でもある。所変われば名前の持つ意味も地位も違うものとなる。不思議だね」
幸成「だな。よぅし、では早速…(門扉を叩き)たのもー!」
基水「ゆ、幸成!失礼だよ!そんな道場破りみたいな…!」
幸成「では、他になんて呼びかければいい?」
基水「それは……うーん…」
花家の正門が開き、永月が出てくる。
永月「……どなたでしょう?(警戒心を込めた声で)」
基水「…出てもらえたね」
幸成「間違ってなかったろう?(永月に向き直り)…お初にお目にかかります。私は梛の国より参りました。多 幸成と申します。花 黎深殿はご在宅でしょうか?」
永月「…梛の国から?兄にどのような用でしょうか?」
幸成「黎深殿に舞の教授を受けたく参じました。目通りを願いたい」
永月「申し訳ありませんが、お引き取りください」
幸成「え?」
永月「今、兄は舞えません。兄以外の者も祭りの準備で出払っております。舞を教えることができる者はおりません。お引き取りを」
幸成「ま、待ってください!舞えないとはどういうことですか?何かご病気を患われたのですか?」
永月「教えることなどありません。お引き取りください」
幸成「でしたら、せめて花家に伝わる舞「恋華酔月」を見せてもらうことはできないでしょうか?」
永月「……「恋華酔月」?」
幸成「口伝でのみ伝わる、皇帝に奉納される舞だと聞きました。見せてもらうことは可能でしょうか?」
永月「……「恋華酔月」を舞えるのは、兄の黎深のみ。しかし、兄は舞えません。見せることも教えることもできません。お引き取りください」
幸成「あ、ちょっと!」
永月、正門を固く閉ざす
基水「とりつく島もなかったね」
幸成「うーん……これは想定外だった。行けば教えてもらえると思ったのだが…」
基水「行き当たりばったりだったからね。しょうがないよ」
幸成「はぁ……悲しいことだ」
基水「ひとまず、寺に戻ろうか。いつまでもここにいるわけにいかないからね」
幸成「そうだな……。そうしよう」
+++
麗扇の城下町・央扇
城下町を歩く二人。
幸成「はぁ……」
基水「幸成、ため息ばかりついていると幸せが逃げてしまうよ」
幸成「そうは言ってもな……。彩の国へ来た大きな目的が叶わなかったんだぞ?落ち込みもする…」
基水「今日はたまたま人がいなかったという話だし、日を改めてまた訪ねたらどうだろう?黎深殿が難しければ他の方に習うのもありだろう?」
幸成「ううむ…確かにそうなのだが…できれば「斎王」とよばれた黎深殿の舞を見てみたかった……」
基水「諦めるしかないと思うよ」
幸成「はぁ……やはりそうか……ん?」
基水「どうかしたのかい?」
幸成「基水、何か聞こえないか?」
基水「聞こえるって……何が?」
幸成「雅楽……いや違うな。もっと明るく陽気な音楽だ。向こうから聞こえてくる!」
音楽のする方へ走り出す幸成
基水「幸成!?どこに行くんだい!」
追いかける基水
+++
幸成「なんだ?人があんなに集まっている」
基水「幸成、早いよ……(呼吸を整えながら)なんだろうね?楽団でもいるのかな?」
幸成「だが、彩の国の音楽ではないな。もっと軽やかで音が弾(はず)んでいる。見てみるか」
人垣に近づく二人。
べステ「さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!西の国・エセンよりやってきた旅芸人のシルフィード!彩の国での特別公演よ!みんな楽しんでいってね!次にご覧いただくのは、エセンの伝統的なダンス!見逃さないようにしてね!」
軽快な音楽に合わせて踊るべステ
幸成「これは……!」
基水「初めてみる舞だ。あの踊っている娘は白拍子(しらびょうし)かな?」
幸成「だが、白拍子の衣装よりも薄手だな。体の線が見えているし、白拍子の衣装よりも艶がある」
基水「ち、ちょっと!なんてこと言ってるの幸成!」
幸成「しっ!静かに!音楽が聞こえない。この音楽も雅楽と違う不思議な拍子だな。自然と体が動いてしまうような、そんな感じがする」
基水「それには同意するね。一緒に拍子を取りたくなってしまうよ」
踊りと音楽が止み、ベステが観客に語りかける
べステ「テシュキュレル(トルコ語でありがとう)!見てくれてありがとう!明日もまた来てねー!」
歓声と拍手が湧き起こる。
+++
公演が終わったべステがジェミルに話しかける
べステ「今回の公演も大成功!彩の国でもシルフィードは世界一!ね、ジェミル!」
ジェミル「あまり浮かれすぎるのもよくないぞ、べステ。彩の国での公演はまだ二回だ。もっと認知度を上げて、貴族の屋敷に呼ばれるようにならなければ、世界一など遠い夢だ。」
べステ「もう!ジェミルは真面目すぎるのよ!アタシが世界一って思ったんだからそれでいいじゃない」
ジェミル「それは君の主観的な意見であり、客観的視点からすれば我々の活動は、まだまだ世界一を名乗るのは程遠い。もっと精進していかなければいけない」
べステ「はいはい。その話、もう聞き飽きたんですけど~」
ジェミル「それに、俺たちの目的は公演することだけじゃない。彩の国の音楽やダンスをエセンに持ち帰り、新しいダンスを作り出すことだ。新しいものを作って初めてシルフィードは彩の国、いや絹の道の最西端・ロマーナでも認められるはずだ」
べステ「わかってるよ。ひとまず、今日の公演は無事に終わったし、あとは自由行動だよね?」
ジェミル「団長からもそう聞いている。夜までに宿に戻ればいいはすだ」
べステ「やりぃ!じゃあ、市場に行こうよ!さっき美味しそうなお饅頭のお店見つけたんだ!」
ジェミル「…はしゃぎすぎて迷子にならないでくれよ?彩の国でも危険はあるんだから」
べステ「あ!あそこにも美味しそうなお饅頭のお店めっけ!」
ジェミル「ベステ?聞いているのか?」
幸成「もし、そこの白拍子殿」
べステ「え?」
幸成「少しお話をよろしいか?」
ジェミル「何か用ですか?」(ベステの前に立ち)
幸成「貴方は…先ほど演奏をしていた奏者殿だな!もしよかったら貴方にもお話を伺いたい」
ジェミル「話?」
幸成「ああ、先ほど演奏していた音楽は一体なんだ?まるで爛漫(らんまん)に咲き乱れる夏の花のようだった!白拍子殿の舞も実に見事で、風花(かざはな)が舞っているのかと思った!」
ジェミル「は、はぁ……」(勢いに呆然としている)
ベステ「え、えーっと…」
基水「幸成、落ち着いて。君の勢いに驚いてしまっているよ」
幸成「おっと、これは失礼。初めて聞いた音楽に感動してしまって、つい」
べステ「それって、アタシたちの音楽が気に入ったってこと?」
幸成「もちろんだとも!彩の国でも梛の国でもあのような心踊る音楽は初めてだ。よければ、音楽について深掘りしたいのだよ」
べステ「わぁ!喜んでもらえたなら嬉しいわ!あの音楽もダンスもアタシたちの故郷に伝わる伝統的なものよ。シルフィード流にアレンジを加えて、誰でも踊れるようにしているの」
幸成「故郷の伝統的舞踊…!思いがけず他国の舞を見ることができるなんて、嬉しいことだ!白拍子殿!もっとくわしく貴女の故郷の音楽や舞のことを教えてもらえないか?」
ジェミル「話が盛り上がっているところ申し訳ないが…あんたたちは誰だ?見たところ、彩の国の者じゃなさそうだが…」
幸成「そういえば名乗っていなかったな。私は多 幸成。梛の国の武官だ。こちらは橘 基水。私と同じ梛の国の文官だ」
ジェミル「梛の国……ということは、海を渡ってこの国に来たのか?」
幸成「もちろん。それ以外にないだろう?」
べステ「…武官?文官?…って、何?」
ジェミル「国王に仕える貴族の役職のことだ」
べステ「…ってことは、貴方たちは梛の国の貴族なのね!」
基水「そうだけれど…」
べステ「ねぇ!今度アタシたちを貴方たちのお屋敷に招待してよ!最高のダンスや音楽を見せてあげるから!」
ジェミル「ベステ、落ち着け。多分それは無理だぞ」
ベステ「何でよ!その…梛の、国?でもアタシたちの認知度が上がるかもしれないでしょ?」
ジェミル「さっきの話聞いてなかったのか?梛の国は彩の国から船でいく場所にある。屋敷に呼んでもらうには時間がかかりすぎるし、難しい」
ベステ「船?どれくらいかかるの?3時間の船旅なら余裕よ」
基水「白拍子のお嬢さん。我々が彩の国に降り立つまで船で八日はかかりましたよ」
ベステ「……うそでしょ?」
基水「本当です。しかも、彩の国と梛の国の間にある海域は荒れやすく、八日でつけたのは運が良かった方ですよ」
幸成「そうだな。他の航海記録によれば一月かかったということもあったそうだ」
ベステ「…………うそでしょ」
ジェミル「だから、梛の国に行くのはそんな簡単なことじゃない。屋敷に呼んでもらうのはまず無理だ」
基水「我々もすぐ梛の国へ帰る訳ではないからね」
ベステ「そんな………いいアピールになると思ったのに……」
幸成「白拍子殿、そう気を落とさないでくれ。その…あぴーるというのが何かわからないが、機会があったらもう一度貴女の舞を見せてもらえないか?」
ベステ「その、しらびょうし、って何かわからないけど…。いつでも踊ってあげるわ!なんなら今ここでもいいわよ?」
幸成「おお!ぜひにお願いしたい!」
ジェミル「こら。こんな道の往来で踊るやつがあるか。開けた場所でやれ」
ベステ「えー?」
基水「幸成も、調子に乗りすぎだよ」
幸成「む?そうだろうか?」
ジェミル「踊ったり演奏するのは難しいが、宿に戻れば楽譜の一部を見せることはできる」
幸成「本当か!?」
ジェミル「ただし、梛の国の音楽や舞踊を教えてくれればの話だがな」
幸成「もちろん!私は舞手だ。いくらでも教えよう」
ベステ「いいのジェミル?団長にどやされない?」
ジェミル「民族音楽の一部だ。それにシルフィードオリジナルの音楽じゃない」
基水「幸成、そんな安請け合いしていいのかい?」
幸成「異国の音楽や舞を教えてもらえるんだぞ?こんな機会逃してなるものか」
基水「…それで、雅楽はどうするつもりなんだい?」
幸成「基水の笛があるだろう。それにあわせて舞う」
基水「……まぁ、異国の音楽や舞には興味があるし、科挙まで時間がある。付き合うよ」
+++
花家・黎深の部屋
永月「兄(あに)さま。起きてくださいませ」
黎深「んー……」
永月「お水です。飲めますか?」
黎深「頭痛い………」
永月「飲み過ぎですよ。一体どれほど飲まれたのですか?」
黎深「…………覚えていない」
永月「兄さま、もう酒はおやめください。こんな昼間から泥酔して……皇帝から頂いた「斎王」の名に傷が付きます」
黎深「……「斎王」か…。私にはもう名乗る資格はない」
永月「何をおっしゃいますか。兄さまほどの舞手はおりません。兄さま、もう一度舞台に立ってください。そして、「恋華酔月」を舞ってください。皇帝即位記念の祭りはもう間近です。兄さま以上に完璧に舞える者はおりません」
黎深「断る」
永月「兄さま…!」
黎深「私は、もう「恋華酔月」を舞うことはできない」
黎深、部屋を出ていく
永月「兄さま……」
屋敷の外に出る黎深
黎深「舞えるものなら、舞たい。けど……舞ってしまったら……私は…」
+++
城下町・央扇の市場
ベステ「梛の国に伝わる、えーっと、ががく?は彩の国から渡ってきたものが多いのね」
基水「ええ。彩の国の影響を受け、独自に発展を遂げたのが梛の国の雅楽や舞です」
幸成「エセンという国に伝わる音楽は拍子の早いものが多いな。それに舞も!べりーだんす、というものも、あんな複雑に腰を動かすことが出来るのは驚いた」
ジェミル「エセンの国の者はだいたいベリーダンスを覚えさせられます。地域によっては男性も踊ることがあるそうですよ」
幸成「うーむ!話を聞いているだけでも楽しい!やはり、知らないものに触れるのはいいことだな!」
基水「よかったね、幸成」
ジェミル「そういえば、基水殿も幸成殿も科挙を受けるために彩の国へ来たんですか?」
基水「いや、科挙を受けるのは私だけです」
幸成「私は、彩の国独自の舞を習いに渡来したのだ。だがな……」
ベステ「どうかしたの?」
幸成「花家という、代々皇帝に舞を奉納してきた一族に舞を教わりに行ったのだが……」
基水「教えられる人がいないからと、先ほど門前払いをされてしまって」
ジェミル「それは残念だな」
幸成「うむ……青菜に塩とはこのことだ。だが、いいこともあった。ベステ殿とジェミル殿に会って、貴方がたの音楽や舞を知ることができたのだからな」
基水「水を得た魚のようだったね」
ジェミル「いい刺激を与えられたのなら光栄です。……ベステ、どうした?考え込んで」
ベステ「舞を皇帝に奉納してきたってことは、その花家は彩の国でダンスは一流ってことよね?」
ジェミル「…話を聞く限りではそうだな」
ベステ「…ってことは、私たちシルフィードのダンスや音楽を花家で認めて貰えば……」
ジェミル「箔(はく)がつく、ってことか?」
ベステ「そういうこと!シルフィードの公演もやりやすくなるわ!」
ジェミル「……可能性はなきにしもあらず、か。だが、いきなり訪問しては幸成殿のように門前払いをくらう」
幸成「それなら、明日私たちと一緒に花家に行かないか?シルフィードを売り込むための挨拶をするんだ」
ベステ「わぁ!いいの!?あ…でも、幸成さま。門前払いされたって…」
幸成「一度断られたからなんだ。私は教えられるまで。いや、花 黎深殿に目通りが叶うまで何回でも通うぞ!」
ジェミル「……精神がたくましいな」
ベステ「そうだね」
基水「私たち、って……私も行くことになっているんだね……。まぁ、いいけど」
+++
翌日
花家の前
ベステ「こ、ここが花家の屋敷……」
ジェミル「でかいな…」
基水「それだけ皇家と深く繋がりのある家柄だという照明ですね」
幸成「よぅし!今度こそ、黎深殿に目通りを願えますように!」
永月「兄(あに)さま!もうおよし下さい!」
屋敷から永月と黎深が出てくる
黎深「止めるな、永月!この手を離せ!」
永月「いいえ、離しませぬ!祭りも近いこの時期に出家(しゅっけ)するなど、何を考えていらしゃるのですか?!」
黎深「私には舞手の資格はない!いいからどけ!」
永月「退きませぬ!」
離れたところから様子を見守る四人
ジェミル「…なんだあれは?」
ベステ「喧嘩、かな?」
基水「幸成、あの女性は昨日会った…」
幸成「ああ。兄さま、ということは…あの男性が花 黎深殿か。ちょうどいい機会だ。行ってくる!」
基水「行ってくるって……幸成!」
ずんずんと、花兄妹に近づく幸成
幸成「申(もう)し。貴殿が花家の黎深殿でしょうか?」
黎深「……そうだが。貴殿は?」
幸成「お初にお目にかかります。私は、梛の国から参りました。多 幸成と申します。貴方に舞のご教授を願いたく、参(さん)じました」
黎深「…悪いが、私はもう舞えない。帰ってくれないか」
幸成「ふむ…見たところ、足や腕を負傷した訳ではないご様子。では、何か別の原因が?」
黎深「聞こえなかったのか?帰ってくれと言っているんだ」
幸成「目に見えぬ病が原因でしょうか?それで仏に救いを求めて出家を?」
黎深「いいから帰ってくれ!もう話すことなどない!」
基水「幸成、もういいだろう?帰ろう」
幸成「遠路はるばる彩の国まできたんだ。せめて、花家に伝わる舞「恋華酔月」だけでも見て帰らねば」
黎深「「恋華酔月」…!」
幸成「街の者たちが噂しておりましたよ。貴方の舞は天下一品だと。それを拝めず帰るのはもったいない」
黎深「………」
幸成「舞が嫌いになったのですか?それならば舞手の資格がないとおっしゃるのもわかります。しかし、私には貴方が舞を嫌いになったのではないと思うのです。もっと、何か別の理由があって、舞えないのではないかと」
黎深「…「恋華酔月」を見たいなら、妹の永月に頼んでくれ。私には、もう舞う資格はない」
屋敷の中に戻っていく黎深
永月「兄さま……」
幸成「少し言いすぎたかな…」
基水「少しどころじゃなかったと思うよ?」
幸成「永月殿、でしたな。兄君への無礼をお許しください。少し言いすぎました」
永月「いいえ。兄さまの出家を止められただけでもよかった。……兄さまは、いつからか酒に溺れるようになって……舞をしなくなったのです。どうしてなのか聞いても教えてくれなくて……」
基水「そうでしたか……」
永月「「恋華酔月」でしたね。私は、兄さまのような舞手ではなく、奏者なので…舞ではなく「恋華酔月」に使われる音楽を教えることは可能です。それでもよろしければ、一回だけ演奏しますが」
幸成「おお、なんと!それでも構わない!弾いてくれないか?「恋華酔月」を!」
永月「わかりました」
+++
花家からの帰り道
幸成「うーむ…「恋華酔月」を聞くことはできたが…結局舞を見ることはできなかったな……黎深殿も舞えないと断られてしまったし……」
基水「幸成、いい加減諦めなよ。音楽を聴かせてもらっただけでも有り難いと思わなきゃ」
幸成「まぁな………」
ベステ「花家に挨拶に行ったけど、こっちも思ったような反応は返ってこなかったわね」
ジェミル「仕方ないな、次に期待しよう」
+++
その夜
城下町・央扇の寺
幸成「すっかり夜も更けたな。よし……今なら大丈夫だろう」
こっそりと寺を抜け出す幸成
幸成「基水には悪いが、そう簡単に「恋華酔月」を諦めることができん。もう一度花家に向かおう」
央扇の街を歩く幸成
幸成「お、いたな。ジェミル殿。待たせたか?」
ジェミル「いえ。大丈夫です。しかし、幸成殿。本当にやるんですか?」
幸成「もちろん。黎深殿に会って、彼に巣食っている精を追い出す」
ジェミル「……はぁ、余計なことを言わなければよかったか」
幸成「しかし、ジェミル殿から帰り際に黎深殿に精が憑いていると話を聞いた時は耳を疑ったぞ」
ジェミル「俺はどうやらそういうものが「見える」体質らしくて。黙ってるつもりだったんですが、ベステが全部バラしちまって…」
幸成「だが、私にとっては有り難い情報だ。黎深殿が舞えない理由が、彼に取り憑いている精が原因だというのなら、その精をなんとかすればいいのだからな」
ジェミル「精が原因と決まった訳ではないですけど…。基水殿にはなんて言って抜け出してきたんですか?」
幸成「基水ならとっくに眠っているだろう。一度寝たら起きないし、明日の朝までぐっすりだ」
ジェミル「……そうですか。…では、もう一つ。どうやって黎深殿に巣食っている精を追い出すつもりですか?」
幸成「ああ、そのことなら秘策がある」
ジェミル「秘策?」
幸成「剣舞を舞う。我が国や彩の国では、剣(つるぎ)は邪気を払う清めの力を宿していると言われる。私の剣舞でその精を追い出してみる」
ジェミル「……うまくいくんですか、そんなこと」
幸成「やってみなければわからない。まぁ、大船に乗ったつもりで構えてくれ。ジェミル殿は奏者として楽器を弾いて欲しい」
ジェミル「…まぁ、いいでしょう。俺が撒いた種だし。このまま幸成殿を一人行かせるのも心配だし。乗り掛かった船、ということで」
幸成「助かる。……そういえば、ベステ殿はどうしたんだ?」
ジェミル「置いてきました。団長の監視下で大人しく寝ていますよ」
幸成「そうか……大変だな」
+++
夜
城下町・央扇、花家の屋敷
幸成「花家まで来たが…問題はこの塀をどうやって越えるかだな」
ジェミル「幸成殿、運動はできますか?」
幸成「もちろん、私は武官だぞ?」
ジェミル「俺を梯子がわりにして塀を登ってください。俺は一人でも塀を超えられるので」
幸成「そういうことなら、遠慮なく」
幸成とジェミル、屋敷に不法侵入する
幸成「うーむ…皆寝静まっているようだな」
ジェミル「そりゃ、真夜中ですからね。忍び込んだのはいいですけど、黎深殿が寝ていたらどうするんですか?」
幸成「その時は考える」
ジェミル「…………先行きが不安になってきた。お縄になりそうになったら俺一人で逃げますからね」
幸成「ああ、そうしてくれて構わない。自分の面倒は自分で見る」
ジェミル「しかし、妙ですね。見張の者がいない」
幸成「確かに、物音に気づいてすっ飛んでこられると思ったのだが……」
ジェミル「ん?」
幸成「どうした、ジェミル殿?」
ジェミル「砂を蹴る音がします。走っているとか歩いているわけではなさそうな……」
幸成「その音がする方は?」
ジェミル「こちらです」
ジェミルに先導され、花家の広い庭にでる
庭では黎深が寝巻きのまま舞っていた
幸成「あれは……黎深殿?舞っているのか?」
ジェミル「幸成殿、念のためこれを」
幸成「これは単(ひとえ)?」
ジェミル「姿隠しの術を施(ほどこ)した物です。多少は見つかりにくくなります」
幸成「かたじけない」
ジェミル「黎深殿……舞えない、とか舞う資格がない、と言っていた割には、舞っていますね」
幸成「やはり、舞を嫌いになったわけではなさそうだな。あのキリッとした表情、舞を楽しんでいる証拠だ」
黎深「………ぐっ!?うぅぅ!」
黎深、苦しげに膝をつく
幸成「なんだ?どうした?」
ジェミル「幸成殿、静かに」
黎深「うぅぅ……!出て、くるな……!私の、体を………!奪おうと、するなぁ……!!」
幸成「体を、奪う?」
ジェミル「……黎深殿に憑いている精が出てきたんだ」
『』←精のセリフ
精のセリフは黎深の役の人が読む
黎深?「『往生際の悪い奴め、さっさと私に体をあけ渡せば良いものを……』」
黎深「うるさい…!この体は私のものだ…!」
黎深?「『無駄な足掻きよ。早う体を渡せ。そうすれば、そなたも苦しまずにすむ』」
幸成「なんと…!面妖(めんよう)な……」
ジェミル「黎深殿の体を乗っ取るつもりか」
黎深「私の体を好きにさせない!……ああぁ!ぐぅ……!」
黎深?「『強がるな、黎深。眠れ。深く、深く。目を覚すことがないように』」
黎深「あっ……ううぅ………」
その場に頭を抱えてうずくまる黎深
幸成「いかん。ジェミル殿、楽器の準備を」
ジェミル「わかった」
単を脱ぎ捨て、幸成とジェミルが黎深に駆け寄る
精「…ようやく眠ったか。まったく、手こずらせおって」
幸成「……黎深殿?」
精「そなたは……昼間、しつこく食い下がってきた男子(おのこ)か。私に用か?」
幸成「貴殿は、黎深殿ではない。黎深殿に取り憑く、精だな?」
精「ふん…。取り憑くとは随分な言い方だ。私は、黎深の体を有効に使ってやろうとしているだけだ」
ジェミル「それは、余計なお世話ってやつだ」
精「もう一人いたか。さて、私が黎深ではないと知って、そなたたちはどうするつもりだ?」
幸成「貴殿を黎深殿から切り離す」
幸成、腰に挿していた太刀を抜き、ジェミルの演奏に合わせて剣舞を舞う
精「剣舞!…っ。やめろ、私の邪魔をする気か!」
ジェミル「効いている!幸成殿、その調子だ!」
幸成「ああ。黎深殿に憑く精よ。器から離れよ。それは貴殿の器ではない」
精「グッ……!ウゥウウウ…!出て行かぬ!私は、私は…!」
ジェミル「精が離れようとしている!もう少しだ!」
幸成「これで仕舞いだ」
精「グッ、ああぁっ!」
精が離れ、黎深の体が倒れる
幸成「黎深殿!」
ジェミル「……脈は正常。呼吸も安定している。問題ないようです」
幸成「よかった…」
精「おのれ、おのれよくも……!」
幸成「精よ、教えてくれ。なぜ貴殿は黎深殿に憑いた?」
精「………私の………私の「恋華酔月」を、こやつらが奪ったからだ!」
幸成「奪った?どういうことだ?」
精「あの舞は、私がたった一人、愛した月夜見(つくよみ)の君に贈ったもの。私の毒、私の華。それを、こやつらが、花家がむざむざと奪いおって……!!許せぬ、許せぬ!!」
ジェミル「花家が舞を奪った?」
幸成「それはどういう……」
黎深「言葉通りの意味だ」
幸成「黎深殿、気がつかれたか。…言葉通りとは、どういうことだ?」
黎深「…その昔、花家は皇帝に仕えるただの武官だった。舞で名が知られるようになったのは「恋華酔月」を先先代の皇帝の即位式に舞って、評価を得られてからだ。その時に「恋華酔月」を舞ったのは私の曽祖父に当たる方だった。「恋華酔月」は、曽祖父が作ったものだと教えられてきた。だが違かった。曽祖父は「恋華酔月」を作った舞手から、舞とその想い人を奪った。舞手を、無実の罪を着せ、都から追放して」
ジェミル「なんだって!?」
黎深「だから「恋華酔月」は口伝でのみ伝わってきた。何一つ、他者から奪ったものだと証拠を残さないために」
幸成「………して、精よ。貴殿は黎深殿に取り憑いて、その命を枯らすつもりだったのか?」
精「……私は……私は………「恋華酔月」を想い人に、愛しき月夜見の君に………捧げたかった。だから、もう一度、あの方に……私の舞を捧げたい………」
幸成「しかし、もう貴殿の想い人は……」
精「生きている………。あの方の、生きた証がいる……」
ジェミル「それって……」
永月「兄さま……?このような夜更けに何を騒いでいるのですか?」
ジェミル「永月殿…」
永月「まぁ……!昼間の、多(おおの)殿と旅芸人の方?どうして、屋敷に?」
精「ああ、月夜見の君……!」
ジェミル「なるほど。永月殿が、生きた証……」
幸成「……精よ、貴殿に私の体を一時貸そう」
ジェミル「幸成殿!?」
黎深「何を言っている…!?」
幸成「思い残したことを……愛しき人に、舞を捧げよ」
精、幸成に憑依する
幸成?のセリフは幸成役の人が読む
幸成?「『月夜見の君……やっと会えた……』」
永月「多殿?」
幸成?「『どうか、私の舞を見てほしい。あなたのためを思った、「恋華酔月」を』」
黎深「………やむを得ない。奏者殿、琵琶を貸してくれ。永月、何も喋らず、静かに舞を見ていなさい。「恋華酔月」を弾く」
永月「はい………」
幸成?「『ようやく……この時を迎えられた……私の毒、私の華。私を酔わせ、狂わせて仕方なかった、美しい方。今、舞おう。この想いが千年先も途絶えぬように』」
黎深の演奏に合わせて「恋華酔月」を舞う幸成
永月「綺麗………兄さまに負けないくらい、ずっと……」
ジェミル「これが……本物の「恋華酔月」……」
幸成?「『ああ……なんと甘美な……なんと幸せか……もう思い残すことはない』」
精、幸成から離れる
ジェミル「幸成殿!大丈夫ですか?」
幸成「ああ……。少々無茶をしすぎたな……。しかし、これが「恋華酔月」か……。まだ、体に残っている。心地よい舞の感覚が」
黎深「幸成、殿。ありがとう。あなたのおかげで助かった」
幸成「いえいえ。私も貴重な体験ができた」
ジェミル「肝が冷えたがな…」
永月「あの………どういうことか、説明していただけませんか?」
+++
永月「まさか「恋華酔月」にそのような秘密があったなんて……。兄さまも、それで苦しい思いをしていたのですね……。気付けず、申し訳ありません……」
黎深「知らなくて当然だ。曽祖父が隠蔽していたことなのだから。私こそ。たくさん心配をかけたな。すまなかった、永月」
永月「……「恋華酔月」はどうするのですか?」
黎深「真実がわかった以上、その真実を話し、花家は金輪際「恋華酔月」を舞うことがないようにする。それが、あの舞手の望むことだろう」
永月「そうですね……」
黎深「幸成殿、奏者殿。重ね重ね、礼をいう。助けてくれてありがとう。おかげで解放された」
幸成「気にしなさんな。私は「恋華酔月」を舞うことができて満足だし」
ジェミル「幸成殿のことはともかく、無事で何よりです」
永月「兄さま、皇帝即位の祭りはどうするのですか?」
黎深「新たに舞を作り、皇帝に奉納する」
永月「しかし、もうあまり時間が……」
黎深「私を誰だと思っている?「斎王」花 黎深だぞ?あと十日もあれば十分だ」
永月「……わかりました。お手伝いいたします、兄さま」
+++
十日後
皇帝即位記念の祭り
基水「そんなことがあったなんて、初耳なんだけど?幸成」
幸成「いやぁ、すまんすまん。うっかり話すのを忘れていた」
ベステ「ジェミルもよ。私に隠れて何楽しそうなことしてるの」
ジェミル「楽しくない。肝が冷えただけだ。第一、隠密行動なんてお前にはできないだろ。声はでかいし、動きがうるさいし」
ベステ「ひどい!そんなこと思ってたの!?私だって、訓練すれば隠密行動くらいできるし!」
ジェミル「そう言っている時点でもうアウトだな」
ベステ「何よ!」
基水「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
幸成「せっかくの皇帝即位記念の祭りだ。祭りに喧嘩は似合わないぞ。ほら、そろそろ黎深殿の舞が始まる」
ベステ「あ、そうだった!静かにしなきゃ」
基水「花家の計らいで私たちは舞がよく見える特等席での観覧を許されましたからね。思う存分堪能しないと」
ジェミル「彩の国随一の舞。どんなものか見させてもらおう」
+++
舞台袖
永月「兄さま、ご準備はよろしいですか?」
黎深「ああ、大丈夫だ。いつでも行ける。お前はどうだ?」
永月「私も準備は整っております」
黎深「では行こう。「恋華酔月」よりも素晴らしい舞を見せてやる」
永月「はい」
「完」
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