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持久走
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ややあって持久走を始めるための準備を整え終えた、ユキを筆頭とした少女達は、各々が所定の位置に設けられた地点へと足を運ぶ。
「女子は三、男子は六十周だ」
走る際にあたっての出発地点へと、位置についた、この場に居合わせている生徒の面々を睥睨しては、明朗快活に語って見受けられる龍鬼。
「へぇ~、龍鬼様ってば、やっぱり女子には紳士的なんだ~。それでいてイケメンって、マジで最高だよね~」
「ね~。こんな親が居るユキっちが、マジでうらやまなんですけど~。ていうか、龍鬼様って筋肉エグくない?いいな~、ユキっちが従順になるのも分かる気がする~」
「三周で御座いますか‥」
「ええ、まぁ‥それくらいが妥当といった所かしら‥」
自らの父の言葉を受けては戦々恐々といった呈を晒しているユキであるが、他方他三名はその限りではない。
「え~、もしかしてユキっちって運動苦手なの~?まぁ、でもそんだけおっきい乳揺らしてるなら確かに走りにくいかもね~」
「マジそれな~。ていうか、ユキっちって結構恥ずかしがり屋って感じじゃん。だから、男達の目もあるし、余計に走りにくいんじゃないかな~」
「‥いいえ、わたしは元々その‥体力があまりなくて‥」
「‥ユキさん、流石に三周なんて幼子でも楽々こなすわよ‥。少しばかり、怠慢がすぎるのではないかしら?」
何故ならば、常日頃から龍鬼との夜伽を除いては運動らしい活動が、皆無なまでに見受けられないユキである。
「えっ、それマジで言ってるの~?ウケるんですけど~っ。あの完璧超人の巫女様がね~」
「それな~、でもウチ等は部活は入ってるけど~、ユキっちは帰宅部っしょ~?だからまぁ、しょうがないっちゃ、しょうがないんじゃないかな~?」
「‥帰宅部?ああ‥そういえばユキさんって、部活に所属していないのだったわね。もしも貴方が構わないのであれば、陸上部に入らないかしら?」
殊更に気勢を削がれて見受けられる彼女の様子を見て取ったギャル二人はこれを囃し立てては応じてみせる。
ユキとは対称的に、一際勢い付いた調子で語って見受けられる彼女等の姿を横目に、これ幸いと勧誘を兼ねるユメ。
「陸上部ですか‥わかりました。お父様に一度お話しをして、改めて御返事をさせて頂きます」
「ええ、よろしくお願いするわね」
その様に殊更な運動不足が祟るユキとは対称的な程に、彼女等三名は平素から身体活動に励んでいるが故に、これを恐れる限りではない。
「ていうかユキっちってマジでファザコンすぎるでしょ。なんか思ってたイメージと全然違いすぎて、びっくりしたよ~。あ、でも全然残念ってわけじゃなくて、寧ろなんか身近に感じられて好感って感じ」
「わかる~。前はもっとなんていうか、ザ高嶺の花って感じで、めっちゃ近寄り辛かったけど~、なんか実際に話してみたら、ちょっと変わった子だけど、割とウチ等と気が合うし、いい子じゃんって感じ」
「ありがとう御座います。わたしもマヤさんとメイさんと仲良くなれてとても嬉しく思います」
「でも実際高嶺の花ではあると思うわよ。現にユキさんが男達からの眼差しが、私達に向けられている視線の比ではないもの」
女三人寄れば姦しいと称される、正にその言葉通り、和気藹々とした語り調子で言葉を交わす様子が見受けられる少女達。
その様に現在、学園カーストの頂点へと一気に躍り出ることと相成ったユキを含めた彼女等のグループは、殊更に注目を集わせて見て取れる。
「マジでそれな~。ユキっちって今まで一回も彼氏途切れたことなくて、他に男居るじゃん。なのになんでこんなにモテるわけ~?絶対こんなの理不尽じゃ~ん。メイもそう思うっしょ?」
「わかる~。前はフウガ様で今は龍鬼様と付き合ってるっていうか、ユキっちってもう結婚してる感じなんでしょ?なのに周りの男達が放っておかないって、マジですごすぎでしょ~」
「そんな‥わたしは‥お父様ただ一人を、一心にお慕い申し上げています」
「貴方達‥いい加減走らないとそろそろ怒られてしまうわよ」
周囲の人目をなんら憚る様子すらなく、姦しくも心底からの愉悦を持って会話へと興じて見受けられる面々。
そんな彼女等へと依然として平静を保つユメが、極めて冷ややかな声色で現実を告げる。
「オッケ~。それじゃあ誰から行く~?」
彼女の冷静な思考から生じた忠告、これに応じては白ギャルことメイが、平素通りの軽い口調での受け答え。
「では、わたしから行きます」
そんな彼女の声高にも挙げられた誰何の声に対し、誰よりもいち早く応じて見せる声が一つ。
誰であろう、彼女等の中で一番に運動不足と見受けられるユキである。
「え~。普通にみんなで同時に行けばいいじゃん。なんで順番決める必要あるわけ~?」
しかしながら、平素よりも幾分か威勢の良い彼女の言葉も束の間、これに続く黒ギャルことメイ、の返答によって一蹴されて見て取れる。
「え~、でもでも皆んなでゴールしたいじゃん。だから~この中で一番体力ないユキっちが一番最初にスタートするのは名案だと思うな~」
だがしかし、一見理が通って見受けられる彼女の反論に応じて見せたのは、意外にも黒ギャルの片割れである白ギャル。
「そうね、とてもいい案だとわたしは思うのだけれど、マヤさんは何か不服があるのかしら?」
そして更には、彼女等のクラスの委員長を務めるユメまでもが、これに賛同を示して窺えるのだから、続く言葉に躊躇が見て取れる黒ギャルだろうか。
「ウチ馬鹿だからそういうのわかってなかったわ~。マジでごめんね~。ていうかメイもユメちーの言葉の意味に気づくとか、ガチで天才すぎるっしょ~」
同所へと居合わせて見て取れる自身を除いた面々から一様に、怪訝な面持ちを向けられて、口を噤むマヤ。
だがそれも一瞬にも満たない間のことであり、即座に間髪入れずに返して見受けられた言葉は、殊勝にも謝罪の口上である。
殊更に罪悪感を抱いては滲ませて窺える、心底から申し訳なさげな面差しとなっての受け答え。
「え~、マジで?ウチが天才とかマジウケるんですけど~。やめてよもう~。あ、でもユメちーは分かってたんだもんね?やばっ、ウチ等天才だって~。委員長と一緒とかウチマジで優等生って感じじゃん」
「マジでそれな~。メイってばホントにガチで天才だから~。だってウチそんなこと思いつかなかったもん」
更にはそれと同時に自らの片割れである白ギャルを褒め唱えて見せながらの、懸命な立ち振る舞いでの訴えは。存外のこと効果的に見受けられる。
伊達に弱肉強食の掟が未だ蔓延る、男尊女卑が殊更なまでに極まった村に生を受けていない。
伊達に権力闘争も激しい同所へと所在する学園におけるカースト序列にて、上位の立ち位置に君臨していない。
「ユキっちとユメちーもごめんね~。ウチってあんまり頭でモノ考えてないから、もしかしたら気に触るようなこと言うかもだけど、悪気はないから大目に見て欲しい」
そんな彼女だからこそ見事、平素通りの調子でもってして、この場の空気を正確に読み取っての、的確なまでの迎合だろうか。
「ええ、承知致しました。ですが、わたしは、マヤさんが優しい方だと知っているので、怒ってなどいません。寧ろ、普段からしっかりと運動もしていないわたしにこそ非があるのですから、その様に気を落とさないでください」
「ええそれは、私も同様であるから、それならばお互い様よ」
常人には到底成し得ない神業の如き一連の芸当を目の当たりとしては、流石の面々もこれを迎え入れ返答。
「ありがとね~、皆んな~。マジでウチ等って相性良い感じじゃん。ユキっちとユメちーこれからよろしくね~。後勿論メイも」
「ちょっと~。なんでウチだけついでみたいな感じなわけ~。もっと良い感じでよろしくして欲しいんですけど~」
本人が意図せずとも、誤解により生じてしまう、見解の相違からの亀裂による社会的な孤立。
そんな一度は危うき目に遭った黒ギャルであるがしかし、その殊更なまでに優れた対人能力を駆使して見事切り抜けてみせた次第であった。
「女子は三、男子は六十周だ」
走る際にあたっての出発地点へと、位置についた、この場に居合わせている生徒の面々を睥睨しては、明朗快活に語って見受けられる龍鬼。
「へぇ~、龍鬼様ってば、やっぱり女子には紳士的なんだ~。それでいてイケメンって、マジで最高だよね~」
「ね~。こんな親が居るユキっちが、マジでうらやまなんですけど~。ていうか、龍鬼様って筋肉エグくない?いいな~、ユキっちが従順になるのも分かる気がする~」
「三周で御座いますか‥」
「ええ、まぁ‥それくらいが妥当といった所かしら‥」
自らの父の言葉を受けては戦々恐々といった呈を晒しているユキであるが、他方他三名はその限りではない。
「え~、もしかしてユキっちって運動苦手なの~?まぁ、でもそんだけおっきい乳揺らしてるなら確かに走りにくいかもね~」
「マジそれな~。ていうか、ユキっちって結構恥ずかしがり屋って感じじゃん。だから、男達の目もあるし、余計に走りにくいんじゃないかな~」
「‥いいえ、わたしは元々その‥体力があまりなくて‥」
「‥ユキさん、流石に三周なんて幼子でも楽々こなすわよ‥。少しばかり、怠慢がすぎるのではないかしら?」
何故ならば、常日頃から龍鬼との夜伽を除いては運動らしい活動が、皆無なまでに見受けられないユキである。
「えっ、それマジで言ってるの~?ウケるんですけど~っ。あの完璧超人の巫女様がね~」
「それな~、でもウチ等は部活は入ってるけど~、ユキっちは帰宅部っしょ~?だからまぁ、しょうがないっちゃ、しょうがないんじゃないかな~?」
「‥帰宅部?ああ‥そういえばユキさんって、部活に所属していないのだったわね。もしも貴方が構わないのであれば、陸上部に入らないかしら?」
殊更に気勢を削がれて見受けられる彼女の様子を見て取ったギャル二人はこれを囃し立てては応じてみせる。
ユキとは対称的に、一際勢い付いた調子で語って見受けられる彼女等の姿を横目に、これ幸いと勧誘を兼ねるユメ。
「陸上部ですか‥わかりました。お父様に一度お話しをして、改めて御返事をさせて頂きます」
「ええ、よろしくお願いするわね」
その様に殊更な運動不足が祟るユキとは対称的な程に、彼女等三名は平素から身体活動に励んでいるが故に、これを恐れる限りではない。
「ていうかユキっちってマジでファザコンすぎるでしょ。なんか思ってたイメージと全然違いすぎて、びっくりしたよ~。あ、でも全然残念ってわけじゃなくて、寧ろなんか身近に感じられて好感って感じ」
「わかる~。前はもっとなんていうか、ザ高嶺の花って感じで、めっちゃ近寄り辛かったけど~、なんか実際に話してみたら、ちょっと変わった子だけど、割とウチ等と気が合うし、いい子じゃんって感じ」
「ありがとう御座います。わたしもマヤさんとメイさんと仲良くなれてとても嬉しく思います」
「でも実際高嶺の花ではあると思うわよ。現にユキさんが男達からの眼差しが、私達に向けられている視線の比ではないもの」
女三人寄れば姦しいと称される、正にその言葉通り、和気藹々とした語り調子で言葉を交わす様子が見受けられる少女達。
その様に現在、学園カーストの頂点へと一気に躍り出ることと相成ったユキを含めた彼女等のグループは、殊更に注目を集わせて見て取れる。
「マジでそれな~。ユキっちって今まで一回も彼氏途切れたことなくて、他に男居るじゃん。なのになんでこんなにモテるわけ~?絶対こんなの理不尽じゃ~ん。メイもそう思うっしょ?」
「わかる~。前はフウガ様で今は龍鬼様と付き合ってるっていうか、ユキっちってもう結婚してる感じなんでしょ?なのに周りの男達が放っておかないって、マジですごすぎでしょ~」
「そんな‥わたしは‥お父様ただ一人を、一心にお慕い申し上げています」
「貴方達‥いい加減走らないとそろそろ怒られてしまうわよ」
周囲の人目をなんら憚る様子すらなく、姦しくも心底からの愉悦を持って会話へと興じて見受けられる面々。
そんな彼女等へと依然として平静を保つユメが、極めて冷ややかな声色で現実を告げる。
「オッケ~。それじゃあ誰から行く~?」
彼女の冷静な思考から生じた忠告、これに応じては白ギャルことメイが、平素通りの軽い口調での受け答え。
「では、わたしから行きます」
そんな彼女の声高にも挙げられた誰何の声に対し、誰よりもいち早く応じて見せる声が一つ。
誰であろう、彼女等の中で一番に運動不足と見受けられるユキである。
「え~。普通にみんなで同時に行けばいいじゃん。なんで順番決める必要あるわけ~?」
しかしながら、平素よりも幾分か威勢の良い彼女の言葉も束の間、これに続く黒ギャルことメイ、の返答によって一蹴されて見て取れる。
「え~、でもでも皆んなでゴールしたいじゃん。だから~この中で一番体力ないユキっちが一番最初にスタートするのは名案だと思うな~」
だがしかし、一見理が通って見受けられる彼女の反論に応じて見せたのは、意外にも黒ギャルの片割れである白ギャル。
「そうね、とてもいい案だとわたしは思うのだけれど、マヤさんは何か不服があるのかしら?」
そして更には、彼女等のクラスの委員長を務めるユメまでもが、これに賛同を示して窺えるのだから、続く言葉に躊躇が見て取れる黒ギャルだろうか。
「ウチ馬鹿だからそういうのわかってなかったわ~。マジでごめんね~。ていうかメイもユメちーの言葉の意味に気づくとか、ガチで天才すぎるっしょ~」
同所へと居合わせて見て取れる自身を除いた面々から一様に、怪訝な面持ちを向けられて、口を噤むマヤ。
だがそれも一瞬にも満たない間のことであり、即座に間髪入れずに返して見受けられた言葉は、殊勝にも謝罪の口上である。
殊更に罪悪感を抱いては滲ませて窺える、心底から申し訳なさげな面差しとなっての受け答え。
「え~、マジで?ウチが天才とかマジウケるんですけど~。やめてよもう~。あ、でもユメちーは分かってたんだもんね?やばっ、ウチ等天才だって~。委員長と一緒とかウチマジで優等生って感じじゃん」
「マジでそれな~。メイってばホントにガチで天才だから~。だってウチそんなこと思いつかなかったもん」
更にはそれと同時に自らの片割れである白ギャルを褒め唱えて見せながらの、懸命な立ち振る舞いでの訴えは。存外のこと効果的に見受けられる。
伊達に弱肉強食の掟が未だ蔓延る、男尊女卑が殊更なまでに極まった村に生を受けていない。
伊達に権力闘争も激しい同所へと所在する学園におけるカースト序列にて、上位の立ち位置に君臨していない。
「ユキっちとユメちーもごめんね~。ウチってあんまり頭でモノ考えてないから、もしかしたら気に触るようなこと言うかもだけど、悪気はないから大目に見て欲しい」
そんな彼女だからこそ見事、平素通りの調子でもってして、この場の空気を正確に読み取っての、的確なまでの迎合だろうか。
「ええ、承知致しました。ですが、わたしは、マヤさんが優しい方だと知っているので、怒ってなどいません。寧ろ、普段からしっかりと運動もしていないわたしにこそ非があるのですから、その様に気を落とさないでください」
「ええそれは、私も同様であるから、それならばお互い様よ」
常人には到底成し得ない神業の如き一連の芸当を目の当たりとしては、流石の面々もこれを迎え入れ返答。
「ありがとね~、皆んな~。マジでウチ等って相性良い感じじゃん。ユキっちとユメちーこれからよろしくね~。後勿論メイも」
「ちょっと~。なんでウチだけついでみたいな感じなわけ~。もっと良い感じでよろしくして欲しいんですけど~」
本人が意図せずとも、誤解により生じてしまう、見解の相違からの亀裂による社会的な孤立。
そんな一度は危うき目に遭った黒ギャルであるがしかし、その殊更なまでに優れた対人能力を駆使して見事切り抜けてみせた次第であった。
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