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第一章 一度目の異世界
13.守る
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「すみません。この先の路地に妖精が居るって聞いたのですが、本当なんでしょうか?」
「そうなのか? でもオレ妖精見えないんだよなぁ、にぃちゃんは見えるのかい?」
「薄っすらとですが」
「そりゃうらやましい!今度どんな姿だったか教えてくれよ」
「もちろん。その代わり妖精が見える方がいらしたら今の話をしてくれませんか?」
「あぁ、いいぜ」
男はそう言って去っていった。
「こんな感じでいいかな? ルル」
〈いいと思うわ〉
これは俺たちの作戦だ。
影は妖精が見え、妖精を誘い出して力を奪っている。
ならばと妖精王は、妖精たちに人間界に行かないようにと命令した。そのため人間界には妖精が居ない状況だ。あまり長いこと妖精界に留めていると人間界の自然に異変が出るため出来て数日だと妖精王は言っていた。
奴らには妖精(精霊力)が必要。この状況が続くと例え奴らが警戒していても妖精が居るなら動くだろうと踏んだためだ。
「結構いろんな人と話をして、噂も流せたと思うんだ」
〈そうね、それじゃあ夕方にアタシが囮としてあの路地の所をウロウロしてみるわ〉
やる気満々のルル。
「………」
正直俺はそれに納得していない。
〈なんて顔してるのよ。アタシは大丈夫だから、ね!〉
「でも……怪我しないか心配で」
そんな俺にルルはコツンっと、体あたりをした。
〈いざって時はアナタが魔法で守ってくれるんでしょ? それにアタシたちで捕まえにきたわけじゃないのよ?〉
そうだ。今回は影が一体なんなのかを確認するだけ、俺たちで捕まえようと考えるから不安なんだ。
俺はパシッと自分の頬を両手で挟んで叩いた。
「よしっ!」
◇◆◇
今、ルルが路地裏を行ったり来たりして飛んでいる。
(ルル…何か異変を感じればすぐに逃げるんだよ)
「失礼。ここで何をされているのですか?」
背後からいきなり声をかけられ、俺はビクッと体がゆれた。
(え?全く気づかなかった)
声をかけてきたのは身なりの良い、赤胴の髪を短く切りそろえ、耳の横を刈り上げた30後半の男だった。
「あぁ、びっくりさせてすみません。私はこの街の自警団なのですが、先日この近くで遺体が発見されまして、その犯人がまだ捕まっていないのでこうやって見回りをしていたのです」
男はにこりと笑って言った。しかしその笑顔が少し胡散臭いと思った。
「そう、だったんですね。ご苦労さまです」
俺は一歩後ろに下がった。
「それで?あなたはここで何を?」
男は一歩前に出る。
「俺は……えっと、犬を散歩中に逃してしまって、探してたところなんです!」
「犬……ですか。 ちなみにその犬は銀色で金色の瞳だったりしますか?」
「……………え?」
この人は何を言っているんだ?
〈キャーーーーーーーっ〉
その時ルルの叫び声が聞こえた。俺は慌ててルルの元へ走った。
「ルル!」
影が2体、ルルを捕らえようとしていた。俺は魔法石を取り出し
「火炎球!」
影に向かって火の球を発動させた。しかし
「水の大障壁」
いとも簡単に防がれてしまった。
(ヤバい、相手は魔法使いか。しかもかなりの上位)
俺はルルを見た。少し震えているが、隙をつくれれば逃げれる。そう思った俺はルルにアイコンタクトを送る。
(ルル、いくよ)
「光よ!」
まずは影の視界をつぶす。続いて
「地竜の咆哮!」
大地を割り、足元を崩して土砂を巻き上げ攻撃する。
「くっ、小賢しい!竜巻の覇者」
相手も抗戦してくる。力の差は歴然、妖精王から貰った魔法石はあと2つ、どうする。
「厄災の波濤!」
大波で影を飲み込み、かつ影の動きを押し留める。
敵に反撃する隙を与えたらあっという間にやられる。だから俺は魔法を連発した。
(せめてルルだけでも…!)
〈シューヤ!〉
ルルが俺めがけて飛んでくる。
長期戦は不利だ。気がつけば俺の手から血が流れていた。そもそも魔力が無い俺が魔法連発するのに無理があったんだ。
「チッ、さっさと死ねっ!」
影が何かを投げた。
(!? 短剣? ヤバイ、避けられな……)
「深淵の氷結壁」
目の前に氷の壁が現れ短剣は弾かれた。そして俺の前に立つ小さな背中。
「ユリ、ウス?」
「………シュウ、ぶじでよかった」
ユリウスが泣きそうな顔で俺を見た。
「なんでユリウスがここに?どうやって来たの! 危ないから今すぐ戻って!」
俺はユリウスの腕を掴み、訴えた。
「いいえ、帰っていただくわけにはいきません」
俺の背後から男の声がした。その声は先程まで話していた自警団を名乗る男だった。その背後には影が2体。そういうことか
「やっと見つけたんです。はいそうですか。と、帰すわけないでしょ?」
男はニタァと笑った。
俺はユリウスを後ろに隠した。
「どういう意味でしょうか?」
俺は男を睨む。
「そのままの意味ですよ。別件でこの街にきたのですが、まさか本当に見つける事ができるなんて…私は運がいい。これであの方に喜んでいただける」
男は恍惚とした顔で言った。
(あの方?)
「ルル」
俺は小声でルルに話しかけた。
「俺が隙を作るから、ユリウスを連れて転移して」
「!? シュウをおいてなんていやだ!」
ユリウスの金色の瞳から涙が溢れる。俺の大好きな瞳。
俺は男と影をみる。きっとこいつらがアトラさんが必死になってユリウスを隠した理由だろう。【あの方】そいつがきっとユリウスを狙っている。だから俺は
「ユリウスは命に変えても守るっ」
俺は最後の魔法石を取り出し
「乱れ狂う雷の槍!!!」
雷の槍を上空から一気に影めがけて降らせる。
「無駄な抵抗を」
男は手をあげ、指をパチっと鳴らしたと同時に俺の放った魔法をいとも簡単に消滅させた。
「うそ……」
そして懐から何かの結晶を取り出した。それは黒くて禍々しい嫌なもの。
「っ、それは!」
ユリウスが顔を真っ青にさせて震えだした。
「おや?覚えていたんですね。 これはあの時アナタの母親に差し上げたものです」
(あの時? アトラさんに?)
「本当はアナタへのプレゼントだったのですが、前回はアイツに邪魔されました。でもそれで呆気なく死んで正直ざまぁって思いましたよ」
男はゲラゲラと笑う。
「さぁ、死んでください。あの方のために」
黒くて嫌なものがユリウスめがけて襲ってきた。
「ユリウスっ!!」
俺はユリウスを庇い……
「ぐあ”ああああああああああっ」
体が引き裂けるような痛みに襲われた。
「おやおや、また邪魔をされてしまいましたね。でもまぁ、問題はありませんね」
男がこちらへ近づいてくる。
(いたい、いたい……苦しい。ユリウス逃げてっ)
「シュウ!シュウ!!」
ユリウスが泣きながら俺をみる。
黒くて嫌なものが俺の体を侵食していく。
「ぐっ、はぁはぁ……」
ユリウス、ごめんね。側に居るって約束したのに……
「ユリ、ウス………だいすきだよ」
俺の意識は闇の中へと消えていった———
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秋也の魔法知識は冬真からです。
技名はWebで公開されている一覧表を参考にしました。
今日中に第一章、完結出来るか微妙になってしまいました……すみません。
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