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異端審問4
しおりを挟むその様に極めて苛烈にも相見えるリリーとエメルは、依然として互いに一切を譲る様子もなく、対峙して見受けられる。
そんな、彼女等両名を側から眺める誰も彼もは
、酷く恐れ慄いた面持ちにて建物の影からこれに対して視線を注いでいる様子が見て取れる。
何故ならばその理由は偏に、同所へと居合わせている人々は皆一様に、彼女等の激しい戦闘に巻き込まれては堪らないが為に他ならない。
一方で、それに対して特段不平を抱く訳でもないリリーはといえばそのお陰で、自らの立ち回りを思う存分見せ付ける事が出来ている故に、寧ろ好都合とすら感じている模様。
であるからして、そんな始末の彼女の心中は別段語るまでもなく、ありありとその振る舞いに対して顕著に示されて見受けられる。
どうやら、エメルの魔眼の効力をその身に受けながらも自身の指先の生爪を自ら剥ぎ取る、驚嘆に値すべき事柄を実行したリリーは、それに抵抗を示している様子。
「あら、中々やるじゃない。痛みでわたしの魔眼の効力を散らしたってわけ‥。けれど、そんな有り様で、わたしの術を無効化したなんて、思わない方が身の為よ。それにその体たらくで、まともにわたしと真正面から相見えるつもりからしら?仮にそう考えているのだとしたら、随分と侮られたものね」
故にそんな始末の、気丈ながら自身の術に対して抗うリリーの懸命な姿を見て取って、大上段にも応じて見せるエメルだ。
「ふ~ん、そんな事言っちゃってぇ、本当はお仲間の手当てをしたくて仕方がないんじゃないのかなぁ?そっちこそ随分と一方的に語ってくれたみたいだけれどぉ、リリーとしてはまだまだ余力を残しているからぁ、大きなお世話だよぉ。寧ろ、キミの方が遥かに此方よりも疲弊して思えるのはわたしの気のせいなのかなぁ?それに早くしないと本当にお仲間さんが死んじゃうよぉ?まさか急所を貫いた筈なのに、全然死ぬ様子がないんだからぁリリー、と~っても驚いちゃったよぉ。やっぱりキミ達って、魔物の上位種っていう認識でいいのかなぁ?」
だがしかし、それにも増して平素からの戯けた立ち振る舞いをここぞとばかりにこれでもかと披露して見せるリリーは、なんら意に介する素振りが見られない。
それはつまり、今し方に応じて見せた口上の言葉通りの内容が意味する所を彼女自身の態度がが証明しているが所以に他ならない。
その様にして、自らの指先に対して感じ取れる激痛すらものともしないリリーは、自身の優位性を示して見せる。
そうして明確な意趣返しを呈して見せる彼女に応じるに際しては、これを受けた側のエメルとてしても少なからず聞き捨てならない言葉が含まれていた模様。
「‥わたし達をその様に下等な者達と同列に語らないでほしいわね。物を知らない愚か者の言葉は本当に聞くに堪えないわ」
けれどもそんな、言葉の応酬を繰り返す両者の巫山戯た態度での振る舞いであるがしかし、互いの意識は鮮明に相手方の隙を伺って思われる。
だからだろうか、そんなエメルからの軽口を耳としたリリーの側といえば、これに対して行動を伴い返答する様子を見せる。
都合、再三に渡り前方へと勢い良く躍り出たリリーの小柄な体躯は、常人離れした脚力でもってしての疾走を見せ付ける。
「くッ」
お陰でこれに迫り来られた側のエメルはといえば、一切の兆しもなく予備動作すらも皆無な人外染みたリリーの挙動に対して気圧される他にない。
それ故に先方との間に開いた距離を瞬く間に殺したリリーは、一息に相手方へと接敵を試みる。
その様にして類い稀なる超人さながらの突出した冴え渡る走力にて間合いを詰めるに至るリリーの面持ちは至極凶悪な微笑みを称えて見て取れる。
そうして浮かべられた壮絶に歪められた嗜虐的な美貌は、これを目の当たりにした相手方に与える影響に対して鮮烈な印象を抱かせる運びと相成った。
であるからしてそんな始末で気圧される側となるエメルはといえばこれに相対する羽目となるお陰で、思わず退く素振りを見せた。
何故ならば、自身の魔眼の効力の支配下においている相手方のリリーが、全く堪えた様子も見受けられないが所以である。
であるからして予期せずしてそんな不意を突かれる形となったエメルは自ずと、酷く狼狽した面持ちでこれに応じる他にない。
その理由は偏に、魔眼に与えられた影響の一切をものともしないリリーの、突如として披露して見せた爆発的な神速に対して圧倒されているが故。
先程も前としたそれを再三に渡り目としたエメルであるがしかし、これに対する余力は最早残されていなかった模様。
それ故に思いがけずして一歩後退する他になかった彼女はその刹那、自らが失態を冒した事実を思い知る羽目となる。
それはたかが一瞬に呈した束の間の気の緩み。
されどこれは、幼いないながら曲がりなりにもこと殺し合いにおいては、一流の手練を誇るリリーとの死闘にて晒した致命的なまでに取り返しの付かない隙に他ならない。
つまるところ、無論これを受けた至極聡明なリリーは、持ち前の目敏い性質を駆使してこれの機会を見逃す筈もない。
都合、ここぞとばかりに地面を駆け抜けるに伴い石畳の床すらも踏み砕く、到底信じられない荒唐無稽の光景を作り出すリリーの踏み込みだろうか。
際してはこれでもかと、エメルとの間隔を詰めるリリーは、遂に先方との再度に渡る肉薄を果たすことと相成った。
「かはッ」
しかしてそれに伴い、相手方へとレイピアを繰り出したリリーは、自らの衝動が赴くがままに身を委ねた。
それ故に前方へと自ずと構えられたリリーの細剣は、自身の眼前にて隙を晒したエメルの真正面へと軌跡を取った。
これに応じては、両者の間に生じているごく僅かながらに開いた間合いの只中を、眩い煌めきを放つ一つの銀線が解き放たれる。
それに際しては、輝かしいまでにこれを目の当たりにした者の瞳を焼き尽くすさんばかりの閃光が、虚空へと白銀の軌跡の跡を残す。
その様に美しいまでの一貫に伴う、リリーからエメルに対して向けられた凶刃は、なんら容赦なく迸る光景を、同所へと居合わせている者達へと見せ付ける。
一方、一直線に迫り来る自らに与えられた脅威に対して、覚束ないながらも、かろうじて後方へと後退るエメル。
しかしながらそんな奮闘も虚しく、致命的なまでに確殺へと至るその刺突は、寸分すらも違わずに彼女の心臓を捉えて窺える。
その動きからは一切の迷いもなく、まるで吸い込まれていくかの様にして淀みない見事な突き技を繰り出して見て取れる。
依然として成人にも満たない齢でありながらも、一流の使い手として放たれたそれは、果てして狙いを違うことなく鮮明な程に、エメルの肉体を貫通することとなる。
そうして遂に彼女の肉体を抉るに至るそれは、明確にその身体の器官を突き破る手応えを、細剣の担い手へと与えていた。
それ故にこれを成したリリーの美貌は歓喜の微笑みに彩られたものの、それで彼女の追撃の手は再三に渡り動いて見受けられる。
都合いつの間にやらレイピアを握るもう一方の手中へと短剣を納めていたリリーが、エメルの頭部めがけての投擲を見舞う。
対して、自身の肉体を文字通りに串刺しとされてしまっている側のエメルはといえば、自らの全力を賭してこれを避ける。
「ッ」
そうして己が窮地を脱するべくして自らの切り札足る魔眼を用いた全力を賭しての解放を今ここに、再三に渡り露わとする羽目となる。
「くッ、やってくれるわねッ」
それに伴い呪詛の言葉を投げ掛けるエメルの鮮やかな真紅に輝く二つの双眸が、自ずとリリーの瞳を捉える。
するとそれに応じて、その魔眼と視線を交錯させるリリーはお陰で自らの放った投擲の狙いが、少しばかりか逸れてしまった事実に舌打ちを一つ。
しかしながらそれにも増してリリーを苛立たせたのは、自身の肉体に与えられた身を焦がすかの如き強烈なまでの衝動。
それは先程とは比較にもならない程に凄まじい程の、自らの身に余る様に鮮明に感じ取れる情動に他ならない。
これに加えておまけに、あまりに己が相手方の間合いに踏み込み過ぎている事実に漸く思い至るリリーは自ずと一足飛びに後退を試みる運びと相成った。
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